表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/125

【過去回想】クレア・マリアさんのお話まとめ・パート2


 氷垣三ツ音は、いきなり異世界の公爵令嬢、クレア・マリアとしてふるまわないといけなくなっちゃったってこと。


 私は一生懸命やったよ。でも、男の身体に違和感があった。

 どうして私は女じゃないんだろうって、すごく気持ち悪かった。


 それに私は――


 どうせなら、主役のリア・クラフトマン――ヒロインになりたかったのに、どうして脇役なんだろうって、強く思うようになったの。


 そしたら、また、夢に悪魔が出てきた。


『記憶が戻った感想はどうですか? 私は万能の神のような存在です。私と契約すれば、お前の願い事をなんでも三つまで叶えてあげられます』


 私ははじめ、もとに戻りたいってお願いした。


『もちろん、叶えるのはたやすいこと。しかしそれは、本当の望みですか?』


 私は、悪魔に触発されて、つい、本当のことを言ってしまった。


 私は、本当は、ヒロインになりたかったのに――って。


 悪魔は笑って、『なれますよ』って言ってくれた。契約すれば、何でも望みが叶う、って。


『契約を望むのなら、私の手を取りなさい。望まないのなら、この水を飲みなさい。これを飲めば、あなたはすべてを忘却して、一からやり直せる』


 そしてまた、私はコップに入った水を手渡された。


 私、ただただ、ヒロインになりたかった。


 だから、コップの水は捨てて、悪魔の手を取った。


 悪魔は私に、『すぐにでもヒロインにしてあげよう』と言った。


『でも、それにはまずお前を女の身体にしないといけませんね。お前が男だと知っている人間がこの世にいてはうまくいかないでしょう』


 悪魔からは、短剣を渡された。


 これで相手を傷つければ、みんな私の思い通りになる、と言われた。


 目が覚めたらテーブルの上にあって――


 私はまず、クレア・マリアさんのお父さんとお母さんに、剣で指先をちょっとだけ切ってもらうようにお願いした。


 そしたら二人とも、急に私のことが分からなくなっちゃったみたいだった。うちにはクレア・マリアなんて娘はいません、って……私が男であることも、分からなかったみたい。


 クレア・マリアさんは、女装を強制する両親のことが好きじゃなかったから、忘れられてしまったことに胸は痛まなかったみたい。


 私は、次々に、お屋敷の人から、私の記憶を消していった。


 みんなから忘れられてしまったから、私はお屋敷にいられなくなって、その日に王城に行った。


 王城には何度か出入りしていたから、空き部屋や、中庭なんかでこっそり寝泊りして、お昼は役所で、遠くに身を隠すための旅券を申請した。


 レナードに再会したのは、三日目の朝だったかな。


 私に王城の抜け道や、秘密基地にできそうな空き部屋の場所なんかを教えてくれたのはレナードだったから、会ってしまうのも当然なんだけどね。


 そのとき私はちょうど着替え中で、偶然、身体を見られてしまった。


 レナードは全然気にしないと言ってくれたけど、私はとても焦ってた。


 レナードの抗魔力値が高いことは、私も知ってたから。


 彼は、ちょっとした魔剣で傷をつけたくらいじゃ、簡単に呪われたりしない。


 夢に出てきた悪魔にそう説明したら、彼はすごく面白がって、なら、心臓を刺してみなさい、って。


 私は、そんなことできないって言ったの。でも、『死にはしない』って悪魔が笑うから、私――


 言われたとおりにした。


 私は王城を出て、しばらく街中にいて、ほとぼりが冷めたころに旅券を受け取りにいこうと思っていたんだけど――


 でも、レナードは死んでしまった、と報道があって。


 私、怖くなって、どうしよう、私が殺したんじゃないか、って……悪魔も出てこないし、どうしよう、どうしようって思っているうちに、レナードが目を覚まして、私は捕まってしまった。


 やっと夢に出てきた悪魔にどういうことなのか聞いても、彼は手違いがあったとしか言わない。


『このままここにいてもお前は処刑されるだけ。ここまで来たら、自殺に見せかけて行方不明になるしかないでしょう』


 彼の言うとおり、ここまで来たらもうやるしかないって、私も思った。王子を傷つけて、無事でいられるわけがないものね。


 私は彼の手引きで脱獄して、彼の言う通りに、実家を焼いてくれるように、二度目のお願いごとをした。


 クレア・マリアの屋敷は、綺麗に焼け落ちた。


 そして悪魔は、約束通り私を女にしてくれて、新しい庶民の両親も紹介してくれた。


 二人とも、悪魔のお告げを神さまからのものだと頭から信じ込んでいるみたいで、私は歓迎されて、その家の子どもになった。


 クレア・マリアは元から光魔法が得意だったから、少し練習したら村のみんなの目に留まるようになって。


 聖女宮へのスカウトのお役人がやってくるのも時間の問題だった。


 無事にヒロインになれそうだと分かったら、私は欲が出てきたの。


 好きなキャラの……金の王子様の攻略がしたかった。それも、ゲームのときよりももっと完璧に攻略してみたかった。


 私はあのエンディングが気になっていたの。


 金の王子様は、最後に『余命がもう長くない』って言われるでしょ?


 あと二、三年早く治療を開始していれば、もっと長く生きられただろうに……って。


 私、シスル様に長生きをしてほしかった。


 だから、聖女宮のスカウトを早めてもらうように悪魔にお願いしたの。


 悪魔は三つ目のお願いごとを叶えてくれるときに、『これでお前の子は私のもの』って言った。


『お前が王の子を産んだとき、私はその初子をもらい受ける』


 そう言って、悪魔は二度と夢に出てこなくなった。


 悪魔のことは気になったけど、それからの私は順調だったから、そのうち忘れちゃった。


 私には才能があったから、聖女宮からの誘いもそれほど不自然には見えなかったみたい。


 入学が早すぎるのも、それだけ見込みがあるからだろうって、周りから言われてた。


 それで、ようやくシスル様を見つけたのに――あんなことになってしまって。


 私ね、あの夢の中の男が、悪い存在だって、うすうす分かっていたの。


 だって、心が弱っているところに付け込んで、願いと引き換えに魂を要求する存在って、まるっきりおとぎ話の悪魔そのものでしょう?


 でも、私は、悪魔の誘惑に負けてしまった。


 本当はきっぱり拒絶しなきゃいけなかったのに……


 だから、これはきっと私の起こした罪の報いなんだと思う。


 私がもうシスル様とは結ばれないのも当然だよ。悪魔の予言、当たっちゃったね……


 当たるような結果を招いてしまったのは、私。


 私はただ、シスル様を助けてあげたかった。


 そのためなら何でもできると思った。


 ただそれだけだったのに……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ニャイッター→nkkps://nyawitter.com/
◆ニャンスタ→nkkps://nyanstagram.com/
ブックマーク&★ポイント評価応援も
☆☆☆☆☆をクリックで★★★★★に
ご変更いただけますと励みになります!
― 新着の感想 ―
[良い点] 思っていたほどクレア・マリアがサイコではなくて安心(?)しました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ