【ハラハラ】王太后様とスペシャル対談! 結果は・・
「マグヌス先生からてっきり連絡がいってるものとばかり……」
「……ああ、ああ。そうだった。思い出したよ、確かに聞いていたね。そっくりだけど、魔術鑑定としては別人だって話だった。なんだい、バカバカしい。心配のしすぎだよ」
王太后様が白けたように言い、もうたくさんだというように、おおきく伸びをした。
「母上。俺は、あの女はクレア・マリア本人だと思います。匂いが同じなんです。先生には、証拠にならないと言って笑われましたが……」
レニャード様の進言に、王太后様が動きを止める。
彼女はしばらく考えて、独り言のように口を開いた。
「……そうさね。最悪を想定するのなら、『金の目』と『伝説の聖女』はどうあっても近づけさせるべきじゃない」
王太后様はパンパンと手を叩いて、人を控室から呼びつけた。
「分かった。許可しようじゃないか。ただし、条件がある。ちょいと、この場にシスルを連れといで」
***
お医者さんやレニャード様のお付きの人に連れられて、苦しそうな息づかいのシスル様が王太后様の執務室に現れた。
「久しいねえ、シスル。元気だったかい?」
「ええ……お陰様で」
げほげほとせき込むシスル様。
レニャード様は見ていられなくなったみたいで、すばやくシスル様のそばに駆け寄った。
「兄う……シスル、体調が悪くて倒れたばかりだろう。無理はよくないぞ」
レニャード様は心配そうに声をかけて、シスル様のそばに集まってきた、闇の力とおぼしき黒いもやもやを猫パンチとキックで蹴散らしていく。
「ダメだよ、レニャード。これは、触れたらまずいものだ……」
最後まで言い終わらないうちに、シスル様がせき込む。
「俺は大丈夫だ! シスルは?」
「……うん、少し楽になった」
寄り添うレニャード様を撫でて、シスル様は王太后様に向き直った。
「お話とは、なんでしょうか」
「ふん、アタシは忙しいんだ。単刀直入に言うよ。うちのレニャードがどうしてもって言うんでね、あんたを修道院に入れてやることにした」
シスル様の顔に、喜びの色が射す。
「ありがとうございます。願ってもないことです、王太后陛下」
「ただし、条件がある。あんたが持っていけるのはその体だけだ。名前も、系譜も、あんたが母親から譲り受けた遺品も、一切合切置いてってもらう。身一つで修道院にお入り」
わお、厳しい。そこまでする? 遺品くらい残してあげてもよくない?
あ、でも、遺品があったらそこから辿って『金の王子』に行きつくね。経歴ロンダリングするなら、ない方がいいのかな。
シスル様はどう思うの?
注意深く観察したけれど、シスル様は、不満なんて少しも態度に出さなかった。ただ、静かにほほ笑んだだけだった。
「……名前にも、身分にも、未練はありません。もとよりこの宮廷の外れでも、祈りを中心とした生活をしてきました。修道院に入れるのなら、これ以上の望みはありません」
王太后様は、生真面目なシスル様を茶化すように、皮肉っぽく笑った。
「しおらしいねえ! あんたは初めて会ったときからそうだった。まだ五つかそこらのガキだってのに、気味悪いぐらい落ち着き払って……」
「母上! 兄上の身分を剥奪する必要があるのですか?」
露悪的な王太后様の話をさえぎったのは、レニャード様だった。
「大ありさ! あんたの後顧の憂いがなくなる」
「兄上はそんな人じゃない!」
「レナード。いいんだ。私には重い枷なんだよ、『金の目』持ちの王子の身分はね。違う身分をもらえるのなら、その方がいい」
「兄上……」
シスル様がレニャード様の小さなひたいを親指で撫でる。そっと撫でる手つきに、シスル様の、物静かで控えめな性格が出ていた。
「君の気持ちはうれしかったよ。少し見ない間に、ずいぶんたくましくなったね」
シスル様の目つきはとても優しい。
横で見ているだけの私も、ちょっとドキリとした。
あんな風にやさしく笑いかけられたら、落ちちゃう女の子多そうだなあ。
でも、あのシスル様の慈愛のこもった視線を一身に受けているの、弟のレニャード様なんだけどね。ラブストーリーが何も始まらないね。
しかもレニャード様はかわいい猫ちゃんだから、これだとただの猫を愛でる心優しい青年だね。ヒューマンストーリーかどうかも怪しくなってきたよ。猫ちゃんはかわいいね。
「君になら安心してこの国を任せられる。どうかいつまでも変わらずにいてくれ」
今生の別れのようなことを言うシスル様に、レニャード様は大きなおめめをしょぼんと半分にして、うつむいた。
「兄上……」
「いいだろう。お前には今日限りで王子と名乗ることを永久に禁じる。明日からは北ディスギルの聖クレア派大修道院長と名乗りな。厄介払いだよ、せいぜい達者でおやり」
北ディスギルといえば、空気がきれいな保養地で、温泉や王家の別荘もあるところ。王太后様が名前をあげた修道院は、とても大きくて有名な場所だから、院長ともなれば、かなりの収入がある。
隠居する人物に与える職としては、ちょっと豪華すぎるぐらいじゃないかな。
「……陛下! お心づかい感謝します」
「礼ならレニャードに言っとくれ。出立はいつごろがいいだろうね。別れの挨拶を済ませたい相手はいるかい?」
「いえ……私にそんな相手は……」
シスル様は、話を途中でいったんやめた。
あらためて、シスル様が口を開く。
「陛下、やはり、数日ほど猶予をいただければと思います。最後に、父と母の墓参りなどを済ませておきたいので」
「分かった。じゃ出立は一週間後の朝だ。最後の時間を楽しみな。分かったら、もう下がっていい」
シスル様は重ねてお礼を言って、レニャード様にも別れを告げて、退室した。
彼が出ていったあと、王太后様はすぐそばに立っていた女騎士さんを呼び寄せて、こう言った。
「今から一週間後の朝まで、シスルを監視しな。そこで接触を図った人物を全部アタシに報告しとくれ」
「分かりました」
「ま、念のためってやつだよ。何にもないとは思うけどね」
王太后様のつぶやきを最後に、シスル様の処遇はすべて決まった。
私たちも用済みだと言われて、お部屋を出ていくことになった。
「よかったですね、レニャード様。これでもう安心ですよ」
「まだだ。来週出立するまでに、また兄上が体調を崩すかもしれない。俺がついていてやらないと」
レニャード様が使命に燃えているので、明日から、私もシスル様の監視に付き合うことになった。




