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【聖女伝説】始祖王と初代聖女のひみつ、大公開!


「勝手なことをしないでくれ……! そんなことを願い出れば、私が望まなくても、現王室に反対したい者たちが集まってきて反乱軍を作る可能性がある。王太后様のご判断はまったく正しい。私はここで静かに余生を過ごすべきなんだ!」


 兄上から怒鳴られてフリーズ中のレニャード様に代わって、私がぼそりと言う。


「余生って、あと五年くらいですよね?」

「そんなに短いのか……!?」


 レニャード様が悲鳴のような声をあげた。


「このままだと長生きなんてできませんよ」

「そんなのだめだ! 兄上はすぐに修道院に行くべきだ!」

「しかし、さっきも言ったように、反乱軍が……」

「反乱軍を作ったからなんだというんだ! もしも兄上が軍を率いて攻めてくるなら、そのときは俺がぎったぎたの返り討ちにしてやる!」


 レニャード様がおててから爪を出して、しゅっしゅっとシャドーボクシングする。


 あれ、見た目はかわいいけど、当たると結構痛いんだよね。皮膚がスパッと切れるよ。


「でも、まず兄上が生きてなきゃなんともならん! 死んだらそれでおしまいだろう!」

「レナード……」

「どいつもこいつも腹が立つ! なんで勝手に死に急ぐんだ! 俺はそんなこと絶対許さんからな!」


 レニャード様はひとしきり吠えて、お付きの人が抱えていたカゴの中に、ぴょんと飛び乗った。


 私はそのカゴを、お付きの人から受け取った。


「ルナ。母上のところに行ってくれ」

「オッケーです」

「君たち、勝手な真似は……!」

「大丈夫ですよ、シスル様。王太后様はレニャード様に甘々なので、お願いしたら聞いて下さると思います」


 私はシスル様の介抱をお医者さんとお付きの人にお願いして、レニャード様が入った『高貴なる尻尾ロイヤル・テール号』を手に提げ、てくてくと徒歩で王太后様のお部屋に向かうことにした。


***


 王太后様は執務中だったけど、お部屋に入れてくれた。


 たくさんいる内務の貴族や大臣たちを退場させて、用向きを聞いてくれる。


「王太后陛下、推参いたしましたご無礼をお許しくださいませ。喫緊のお願いがあってまいりました」

「兄上を、修道院に入れてあげてください」


 王太后様は、目を丸くした。


「そりゃまた……急にどうしたんだい?」

「実は先ほど、お庭で倒れているシスル様と会いました。お医者さんに治療をしてもらいましたが、容態がよくないみたいで……」

「あのままだと、二、三年で足が動かなくなって、五年以内には死ぬと聞きました」


 私とレニャード様がくちぐちに訴えると、王太后様はやるせない表情になった。


「……いいじゃないか。そのまま死なせておあげよ。呪われた姿で長生きなんかされちゃ、こっちが困る。いつ正統な王位を主張して攻めてくるか分からないし、伝説の聖女なんかとくっつかれた日にはアタシらみんなまとめてお払い箱だよ。『金の目』を持つ王子がいると災いが起こる――言い伝えの通りさ」


 そうなんだよね。


 力の強い聖女の中には、特別な徴がひたいに現れることもあって、ひたいに祝福を受けた聖女のことを、『伝説の聖女』って呼ぶんだよ。初代のシンクレア始祖王を祝福した聖クレアさんが持っていたのが、この徴。ゲームだと、雪の結晶のような六角形の模様だった。


 五百年前にこの国ができて以来、最後に現れた徴持ちの聖女が『五代目伝説の聖女』だったから、めったに現れることはないんだけどね。


『金の目』の王子は王様になれない決まりだけど、同時代に『伝説の聖女』がいた場合は別。過去に彼女を妃に迎えた『金の目』の王子はいい王様になったと言われてるから、『金の目』の王子と『伝説の聖女』がそろうと、ふたりを結婚させようとする機運が高まる。


 そうなると、現王太子のレニャード様はお払い箱、というわけ。


 ゲームでも、主人公の行く末には複数パターンあって、『金の王子』ルートでは、『伝説の聖女』にまで登りつめる。


 そしてふたりは幸せな結婚をしました、めでたしめでたし、ってね。


「母上、俺は、兄上に死んでほしくありません」


 レニャード様のシンプルなお言葉に、王太后様が困っている。


 そのすきに、私はすかさず口を開いた。


「陛下、シスル様がこのままここにいると大変かもしれません。今年の聖女宮に、かなり有力な見習い聖女がいるのをご存じですか?」

「そんなの、毎年のことだろ。毎年聞いているよ。今年の見習い聖女は伸びそうだ、なんてお世辞はね」

「彼女は違います。数値だけなら、いつ徴持ちになってもおかしくない数値が出たって聞いてますよ。それに、たとえ彼女が『伝説の聖女』じゃなかったとしても、来年、再来年の見習い聖女の中から、いつかは本物が見つかるかもしれません。そうなってからでは遅いのです。『金の目』と『伝説の聖女』が揃ったなら、二人に王位を譲れと、国民は口をそろえて言うはずですから」


 王太后様は、つまらなさそうな顔をしている。話に退屈しているのかな? えらい人の表情って読みにくい。


「まだ間に合います。彼女たちが出会う前に、一日も早く遠い修道院へ送り出してしまうべきです」


 私がそう話を切り上げると、王太后様は小さく鼻を鳴らした。


「……ふん。ま、気が向いたら調べてやろうかね。その小娘の名は?」

「クレア・マリア」


 王太后様の顔色が変わった。

 さすがにこの名前には無関心でいられないか。


「彼女の顔をご覧になりましたか? そっくりですよ」

「……なんでそれをもっと早くアタシに言わない!?」


 わあ、怒った。王太后様、迫力あるからちょっと怖い。


 ビビってしまった私の代わりに、レニャード様がかばうように一歩前に出た。



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