【新キャラ】二人目の王子様登場!? 出るまで回した結果・・
「私はルナです。そして、この方がレニャード様」
足もとの猫ちゃんを紹介してあげると、彼は力なく笑った。
「あ、ああ……久しぶり、だな」
「兄う……いや、シスル。お久しぶりです」
シスル? はて、どこかで聞いたような名前。
誰だろうと思っている私をよそに、レニャード様が神妙に言う。
「お体の具合は悪いのですか?」
「まあね。でも、なんとかやってるよ」
そうこうしているうちに、お付きの人がお医者様を呼んで帰ってきた。
お医者様は一通りシスルさんを診ると、こう言った。
「おそらく『金の目』によるものでしょう。闇を引き寄せてしまったのではないかと」
『金の目』……あれ、どっかで聞いたことがあるような。
「とにかく空気のきれいなところで静養なさってください」
「ここが宮廷で一番静かで空気のいいところだ。いい場所で休ませてもらっているよ」
「せめて聖女宮の見習い聖女でもいれば……」
見習い聖女の話が出たところで、私はようやく思い出した。
そういえば、『金の目』を持つ病弱な王子様が、乙女ゲーに一人いたんだった。
「もしかして、金の王子様……?」
私がおそるおそるゲームでのあだ名を尋ねると、彼は悲しそうな顔をした。
「ごめん。私はあまり、その名前で呼ばれるのが好きじゃないんだ。シスルって呼んでもらえるかい?」
レニャード様がぐいぐい私の袖を噛んで引っ張る。何々?
「ルナ。兄上は、難しい立場なんだ。王子とは呼ばないほうがいい」
レニャード様がぼそぼそと耳打ちしてくれた。
そうだった、そうだった。
シスル様といえば、別名『金の王子様』で、レニャード様のお兄さん。そして、『金の目』の持ち主だったね。
今の今まで、すっかり忘れてた。
「すみません、失礼しました。シスル様のご事情についてはたった今すべて思い出しました。以降は気を付けますので、お許しください」
「いいんだ。誰も、あんなところに無様に倒れているのが王子だとは思わないだろうからね」
シスル様の悲しい笑顔に、私は胸が痛くなった。
「……体調がお悪かったのでしょう? その……『金の目』のせいで」
説明しよう。『金の目』っていうのはね、初代王が持っていたとされる特殊な魔眼なんだよ。色がはっきりした金色で、特殊能力がある。
この目があると、闇の魔力が際限なく引き寄せられて集まる、という話。
普通の人間にはとうてい耐えられない量の闇を抱えて苦しむ初代王を祝福したのが、初代聖女の聖クレア様。
以来この国は、『金の目』の王と、聖クレアの末裔が支配する国となった。
昔は『金の目』があることが国王になる絶対条件だった時代もあったんだよね。
でも、時代が進むにつれて、のちのち『金の目』のデメリットが発覚したんだよ。
『金の目』を持つ王族は、闇の魔力のせいで、長くは生きられない。寿命が短い人を王様にすると、頻繁に政権交代をしなきゃいけなくなるから、国が乱れる。
しかも、『金の目』は必ずしも国王の長子が持って生まれるとは限らない。そうすると、厄介な問題になるんだよね。たとえば、生まれも育ちも正統な現国王が平和に国を統治していたのに、いきなり傍系王族に『金の目』持ちの王子様が生まれたら、その場で赤子(とその親の摂政)に政権を交代するべきか、それとも現国王に続けさせるべきか?
こんなふうにして、何度も国内で対立が起きたんだよ。
だったらもう、『金の目』の王子はやめて、一番上の男の子に王様をさせよう、となったんだよね。
以来、『金の目』の王子は、呪われていると考えられ、王太子にはなれない決まりになった。
シスル王子は、そんな時代に生まれた『金の目』の王子様だ。髪や瞳、まつげに至るまでキラキラした金色なので、いつしか『金の王子様』の異名を取るようになった。
シスル王子の母上はその後病気で亡くなり、次に王妃となったのが現在の王太后様。
レニャード様は金褐色の、魔眼ではない瞳を持って生まれたので、めでたく王太子となった。
「レニャード様、シスル様は一刻も早く修道院に入っていただくべきだと思います」
シスル様の『金の目』は、悪い人がたくさん集まる場所にいると、無限に闇の力を引き寄せてしまう。
彼の身体の負担を減らすには、郊外で、闇を生み出す人が少ない、静かな場所に移動しないといけないわけで。修道院に行かないと、具合は悪くなる一方なんだよ。
レニャード様は、私に急にそんなことを言われて、戸惑った。
「そんなの、俺に言われても……」
「いえ、たぶん、レニャード様からお口添えをいただくのが一番早いと思います。お入りになれないのは、王太后様が許可を下さらないから、ですよね? シスル様」
レニャード様は驚いたように、兄の顔を見た。
「そうなんですか?」
「王太后様は、シスル様が宮廷を離れて、別の拠点を持ち、反乱軍の牙城とすることを恐れているのです」
この国、ただでさえ王族がたくさんいるもんね。しかも、ゲーム都合で、次々に訳あり王子が増える。
独立の機会をうかがってる大公たちも含めたら、反乱の火種は数えきれないほど。
反乱軍の神輿になりそうな『金の王子様』を王太后様が手元から離したくないというのは、政治的には定石の、ごくまっとうな判断だということだった。
「シスル様は『金の目』のせいで闇が多い場所には向いていません。このまま宮廷にとどまっていた場合、もうあと二、三年ほどで足が動かなくなるはずです。『金の目』のことはおとぎ話で知りましたので、間違いないです」
レニャード様が息を呑む。
そうなんだよね、彼がびっくりするのもしょうがない。だって、私もさっき思い出して、大変だーって、焦っちゃったもん。
「でも、まだ、今修道院に入ることができれば間に合います。修道院に入る時期が遅くなると、シスル様は足が不自由なままで一生を過ごすことになってしまうのです」
これも『金の王子様』ルートのバッドエンド情報なので、間違いない。
彼は体調不良を押し隠して宮廷のはずれでひっそりと暮らしていたが、ある日倒れて、足が動かなくなってしまう。そこまで悪化してから、ようやく王太后様がほだされるんだよ。かわいそうなことをした、って。
これが、修道院で寂しく一生を過ごすエンドね。
ちなみにトゥルーエンドだと、なかなか修道院へ行かせてもらえずに困っている王子様を、主人公が治療してくれることになっているので、途中で『金の王子様が立った!』と言われるイベントがある。
「レニャード様、王太后様にお願いして、シスル様が修道院に入れるようにしましょう」
「ああ、わかった!」
レニャード様は一切迷わなかった。
慌てた様子を見せたのは、シスル様の方だった。
「ちょっと待ってくれ!」
シスル様は、静かな話しぶりからは考えられないような大声でレニャード様を引き留めた。




