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【最短攻略】ワルイー男爵ルート・これが最速だと思います

 先ににっこりしたのはワルイー男爵のほうだった。


「……ふ、まあいいでしょう。近頃のレニャード様はずいぶんと勉強熱心だと、教師たちからも評判ですからな。ヴァルナツキーのご令嬢を味方につける人徳もあるようですし、そこはこのワルイーも素直に評価いたしましょう」


 褒められてるよ、レニャード様。

 さっきまでお説教されてたのにね。


「レニャード殿下、本日はお招きいただきましてありがとうございます。殿下に直接お目通りする機会を設けていただけるなど、しがない政治屋の身に余る光栄でございます」


 先ほどまでの乱暴狼藉から一転して、ワルイー男爵が丁寧にお礼を言う。


 レニャード様は戸惑いつつ、「まあ、たまにはな」とつぶやいた。


「本日はいったいどうしたというのですかな? 殿下が苦手とする私をお呼びだてなさるからには、何かよっぽどのことがおありなのだろうと思っておりましたが」


 あ、苦手がられてるって意識はあったんだ。よかった。


 でも、ワルイー男爵にクレア・マリアのことを相談するわけにもいかないから、そこはごまかすしかないよね。


「まだ何かあったわけじゃないんですけど、最近あんまりレニャード様の反対派閥のうわさを聞かないから、国務大臣たちはどうしてるのかなって思いまして」

「最近はもっぱらレニャード殿下の即位に賛成で宮廷も意見が一致しておりますからな。ご不安になる必要はないかと」


 あ、そうなんだ。よかったね、レニャード様。


「何かお困りのことがございましたら、このワルイーめになんなりとご相談くだされ」


 ワルイー男爵はあれこれと宮廷のうわさをして、一時間もしないうちに、仕事があるからといって帰っていった。


 ワルイー男爵を廊下に出て見送り、後姿が見えなくなったところで、レニャード様が我慢の限界だった。


 ニ゛ャ゛ー! と、汚い鳴き声をあげるレニャード様。


「ムカつくぜ、ワルイー男爵のやつ! あいつはいつも俺のこと全然ダメだと言う!」

「いやあ……あれはツンデレと思いますね……」


 私が思わずまぜっかえすと、彼はきょとんとした。


「ツンデレ?」

「ええっと、好きなんだけど、素直に好きと言えない……みたいな感情のことです。ワルイー男爵は立場上レニャード様にはしっかりしていただかないといけないのですが、本当は甘やかしたいと思っているのでしょう。心を鬼にして、レニャード様にダメ出しをしているんです」


 私の解説に、レニャード様はぱっと瞳孔を大きくした。金褐色のまん丸な瞳孔が、日光を浴びてらんらんと輝く。


「なんだ、あいつもやっぱり俺のことが好きだったんだな! それならそうと早く言えばいいのに!」


 この立ち直りの早さ。ナルシストは違いますね。


 レニャード様は、小さな猫の胸を大きくそらせて、うんうんとひとりでうなずいた。


「素直になれないなら仕方がないな。次に会ったときは俺をかわいがりたい気持ちに素直になれるように、脛にスリスリしてやろう!」

「あ、いいですねー」


 すごく喜びそう。


 私が同意したことで、レニャード様はさらに威勢がよくなった。


「ま、それで足りないってんなら、膝の上で丸くなってやってもいい!」

「ナイスですね。泣いて喜んで、レニャード様に忠誠を誓うと思いますよ」


 ワルイー男爵ルート、完。

 おつかれさまでした。


 うぃっす。帰ります。


 レニャード様は、家に帰る私のことを送っていってくれる気になったらしく、私と一緒に馬車に乗り込んだ。


 ルナさんちって王城の正門から徒歩で三分くらいなんだけど、お城がものすごく広いから、結局馬車移動で三十分はかかっちゃうんだよね。歩いてくればいいじゃんって私なら思うんだけど、どうも公爵令嬢クラスの高位貴族が正式に王族の部屋を訪ねていくとなると、馬車でないとみっともないって風潮があるみたい。


 まあ、私は気にせず徒歩で来るんだけどね。今日はワルイー男爵がうるさそうだったから、馬車にした。


「ワルイー男爵がリアさん(自称)にたぶらかされそうな気配がなかったのはよかったですが、しかし、リアさん(自称)は何が目的なんでしょうね……」


 私が世間話ついでにそんなことを言ったとき、レニャード様はふいに伸びあがって、馬車の外を見た。


「おい、あそこに人が倒れてる」

「え、うそ、どこですか?」

「ほら、花壇の隅」


 のろのろと徐行する馬車の窓から、レニャード様が飛び出した。


 とんっと、軽やかに飛び降り、倒れている人のところへさっと駆け寄るレニャード様。


「おい、大丈夫か!」


 レニャード様が声をかけ、相手の唇に耳をすます。ぺちぺちと頬を肉球で叩き、意識があるかどうかを確認して、あとから追いついた私を振り返った。


「すごく苦しそうだ。医者が必要かもしれない」


 私が慌ててお付きの人たちにお医者さんを呼んでくるよう頼んでいる間にも、レニャード様は病人のまわりをうろうろしては声をかけてあげていた。


「大丈夫か、しっかりしろ!」


 倒れている人がごほごほとせき込む。


 黒いもやのようなものがもくもくとあがった。


「なんだ、この真っ黒いのは?」


 なんでしょうね。煙突掃除でもしていたのかな?


 でも、動き方が明らかに煤や煙じゃないような。


「魔術……魔力の塊かな?」

「邪魔だ、どっかいけ!」


 レニャード様が黒いもやに飛びついて、蹴散らした。


「あ、あの、レニャード様、よく分からないものに不用意に触るのは……」

「俺には無敵の抗魔力があるから問題ない。それよりルナ、手を貸してくれ。あっちの木陰で休ませないと……」


 私はぐったり倒れてる男の人を見た。


「あ、あの、もしも頭にけがをして倒れたんだったら、素人が揺り動かしたりするのは逆に危ないですよ……」

「しかし、このままここに寝かせておくわけにもいかないだろう」


 私は男の人の頭をよく見てみた。きれいな金髪で、外傷がある様子はない。


 うーん、素人判断は危ないけど、このまま置いとくのはよくないよね。


 さっきからごほごほしてて、黒いもやみたいなのも出てるし、魔法か、気管支か、そのあたりの病気かな。


 ちょっとずつ動かしたらいいかな。


 私は男の人の両脇の下に手を入れて、ずるずる引きずる作戦に出た。


***


 男の人を芝生に生えている大きな木によりかかるようにして座らせたとき、ようやくその人は目をあけた。


 私はその目に釘付けになった。


 すごい、綺麗な金色の目。レニャード様の金褐色の瞳よりももっと強い発色の、本物のゴールドだ。人体にはちょっとなさそうな鮮やかな発色なので、これも魔法のものかもしれない。


「……ありがとう。君は……?」

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