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【経済効果】レニャード様のグッドデザイン賞受賞確実なあるモノとは?


 入学式があってから、一週間ほど経過した。


 レニャード様はまだ毛が生えてこなくて、お洋服を手放せないみたい。とうとう、新しい服を注文したって言ってた。


 リア(自称)には一応監視がつけられることになり、三つほど新たな報告が入ってきた。


 私はその報告を、レニャード様やフルツさんと一緒に聞いた。フルツさんは今回も警備部長なんだよ。


 まず報告ひとつめ。入学式のあと、すぐに能力値の測定があって、リア(自称)が規格外の聖属性の魔法力を叩きだした。


 クレア・マリアにしろ、リアにしろ、もとのゲームでも聖女の適性が高かったから、これ自体は納得。


 男なのに聖女の特性が出る家系なんだってさ、クレア・マリア(公爵令嬢)の出身・ジルドール公爵家。


 リア(自称)の鑑定結果がよかったおかげで、もしかしたら、『伝説の聖女』かもしれないと、注目されているみたい。


 それはともかく、報告ふたつめ、彼女は身体検査でも完全に女性だったんだって。立ち会ったのはシスターさんたちだから、ごまかしようがない。


 そして、みっつめ。


 なんと彼女、勝手に王城の庭に出ようとして、監視の人に捕まって、お説教されたって。


 綺麗なお花が咲いているから、少しお庭を散歩したかったというのがその言い訳だったけど、私はそれを聞いて、うなってしまった。


 乙女ゲーだと、見習い聖女たちが自由な外出を許されるのって、共通ルートの前半が終わってから。つまり、入学式をしてから二か月後なんだよね。


 そこまで共通ルートが進むと、攻略対象のキャラたちとの出会いイベントが発生するようになる。


 今はまだ、入学式から一週間しか経っていないけど、もう少し待てばすぐに外出できるようになったはず。


 なのに、どうして焦って脱走しようとしたんだろうね?


「リア(自称)がいきなり脱走しようとしたってことは、やっぱり何か強力な目的意識があって動いてるのかも……」


 もしもリア(自称)がクレア・マリア(公爵令嬢)と同一人物なら、これも『ヒロインになりたかった』と言ってレニャード様を暗殺しようとした、一連の奇行の一環である可能性が高いんだよね。


 レニャード様が、へなりと耳を下げた。


「もしかして、まだ俺の暗殺を諦めてないのか?」

「どうでしょうか……以前伺った話では、彼女は男の身体であることを知られて、ヒロイン活動に支障があると感じたから命を狙ったということでしたけど、リア(自称)は、身体検査の結果によると、身も心も女性なんですよね?」


 もしも彼女が男の身体を脱却して、身も心もリアになれたのなら、レニャード様の存在はもう関係ない。


 確かにレニャード様、わがまま俺様だし、ルートの中盤で横恋慕してきて邪魔になることはあるけど、それ自体が攻略対象との恋を盛り上げるためのスパイスだから、むしろいなくなってもらったら困る、と思うんだよね。最終的になんやかんや退場するって決まってるし。主人公が自分で手を下す必要なんてない。


「警備が厳重なレニャード様を狙って動く必要って、それほどないように思います。それよりも、考えられそうなのは……誰かを探している、とか……?」

「誰を探しているんだ? あいつの友達って、それこそ俺ぐらいだと思うんだが」


 うーん、そうなんだよね。


 主人公がゲームの中で出会う王子様は、シンクレア国内外全部合わせて十人超えるんだよ。


 ソシャゲだから、どんどんキャラが増えていくんだ。


 私も攻略はほとんどレナード王子か、レナード王子の登場回数が多いシンクレアの初期組三王子ぐらいしかやってこなかったから、違う王子様のことなんて全然分からない。


 もしも私が知らない完全新作の王子様ルートが存在したら、もう詰みです。


「……誰を探しているのかは、きっとそのうち判明するはずです。見習い聖女たちが自由行動オッケーになったら、またあとをつけてみるのがいいと思います。フルツさん、お願いします」

「承知しました。寝ずの番をさせることにしましょう」

「いつもすみませんね」

「いえ、そんな……」


 生真面目な顔で恐縮するフルツさんの胸元に、何かがきらりと光った。よく見ると、おへそに向かって、長い革ひものようなものが垂れている。


 私の視線に気づいたフルツさんが、ちょっと恥ずかしそうに、それでいて誇らしげに、革ひもを手で引きあげる。


「これですか? レニャード様からのいただきもので……」

「ええー! 見せてください!」


 フルツさんの手に握られているのは、金のプレート……のようなもの。


 中央には、猫のあしあとがちょんと入っていた。


「……あれ、それって……レニャード様の?」

「はい、レニャード様の、純金製、原寸大肉球見本ということで……いただいてしまいまして」

「ええー、うっそー! ずるーい! いいなあー!!」

「それ、俺は、給料チップとして支給したんだぞ……なんでペンダントにしてるんだ」


 レニャード様が不機嫌になっている。


 よく見れば、金のプレートにはけっこうな厚みがある。肉球のワンポイントもかわいいけど、溶かして固めたらいい金額の純金が取れそう。


 金のインゴットにレニャード様印が入っていたものを、ペンダントに変えたのかな。


「いえ、まあ、この肉球が……やはり、換金するに忍びなく……」


 フルツさんがちょっと照れている。


 フルツさんもよく見たら美青年なのに、もうすっかり猫好きの変なお兄さんになっちゃったよね。優しくていい人のはずなのに、レニャード様推しがちょっと本気すぎて、イケメン設定がどっかに行ってしまったよ。


 この世界で一番イケメンなのが猫のレニャード様っていうのもなんだか変な話だよね。まあ、私調べだから、もしかしたら人によっては意見が変わるのかもしれないけど。


「言っとくが、それ、俺が直接押したんじゃないぞ。細工師に同じ大きさの型を作らせて、スタンプさせたんだ」


 それはそうだよね。金が溶ける温度ってかなり高いはずだし、じかに触ったらレニャード様の肉球がステーキになっちゃう。


「それでもほら、こうして手を添えると……レニャード様のおみ足の大きさが分かって……」

「分かる。気持ちが安らぎますよね、フルツさん」

「そうなんです、ルナ様」

「正気か、お前ら……」


 レニャード様が呆れている。


「もちろん俺の手の形はかわいい! だがな、それはペンダントにするようなデザインじゃないだろ!? やり直しさせろ! もっといいのをいくらでも作ってやる、でもそのペンダントはダメだ!」


 フルツさんはそっと手で胸元のプレートをかばった。


「……俺は、アクセサリにうといので、デザインのことは分かりません。ですが、これがいいと思ったんです」


 フルツさんの反抗に、レニャード様は前足二本で地団太を踏んだ。


「これだ! 何度言っても聞かない! ルナ、お前からも言ってやってくれ!」

「フルツさん。それ換金するなら、私に売ってほしいです」

「そうじゃないだろ!?」

「相場の五倍くらいは出してもいいですよ。レニャード様の尊いおてての価値によって、金の価値が五倍くらいになってると思いますんで。やだ、レニャード様の肉球でインフレが起きてしまう……」

「起きないだろ、馬鹿! いくら俺がかわいくても五倍になってたまるか!」

「いえ、起きますけど? 神様の被造物の中でも最高峰のグッドデザインなのでインフレします。そうですよね、フルツさん?」

「何と言われようとも俺は売りませんので」


 レニャード様は付き合ってられないというようにため息をついた。


「……お前ら、前からそんなにアホだったか?」


 わー、レニャード様ったら、シビアですね。


 原作のレナードならまったくその通りだって言って高笑いする場面なのに。これも猫化の効果なのかな?


「レニャード様がご成長著しいので、しもべの私はなんだか最近眩しいです」

「お前の思いつきをそのまま喋ったようなトークを聞いてると力が抜けるぞ……」


 わあ、耳が痛い。そうなんですよね。私、子どものころから『真面目にやりなさい』ってよく怒られてました。


 人生二回目なんだし、少しは真面目になりたいところ。


「……まあ、冗談はとにかく」


 私は話を戻すことにした。


「リア(仮)さんのことは、ひとまず出方を待つということで。私たちは、念のためワルイー男爵のところに行きましょう」

「ワルイー男爵……?」

「まだレニャード様にもお話してませんでしたね。実は彼も、おとぎ話に出てくるんですが、レニャード様を王位から引きずり落とすために活躍するんですよ」


 彼はレナード王子ルートの最大の障害だ。他のルートでもちまちまと地味にレニャード様の失脚に貢献している。


「リアさん(自称)が手を組んだら厄介な相手です。今のうちに懐柔しておきましょう」


 懐柔した方がいい相手は無数にいるけど、リアさん(自称)に外出許可が下りるまでの間にできることはたかが知れてるからね。


 確実なところからいきましょう。


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