【ゾンビ?】王子様が家に遊びに来た結果
私はふたたび誕生日のケーキみたいにデコレーションされて、そわそわしながら婚約者の到来を待っていた。
レナード王子はすでに家に到着しているんだって、メイドのエミリーが言ってた。今は応接間でルナのパパママと対話をしている、とのこと。
そのあと、王子自らルナの部屋に訪ねてきてくれることになっていた。
「ねえ、エミリー。少し聞いてもいい?」
「いかがなさいましたか」
「今から来るレナード王子が、もしもニセモノだったりしたら、私はどうすればいいのかな?」
エミリーはハッとした。
「だってさ、レナード王子は一度死んでるって発表があったんだよね。だったら、今日来る王子は、秘術で蘇ったんじゃなくて、巧妙に用意されたニセモノの可能性が高い。だとしたら、私は、その正体を暴くべき? それとも、国外に逃げるべき?」
これでも無い知恵絞って、いろんな可能性を考えたんだよね。
でも、どれもこれも想像の域を出ない。かといって、情報集めにお城に出向くわけにもいかないし。
どうにかして味方をしてくれる人を探さないといけない。
そう思って、今こうして、エミリーへ探りを入れているのだった。
エミリーは目を伏せた。
「こ……公爵様の望む通りに……」
「そうだよね。エミリーにはそう言うしかないよね。ごめんね、意地悪なこと聞いた」
ルナ・ヴァルナツキーには味方がいない。
公爵夫妻は会って三分で分かるほど自己中だったし、エミリーの他には親しい知人もいない。そのエミリーだって、しょせんは公爵夫妻の雇われ使用人だ。
つくづく可哀想だよね、ルナさん。
「まあ、いっか。しょうがないもんね。とりあえず、会うだけ会ってみる。でも、もしもレナード王子がニセモノで、そのせいで私にもなんらかの詐欺罪が及びそうになったら、そのときは……」
とりあえず、逃げるしかないよね。
死なないように、婚約を破棄するのが一番だけど、状況が許してくれるかどうか。
「……ルナお嬢様はお変わりになりましたね」
エミリーがぽつりと言う。
「そうなの? 記憶がないから分からないや。前の私はどんな感じだったの?」
エミリーは少し感傷的に、声のトーンを落とした。
「ルナお嬢様はいつも、心のコップがいっぱいだったのです」
「こころ……? コップ……?」
ちょっと詩的すぎてよく分からない。
エミリーはしんみりとした口調で続ける。
「ええ。小さな容器の中に、たくさんの寂しいお気持ちや、悲しいお気持ちが溢れていて、いつもとても悲しそうにしていらっしゃいました」
あれ。それ、結構私に似てるかも。
「でも、小さなルナお嬢様には、心のコップが溢れる前に、少しずつ水を捨てる、そのやり方が分からなかったのです。ですからいつも癇癪を起こしては、使用人に激しい非難のお言葉をぶつけていらっしゃいました」
んんー。私はそこまでしたことないな。
ルナ・ヴァルナツキー、結構エキセントリックだったんだね。
「このエミリーめに、もったいなくも謝罪のお言葉をかけてくださったのは、今回が初めてなのではないでしょうか」
「そっか……激しい子だったんだね」
「ルナお嬢様はお可哀想な方だったのです」
エミリーはもう一度そう繰り返して、物思いにふけるように、うつむいてしまった。
もしかするとエミリーも、ちょっと病み気味なのかもしれない。
立つ鳥跡を濁さずとも言うし、私としてはこの体を綺麗に使用して返すべきだと思ってるんだよね。
あとでエミリーさんとも会話してみようかな。せっかくだから仲良くなっておくに越したことはない。
そんなことを考えているうちに、王子がやってきた。
ノックに続いて、公爵夫妻が入ってくる。
レナード王子も、その後すぐに入ってくるはず。
彼の姿を見るのは、前世で攻略したとき以来。ショタの立ち絵も季節限定イベントで使われていたけど、そのときの彼はいつもの姿をそのまま幼くしたような、とてもかわいらしい男の子だった。
レナード王子。いったいどんな変わり果てた姿で来るんだろう?
ゾンビになってたら嫌だなあ。
腐りかけはさすがにちょっと。
ドキドキする私の前に、するりと何者かが踊り出た。