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【実況】王子様が不具合(バグ)でした【猫化バグ】  作者: くまだ乙夜
第二章

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【ピアノ】懐かしの童謡弾いてみました!~エミリーといっしょ~


 私は自室でふんふんと鼻歌まじりに縫いものをしていた。


 レニャード様はつい先ほど、事情があっておなかの毛を丸刈りにされてしまった。


 そのままでは恥ずかしいというので、簡単なお洋服を作ってあげることに。


 裁縫なら慣れてるから、ちっちゃい猫ちゃんのお洋服なんて、そんなに時間はかからない。


 レニャード様に布を当てて、待ち針でぬうところをとめて、ちくちくと直線状に縫ったらおしまい。


「さ、できましたよ、レニャード様」


 私はレニャード様のオレンジの身体に合わせて、似たような色の術後服めいたものを着せてあげた。


「どうだ?」

「とってもよくお似合いです! ねえ、エミリー?」


 私は手を叩いて言い、入り口で座って何かの繕い物をしていた侍女のエミリーにちらっと目配せをした。


「はい。たいそうお似合いでございます。おつくりになったルナ様の真心がこもった、あたたかみのあるお洋服でございますね」

「レニャード様、とってもおかわいらしいです。ぬいぐるみみたい」


 ふたりがかりで口々に褒めそやすと、レニャード様はしっぽをピンと高く上げた。


「見てください! かわいいですよ!」


 レニャード様は鏡に映った自分のしっぽを、右にふり、左にふり、鼻先を右に向け、左に向け、斜めの立ちポーズをじっくり見た。


「やはり俺はかわいいな!」


 ああー。レニャード様が調子に乗ってるところを見ると幸せになるなー。


 自信に満ちあふれた猫ちゃんってなんでこんなにかわいいのかな。


 レニャード様は鏡の自分に満足したらしく、私の方にとことこと寄ってきた。


「ルナ。お前の厚意には感謝してもしきれない」

「やー、大げさですよ……」


 レニャード様は三歩歩いたらもうコロッと忘れちゃったみたいだけど、もとはといえばおなかの毛がなくなっちゃったの、私の監督不行き届きだったもん。防寒着くらいは作りますよ。


「大事にする。ありがとう」

「う、うん……えへへ」


 しまった。緊急用だから縫い目が雑なのに、すごく感謝されちゃってる。こんなに喜んでもらえるなら、もっと丁寧にしとけばよかったなー。


 レニャード様は頭を私の手のひらにすりつけて、ごろごろと喉を鳴らしてくれた。


 レニャード様のファンサービスだ! ありがとうございます。


 私は、レニャード様の頭をたくさんなでなでさせていただいて、ほっぺがゆるみっぱなしだった。


***


「ルナさま、ここは私がいたしますから、ごゆっくりおくつろぎください」


 レニャード様が帰ったあと、針や糸くずを片づけていたら、エミリーが代わってくれた。


「ありがとう、エミリー。あとでお父さまにお給料あげてもらえるように言っておくね」

「そんな、もったいのうございます!」

「いいからいいから」


 エミリーがいないと私の生活は成り立たないよ。ほんと。


「……でも、本当によろしゅうございました。最近はご主人様達も頻繁にルナ様のお顔をごらんに、こちらまでいらっしゃるようになって……」


 一緒に暮らすことも決まって、屋敷の人たちは引越しの準備で忙しいみたい。


 半年後には見習い聖女の歓迎パーティをする予定になってるから……


「……そうでした。楽器の練習もしないとだった」

「今、少しおやりになってはいかがでございましょう? 私も、ルナ様のピアノが聞きとう存じます」

「サボってばかりだから、下手になってるかもしれないけど」


 ルナさんの身体がそうなのか、ちっちゃいころにまあまあ弾けたピアノが、最近はちょっと劣化してる気がする。


 私がサボってたからだよね。ごめんルナさん。せっかく上手だったのにさ。


 ポロポロロンと腕鳴らしに童謡を奏でる。


 エミリーさんがほんのりくちずさんでくれながら、片づけを続けた。


 ――妖精の王は眠る、日の光にあふれた里で。

 ――聖獣の尾は揺れる、エノコログサの里で。


 片付け終えて暇になったエミリーさんが、私の弾く鍵盤の手元を見ながら、思い出したようにぽつりと言った。


「ルナ様は近頃、とてもお幸せそうですよね」

「うん……まあ」


 わあ、弾いてるときに話しかけられるとあたふたするよ。


 生返事の私に、エミリーさんがおっとりと後を続ける。


「レニャード殿下と何かありました?」

「何か……って?」

「最近、殿下のルナ様を見る目つきがとてもお優しいので……きっと何かあったのではないかと」

「そうかな?」


 手元があやふやな状態で演奏しながら、私がよく考えずに答えると、エミリーはちょっと驚いたようだった。


「その……初めてレニャード殿下がいらしたころは、もっと、そう……ご興味やご関心がご自分のことでいっぱい、という印象だったのですが……」

「そうかも。そこがかわいいんだけどね」

「そうなのです。レニャード様の……その、なんと申しますか、自由でのびのびとしたご発言を、ルナ様が、のほほんとお優しい調子で受け流しておしまいになるので、レニャード殿下もずいぶんお変わりになったと申しましょうか……」

「猫だから、自由なんだよ、きっと」


 あっあっ、もうダメかも。エミリーの話に耳を傾けていたら、指さばきがガタガタしてきた。


「……なるほど、エミリーめには分かりましたよ。きっとルナ様は、とりたてて何かなさったおつもりはないのでしょうね」

「うん……? ねえ、何の話だっけ?」

「いえ、もう済みましたので」


 あ、もう終わったんだ。よかった、もうダメかと思ってた。


 会話に頭を使わなくてよくなった私は、しばらく、譜面を見るのに集中しながら、弾いた。


 エミリーも、私の鍵盤に合わせてまた歌ってくれた。


 ――稲妻のような金の瞳。

 ――絹と茨で織ったマント。


 ――ラララ、エウェク、ザダイモン、美しい荒れ地の守護神。

 ――ラララ、アンジュ、ザダイモン、穏やかに眠れ。


「……レニャード様は、ルナ様が飾らない方だから、自然とお慕いになったのでしょうね」


 エミリーが何か言っていたのは音で聞こえていたけれど、意味が頭に残らずに、すぐに消えた。


 あああ、間違えそう。


 私はかなり長い時間エミリーにピアノの練習に付き合ってもらって、ちょっとだけ勘を取り戻したのだった。




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