【ピンク色?】レニャード様を徹底解剖! ボディの秘密に迫る!
「おなかを切り開いたりするんじゃないんですよね?」
「もちろん。身体にキズはつけない。毛をそるだけだ」
「じゃあ、いいですよ。私、ここで見てますね」
そう言って、私はマグヌス様の横に立った。マグヌス様がおかしな動きをしたら、私が止めないとね。
そしてマグヌス様は、レニャード様のおなかに薬草のペーストのようなものを塗って、かみそりで丁寧におなかの毛を剃り始めた。
右下の区画がきれいになった。レニャード様、毛がないのに気づいたらびっくりするかな。
左下の区画もきれいになった。あ、けっこう剃るんだね。エコーって、三センチ角くらいで済むと思ってたよ。
右上の区画もきれいさっぱり毛がなくなった。
「ちょ、ちょっと、剃りすぎなのでは……?」
「腹部の毛を全部そると、事前に説明しただろう」
「ぜ、全部とは聞いてないような……? う、うわ、そこまで? うわ、うわあああああ」
レニャード様のおなかは毛がきれいになくなって、ピンク色の地肌を晒した。
あーあ。これ、絶対あとでレニャード様が怒るやつだよ。
「こ、ここまででいいですよね? これ以上はいくらなんでも……」
「ああ。今回はこれでいい」
マグヌス様は、鼻歌を歌いながら色とりどりの魔法をレニャード様のおなかに当て始めた。
***
「な、なんだこりゃああああああ!」
レニャード様が絶叫している。
「お、俺の腹が丸ハゲに……!」
「こちらのご令嬢の許可は得た」
「私が許可しました……申し訳ありません……」
レニャード様は私の謝罪など一切耳に入っていないようで、打ちひしがれたようにごろりと横たわった。
「かわいいこの俺が、こ、こんな不細工な丸ハゲを……ううっ……」
レニャード様、自分がかわいいことに絶大な自信を持ってるもんね。
レニャード様はちらりと自分のおなかを見て、力なくつぶやく。
「かわいくない……」
うわあ、すごく落ち込んでるよ。罪悪感を覚えるなあ。まさかあんなに剃られるとは思ってなかったんだよね。ごめんね、レニャード様。
「あの……大丈夫ですよ、レニャード様。おなかですから、立ちあがったらそんなに目立ちませんし、それにレニャード様は地肌もピンク色でおかわいらしいです」
「世辞はよせ。水に濡れた俺と、毛をそられた俺はかわいくないのだ……」
どんよりと暗い影を背負っているレニャード様。
落ち込んでるレニャード様には本当に申し訳ないんだけど、そうやって気にしている姿もかわいいかったりするので、私はちょっとにやけそうになった。
「元気出してください、レニャード様! 背中のほうの毛は、すごくふさふさでかわいいですよ!」
私が言うと、レニャード様はしっぽをぴくりと動かした。
もうちょっと褒めておこうかな。
「モフモフ! つやつやの毛並み! 手触りがいい!」
ぴくぴくと、尻尾が動く。
「しっとり滑らか! やわらかくて最高! 見た目もきれい!」
レニャード様は、鼻先をぐいーんと上に持ち上げた。お口のまわりが嬉しそうに膨らんで、ぴすぴすと鼻息がもれる。
「ふ……ふん。俺がかわいいのは当たり前だろう!」
ああ……かわいいねえ。
レニャード様が得意げな顔をしているところ、動画に編集して無限に見ていたいよ。
この世界には、そういった映像記録用の魔術はないんだって。
はやく開発してほしいよね。レニャード様のおかわいらしい姿を後世によりよく伝えるためにも。
「なるほど。君は毛が生えた姿を魅力的だと自己評価しているのだな」
私たちのやり取りを見ていたマグヌス様が、そんなことをぼそっとつぶやいた。
とてもいいことを思いついたというように、またあのうさんくさい笑顔になるマグヌス様。
「それなら私が特製の毛生え薬を作って君をふさふさの長毛種にしてやろうか」
「いらん!! どうせ3メートルの剛毛が生えてくるに決まってるんだ!!」
「何を言う。私のプライドにかけて、ゴージャスな百獣の王にしてみせるとも。……試作段階では、何が起きるか分からんがね」
「絶対にいらん!!」
「おや、そうかね……ライオンのようなたてがみの生えた君も愛らしいと思うんだが」
「うっ、うううっ……ライオンのような、俺……」
レニャード様、悩んでる。
かわいい系だけど、かっこいい系にも未練があるんだよね。本当はライオンみたいになって、頼もしくて素敵って言われたいのかも。
「まあとにかく、今回の検査で、君の内臓が一般的な猫とは違う形状をしていることが分かった」
「そ、そうなんですか?」
それは大事な情報だよ。
マグヌス様は、私に向かってうなずいてみせた。
「非常に大雑把に言って、レニャードには通常の猫にはありえない器官がついている。魔力を生成し、巡らせる器官だな。一般的な猫よりも体重が重い理由がこれだ」
そういえば、レニャード様、最近ずっしりと重くなったな、成長期かなって思ってた。
「しかもその器官は、人間の十倍ほどの規模だ……つまるところ、レニャードは魔物に近い存在ということになるな」
「つまり、レニャード様は特別な猫ちゃんってことですね」
不安そうな顔で説明を聞いていたレニャード様が、私の茶々入れにぱっと目を輝かせた。
「特別な、俺……」
「レニャード様はかわいらしく、賢い、特別な猫ちゃんですが、その理由が明らかになった、ということですよね。そうですよね、マグヌス様?」
「そうだな、魔力器官の大きさは必ずしも魔法の威力に比例しないが、異常な抗魔力値の高さはこの器官のおかげだろう。この発達具合からすると、訓練次第でかなりの魔術師になれるんじゃないか? 今からでも訓練を始めてみるのはどうかね?」
「そうか……! 俺には魔術師の才能もあったとはな……! さすがは俺だ! わはははは!」
レニャード様はふんぞり返った。
レニャード様のこの扱いやすいところ、ホント好きなんだよね。
「真実が明らかになったのですから、おなかの毛が犠牲になったのもやむをえませんよね」
「ああ、そうだな! 毛なんて、すぐに生えてくる!」
私は心の中でそっといいねボタンを押しておいた。
おかわいいレニャード様の機嫌がよくなったところで、私たちはマグヌス様の部屋を辞した。




