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【実況】王子様が不具合(バグ)でした【猫化バグ】  作者: くまだ乙夜
第二章

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【重大バグ発生】王子様がご乱心? 新キャラの様子がおかしいようです


 乙女ゲー『ガチ恋王子』は、主人公が見習い聖女として『聖女宮』に入ってくるところから始まるソシャゲだ。


 主人公のリアはそこで三年間勉強し、一人前の聖女を目指す。


 まず、リアが子どものころから憧れていた職業が聖女だった――というモノローグから、オープニングがスタート。


 尊敬する人物は、シンクレア王国の名前の由来になった、シンクレア様。


『いつか私も、聖クレア様みたいになりたい。

 立派な聖女目指してがんばろう!』


 意気込んで入学してきたリアは、『聖女宮』で、のちに親友となる公爵令嬢と出会う。


 彼女の名前はクレア・マリア。


 黒髪赤目の、美人公爵令嬢だ。


「私、リアって言います」

「わたくしは、クレア・マリアよ。クレアって、呼んでちょうだい」


(クレア様……聖クレア様と同じお名前なのね。素敵!)


 リアは、クレア・マリアに建物を案内してもらう。そして、『聖女宮』が、王宮の一画にあり、すぐそばに王子様の住むお城があることを教えてもらうのだ。


 ちょうどそのとき、すぐそばの塀を飛び越えてリアたちの横に立つのが、オレンジ色の髪のカッコいい男の子。


 彼は驚かせて転ばせてしまったリアに謝り、こう言う。


「さてはお前、俺がカッコいいから驚いているだろう?」


(な、なにこの人……ちょっと変かも……)


「あの……どちら様ですか?」

「なに!? お前、この俺を知らないのか? いいだろう、特別に教えてやる。俺が、俺こそが、シンクレアの王子、レナード・バル・アッド・シンクレアだ!」


(わわっ! この人が王子様だったんだ!)


 クレア・マリアは幼馴染のレナードのやんちゃぶりにため息をつき、「相変わらずね」とこぼす。


「レナード。この子は新しく来た見習い聖女よ。さあ、自己紹介して」


 リアの全身――ピンク色の髪や制服が順繰りに表示されたあと、彼女はこういうのだ。


「リア・クラフトマンです――リアって、呼んでください」


***


 猫王子のレニャード様と、転生悪役令嬢の私、ルナ・ヴァルナツキー。


 私たちは、聖女宮の新入生の入学式に出席して、今しも帰るところだった。


 近道をしたがるレニャード様と、彼を追いかけて、塀を乗り越え、飛び降りた私。


 レニャード様が下敷きにしてしまったのは、ひとりの少女だ。


 まるでゲームのスチルかと錯覚するような、いつか液晶画面で見たときとまったく同じ構図の塀、庭、立ち位置。


 でも、配役は全然違う。


 本来、主人公のリアに『聖女宮』を案内するはずだった、クレア・マリアはいない。彼女は数年前に起きた王子の暗殺未遂で、火に焼かれて死んでしまった。


 クレア・マリアの代わりに、私がその位置に立っている。


 そしてレニャード様は、ゲームと違って、猫になってしまっている。


 猫の王子を前にして、主人公がいるべき位置に立っている美少女は、まったく動揺しているそぶりを見せない。


 うっとりした瞳に、とろけるような微笑を浮かべる、黒い髪・・・赤い瞳・・・


 その美少女は、私の知る主人公のリアとは、似ても似つかなかった。


「シンクレアの王子、レナード・バル・アッド・シンクレアは、俺のことだ。だが、しかし、お前は……」


 レニャード様でさえ、戸惑っている。


 美少女は、レニャード様に向かって、にこりとほほ笑んだ。


クレア・・・マリアです・・・・・――リアって・・・・呼んでください・・・・・・・


 本来のゲームであれば、主人公の親友であるはずの、美人公爵令嬢。


 この世界では、自身が男性の身体であることに悩み、レニャード様の暗殺を企てて、『ヒロインになりたかった』という遺言を残して焼身自殺をはかった、レニャード様のかつての親友。


 彼女が、なぜかここにいる。


 主人公、リアの名前を騙って。


***


 リアを名乗る少女は、ものすごい美少女だった。外国の女優さんを思わせるような真っ黒な髪、高い鼻筋、薔薇色の頬、彫りの深い二重まぶた、美しく整った大きな瞳。


 そして、完璧なまでの、美しい女性の身体をしていた。


 細い首、細い肩、くびれた腰、男性に比べて少しねじれた肘や膝の骨格。


 どこからどう見ても、女の子だよね。


「……お前、生きていたのか!」


 レニャード様が吠える。彼は、殺されて息絶える直前に、彼女の姿を見たと言っていた。だとすれば、彼が見間違えるとは思えない。


 怒りに震える声も、逆立てた毛も、決して演技でできるようなものじゃなかった。


 レニャード様は、心から怒っている。


「おい、ルナ、衛兵を呼んでこい! 今度こそこいつを捕まえてやる!」

「え、で、でも……」


 まいったな、ふたりで抜け道なんか通っちゃったから、お付きの人とかみんな壁の向こうなんだよね。正規のルートだと、みんなが追いつくまで十分はかかると思う。


 呼んできたいのはやまやまだけど、レニャード様をひとりにしておくわけにもいかないし、どうしよう。


 リアと名乗った黒髪の美少女は、目を丸くして、動揺したそぶりを見せた。


「えっ……どうしたんですか?」

「とぼけるな! クレア・マリア――お前のことは、一日だって忘れたことはない!」


 彼女は困惑したように、手を広げた。


「あ、あの……どなたかと間違ってないですか? 私、ここに来たのは初めてで、殿下とお会いするのも、初めてですよ……」

「そんな言い訳は通用しない! 偽名すら使わないとは、太いやつだ!」

「私の、名前が何か……?」


 リアは心底不思議そうな顔をしている。


「クレア・マリアって名前の人、たくさんいますよね。私もよく間違われるんですよ」


 クレアはこの国シンクレアの聖女、シンクレアの名前。

 そしてマリアもまた、有名な聖女の名前だから、被ることは多い。


 クレアかマリアのどちらかを名前の一部にしている人は、かなりの数に及ぶ。クレアさん、マリアさんと呼びかけたら、十人に三人くらいは振り返る。そのくらいありふれた名前だ。


「だから私、いつもリアって呼んでもらってるんです」


 そう言って、黒髪の女の子はとてもおっとりと、人のよさそうな笑みを浮かべた。


「ふざけるな。お前は、あのクレア・マリアだろう!」


 レニャード様が上下の犬歯をむきだしにして、果敢に吠える。


 でも、猫だからか、見た目があまり怖くない。


「人違い……だと思いますよ。だって私、お喋りする猫ちゃんに会ったのは初めてですもん」


 自称リアちゃんは、まったく怯んだ様子も見せない。


 彼女の根性が据わっているのか、それとも突然癇癪を起こしたかわいい猫ちゃんに戸惑っているのかは、ちょっと私にも分かんないな。


「嘘をつくな。取り調べを受けさせればすぐに分かることなんだぞ!」


 この世界には、魔法の鑑定というのがあって、それで親子関係とか、魔法の力なんかは結構正確に分かるみたい。


「よく分かりませんけど……それで疑いが晴れるなら、調べてもらっていいですよ」


 リアを名乗る少女は、そう言ってまた笑った。



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