【尊い】レニャード様ルートのセリフ全文まとめ↓
「お気持ちはありがたいですが……そもそも私、ニセモノですし」
「ニセモノだなんて関係ない! 俺が困っていたときに手を貸してくれたのはいつだってお前だったろうが!」
「本当なら、ルナさんの役目だったんですよ。私はそれを奪い取ってしまったわけで。本当なら、ルナさんに返さないといけないんです。この体も」
はたで居眠りしながら聞いていたマグヌス様が、いきなりハッとして、私の注意を引いた。
「……それは無理だと思うぞ。レテ川の水を飲んだ魂は記憶を全部なくしてるから、戻ってきてもルナとは言えん。今ごろどこかの世界で赤子に生まれ変わって、楽しくやってるだろうさ」
「そんな……」
私の漠然とした将来の目標が、ばっさりと否定されてしまった。
私、これからどうすればいいのかな。
「……とにかく、レニャード様は、リアと結ばれて、猫の呪いを解くべきなんだと思います」
「それもまだ分からないぞ。確かに私は変化の呪いならキスで解けるかもしれんと言った。しかし、正直それほど期待してなかったよ」
「ちょっと! マグヌス様! 私今すごく真面目に言ってるのに!」
全部台無しだよね。
どうしてくれるの、この微妙な空気。
レニャード様も困ってるよ。
「……ふん。俺はリアなんてやつは知らん。興味もない」
レニャード様はつまらなさそうにそう言って、マグヌス様を前足でちょいちょいと指し示した。
「単に、先生の作戦が悪かったんだろう。他の方法を試せば、きっと呪いが解けるはずだ」
「案ずるな、ヴァルナツキーのご令嬢。まだまだ試したいことは山ほどある。せっかく珍しい実験動物を手に入れたんだ、そう簡単に戻ったら面白くない」
「おい、俺は一刻も早く戻りたいんだぞ!」
「なんだと、協力してやってるだけありがたいと思え」
「レニャード様、敬語! 相手は何百年も生きてる大先輩ですよ!」
「こいつが本当に敬意を払うに値するのかが疑問だ!」
「ほう。体に教えてほしいと見える」
ぎゃんぎゃんと噛みつき合う勢いで喧嘩しているふたりをなだめているうちに、私の話はうやむやになってしまった。
その日はだいぶ遅いので、もう解散しようということになり、私はレニャード様と一緒に馬車に乗った。
あたりはすっかり暗くなっていて、カンテラの明かり以外は何も見えない。
私も、レニャード様をつめた『ロイヤル・テール』号も、どちらも無言だった。
「……おい、ルナ」
レニャード様が、バスケットのふたからひょこっと首を出して私を見たのは、道をしばらく行ったあとのことだった。
「お前、ずっと黙ってたのか。前世のこと……記憶喪失のこと」
私はちょっと気まずくなった。
「騙してたのは、悪かったと思います」
「そうじゃない。俺は怒ってるわけじゃないんだ、ルナ。ただ、黙ってたお前は、きっと辛かっただろうと思ってな」
「レニャード様……」
思わぬ優しい申し出に、私は少しうるっときた。
「お前は以前、猫の姿で不自由をしている俺に、親身になって手助けをしてくれたな。そして、この先何があっても味方でいると言ってくれた。本当は、お前だって大変だったろうに……」
レニャード様は、籠の中からぴょこんと飛び出てきた。
揺れる座席をものともせず、私の横に寄り添う。
「お前が俺のためにしてくれたことは、絶対に忘れない。俺も、この先何があろうとも、お前の味方でいると誓おう」
レニャード様は、とても真剣にあとを続けた。
「……俺はお前を処刑したりなんてしない。運命の相手とやらなんて知ったことか。だから、お前は何も心配するな」
レニャード様は、私を励ますように、両方のおててをちょこんと私の手の甲の上に置いた。
「お前が処刑されるなんて、冗談じゃない。そんなこと、絶対にさせるものか。そんな未来は、俺がぶっ壊してやる」
レニャード様の宣言はとてもかっこよかったけれど――
私は手の甲に乗せられたおててに悶絶してしまって、正直それどころではなかったのだった。だってさ、肉球がぷにっとしたんだよ、ぷにっと。
ありがとう。レニャード様は本当にやさしくてかっこよくてかわいい猫ちゃんだね。
レニャード様が馬車の揺れにまた具合を悪くして『ロイヤル・テール』号に戻っていったあと、私はひとりでつらつらとルナさんのことを考えていた。
いつかルナさんが戻ってくるものだと思っていた私は、どうやって貴族のお嬢様らしく振る舞おうか、そして、どうやってレニャード様の婚約者らしく振る舞おうかだけを考えてたんだよね。
でも、ルナさんはもう戻ってこないと、さっき言われてしまった。
私は、このままルナさんとして生きていくのかな。
そうだとしたら、私は、これからどうなっちゃうんだろう。
ルナさんの寿命は長くない。しょせん、処刑されるその日までの命だ。
でも、もしも、処刑を免れて、レニャード様と、ずっと一緒にいられるのだとしたら?
私はずっと、生きることに興味なんかなかった。
かわいい猫ちゃんの婚約者ごっこも、貴族のお嬢様ごっこも、いつでも辞められる。そう思ってた。
本当に、それでいいのかな。
***
数日後、私たちはまた予定を合わせてマグヌス様の家を訪ねた。
マグヌス様はとっても嬉しそうに出迎えてくれた。
「これは、変化の術で狼になる狼男を見つけるための月夜で清めたライカン草なんだが……もしかしたら、これでもとに戻れるかもしれん。とりあえず食ってみてくれ」
マグヌス様が差し出したのは、見るからに怪しげな薬草だった。
私はレニャード様の婚約者兼、口うるさいお世話係として、マグヌス様の前に立ちはだかった。
「……それは、毒じゃないんですよね?」
「大丈夫だ。ケモノが食べると少し意識不明になるだけだ」
「全然だめですよね。やめてくださいね」
「じゃあこっちの、銀の弾丸で撃たれてみるというのは」
「殺す気ですか」
「夜に忍び寄る魔物ならタマネギとかニンニクが効果的――」
「やめてあげてください」
マグヌス様の提案はどれも物騒だった。
「なんか……元に戻す方法っていうより、退治する方法ばっかり試そうとしてませんか?」
「分かるか? ご令嬢。化け物は元に戻すよりも、退治する方が簡単なんだ」
「あの……私たち、マグヌス様のこと、信用してお願いしてるんですけど……」
「分かってるよ。冗談はこのぐらいにしておこうか」
冗談でよかったけど、一抹の不安が残るよね。
ホントにこの人に任せて大丈夫?
「とりあえず、私にはまだレニャードのことが何も分からん。そこで、身体をくまなく調査してみるところから始めようと思う。今日はそうだな、身体の各部の魔力値をはかって、どのくらいマジカルな生き物なのかを調べてみよう」
彼は、何やら細長い体温計のようなものを取り出した。
レニャード様は私の膝の上で耳を伏せて怯えていたけど、私が「大丈夫そうですか?」と聞くと、勇敢に頷いた。
「ああ。先生の言うとおりにしてくれ」
レニャード様、ご立派です。
かくしてレニャード様は、身体の各部をメジャーのようなものではかられたり、硬いクリスタルの棒のようなものを全身に巻き付けられて「このまま十分待て」と言われたりした。
しっぽをぎゅーっと握られたりしている。
「いたたた! いたい! 痛い痛い! やめろ! やーめーろー!」
「我慢しろ! ええい、くねくねとしてなかなかまっすぐにならんな!」
レニャード様の目がカッと光った。瞳孔が最大限に大きくなり、目が真っ黒になる。
あ、これ、飛びかかってくるときのやつ。
レニャード様は目にもとまらぬ素早さでガブリと、マグヌス様の手に噛みついた。
マグヌス様の汚い悲鳴が響き渡る。
 




