【独占取材】そのとき王子の身に何があったのか? 語ってもらいました!
現世に疲れて生きるのをやめたら、なぜか乙女ゲー世界に転生してしまった件について。
皆さんこんにちは、私です。アバターはメイン王子の婚約者である公爵令嬢、ルナ・ヴァルナツキーさんの提供でお送りしております。
異世界転生とか正直めんどくさいなって思うので、そろそろルナさんに帰ってきてほしい今日この頃、ルナさんはいかがお過ごしでしょうか。
魔法ありのファンタジー世界なので、探せばイタコみたいなことができる人もいるんじゃないかと思ってるんだけど、まだ着手してないんだよね。
でももう私もこっちに来て結構経つし、そろそろ始動のしどきかなって思ってた。
のだけれど。
「ルナ。お前に頼みがある」
婚約者こと、レニャード王子が改まった態度でそう切り出したのは、式典からだいぶ日がたったある日のことだった。
「俺は、元の姿に戻りたいんだ」
真剣な顔で言う彼は、トラに似たオレンジ色の毛並みの猫ちゃん……としか言いようのない姿をしていた。
そう、転生してみたら、乙女ゲーの設定が不具合っていて、レナード王子が猫になってたんだよね。
で、本人も『俺はレニャードだ』って言うし。
どうしてなんだろうね……
仕方がないので、私はいつルナさんが戻ってきてもいいように、ルナさんの行動をトレースして、無難に悪役の公爵令嬢をやっているところなんだよね。
「レニャード様の、元のお姿というと……?」
「実はこの、世にも愛らしい俺の姿は、昔からこうだったわけではないのだ」
そうだよね、本当は人間だったはずだもんね。
最初から猫だったら大騒ぎですよ。
「ルナとも会ったことがあるから分かるだろう。昔の俺は、愛らしいというよりも、カッコいい姿をしていた」
ごめんなさい、私はルナさんじゃないので分かりません、覚えてません。本当にごめんなさい。
私は内心平謝りしたい気持ちでいっぱいだったけれど、話がややこしくなりそうだったので、ひとまず黙っていた。
「もちろん、猫の俺もかわいい。俺は自分のかわいさに満足しているし、この姿にも愛着はある」
そ、そうなんだ。
レニャード様ってホントに前向き。
「お前もかわいい俺が婚約者でよかっただろう?」
「おっしゃる通りです」
レニャード様、リアル猫だけあって、本当にかわいいんだよね。
言動がちょっと個性的ではあるんだけど、アバターにさせてもらっているルナさんの恋心補正なのか、それとも私がネコ好きだからか、もしくはその両方か、このちょっとクセのある性格になんともいえない味があってかわいいなと思うんだよ。
「な? お前も喜んでいるし、俺としてもあえて戻る必要性を感じていなかったんだ。だが……」
レニャード様はうつむいた。おひげとしっぽがしょぼんと一緒に垂れ下がる。
「この間の反乱で、俺は何もできなかった。お前の助けがなければ戦うこともできなかったばかりか、逃げるときもお前に守られ通しだった。俺は……本当に、無力だった」
「そ、そうでしょうか……」
猫ちゃんの高い身体能力を駆使して大活躍していたような気がするのは私だけなのかな。
「三角跳びで三メートルも飛ぶのは普通の人間には無理ですし、もっと自信持ってもいいと思いますけど……」
「もちろん俺なりに努力はした。俺はなんでもできる王子様だからな!」
うんうん、そうですね。
前向きで努力家のレニャード様、ほんとに素敵だなって思うよ。
「だが、やはり……俺が人間であれば、お前に大けがをさせることもなかったんじゃないかと思うと、夜も眠れんのだ……」
レニャード様がしょぼくれている。
「そうですか、夜眠れないのは困りますね……」
「昼だったらいくらでも眠れるんだが……」
レニャード王子の健康が心配になったところで、私はふとあることを思い出した。
「あれ……でも、猫って夜行性でしたよね?」
「やこう……?」
「猫って基本、深夜に獲物が寝静まっているときを狙って狩りをするんですよ。夜に目が覚めるのは猫ちゃんなら普通です」
「そうだったのか! 俺は普通だったんだな!」
レニャード様は何やら嬉しそうにしていたが、やっぱり次の瞬間にはしょんぼりと耳を伏せた。
「……もうよせ。そうお前に慰められてばかりだと、どんどんみじめになってくる。やはり俺は……お前がいなければ何もできないのだと、痛感する……」
レニャード様があんまりにもへこんでいるので、私も冗談が言えなくなってしまった。
思春期の猫ちゃんって難しいね。
私も思春期の猫ちゃんと婚約したのは初めてだから、こんなときどうしたらいいのかよく分からないよ。
「俺は、やはり本来の姿に戻りたい。お前にも、協力してもらいたいんだ」
レニャード様は、ぺこりと、かわいらしく頭を下げた。
なにそれかわいい。
私はじんわりと胸が熱くなってしまって、ちょっとだけ、異世界に来てよかったな、と思った。
めんどくさいことには変わりないんだけどね。
「もちろん、レニャード様のためなら、何でも協力しますよ」
私が答えると、レニャード様は嬉しそうに耳を動かした。私も笑顔で応え、にこにことほほ笑み交わす。
私はどっちかというと猫の姿で十分だと思ってるんだけど。
ルナさんとしても、どうせなら元の姿がいいはずだよね。
協力するのはきっといいことだよ。
「……まず、俺がこの姿になってしまった経緯をお前に説明しておく」
初めて聞く話だったので、私はちょっと気が引き締まった。
「俺がこうなってしまったのは……」
レニャード様が説明したところによると、それはルナさんが自殺をはかった日の一週間ほど前のこと。
その日、人間だったころのレニャード様(ショタ)はいつも通りにベッドに入って眠った。
ところが夜半に、急に部屋に誰かが入ってきて、彼に剣を突き立てた。
レニャード様(ショタ)は痛みと失血で意識を失い――
翌朝、お付きの人が死んでいるレニャード様(ショタ)を発見した。
レニャード様(ショタ)が殺されたことはすぐに城に知れ渡り、大きな問題になった。
そしてレニャード様(ショタ)は、夢の中で不思議な声を聞いたのだという。
「お前の肉体はもう死んだ。近々魂も消滅するだろう。このまま消滅するか、それとも別の器に入って生きながらえるか、どちらかを選べ」
レニャード様(ショタ)は、一心に死にたくないと願った。
「お前に、醜いケダモノとなる覚悟はあるか?」
それは恐ろしい問いだった。
レニャード様(ショタ)は、いわずと知れたナルシスト。自分の容姿が可憐かつかっこいいことをたいそう鼻にかけている。ショタ時代もその性格は変わらない。
その彼(ショタ)にとっては、醜いケダモノになるというのは、生きている価値を失くすに等しい、恐ろしいことだった。
でもやっぱり、レニャード様(ショタ)はこんなところで消えたくないと思った。そのためには、ケモノにだってなんだってなってやる。
「よかろう。ならば、力を貸してやる」




