【百発百中】フルツさんは神ゲーマー・ライブレポ5
どうにかして機体をすぐそばの邸宅に寄せる。
「レニャード様、建物に飛び移れますか?」
「は!? お前を置いていけるか!」
「言ってる場合じゃないと思うんですよねえ!」
雨あられと降り注ぐ銃弾。
難易度高めとはいえ知り尽くしたパターンだったので、ギリギリ避けられた。
われながら神回避だったと思う。
一生懸命避け続けたが、ミスがちらほら出始め、十数度めにとうとう、被弾した。
重い衝撃があり、機体がガクンと揺れた。
「レニャード様、はやく脱出を! あなたが死んだらおしまいです!」
「そうは言っても!」
どこかの建物に寄せなければと思いつつ、よたよたと飛んでいたら、もう一発食らった。飛行ユニットの高度が急激に下がり始め、地面に落ちていっているのだと気がついた。上昇の操作も受け付けない。
もうだめ。サヨナラ!
思わず計器に張り付いているレニャード様を拾って抱きしめ、辞世の俳句を詠みかけたそのとき――
真後ろから、ガン! と何かが激しく衝突してきた。
飛行ユニットが一機突っ込んできたのだと理解した瞬間、真後ろから誰かに抱きすくめられ、なさけない悲鳴が口から漏れる。
投げ出されるような感覚があり、目まぐるしく景色が変わる。私はレニャード様を落とさないように、ぎゅっと抱きしめるので精いっぱいだった。
お、落ちるううううう!
しかし落下と激突はいつまでもやってこず、気づいたら私は、横手の飛行ユニットのコクピットに、フルツさんと一緒に立っていた。
「おけがはありませんか」
「あ、はい……」
「では、掴まっていてください」
彼はそれだけ言うと、何の説明もなく、飛行ユニットを急発進させた。
あ、助けに来てくれたんですね。
ようやく事態に理解が追いついた私が若干ぼけながらそう思っていたら、腕の中でもぞもぞとレニャード様が動いた。
「フルツ、俺たちをどこかに置いていけ! 荷物になるぞ!」
レニャード様が叫んだが、フルツさんは涼しい顔をしていた。
「いえ、平気です」
「1、5人分の積載量だと飛行に支障が出るだろう!」
「そうですね。でも……」
彼は銃座をグルグルと動かすと、おもむろに敵機のひとつに照準を合わせた。
狙いをつけられた敵が回避行動に移る。
この弾、弾速もだけど、銃座の移動速度も遅くて役に立たないよね。そんなことを私が思っている中、フルツさんは銃座をぐるぐると回して慎重に狙いを定める。
撃った。
ぱっと光が弾けて、敵機が爆発する。
敵機は黒煙をあげてゆっくりと墜落していった。
「……ええ!? 何いまの!?」
軌道が見えなかった! ボタン押したらいきなり敵機が爆発した!
「射撃は得意ですので、問題ありません」
涼しい顔をして言い放つフルツさん。
「ど、どうなってるんですか!? なんでそんなに早い弾が撃てるんですか!?」
「何でも何も、このタイプの銃の威力、および弾速、弾数は射手の魔力依存ですから……お教えしませんでしたっけ」
そんなんあるんだ!? 異世界の武器すごい!
いやこの場合すごいのはフルツさん?
「……お前! 地味なくせにかっこいいな!」
レニャード様、地味は余計ですよ。
「ひとまず全機撃ち落としておきましょうか。邪魔ですし」
何気なくフルツさんが言うので、私は彼の袖を引っ張った。
「あそこに飛んでいるあの機体、あれに乗っているの、どうやら首謀者クラスの貴族みたいなんですけど、生かして捕まえることってできます?」
「了解しました」
フルツさんが再度銃撃ボタンをポチッ。
敵が一機爆発して、墜落した。
銃座をグルグルと回し、もう一度ポチッ。
敵が一機爆発して、墜落した。
ちょっとすごすぎ。百発百中じゃん!
私が口を開けて見守る中、彼は淡々と五機を撃ち落とし、きれいに貴族の敵機だけ残した。
「ルナ様。操縦をお願いできますか?」
はいはい。これだけ当たるなら、フルツさんに弾幕集中してもらった方がいいもんね。
操縦桿を握り、前方に向けて進める。
フルツさんの体重が増えた分だけ少し機動力が落ちているのか、発進はのたくさしていた。
よれよれと飛びながら近づいてくるこちらに気づき、敵が逃げる姿勢を見せる。
「……追いつけないかもしれませんが」
「このまま追跡しててください。敵の動きを殺ぎます」
フルツさんは銃座をぐるぐると回していたが、やがて静観するモードに入った。
距離がだんだん開いているけど、大丈夫かなあ。
敵が建物の陰に入ろうとした瞬間、フルツさんの指が動いた。
ノータイムで敵の羽根が爆発し、赤い炎が上がる。
敵はゆっくりと、斜めに下降を始めた。
「おそらくそこの河原の橋付近に落ちるはずですので、先回りしてください」
ええ。落とす場所まで計算づくなの。
すごすぎない?
私たちの飛行ユニットはのろのろ運転でどうにか川まで到着。
降りて待ち構えていたら、落下中の敵機から、いきなり花火のような閃光が弾けた。
「な、なんです、今の?」
「信号弾ですね」
「救援信号だ。応援が来るかもしれない」
フルツさんは少し考えて、レニャード様の方を向いた。
「離脱しましょう」
「そうはいかん! ここで捕まえないと」
「惜しいですが、二十機以上集まるようだと俺の限界を超えます」
二十機って。フルツさん無双が止まらないね。
確かに、ゲームでもフルツさんが登場したら勝ち確みたいな場面多かったけど。
「うるさい! どうにかしろ!」
「れ、レニャード様……私も離脱した方がいいと」
「なら、お前たちは帰れ! 俺一人でなんとかする!」
えええ。レニャード様ったら俺様野郎すぎ。
まあ、まだ子猫だもんね。それとも中猫っていうのかな? 分かんないけど。
「……フルツさん、私はレニャード様を連れて、いったん橋の下に隠れます。フルツさんはその飛ぶ機械に乗って、可能な限り撃破、あるいは無理そうだと感じたら離脱して、応援を呼んできてください……というのでどうでしょう?」
「いけません。レニャード様が最優先です」
「でも、仮に許容以上の敵が集まってきたら、どのみちフルツさんはどこかにレニャード様を降ろす算段をしないといけなくなると思います。幸いじゅうたん爆撃なんかはないみたいなので、どこかの建物に隠れているのが一番安全かと」
「しかし……」
彼は渋い顔をしている。
分かるよ、フルツさんとしてはレニャード様のそばで護衛をしたいよね。
「では、私が囮のパイロット役をやります。フルツさんはレニャード様を連れて、どうにかして逃げ延びてください。これが一番確度が高い方法かと」
私の進言に、レニャード様がぴくんと反応した。
「そう……ですね……確かに」
「ダメだ、ルナも護衛対象だろう! フルツ、何を考えている!?」
「……そうですね、失礼しました」
空には飛行ユニットがほうぼうから集まりつつあり、その数は十や二十ではきかないくらい多い。
彼は不時着した敵機と、空の上に集まりつつある新たな飛行ユニットをざっと眺めて、最後に私を見た。
「……上空の敵は俺がなんとかします。ルナ様にはレニャード様をお願いできますか」
「はい」
「橋の下に身を潜めて、絶対に出てこないように願います」
「はい」
「おそらく信号弾を見て、王宮からの応援部隊もじょじょに集まってくるはずですから、増援を信じて、最悪の場合は一日程度は飲まず食わずでじっとしている覚悟をしてください」
「は、はい……」
「川の水は飲むとおなかを壊しますから手を付けてはいけませんよ」
「わかりましたって」
心配性ですね。そういえばおかん属性って言われてましたっけ。
彼は見た目以上に焦っているらしく、まだ何か言いたそうにしていたが、やがて「頼みましたよ」と言って、飛行ユニットの方に戻っていった。
「さあ、レニャード様、こっちに……」
私がレニャード様を抱き上げようとすると、彼は手の間をするりとすり抜けた。
向かう先は、レニャード様が目標にしていた、敵貴族の墜落機体。
「俺はあいつを追う!」
「レニャード様、ダメですよ、ちゃんと隠れないと!」
「お前は橋の下にいろ!」
レニャード様は不時着した飛行ユニットへ、一目散に走っていく。
ま、待ってえー!




