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【実況】王子様が不具合(バグ)でした【猫化バグ】  作者: くまだ乙夜
第一章

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【生中継】式典行ってきました・ライブレポ1


 暑さも一段落ついた頃、聖天使セミエルの祝日。


 その日は、ご病気で臥せっていたレニャード王子の快癒記念と称した式典が行われることになっていた。


 私は馬車で王城に乗りつけると、まっすぐレニャード様の居室を目指した。


 応対してくれたお付きの人が申し訳なさそうに言う。


「殿下はまだ身支度の最中でございます。あと三十分はかかるかと」

「はい……」


 まあ、いいですけど。

 レニャード様、綺麗好きですもんね。


 でも、レニャード様の身支度って何をするんだろう? 服は着てないし、髪型を整える必要もないし……


 レニャード様のシュレディンガーの身支度に思いをはせつつ、私がおとなしく待っていると、それほど時間が経過しないうちに、オレンジ色の素早く動くものがドアの隙間から出てきた。


 ぴょんぴょーんと、猫ならではの跳躍力でテーブルに飛び乗る。


 レニャード様は、小さな二本の前足をピンと伸ばして、後ろ足だけで座った。


「ふはははは! 待たせたな、ルナ! だが時間をかけてセットしただけあって、今日は最高の毛並みにしあがったぞ!」


 レニャード様の毛並みは今日もつやつやのオレンジ色だった。いつもとの違いがよく分からないけど、彼がそう言うのならきっと何かが違うんだろうな。


「見ろ、この艶! この手触り!」


 レニャード様が上機嫌に私の方へ伸びあがり、手のひらに頭をこすりつけてくる。


 やだなにその動き。超かわいいんですけど。


 媚び媚びのあざとい動きで、すりすりとひとしきり頭や頬をこすりつけてから、レニャード様はむっとした。


「ん……? いつもと感触が違う……あ! お前! なんで手袋なんかしているんだ!」

「せ、正装ですので……ああでも、レニャード様の毛並みは手袋越しでもやわらかくて素敵ですね……」

「はははは、そうだろうそうだろう!」


 有頂天のレニャード様、かわいいね。


 レニャード様は晴れ舞台で少し興奮しているのか、金褐色のおめめも心なしかいつもよりキラキラが増量していた。


 レニャード様、おめかししてる。頭には小さなクラウンが乗っていて、顎の下で止め紐を結わえている。


 首元にはリボンの代わりに、黒のベルベットの首輪がついていた。中央には涙のしずく型にカッティングされた緑の宝石がぶらさがっている。


「わあ、この首輪、新作ですね! この緑の宝石、レニャード様のトラのような毛の色によく合っていて素敵です!」


 レニャードは誇らしげに鼻先をつんと上に向けた。うれしかったのか、ヒゲが前にぴんぴんと飛び出ている。


「今日のためにあつらえたのだ! かわいい俺にふさわしい衣裳が必要だったからな!」


 衣装っていうか、首輪っていうか。


 私がどう突っ込んだらいいのか分からずに苦笑いしていると、レニャード様はそばに控えていたお付きの人に目で合図した。


 お付きの人がずいと進み出て、私に四角い絹張りの箱を見せた。


「喜べ! お前の分も用意してある!」


 ぱかりと蓋が開いた、その中身は――


 レニャード様とおそろいの、ベルベットの黒リボンであつらえたチョーカーだった。


 中央には、レニャード様と同じ、涙のしずく型のムーンストーンが少し長めの留め具でぶら下がっている。真ん中に針のような細い芯が一本通って、金色の猫の目のように光っていた。


「わあ、この宝石、レニャード様の瞳みたいで素敵!」

「いいだろう? お前がこれを身に着けることにより、かわいい俺の婚約者であることがひと目で分かる!」


 それって『お前は俺のもの』ってやつ?


 わあ、なんかいいなあ、そういうの。


「ありがとうございます。さっそくつけてもいいですか?」

「ああ、そうしろ! せっかく揃いであつらえたのだからな! わはははは!」


 お付きの人が私の椅子の後ろに回って、チョーカーをつけてくれた。


「ど……どうですか?」

「いい! 似合っている! 俺の婚約者にふさわしい衣裳だ!」

「衣装というか、人間用の首輪というか……」


 同じチョーカーをつけているレニャード様と並ぶと、なおさら首輪感がすごい。


 大丈夫かな、変な趣味の少女だと思われたりしないかな?


 まあ、いっか。かわいい猫ちゃんとお揃い。このレニャード様からは、恋人に首輪で繋がれるプレイを連想する人もあんまりいないよね。平気平気。


 私は若干強引に自分にそう言い聞かせた。


***


 式典は教会の正午の鐘から始まった。


 オープンカー仕立てにした王家の馬車に、レニャード様と私が並んで腰かける。


 騎馬や馬車がいくつも連なった大行列で、これから王都をぐるりとパレードする予定だ。


 レニャード様は、特別誂えの踏み台の上で、威風堂々と四本足で立っていた。


 ピンと立った三角耳、得意げにあがった小さな顎とちょこんとしたお鼻。


 きらきらした大きな目は、希望をいっぱいにたたえて、まっすぐ前を見つめていた。


 ときおり、国民から『レニャード様ー!』と声援が飛んでくるのに応えて、ばちんとウインクをする。


 尻尾をふりふりしたかと思えば、にゃーんと前足を伸ばして屈伸したりと、ファンサで大忙しだ。


 隣に座っている私はニヤニヤを必死にこらえている。


 か、かわいい。かわいいよ、レニャード様。


 この日の式典はレニャード様とルナ・ヴァルナツキーの婚約お披露目も兼ねているので、私もにこにこと周囲に手を振った。


 馬車の周囲には徒歩の騎士が何人も配置されていて、みんな車体のすぐそばを歩いていた。


 その中にフルツさんもおり、ときどきこちらを見上げては、踏み台で仁王立ち(?)しているレニャード様を見つけて、デレデレしている。


 分かる。レニャード様、かわいいよね。この国の至宝と言っても過言じゃない。


 しばらくはあたりに気を配っていたけど、レニャード様は三十分もすると飽きがきたらしく、スフィンクスのような姿勢で座り込んだ。

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