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【実況】王子様が不具合(バグ)でした【猫化バグ】  作者: くまだ乙夜
第一章

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【猛特訓】スキルあげをがんばります


 レニャード様は最近、自分専用に作ってもらった小さなナイフを口にくわえて、相手のアキレス腱にすばやく切りつける戦法を学んでいる。


 武装したレニャード様が、シュバーッ! と素早く練習用の藁人形とすれ違う。


 すると、藁人形が履いていた革靴の足首がすっぱりと二分されていた。


 どうだ! という顔で私の方を振り返るレニャード様。


「わ……わあ! すごいですね! さすがですね!」


 私の感想に、誇らしげに鼻を膨らませるレニャード様。


 ナイフをくわえていなければ、自慢たらたらで喋る声が聞こえてきそう。


 もう、ノセられやすくてすぐに得意になっちゃうの、本当にかわいい。


 私はニヤニヤが抑えきれなくて、フルツさんにぺしんと木剣で頭をはたかれた。


「ほら! よそ見しない!」

「すみませんーっ!」


 私は毎日の地道な素振りのおかげでじょじょに筋力がつき始め、なんとか短時間ならナイフを振り回せるようになってきた。


 ナイフをまっすぐ構え、相手に突き刺す練習を、ひたすらやっている。


「……なあ、その訓練、おかしくないか?」


 横でじっと眺めていたレニャード様が、ふいにそう言った。


「何がですか?」

「いや……ルナ、お前は剣を使うのが初めてだったよな? だったら、まずは防御の型から習うもんだと思っていたが……」

「式典まで一か月しかないですからね。最短コースで練習してるんですよ」

「それにしたって、突き技ばっかり習っても……素人のお前なら、相手から距離を取って、なるだけ近づけさせない動きを主に練習すべきじゃないか?」


 私とフルツさんは、つい顔を見合わせてしまった。


「ご明察ですね、レニャード様」

「これは王太后陛下からいただいた剣を活かす訓練なんですよ」


 最初の発言は私。次がフルツさん。


 私はフルツさんのあとを継いで、説明しはじめた。


「王太后様は、私が一か月練習したところで戦えるようになるとは最初から期待してなかったんだと思いますよ。もしもしてたら、もっと違う剣をくれたと思います。そう、たとえば……防御に向いた魔剣とか」


 レニャード様は、そこで初めて気が付いたように、目を丸くした。


「魔剣『ダインスレイヴ』。相手に決して治らない傷を与える剣。それってつまり、この剣で少しでも手傷を負わせられたら私の勝ちってことになりませんか? たとえ私が殺されてしまって、犯人がうまく逃げおおせ、目撃者が誰もいなくなっても、怪我がいつまでも治らない人物を探せば、必ず犯人が見つかるってことですもんね」


 王太后様がこの剣を私にくれた理由は分かりすぎるくらい明白。


 相手に必ず一矢報いろ。たとえそれで自分の命を脅かすことになっても。王太后様は、私にそう言っているんだよね。


「だから、突き技なんです。それ以外は必要ないんですよ」


 私がそう結ぶと、レニャード様は猛然と食ってかかった。


「……なんだ、それは!? そんなの、俺は許可した覚えはないぞ!」

「そりゃ、相談してませんでしたからね」

「ふざけてるのか!? 今すぐやめろ、即刻やめろ! 俺は絶対許さんからな!」


 うにゃごおおおおお。なごおおおおおお。


 おまけに怒ったようなうなり声を発して、レニャード様は私の足にごすごすと体当たりをした。


 や、やめてください。かわいいです。


「おい、フルツ! 練習メニューを変更しろ! こいつには徹底的に防御を教え込め!」

「は……しかし」

「お前は俺に忠誠を誓ったんだよな? ならやれ、これは命令だ!」

「……仰せのままに」


 フルツさんめ、裏切りましたね。


 私は困ってしまって、足元のレニャード様の横にしゃがみ込んだ。


「レニャード様、勝手なことをなさっては……」

「勝手とはなんだ、勝手とは!? お前こそ俺の婚約者のくせに出すぎたことをするんじゃない!」

「そうは言われましても……私がレニャード様をお守りすることが、式典への参加条件でしたし」

「俺はお前に守られなきゃならないほど弱くなった覚えはない! その気になれば人間ぐらいいつでも仕留められる!」


 レニャード様、ちょっとムキになってる。


 困ったね。


「いいか、お前は俺のものだ! 勝手にキズを増やしたりしてみろ! 許さんからな!」

「まあ……傷者になったら価値が落ちちゃいますしね」

「そうじゃない!」


 レニャード様は犬歯をむきだしにした。


「お前に怪我なんかしてほしくないから言ってるんだ! なぜそんなことも分からんのだ!?」

「レニャード様……」

「いいからお前は、自分の身を守ることだけ考えていろ!」


 レニャード様は四本の足でしっかりと地面を踏みしめ、はるかに背の高い私を大きなおめめでまっすぐ見上げた。


 小さな喉を震わせて、犬のように吠える。


「お前は俺の婚約者だ! 俺に守らせろ!」


 私はなんだかジーンとしてしまった。


 レニャード様はこんなにちっちゃい猫ちゃんなのに、魂はちゃんとイケメンの王子様なんだ。


 ルナさんがいたら聞かせてあげたかったなあ。


 きっと私よりずっと喜んでくれただろうになあ。


「分かりました。でも、レニャード様もくれぐれも無理はしないでくださいね」


 こうして私は、練習メニューを少し変更しつつも、式典に向けて訓練に励んでいった。


 頭の片隅で、ひとつのことを考えながら。


 この式典が無事に終わったら、ルナさんを元に戻す方法も探してみないといけませんよね、と。




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