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【反省会】イベント後の後始末は大変です


 もちろん私たちは、あとでこっぴどく王太后様に怒られました。


「事情は分かったけどね、なんでアタシに相談しなかった? ヴァルナツキーのお嬢ちゃん、返答次第じゃまた婚約破棄させるよ?」

「だ、だってぇ……イリアスさんが前王陛下の隠し子だなんて知ったら、王太后陛下も絶対心穏やかじゃないと思ってぇ……」


 下手したら虚言扱いで私に怒りが向くと思ったんだもん。事実今怒りが向いてるよね。ほらほら。


 王太后様は呆れたようにため息をついた。


「だからさ、なんでアタシがそれを知らないと思ったんだい? あの親子を追放したのはアタシなんだから、真っ先にアタシに知らせるべきだったんだよ」


 あっ、そ、そうだったんだ。うっかりしてたよ。


 だって王太后様、ゲームでもよくイリアスさんに操られてたみたいだし。イリアスさんの存在や力を知ってたら、そんなに簡単に操られるわけないと勝手に思い込んでたかも。


 そして王太后様は、不思議そうに首をひねった。


「しかしお嬢ちゃんはどうして気づいたんだい? レニャードでさえも忘れてたくらいなのにさ」

「そ、それはぁ……」


 もはや言い訳も尽きました。


「まあ、いい。結果オーライだよ。でもね、アタシに知らせなかったことは見過ごせない重罪だから、処罰を与える。いいね?」

「はいぃ……」


 なんだろう、むち打ちかな、恩給カットかな。


「あんた、明日からレニャードの妃として王城にお入り。婚姻調度を揃えたいなんて言っても、猶予は許さないよ。身一つでうちに嫁いできな」

「は、母上……!」


 レニャード様がびっくりしている。


「ふん。本当ならアタシが部屋をあんたに譲り渡して隠居しなきゃいけないところなんだけどね。あんたらはまだまだ頼りない。レニャードが立派に即位するまで、あんたはアタシの下で修業しな」

「は、はいいい……」


 う、うううう。嫌だなあ。王太后様、絶対厳しいよ。


「母上、それじゃあ、結婚は認めてくださるんですか!?」


 はしゃいだ様子のレニャード様を、王太后様はにらみつけた。


「あん? しょうがないだろ、招待した各国首脳の前で宣言しちまったんだ、もう結婚は済んだでごり押しするしかないじゃないか! まったく、とんだ大馬鹿野郎どもだよ」

「申し訳ありません……」


 王太后様はしょぼくれてしまったレニャード様をひょいっと抱き上げた。


「次の行事にはお前たちも出すよ。自分でひとりひとりにお詫びをして回るんだ。迷惑をかけた人たち全員にだよ」

「はい……」


 のどをうりうりとされて、レニャード様はんんんと顎をのけぞらせた。


「お前は迷惑をかけた立場なんだからね。全員に撫で撫でされておいで」

「そっそんなあ……! 母上……!」


 耳の裏をかかれて、レニャード様があああと目を細める。


「まあったく、こんだけのことをやらかしておいて撫で撫でで済むなら世話ないよ! あんたほんっとうに幸運ってもんがついて回ってるねえ!」

「しかし、母上、俺は撫で撫では嫌いなのですあああああ!」


 レニャード様は首のうしろをもふり倒されて撃沈した。


 レニャード様ったら首のうしろが弱いんだから。


 ――こうして私たちは、王城で一緒に住むことになったのでした。


***


 お引越し初日、私はレニャード様の隣の部屋に案内された。


 新しい侍女さんとか、次々にいろんな人が来て挨拶していくので、私は目が回った。


「疲れたなぁ……」


 ベッドに寝っ転がってぐったりしていたら、廊下が騒々しくなった。


「ルナ殿下、レニャード様がいらっしゃいました」


 エミリーがやたらにかしこまって言うので、私はちょっと照れた。


「お嬢様でいいって……他人行儀すぎるよ」

「いいえ、規則ですから。そういうわけにもまいりません」


 王子妃ともなると、侍女にもややこしい規則がいっぱいあるみたい。


 でもプライベートならいいと思うんだけどな。


 エミリーが私の侍女っていうのも、最初はちょっともめた。なんでも、シンクレアは『金の目』の王様の寿命が短くて政権が安定しない関係で、伝統的に貴族院の議会の力が強いみたい。


 侍女の人事権も、議会の方にあるんだってさ。


 私がエミリーを連れてきて、この子にお世話お願いするね、っていったら、ちょっとした騒ぎになった。


 今は暫定だけど、議会がちゃんとした侍女を選ぶから、そっちを使えって、すごい恐縮しながら怒られた。宮廷の人たちってすごいね、一見ものすごくへりくだってる感じなのに、よく聞くとめちゃくちゃ怒ってるんだもん。すごく器用だなー、これが王侯のお守り役になるってことなのかーって感心しちゃった。


 だから今度、レニャード様を連れてワルイー男爵のところに行くつもり。レニャード様がおねがーいごろにゃーんってしたら、たぶんいけると思う。レニャード様の愛らしさにはワルイー男爵抗えないからね。それに、勝手に私を婚約破棄にしたことについてもまだお礼が済んでないし。


 それにしても、王様や王子様が自分で好きな人間を小間使いにできないのって不思議な話だよね。


 王様ってもっと何でもアリなのかと思ってた。


 でもまあ、議会の力が強いからワルイー男爵も原作レナード王子のルートで廃嫡の画策なんてできたわけだし、王子様がいっぱいで、ちょっとしたルート分岐によって国王がコロコロ変わりがちなゲームなら、権力が小さめなのもしょうがないことなのかな。


 王様も大変だね。


「殿下?」


 エミリーが不思議そうにしている。


 いけない、ぼーっとしてた。


「うん、お部屋に入ってもらって」


 両開きの扉がどばーんと大きく開け放たれる。


 中央には――誰もいなかった。


 ううん、いるのはいるけど、大きな扉に比べて本当にちんまりとしたオレンジの猫ちゃんが、中央でえらそうにふんぞり返っていた。


「わはははは! 徒歩十秒でお前の部屋にたどり着く! なんて便利なんだ! うわーはははは!」


 あー、レニャード様の高笑い、癒されるなー。

 いつも楽しそうで、私も笑顔になっちゃう。


「それにしても、完全に別室なんですね、私たち」


 扉が内側でつながってるのかと思いきや、それもなし。完全に独立してる。


「一緒のベッドで寝泊まりするのかと思ってました」


 貴族だからなのかな? 日本式ではない感じでちょっと窮屈。


 レニャード様は大きなおめめで、ちらりと妖艶な感じに私に流し目を送った。


「もちろん、お前がいいと言うのならそうするが……まだお前には早いかと思ってな」


 うそだー。


 それ、レニャード様にはまだ早いの間違いじゃないの? なんだかんだいつもチューにも時間かかるもんね、レニャード様。


 私はちょっと意地悪をしたくなって、にこりと笑った。


「私のためだったんですね。でしたら遠慮は無用ですので、さっそく今日から私のベッドにいらっしゃってください」


 にこにこと屈託なく言うと、レニャード様は目に見えてうろたえだした。


「え……あ、ああ、い、いや、し、しかし、男女交際というものは、まずはデートをしてからだな……!」

「四年間欠かさずデートしてたような気がしますけど……」

「三度目のデートで手をつなぎ……!」

「何度もおてての肉球触らせてもらいましたよね?」

「五度目ぐらいで抱擁……!」

「いつも抱っこしてあげてるじゃないですか」


 私は、足元にいるレニャード様をひょいっと抱き上げた。


「それで? 次のステップは何ですか?」

「つ……つぎは、鼻と鼻をくっつけてあいさつ!」


 私が鼻をくっつけてあげると、レニャード様はニャッと短く奇声を発した。


「そのあとは?」

「あ……あとは……その……」


 レニャード様は何を想像してるのか、だんだんしどろもどろになってきた。


 なんてかわいいんだろうね。愛しくてたまらないよ。


「もう、レニャード様、忘れちゃったんですか? 前に約束してくださいましたよね?」


 私はこのへんでレニャード様を許してあげることにした。


「俺と結婚したら、毎日ブラッシングも爪切りもし放題。夜は毎日ルナの胸の上で丸くなって寝てやる、って。私、猫ちゃんを乗せて寝るの、ずっと楽しみにしてたんですからね。私、今日は猫の・・レニャード様とご一緒に寝たいです!」


 私が無邪気に言うと、レニャード様は硬直から解けて、ほっとしたようにヒゲをゆるめた。


「あ……ああ、そうか……そっちか……」

「夜はお待ちしておりますからね! 絶対来てくださいね!」


 レニャード様は、まだ戸惑っていたけれど、最終的には分かったと答えてくれた。


 やったね。


 呼び出してしまえばあとはこっちのものですよ。


 私はもう大人なので夫婦関係があっても全然いいんだけど、レニャード様は純情だから、たぶんまだそういうことにはならないと思うんだよね。


 でも、いい雰囲気にしてしまえば、ふだんは触らせてくれない稀少部位もきっとおさわりオーケーが出るはず。


 私、一度でいいからレニャード様のおへそがどこにあるのか見てみたかったんだよね。


 あと、モモ肉の裏側にある関節のくぼみのところにも指を入れてみたかったんだ。人間で言ったら膝小僧の裏側かな?


 それからそれから、香箱座りのときの胸毛とおてての間にあるみわくのゾーンにも指を突っ込んでみたいんだよ。


 おなかの毛もいっぱいもふもふさせてもらっちゃおう。


 ああ、楽しみ。


 はやく夜が来ればいいのに。



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