【新展開】新たに実装されたアイテムが壊れ性能って本当? 検証してみました!
冬の休暇も終わり、新学期になった。
また魔力の検査があって、リアさんは全校生徒を抜いてぶっちぎりトップの成績に。
さすがは伝説の聖女になる運命の子だね。本人もすごく賢そうだし、このままだと本当に徴持ちになりそう。
私がお手洗いから教室に戻る途中、中庭で騒ぎがあった。
「あなた……こんなもの持ち込んだりして、何を考えているの!?」
あら、この声は、もしかして。
知り合いかなと思って中庭を覗くと、ちょうど二人の女子生徒が向かい合っているところだった。
ひとりはピンク色の髪をしたかわいらしい女の子。
もうひとりは長い黒髪、赤い目の、外国の女優さんのような美少女。
あっ、ひょっとすると、また学校のいじめイベントが発生していたりする?
大変だよ、止めないと。
「どうしたんですか?」
私が声をかけると、ミツネさんが振り返った。
どうしたんだろう、顔が真っ青になってる。
「ルナさん……だって、だってこの子……!」
ミツネさんが震える指先を、リアさんの手荷物につきつけた。
「ありえない……こんなもの持ってるなんて、反則だよ……!」
リアさんが手にしているのは、そこらへんのいらない新聞紙で作ったとおぼしき紙袋。
「えっと……リアさん、それ、中身何ですか?」
私が聞くと、彼女は困ったようにひとつ中身を取り出した。
「ケーキですけど……」
「ケーキがどうかしましたか、クレア・マリアさん?」
何をそんなにびっくりしてるのかが分からなくて、私がミツネさんに詳しい説明を求めると、彼女は金切り声を出した。
「分からないの!? それ、課金アイテムだよ!?」
えええええええええ。
そうだったの……? し、知らなかった。
だって私、課金したことなかったし……
私はリアさんに聞こえないよう、こそこそとミツネさんに話しかける。
「課金アイテム……ゲームだけじゃなかったんですね? アイテムの効果ってどんな感じなんですか?」
「アッシュケーキは主人公の好物で、食べると聖魔法パラメータが増えるんだよ」
「リアさん、今期トップでしたっけ……」
ということは、私、知らない間にリアさんにチートアイテムを与えていたということになりますね。
これは気まずい。ミツネさんが知ったら怒り狂いそう。
前世ミツネさんで今世クレア・マリアさんは、私の同意を得たからか、ちょっと怒りが増したみたいで、真正面からリアさんをにらみつけた。
「道理でおかしいと思ったんだよ……! まだ一年目なのに、クレア・マリアを抜いてトップの成績になるなんて、絶対ありえないもん! ズルをしてたんだ! そうでしょう、リアさん!」
リアさんが困っている。
「あの……王都では『カキンアイテム』っていうんですか、このケーキ? よく知らないんですけど、確かに、このケーキを作り始めたあたりから、なんだか光魔法の調子がよくって……怖いくらい成績が伸びるなって思ってましたけど……そんなにまずいものだったんですか……?」
リアさんが自分の作ったケーキを気味悪そうに凝視している。
「自覚症状が出るほどの効果があったんですか、そのケーキ?」
「えっと……ケーキのせいかどうかは分からないんですが、自炊をするようになってから、もう、全然疲れ知らずで……無限に魔法が撃てるようになっちゃって……」
ええー。どうなってるんだろう、この世界。
「うーん……ただのケーキにそんな効果が……私がリアさんからもらって食べたときは、なんともなかったんですけどねえ……」
うらやましい。そんなに魔力が伸びるなら私も欲しいくらいだよ。
「あ、あの! 私、けっこう作って食べちゃったんですけど、大丈夫でしょうか……副作用とかあったりしたら……」
リアさんも、私やクレア・マリアさんの雰囲気にのまれて、真っ青になっていた。
「どうなんでしょうねえ……私の私見だと、ないような気がしますが……」
副作用がある課金アイテムって何よ。
でも、そもそも論でいうと、副作用もなしに劇的に能力を伸ばすアイテムって何よってことになるし、魔法がある世界はホントよく分からないね。私がマグヌス様やリアさんみたいにもっと頭よかったら分かるのかもしれないけどさ。
「心配なら、お医者さんに診てもらいますか? 紹介しますよ」
「一度お願いしたいです……」
リアさんは泣きそうになっていた。
「確かに、変だなって思ってたんです。この機にちょっとこのお菓子は控えてみることにしますね」
リアさんはぺこりとお辞儀をした。
ミツネさんは真っ青で、まだすごく怒っているようだったけど、それで少し拍子抜けしたみたいだった。
リアさんがいなくなったあと、ミツネさんは、絶望したように顔を手で覆った。
「……もしも、リアさんに伝説の聖女の徴が現れたらどうしよう……シスル様が、リアさんに取られちゃう……!」
徴が出たら、『金の目』と結婚する決まりですもんね。
「ああ……どうしたらいいの……? 主人公が相手だったら、勝ち目なんてないよ……!」
「まあまあ。そもそもリアさんとシスル様、出会ってすらいないですし。案外大丈夫なんじゃないかと。リアさんも、王子との結婚なんて考えられないって言ってましたもん」
「でも、シスル様と出会ったら絶対好きになっちゃうよ! すごく素敵だもの!」
悲劇的な落ち込み方のミツネさん。
ガチ勢ですねー。
「いやーでも、リアさん、あのレニャード様の魅力にも陥落しませんでしたからねえ……」
あの子なら、王子との結婚なんてイヤ! で、伝説の聖女ルートを突き進んでくれそうな気がしますよ。そんなエンディングあったかどうか分かりませんけど。
私がせっかくミツネさんに同情してそう言ってあげたのに、ミツネさんは素に戻ったような顔になった。
「レニャード様は別にそこまで魅力なくないですか?」
「え……?」
相変わらずミツネさんのレニャード様評が塩。実はものすごく嫌いだよね、はっきり言わないだけで。
「レニャード様魅力の塊じゃないです? ひと目で恋に落ちない女子の方が少なくないです?」
「それよりシスル様ですよ」
「はい? レニャード様に何か落ち度でも?」
「シスル様が一番王子様らしいじゃないですか」
「何言ってるんですか? 猫ですよ? 猫で俺様ですよ? 俺様といえば古来からお金持ちでイケメンの王子様って決まってるんですよ? しかも……なんと外見が猫ちゃんなんですよ?」
「猫だからなんなんですか?」
私とミツネさんは、ちょっとだけ険悪な感じになりかけましたが、どちらからともなく、不毛だな……という空気になりました。
「まあ、いいじゃないですか。リアさんが伝説の聖女になりたいというのなら、それは立派な彼女の自由意志で、主人公の特権ですから、私たちは尊重してあげないと。シスル様の妃になるかどうかも、シスル様と彼女が決めることですから、私たちには介入する権利なんてありません」
ミツネさんは、しょぼんとした。
「……ルナさんって、大人ですよね。私、とてもそんな風に割り切れないです。なんとかして止めたいですけど、私はここを動けないですし……」
「ちょ……早まらないようにお願いしますね……これ以上罪を重ねて真っ黒になったら、ホントにチャンスなくなりますよ」
「それは分かってますけど」
大丈夫かなあ。ミツネさん、一度暴走したことあるし、ちょっと心配。
今後はミツネさんの動向にもちょっと気を付けたほうがいいのかな。
休み時間が終わりそうだったので、私はミツネさんと別れて、教室に戻りました。




