【美食体験】猫ちゃん大喜び! あの新商品のレビューをしちゃいます!
ああっ、そ、それは、しらすのようなもの?
確かに猫は好きだけど、塩分やばいやつなのでは……
でも、私が止めるよりも早く、レニャード様はリアさんに飛びついた。
「お、お前……! なんてうまそうなものを……! くれ、一口くれーっ! 頼むーっ!」
レニャード様は、リアさんの前でこてーんと横たわった。おなかを見せて、あざとくごろにゃんのポーズを取る。
「いいですよー、でも、これはいったんルナさんにあげますね」
リアさんが、小さな紙袋入りのしらすを、丸ごと手渡してくれた。
「ルナさんがいいよって言ったらもらうようにしてくださいね」
「リアさん……!」
私は感動しました。飼い主の私に対して、最高の気づかいです。いえ、私、飼い主じゃないですけど。婚約者ですけど。
でも、私、あのイリアスさんの小魚を見るたびに、ずっと思っていたのです。
それ、私があげたいなぁ……って。
だって、イリアスさんだとたくさんあげすぎるかもしれないし、それに、それに……ずるいじゃないですか。レニャード様ににゃんにゃん媚びを売られてるイリアスさんがうらやましすぎて、私はひそかにギリギリしていたんですよ。
それに引き換えリアさんはどうでしょう。レニャード様も喜び、私も喜ぶ、すごいプレゼントをしてくれました。
リアさん、すごくいい人じゃん……私、好きになってしまいそう。
「ルナ……」
レニャード様が熱いまなざしで私を見つめてくる。なんですかその視線。食欲で目の色変わっちゃっているじゃないですか。そんなにしらすがほしいんですか。
「食べたいですか?」
レニャード様は急にのどをごろごろ鳴らし始めた。ごろごろごろ。ごろごろごろごーろ。
あざとい! あざと猫ちゃんめ! そんなことめったにしないくせに!
「ちょっとだけですよ」
私はしらすをひとつまみ手の上に乗せた。
レニャード様はぴょこんと飛び起きて、私の手のひらをすごい勢いでぺろぺろし始めた。
やだ、くすぐったい。必死なレニャード様めちゃかわいい。これ、よすぎでは?
このたかられてる感じ、ちゅーるを思い出すなぁ。はぐはぐしちゃってほんとかわいい。
「ありがとうございます、リアさん」
私は幸せ気分でリアさんにお礼を言った。
リアさんは、屈託なく微笑んだ。
「いいえーっ! お礼ならイリアスさんに言ってください! 小魚情報は彼からなので!」
へえ、いつの間に仲良くなったんだろう。
「イリアスさんもレニャード様のことが大好きなんですねえ。すごく嬉しそうに『兄さん』なんて呼んでましたよ」
……もしかすると、イリアスさんもレニャード様の魅力に陥落したのかな?
すごいね、魔性の猫ちゃんの本領発揮だね。
「そうだ、イリアスさんが人を探してるみたいなんですけど、ルナさん何か知りませんか?」
私は思わずイリアスさんのルートを思い浮かべたけど、何も心当たりがなくて、困ってしまった。
「なんですか、それ?」
「ええっとね、イリアスさんちはシンクレア王家にちょっとだけ奉公していた関係からか、奉公が終わって地方に引っ込んでも、ずっとイリアスさんちに援助してくれてた正体不明のあしながおじさんがいるそうなんですよ」
ああ、私が送ってたお小遣いのことかな。
「手がかりが手紙しかないって話なんですけど、それなら筆跡とかで何か分からないかなって思いまして。で、ルナさんなら貴族にも顔が広いみたいですし、何か分かるかなと思って」
名探偵リアさん!
確かに、筆跡を調べられたら私だってことがバレるかも。すごいね、よくそんなことに気づいたよね。
「見てみないと何とも言えないですね」
でも、私ももういい大人ですからね。涼しい顔で嘘をついておきました。
「そっか、じゃあ、イリアスさんには手紙を持ってきてもらうように言っておきますね!」
分かりました、と答えながら、私はどうしようかなって思ってた。
もともとはレニャード様があしながおじさんの正体だったって思わせてハッピーエンドを狙ってたけど、どうもイリアスさん、もうレニャード様のこと好きすぎる感じだよね。
じゃあ、特にそこ強調する必要もないのかな。
つまり、正体が私ってバレてもいいし、バレなくてもいい。
じゃあ、自力で突き止めてきたら認めるけど、それまでは恥ずかしいからはぐらかしておくってことで。
あれこれ考えていたら、レニャード様が焦れたように私が持っている紙袋を狙ってきた。ちょいちょいと紙袋をつつくかわいいおてて。私がひょいっと紙袋を取り上げると、レニャード様のおててが私の手に当たった。
最近寒くなってきたからか、レニャード様の肉球がちょっと冷たい。ひんやりぷにっとした感触もまた愛しいね。
「なあリア、この魚はなんて名前なんだ? こんなの見たことも食べたこともないぞ!」
「ええっと……なんていうんだろう? 私の故郷では、稚魚って言ってました」
「稚魚か! なあルナ、稚魚は一日何匹までだ?」
「うっ……うーん、そうですねえ……小魚と合わせてなら、スプーン一杯くらいでしょうか」
たぶんどっちもいわしの亜種だよね? まっすぐで青光りする魚は、私には全部いわしに見えちゃう。違う種類かもしれないけど、でも、小魚と稚魚同時には栄養取りすぎだと思うんだよね。
レニャード様には悪いけど、おやつの与えすぎはよくない。
レニャード様は憤慨したように、私の手のひらに頭突きしてきた。
「なにい!? もっとほしいぞ! せめてスプーン五杯くらい!」
ごすごすと頭を打ち付けるレニャード様。あああ、かわいい。かわいいからつい撫でちゃう。
「だめです! おなかいっぱいになっちゃうでしょ!」
「じゃあ四杯! 四杯ならいいだろう!?」
「だめですってば、おなかいたいいたいになりますよ!」
「ならん! 俺の腹は頑丈なんだ! だから三杯!」
私が心を鬼にしてレニャード様と言い合いしていたら、そばで聞いていたリアさんが吹き出した。
「ルナさんたちって面白いですね。薪、ほんとにありがとうございました。またくださいね。すごく助かるんで!」
リアさんは約束があるからといって、どこかに去っていった。
「……あいつ、もうすっかりお前とも仲良くなったよな」
レニャード様が、ふと真面目な顔で言いました。
「あいつがお前の処刑を考えるようには思えないが」
「そうですね……そうだといいんですが」
心配なので、また薪を送っておきましょう。
***
そんなこんなであっという間に二学期が終わり、冬休みになった。
聖女宮は帰省する人たちがほとんどでひっそりとしている。
私は自宅から通ってるから休み期間中の聖女宮に用はないんだけど、レニャード様にはあった。
「イリアス!」
「兄さん!」
レニャード様はイリアスさんの足にすりすりとし、尻尾をくねくねと巻き付けた。
「会いたかったぞ!」
小魚に、ですよね。分かってますけど、私ちょっと妬けちゃう。
私も出会いがしらに鼻ちゅーの挨拶してもらったけど、レニャード様が他の人と仲良くしてるとやっぱり面白くない。男の子、それも血のつながった弟に嫉妬したってしょうがないんだけどね。
レニャード様はイリアスさんから小魚をもらい、そのへんにあった木の枝や枯れ葉を投げて遊んでもらって、大興奮だった。
寒いのに元気だよね。
私は芝生に座って見ている係。だって防寒着で着ぶくれしててモコモコだもん。走ったり跳んだりしにくい。




