【激うま】リアさんがおやつくれたのでアップします!
「じゃあ、人を自由自在に『金の目』にしたり、または治したりする能力って、理論上は無理なんですか?」
「そうだと思うが」
マグヌス様にも無理だと言われてしまった。
じゃあ、ミツネさんが言ってたイリアスさんの能力――人を『金の目』にするっていうのは、どういう仕組みなんだろうね。
マグヌス様は、嫌がるレニャード様をテーブルの上にリリースしてあげながら、ふと何かに気を取られたように、動きを止めた。
「ああ……いや、どうだろうな。ありえない話ではあるが……もしも、『金の目』に棲む精霊を完全に支配下に置くことができたら、その精霊を、一時的に人に取りつかせることは可能だろう。まず不可能だろうが」
マグヌス様は自分の発言を笑い飛ばすように、皮肉げな顔つきになった。
「しかし、どんなに優れた魔術師であっても精霊を支配するのは不可能だろう。もしもできるのなら、私がとっくにやっているさ」
「……でも、マグヌス様は、レニャード様を、人間に戻すお手伝いをしてくれますよね」
「あれは、あくまでもアシストに過ぎない。レニャードの意思を、メッセンジャーとして伝えてやっているだけだ。精霊が気まぐれでレニャードに力を貸してくれているんだよ」
私は話を聞いていたら頭が痛くなってきました。前に聞いた限りだと、精霊って、なんか、寄生虫みたいなものなんじゃなかったっけ? 意思を持って動くこともあるんだね。想像しづらいなあ。
「『金の目』に棲む精霊が、たまたまレニャードについた精霊のように、宿主の言うことを聞く性分であれば、気まぐれでその力を行使してくれることもあるだろう」
「つまり、精霊次第ということですか……」
「そうなるな」
よくは分からないけど、たまたまイリアスさんにもシンクレア王家の精霊が住みついてて、その子が人を『金の目』にする力を持ってた、ってイメージでいいのかな。
「『金の目』の精霊は、闇を好んで食らう。そして闇の精霊は、精神の侵略と支配が得意だ。通常は精神が汚染されれば必ず特有の症状となって現れ、異常が目に付くものだが、それがこの精霊の場合はたまたま金色の瞳となって表れたのだろう」
「なるほど……精神汚染なんですね」
そう考えると、『金の目』になった人がイリアスさんの言いなりになるのもうなずけるかな。あれも一種の精神操作なんだね。
「もしも『金の目』が他者の支配をも可能にするのなら、それはまさしく王に向いている能力だろうな」
言われてみればそうかもね。
レニャード様もよくモテてるし、もしかしたらシンクレア王家の人たちにはモテモテの能力があるのかも。
「レニャード様は、どうですか? 人を支配できそうな感じしませんか?」
テーブルの上で、マグヌス様に触られたところをぺろぺろ舐めて毛づくろいしていたレニャード様が、ぽかーんとした顔で私を見た。あ、舌をしまい忘れてる。べろがちょみっとはみ出てる猫ちゃんかわいいね。
「いや、まったく……というか、支配ってなんだ? どうすればできるんだ?」
マグヌス様は苦笑した。
「レニャードの場合はまず魔術の勉強が足りないな。しかし、挑戦してみる価値はあるかもしれない」
「いや、俺はそんな力いらんぞ……そんなことしなくても、俺は十分かわいいからな!」
レニャード様はテーブルの上で、ごろーんとおなかを見せて横たわった。あ、あざとい、あざといけどかわいい。
「俺がこうすることで、喜ばんやつはいなかった!」
うにゃーんと、招き猫のポーズでマグヌス様の袖をちょいちょいするレニャード様。ああああ、かわいいよ、かわいいよ。
「リアとかいうやつも、俺ならくしゃみが出ないと言っていたしな! 俺に魅了されないのは、犬か、ネズミぐらいのものだ!」
自信満々ですね。でもかわいいので百点です。
「ルナも俺のことが好きだろ?」
「もちろんです。わ、私にも、私にもその、ちょいちょいするやつやってください」
私が腕を差し出すと、レニャード様は両手で私の腕をあたたたたとつついてくれた。
かわいい攻撃を食らって、私は無事に幸せになりました。
猫ちゃんがじゃれてくれる生活、最高ですね。
それにしても、イリアスさんの『金の目』については全然分からなかったな。
分かったのは、イリアスさんについてる精霊が、レニャード様を猫にしちゃった精霊と同じような変わり者で、特別に力を貸してるのかも、っていう、マグヌス様のあいまいな推理だけ。
これだけだと気を付けようがないけど、なんとか頑張ってレニャード様を守りたいところ。
レニャード様は抗魔力値が高くて、精神汚染なんてとてもされるような人じゃないし、そこは安心だけどね。
私も気をつけよう。
***
ある日の休み時間、レニャード様と一緒にごはんを食べ終わり、日の当たるカフェテラスでぼーっとしていたら、ピンク色の髪の毛の少女がまっすぐに走ってきた。
「ルナさん、聞いてください!」
タァン! と軽快にテーブルの上へと置かれたのは、何かが入った紙袋。
「私、とうとうケーキを焼くことに成功しました!」
「ええっ……暖炉の鍋で?」
「いえ、違いますけど、とにかく私の部屋の暖炉でできたんです!」
「すごいですね……どうやってるのか見当もつきませんけど……」
リアさんは、ケーキができてはしゃいでるみたいで、いきなり私の手を握ってきた。
「ルナさんありがとうございます! ルナさんがたくさん薪をくれたので部屋も温まりましたし、ケーキも作れました!」
「いえいえ」
「もらってばかりで心苦しいので、今日は出来がいい部分だけ持ってきてみたんですけど、ルナさん、今おなかいっぱいじゃないですか?」
「え、いいんですか? 食べます食べます」
リアさんがくれたケーキは素朴だけどしっかり焼けていて、とてもかまど鍋で焼いたとは思えない出来だった。ていうか、鍋でケーキってできるんだ。私も簡単な料理くらいはしたことあるけど、作り方が想像もつかないよ。リアさんは器用だね。
「レニャード様も食べますか?」
レニャード様は、私のパンケーキのにおいをふんふんふんふんと嗅いで、ぷいっとそっぽを向いた。
「いや、いい。俺の苦手な匂いがする」
「アニスとか入れちゃったんで、猫ちゃんは苦手かもしれませんね」
リアさんがにこにこしながら言う。
もうすっかり猫が苦手って気持ちは薄くなったみたい。
「レニャード様には、こっちをどうぞ!」
リアさんは、もうひとつ紙袋を取り出して、中身を手のひらに乗せた。
そのとたん、レニャード様はぐいん! と頭をあげた。ふんふんふんふんと、中空のにおいをかぐ、小さなピンク色のお鼻。激しく泳ぐおヒゲ。
「お、お前……もしかして、それは……?」
「聞きましたよ。レニャード様って、小魚が好きなんですよね? だったらこれも好きかなって思って!」
リアさんが手のひらに乗せているのは、小魚よりももっと小さな、白い稚魚だった。




