【怪現象】金の目の正体とは!? 専門家に話を聞いてみました!
イリアス王子とリアさんが出会ってしまった。
原作であれば、このふたりをくっつけるのはとてもまずいことになる。レナード王子はイリアス王子によって処刑されてしまうからね。
でも、私もいろいろと手は打っているんだよ。
そもそも彼がシンクレア王家に深い恨みを抱く原因となったのは、母親の死なんだよね。
でも、今回は大丈夫。イリアスさんのお母さん、ちゃんと生きてます。
もちろん、これまでにも完全に原作通りでなくてもイベントが起きることはあったから、絶対とは言えないんだけどね。
私にできるのは、どうにかしてイリアスさんとレニャード様を仲良くさせておくことくらい。それこそ、イリアスさんがレニャード様の処刑を踏みとどまってくれるくらい好きになってくれれば大丈夫のはずなんだよ。
そして私も、リアさんの不興さえ買わなければ、連名で処刑されたりしないはず。
「どうした、ルナ? 元気ないじゃないか」
レニャード様が声をかけてきたのは、聖女宮の休憩時間のことだった。
ふわあと大きなあくびをして、のんびり前足を伸ばしているレニャード様は、おめめもぱっちりで、すっきり爽快って感じ。でも、さっきの時間すやすや寝てたの、私見てましたからね。
「何か心配事でもあるのか? いや、そうだな……俺が当ててやろうか」
レニャード様は、大きなおめめで私をじっと見上げた。うっ、上目遣いに見つめる猫ちゃん、かわいすぎます。
まっくろな純真おめめでじっと見つめるレニャード様に私がノックアウトされているとも知らず、レニャード様は目を細めて、チェシャ猫のような表情になった。
「さてはお前、イリアスのことを考えていただろう?」
「えっ……?」
そのとおりだけど、どうして分かったの?
レニャード様はおててでぽふぽふと私の二の腕を叩いた。
「みなまで言うな。俺にはちゃあんと分かっているぞ。俺が昨日、またイリアスからおやつをもらったから、拗ねてるんだろう?」
うーん、違うような、合ってるような。
「心配するな。あいつとはしょせん、小魚の関係だ」
「小魚の関係……」
どんな関係ですか。
「俺はあいつの小魚が目当てで付き合ってる。俺が本当に好きなのはお前だ、ルナ」
人間だったらろくでなしなような、そうでもないようなセリフを吐くレニャード様。
私はおかしくって、苦笑い。レニャード様とお話してると、深く考えてたのが馬鹿らしくなっちゃいますね。ほんとにかわいいんだから、もう。
「授業続きで疲れが出たんだろう。お前には少し休息が必要だ」
レニャード様は? って思ったけど、そういえばレニャード様、授業中しょっちゅう寝てますもんね。さすがにどうなのかなって私は思ったんだけど、『猫ちゃんなので人間よりたくさん睡眠時間が必要なんです』って説明したら、みんな『しょうがないよね』みたいな空気になって、以降、レニャード様はお昼寝し放題ということになった。
つやつやの毛をした成猫がすぴーすぴーと寝ている姿は大変かわいらしいもので、厳しめのシスターさんもなんとなく授業の温度感がぬるくなるんだよね。猫ちゃんの癒し効果はすごいね。
レニャード様はふかふかのクッションがつめられた『ロイヤル・パウズ』号の上で、ごろりとへそを出して寝そべった。
「喜べ! 今日は特別に腹の毛も触らせてやろう!」
「ええっ!? い、いいんですか……?」
レニャード様のおなかは私もめったに触らせてもらえない稀少部位。私はどきどきしながら手を伸ばした。
レニャード様のおなかの毛はうねりながら真ん中に集まって、中央に縦の山脈みたいなのができている。その毛を逆撫でしたら、ふわふわの感触がした。
「ああ……っ! 素敵な手触りです、レニャード様!」
「そうだろう、そうだろう! 好きなだけ触るといいぞ! うわはははは!」
おなかをなでられて、くすぐったそうに身をよじるレニャード様。お化けみたいにくの字にしたおててがなんともキュート。
「レニャード様、おなかのおけけがふんわりしっとり! ふんわりしっとりです!」
「苦しゅうない、苦しゅうない! だがへそには触ってはならんぞ!」
「えっ……? レニャード様のおへそってどこにあるんですか……?」
そういえば、もうずいぶん長い付き合いなのにまだおへそは見せてもらったことないなあ。裸だけど、毛皮のせいでどこにあるのかまでは分からない。
「よせ、探すな、見るな! 恥ずかしいだろ!」
「おへそってそんなに恥ずかしいスポットでしたっけ」
「不敬なことを言う奴め! そんなやつには触らせてやらん!」
「ああっ、ごめんなさい反省しますー!」
レニャード様の毛並みを、私は心行くまで堪能させてもらった。
***
私は週末に、マグヌス様を訪ねた。
マグヌス様はもう五年もレニャード様を研究しているので、精霊と人間の関係についてはちょっとした権威になっている。
「シンクレア王家の『金の目』って、どういう仕組みで起こるものなんですか?」
「どうって? 遺伝だろう。血筋で決まる」
「それはそうなんですけど……」
どう説明したらいいのかな。
「レニャード様には、『金の目』のお兄さんがいるんですよ。彼はそのせいで遠くに療養しているんですが、『金の目』の力を弱めることができれば、また宮廷にも来れるようになるかな、って……」
それは、ずっと考えていたことだった。
シスル様が『金の目』じゃなくなれば、彼が正統な王太子となって、また宮廷が荒れるかもしれない。
でも、シスル様ならきっと、レニャード様と争って玉座に就こうとは考えないと思う。
話についていけなくて、ほげーっと窓から差し込む光を眺めていたレニャード様が、私に飛びついた。
「なに!? そんなことができるのか!?」
「いえ、できたらいいな、って……」
マグヌス様は、こともなげに肩をすくめた。
「可能だろうさ。『伝説の聖女』がいればな」
そっか、『金の目』に苦しむ始祖王を救ったのが初代の聖クレア様だったね。
「伝説級でなくとも、聖女なら中和ができる。必然的に、『金の目』とは、闇の力が凝縮されたものだろうと推測できる」
私はなんとなく自分の髪の毛に手をやった。
「……金色は闇の色ってことですか?」
「そうとも限らん。君の髪の毛は闇と無関係に、もともとの色素がそうなんだろう」
「そうなんですか……」
異世界の色素ってよく分からないね。なんで人の髪の毛がアップルグリーンになったり、テカテカのゴールドになったりするんだろう。
「おそらく、『金の目』とは、シンクレア王家の血によって発現する、精霊の作用なんだろう。瞳に金色の精霊が住んでいると考えてくれればいい」
私はなんとなく、自分のドリルロールをきゅっと握ってしまいました。私の髪の毛になにか住んでたらいやだなあ。
「『金の目』に棲む精霊を追い出すのは、少し難しいだろうな。おそらく王族の血か、目そのものか、どちらかがトリガーだろうから、血を全部入れ替えるだとか、目をえぐりとるといった措置が必要になるだろう」
「それはダメだ! 先生、絶対やめてください!」
「分かっているさ。私もそこまでするつもりはないよ」
飛びかかってきたレニャード様を、マグヌス様は上手に抱き上げて、腕の中にすっぽり納めてしまった。
レニャード様を抱っこして、とっても嬉しそうな顔のマグヌス様。
マグヌス様、相変わらずレニャード様が好きだよね。




