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The Feast/Colitas

 あれから早数週間。俺は、色々あってホテルにずっと滞在していた。

 翌日の朝早く、室内に陽光が差し込む頃に目覚めて、仕事に行こうと支度を始めたあたりから、時折記憶が曖昧になっている。

 一体何が起こっているのか、不安な気持ちはあるが、しかしなぜか、俺はそれよりもたった今の悦楽を貪っていた。

 仕事は、上司に仮病を使って休んだ。もう長い間、あの憎たらしい皺だらけの顔を見ていない気がする。

 俺は、ホテルに泊まった次の日から、眠い時に寝て、食べたいときに食べて、飲みたいときに飲んで、踊りたいときに踊って、聞きたい時に聞いて――と、とにかく堕落した生活を送っていた。

 心の奥底では、早く逃げろ、と警鐘が鳴っているのだが、何故だかそれに従おうとは思えなかった。

 今日も、俺は太陽が天頂に昇ったあたりで体を起こし、昼食を食べに食堂へと向かった。


     *


「祝宴?」

「ええ。宿泊客の皆さんと一緒に、盛大に開こうと思いまして。」


 俺がその話を聞かされたのは、昼食を全て食べ終え、コーヒーを飲んで一息付いた時だった。

 リンダが、丁度俺が座っているテーブルまで来て、こっそりと耳打ちして来たのである。

 

「……それは、いつ開くんだ?」

「今夜です。今夜、十一時頃に、一階のロビーと、バーで。後、中庭も使いますね。」

「随分と急な話だな。」


 しかし、俺にとってその祝宴は在り難かった。ここに来てまだ一か月経つか経たないか、といったところなのだが、もう既に俺は酒が大の好物になっていた。

 そのため、夜も更けた頃によくバーを訪れるのだが、どうにも羽目を外すには雰囲気が落ち着きすぎていて、少し窮屈さを感じていたのだ。

 部屋飲みで良いだろう、と思って尋ねてみれば、それはできないとの事。どうやら部屋飲みで問題を起こす人が後を絶たなかったのだとか。このホテルは酒絡みの問題が多いらしい。

 その点、祝宴とあれば存分に羽目を外せるだろう。かなり良いタイミングでの知らせだった。


「ああ、分かった。俺も参加しよう。」

「有難うございます!」

 

 そう言って、リンダは俺の元から離れる。が、背を向けて一歩歩いたところで、立ち止まり、こちらに向き直った。


「あ、そういえば……。」

「どうした?」

「注文してくださっていたコリタス、届いたのでお部屋に置いておきましたよ。」

「ん、ああ、有難う。」


 そう告げると、リンダは再び背を向け、今度こそ俺の視界からいなくなった。


     *


 昼食の後、俺は部屋に戻って、一人コリタスを愉しんでいた。

 ――そう、ここでもコリタスが好きなように吸えるのだ。それを知って、俺はかなり舞い上がっていた。

 車内にはまだ少し残りがあるのだが、あまり外に出たいとは思えなかった。何故かは分からないが、外に出ようとすると、途端に億劫になってくるのだ。不思議な事もあるものだ。

 俺は、新しく用意されたコリタスを、気の赴くままに貪った。


「……ああ…………。」


 独特の浮遊感が、体を包む。心地よい、このまま寝てしまおうか。

 俺は、コリタスの煙を肺一杯に取り込みながら、ゆっくりと眠りについた。

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