第2話 本物の古川 遥(ふるかわ はるか)
「これが夢なら…そうだ、さっさと
こんな夢を終わらせよう」
"カーンカーンカーンカーン"
電車が来ると告げる甲高い音が鳴る。
遮断機が降り、電車が迫る。
俺は踏切に入ろうと一歩を踏み出す。
その瞬間、音が消え何も聞こえなくなった。
俺はまだ飛び込んでいない。
「あ、あれ…」
目の前を見ると猛スピードで迫っていた
電車がピタリと止まり遮断機の赤い信号の
点滅も止まり、明らかに時間が止まっていた。
「なんなんだ…!時間が進んでたり止まったりっ!」
俺は拳を握り込み怒るように叫んだ。
『悲しい運命を終えたのに、今度は自ら
命を絶つのか?』
後ろから冷たい声色が聞こえ、振り返ると
そこには光るような白い人影が立っていた。
「な、なんだよ…は、はは。次は幻覚が見えてきた…俺は」
『頭がイかれた…とでも言うつもりか?』
冷たい声色は白い人影から発せられた
ものだった。
「は…?お前…なんで…」
『お前さんの言いたいことぐらい分かる。なんだお前は、なぜ俺の言うことが分かるのか、なぜ俺が生きているのか、』
「……!!なんか知ってるのか…!」
『私は…全てを創ったからな』
「創った…?神様とでも言うつもりか!」
『お前さんがそう呼びたいならそう呼ぶがいい』
何が神様だよ…お前が神様なら何故俺は
生まれて、憎まれて殺されなければならなかった!
好きで生まれたんじゃない。たった1人の男の欲で、俺は生まれて…憎まれて…最低の…人生を…
「なら神様よぉ…これはなんなんだ。夢か?それとも死ぬ間際に見てる幻想か何かか?」
『…そのどちらでも無い。これはお前さんの願いを
叶えただけだ』
「願い…?」
『お前さんは"誰も自分を知らない土地に行きたい"と夢を見ていただろう』
「…!!」
『だがお前さんはその夢を叶えられず、自分の責任ではない恨みを持たれ、実の母親に殺された。
つまり可哀想だったから夢を叶え、チャンスを与えたと言うことだ』
「…ぐっ…」
なにがチャンスだ…なんで今なんだ…!俺は今まで
何年も居場所が無くて、痛くて、寂しくて辛い思いをしてきた。誰にも頼る事が出来なくて…それに体に染み付いてる。あの地獄の日々の傷跡も…!
『ふむ、傷跡か…』
「お前…また俺の心を!」
『腕をまくって見なさい』
「…は…?」
俺は恐る恐る腕をまくると
そこには傷跡どころか何もない
綺麗な肌があった。捲るように言われた
腕には小学6年の時に母親に
タバコを押し付けられた火傷の跡が
あった筈なのだ。
「な…なんで…」
俺はもう反対の腕を足を見たりと
思い出せる分の傷を確認するも何処にも傷跡がない。
勿論、あの夜に包丁で複数回刺された腹の傷も。
『だから言っただろう。ここには前の
お前さんを知る人物はいない。
あるのは新しい人生と新しい家族だ』
「新しい人生…?家族?」
『あの地獄の日々はもう無い。この世界では前に殺されたのは
お前さんではなく他人、お前さんは本物の古川 遥だ』
『生きなさい』
神様とやらはそう言い残して消えた。
消えて数秒ぼうっとなり、ハッと気づくと
電車が走り去り、遮断機が鳴り止み
またいつもの雰囲気に戻っていた。