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ギルド・クラッシャー  作者: 森田季節


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5 冒険者アルス

※今回は青年編です。

 アルスは十五歳で冒険者見習いのEランク冒険者になった。


 最初のうちはパーティーにも属さずにちびちびと町の周囲で仕事をした。

 パーティーを組まなかったというより、何の実績もなく、美しい女でもないアルスに興味を示してくれる冒険者なんていなかったのだ。


 それでもアルスには立派な冒険者になるという夢があった。

 おかげで、つらい日々もどにかやっていくことができた。


 地道な特訓や単純な仕事を繰り返すうちに、二年もすると少しは冒険者らしいことができるようになってきた。ある程度たまったお金は自分を育ててくれた孤児院に入れた。


 さらに一年が過ぎて、やっとDランク冒険者にランクアップできた。


 腕も冒険者になった頃と比べるとかなり太くなっていたし、剣技の速さだけならDランク冒険者とは思えないほどのものになった。まだ剣に重さがなくて、なかなかモンスターに致命傷を与えられないのが問題だったが。


 この頃、アルスはギルドに行くたびに、こう言っていた。


「人気のない依頼があれば教えてくれ。受けられるものなら俺が受ける」


 誰もやろうとしない依頼ということは、逆に考えれば、裏で困っている人がいる可能性が高い。


 諸事情でどうしても高い報酬額を出せないとか、時間拘束が長くなってしまうとか、いろんな理由で不人気なんだろうけれど、依頼が出たからには助けを求めている人間がいるわけだ。


 アルスはそういう依頼を積極的にこなすことで、自分の存在意義にしようと思った。


 それはまさに滅ぶ前の村が置かれていた状況とよく似ていたからだった。


 それが家族でたった一人生き残った自分がやるべきことだと考えていた。

 もちろん、妹のナトゥーラの死を素直に受け入れたわけじゃない。もしかしたら、ひょっこりと行方不明の彼女が出てくるかもしれないと思っていた。町にも情報が来ていないか、よく確認もしていた。


 それでも芳しい情報は何もなかった。

 もし肉食性のモンスターに襲われたら死体など残らない。悲しいけれど、それで死が確認できないというのが一番ありそうだった。人間の子供の肉はやわらかくてモンスターも好むという。


 そんな事実を忘れるようにアルスは献身的に不人気依頼をこなしていった。

 そのおかげか、アルスの町での人気は高くなってきた。

 普通、Dランク冒険者なんかにわざわざ意識を向けてくれる人はそうそういないのだけど、アルスは例外だった。


「不人気依頼のアルス」という変な二つ名までつけられるようになった。

 まあ、栄誉と言うべきか難しいところだが、一流ではないDランクの冒険者としては幸せなほうには違いないだろう。


 その評判は冒険者の間でも少しは広まってくれたらしい。


 ある時、アルスが酒場でゆっくりしていると、向かい側の席に座る男がいた。


 だいたいアルスと同い年ぐらいの青年だ。ただし茶髪のアルスと違って黒い髪をしている。まるで女かと思うような優男だった。


「君が不人気依頼のアルス君だよね?」


「そうだけど、君は?」


「僕はエルテッド。冒険者としての実力はだいたい君と同じさ。故郷はここから遠く離れたところ。といっても、身寄りはないから戸籍上の場所ってだけだけど」


 同じぐらいの立場ということは、ひやかしに来たわけではないのだろう。


「今日は頼みがあって来たんだよ」


「頼み? 君が不人気依頼を出したいとでも言うのか?」


「僕とパーティーを組まないか? 似たような実力だから問題はないだろ」


 くったくなくエルテッドと名乗った青年は笑った。


「俺は別にいいけど、そっちにメリットってあるのか?」


「君はとにかく評判がいいだろ。それがメリットさ」


「どういうことだ? 何かしくじるようなことがあって、評判を回復したいのか?」


「そんなにひどいことをしたつもりはないな。パーティーを組むなら信頼できる人と組んだほうがいいに決まってる。お金を盗まれるんじゃないかとかパーティーメンバーに考えながら冒険するのは勘弁だからね。それに強すぎる冒険者と組めば、Dランクの人間なんてバカにされる」


「なるほどな。まあ、そういうことなら」


 一人の冒険者と二人の冒険者ではやれることは格段に変わってくる。安全面も確保しやすい。アルスはエルテッドと組むことに決めた。


「こういう生き方にも意味はあったんだな。なんか報われた気分だ」


「やけにおおげさなことを言うね」


「いや、お前のやってることはただの偽善じゃないのかとか言われることもあったしさ」


 それはアルスが少しばかり気にかけていたことでもあった。


 いくら人のために不人気依頼を受けても、たかがDランク冒険者がやれることなんて知れているという意識はあった。

 それは弱い自分に意味を与えるための言い訳なんじゃないか、そういう気持ちもまったくないわけじゃなかった。


 でも、こうやって自分を受け入れてくれる人間がいるようなら、あながち間違いじゃなかったと思える。


 その日から二人は共同で仕事をすることになった。


 これまではあまり地元から離れることもなかったが、初めて本格的に長旅をして各地を回ることもした。


 各地の町に行ったことでギルドの仕組みも、かなり具体的にわかってきた。


 このカルフィール王国の王都カルフィールにはギルドの本部があって、ここが国の各ブロックをまとめる州都ギルドを管轄している。

 州都ギルドはさらに自分の州にある地域統括ギルドを管轄している。

 この地域統括ギルドの下に小さな町などにある地元ギルドがある。


 一言で言えばピラミッド式の階層構造になっている。

 たとえば州クラスで必要な依頼は州都ギルドが自分の管轄のギルドに依頼を出したりできるし、地域密着系の依頼であれば地元ギルドだけで出せばいい。こうして様々な階層の依頼に対応できるようになっているのだ。


 こんなことが理解できたのも各地をまわったおかげだった。


 おそらく、滅ぼされた村の長老達はこういうシステムも理解してなかっただろう。

 地元の町のギルドで無理なら、たとえば地域統括ギルドに求人を出してもらうように頼むようなことをしてもよかった。そしたら、冒険者を派遣してもらえた可能性はある。

 もちろん、後の祭りだということはわかっている。もう、みんな死んでしまったのだ。


「あのさ、アルスってたまにギルドに入ると厳しい顔になってる時があるよね」


 ある時、ギルドから出たあとにエルテッドに言われた。


「そ、そうなのか……。鏡で見たわけでもないし、あまり気にしてなかったけど……」


「もしかして、ギルドで昔、嫌な目にでも遭った? 冒険者ランクが低いとバカにしてくる奴もいるしね。中途半端なランクの奴に限って、見下してくるんだよね~」


 この調子だと、村が滅んだ話はエルテッドはまったく知らないらしかった。


 実際、小さな村だったし、それ以上の被害が出たわけじゃないから、情報が拡散していないのだ。とくにエルテッドはこのあたりが地元の冒険者でもなかった。


 エルテッドは信頼できるし、このまま黙ったままでいるのはおかしいなと思った。


「ちょっとギルドには思うところがあるんだ。だからってギルド自体を滅ぼしたいだなんて気持ちにはなってないんだけどさ」


 その日、酒場でアルスは自分の村が滅ぼされたこと、酒場で給仕をしていた時に地元のギルド長の話を聞いてしまったことを話した。


「ひどい話だね! ギルドが依頼を握りつぶしただなんて!」


 エルテッドは義憤に駆られたのか、むっとした顔をしていた。


「何割かはしょうがなかったんだと思ってるけどな。たとえば、ドラゴン退治の依頼を五千ゴールドで出しても誰もやってなんてくれない。長期間、村を護衛してくれなんて面倒な依頼、相当なお金が動かないと誰もやってくれなかったさ」


 仮に依頼が受理されても、派遣された冒険者は少数で、おそらく村の運命までは変えられなかっただろう。


 冒険者によく守ってもらっている村はそこにそれなりの予算をかけている。しかし、アルスの村はあまりにも自給自足が強い小さな村だったから、そんなお金もなかった。


「でも、ギルドが奔走してくれれば、少なくとも死者を減らすことはできたはずだよ。剣士一人じゃ無理でも、そこそこの魔法使いが一人でもいれば、魔法でモンスター達を威嚇することだってできた。そしたら、その間に逃げられる人も増えた」


 そういうことはこれまで何度もアルス自身が考えてしまっていた。だけど、イフの話をしても無駄だという結論になってしまって、かえって空しくなってしまうのだ。


 ギルド長がもうちょっと親身になってくれたら、たしかに……。


 見張りの冒険者が村に早く危機を伝えでもしてくれたら、自分の両親も……。


 やめよう。これは建設的な考えじゃない。


「だから、せめて俺は人のためにやれることをしようって思って、冒険者をしてるんだ」


「アルスは本当にいい人だね!」


 皮肉も何もなくエルテッドは讃えてくれた。

 少し、アルスの気持ちが軽くなった。

本日、もう一回更新の予定です。

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