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ギルド・クラッシャー  作者: 森田季節


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4 金のない者は見放される

※今回も少年編の続きです。アルスが冒険者になる決意を示します。

 絶望的な状況の中、父親は我が子二人に言った。


「アルスとナトゥーラ、お前達二人は町のほうに逃げなさい」


「父さんと母さんはどうするのさ!」


 少年は当然そう聞いた。

 でも、それは怖い質問だった。答え次第ではさらに妹のナトゥーラが泣きかねなかった。


 父親は妻の顔を見て、それから互いにうなずき合った。

 もしかすると、もう最悪の事態にはどうするか決めていたのかもしれない。


「父さんと母さんは村の人達を助ける。少し手を貸せば、助かる人はきっとたくさん増えるんだ。建物の下敷きになっている人もいるようだし」


「必ず追いかけるから安心して」


 母親も二人に励ますように言った。


 両親から離れるのも怖かったけれど、ここに残るのはもっと怖かった。


 アルスは妹のナトゥーラの手を引いた。


「行こう、ナトゥーラ」


「うん、わかった……」


 こうして二人は町のほうへ子供ながらの全力で駆けた。


 いくつも後ろから悲鳴が聞こえたが、それは聞かないようにした。聞いたところで、ここから離れるということには何の変わりも生まれはしないのだから。


(長老達はモンスターが襲ってくるかもしれないって考えてた。それが本当になっちゃったんだ……)


 一度、事態が動いてしまったら、もうどうすることもできなかった。


 きっと、人も半分は殺されるだろう。

 建物もそんな立派なものじゃないからモンスターがぶつかればつぶれてしまうだろう。

 畑だって、無茶苦茶にされてしまうだろう。


 本能的に、もうあの村に戻ることはできないと少年は感じとっていた。


 今できるのは妹のナトゥーラの手を引いて、、町へと走ることだ。

 町に着けば誰かが助けてくれるかもしれない。


(少なくとも、ここにいたら一緒に殺されてしまう! 僕には妹を守る義務があるんだ!)


 一時間は黙ったままアルスは走った。

 途中、暗い道で転びそうにもなったけど、我慢した。いつ、背後からモンスターが襲ってくるかわからなかった。


 全力で、全力で走り続けた。


 でも、ふと、違和感を覚えた。


 自分の手が軽すぎるのだ。

 いくら必死だからって、これはおかしい。


「ナトゥーラ?」


 妹の名を呼んで後ろを向いた。


 そこにはもう妹の姿はなかった。


 どこかで手が離れてしまって、そのままはぐれてしまったのだ。


「ナトゥーラ! ナトゥーラ! 出てきてよ、ナトゥーラ!」


 声を上げても何の反応もない。誰も出てきたりはしない。


 大きな失敗だった。逃げることに心を持っていかれすぎて妹の手が離れたことすらわからなかったのだ。

 父親がここにいたら思い切りぶん殴ってもらいたかった。自分を罰しないといけないと思った。


 でも、その父親すらいないのだ。


「今は行くしかないんだ……。ここだって決して安全じゃない……。町に入らないとモンスターに襲われるかもしれない……」


 引き返すか迷ったけれど、少年は町を目指すことに決めた。町への道はナトゥーラだって知っている。無事なら、その道を進むことはできる。


 二時間後、アルスは町にたどり着いた。


 汗が目にしみて、痛かった。


 町で唯一の明かりがついている建物である酒場に走った。

 そこに冒険者がたくさんいるということはどこかで聞いて知っていた。


 ばたんと扉を開けると、客も店員もみんなアルスのほうを見た。


「おや、坊主が何の用だ?」


 客の一人が不思議そうに尋ねた。


「村がモンスターの大群に襲われたんだ! きっとモンスター達が腹をすかせて我慢できなくなってやってきたんだ!」


 客達も騒然とした。


「たくさんの人が殺されてる! お願いだ! 冒険者の人がいたら助けに行ってください! それからモンスターを殺してください! あいつら村を徹底的に荒らしやがったんだ!」


 アルスは床にへばりついて、何度もお願いした。


「お願いします! お願いします!」


 だが、いくら待っても快諾の返事はなかった。


「坊主、気持ちはわかる。でも、モンスターの群れが相手じゃ、冒険者の一人や二人じゃ何もできないんだよ。森にはかなり大型のモンスターも出る」


 客の一人が慰めるように言った。


「とくに俺はCランクの冒険者だ。俺が行っても返り討ちに遭う。最低でも十人は冒険者を集めてこないとどうしようもねえ」


 そんなにすぐに冒険者を集めるなんてできるわけがないのだ。


 結局、村が襲われたことだけは町にすぐに伝えられ、冒険者達と市民の自警団が町の出入り口を固めはしたが、それだけだった。町を守るのが、その時できる精いっぱいのことだったのだ。


 やがて、何人かの逃げてきた村人が町に入ってきて、続報を伝えた。


 大型モンスター達が一斉にやってきて、村が壊滅したこと。

 建物はほとんどすべてつぶされたこと。

 肉食のモンスターが次々と村人の命を奪っていったこと。


 少年が待っていた妹も両親もやってくることはなかった。


 調査の部隊が派遣されたのすら、事件から三日も経ったあとだった。それまではモンスターが残っているかもしれないからということで誰も村に行きたがらなかった。


 そして、村人の半数以上が殺されたり行方不明になっていることがわかった。


 村の中は戦争で略奪されたあとのようになっていて、生き残った者も村を放棄するしかない有様だった。


 両親の死体は見つかった。

 妹のナトゥーラは行方不明のままだった。



 そして、身寄りのない少年も町にあった孤児院にて育てられることになった。

 寮母がやさしい人だったのがせめてもの救いだっただろうか。


 孤児院の経営もそこまで楽ではなかったから、勉強が終わった夕方には酒場で給仕の仕事を手伝ったりした。お金と縁のない生活をしていたアルスだったが、町で暮らすようになってその大切さを実感するようになっていた。


 働いている間は村を失ったことを忘れることもできたから、少年にもよかった。


 けれど、ある日、酒場で働いていた時に、こんな話を聞いてしまうことになる。


「なあ、ギルド長さんよ、やっぱりあの村に兵士を派遣したほうがよかったんじゃないのかい?」


(これは村の話だ!)


 その言葉に思わず、アルスは聞き耳を立てた。

 背は低いからテーブルの後ろでかがめば隠れることができた。


「お前なあ、簡単に言ってくれるよ。あんなのは何重にも無理なんだ」


 ギルド長と呼ばれたほうの小太りの男が言った。


「まず、期間が長すぎるし、派遣する数も多すぎる。まともに村を守るとなれば最低でも十五人は冒険者が必要で、それも期間が漠然とこの季節が終わるまでだなんて話だった。そんな大掛かりな依頼を出したって依頼が充足するわけがない」


「それでも出すだけ出してみればよかったじゃないか」


「依頼を受理した以上は村一つにかかわることだから、ギルド側も冒険者集めに奔走しないとならん。それでまったく充足しなければギルド側の責任問題にもなるんだぞ。そんなのはごめんだ」


「依頼額はどうだったんだい?」


「雀の涙だ。三人や四人の、それもDランク程度の冒険者を雇うのが精いっぱいだな。そいつらを置いていても同じ結果だったさ。ビヒモス一体に叩き潰されただろうよ」


「ふむ、ギルドが身銭を切って冒険者を集めることはできなかったのかい?」


「可能ではあったさ。でも、そんなことをすれば、極端な予算オーバーで上から睨まれる。間違いなくこっちの昇進に響く。だから、最も合理的な判断をとったのさ」


「合理的?」


「依頼をまったくとりあわずになかったことにした。のんびりしていた村がモンスターに襲われてある日消えた、それだけだ」


「それはひどくないか?」


「金のない村が悪いんだ。金さえあればすべて丸く収まってたんだよ」


 テーブルの後ろで少年は泣きそうになった。

 じゃあ、村は最初から邪魔者だったって言うのか。

 ギルドは困ってる人を助けてくれる組織なんじゃないのか。


 お金がないのは知っている。

 お金がなければ何も買えないのはわかっている。


 それでも、せめて、もう少しだけ救いがあったっていいじゃないか……。


「森に住んでいればモンスターに襲われる危険だってこれまでだったあったんだ。そこに住み続けた連中の責任だ。むしろ、依頼を受けなくて本当によかった」


 小太りのギルド長はほっとしたため息をついた。


「数人の冒険者を送ったところで村は滅んだはずだ。そしたら、村を救えなかったギルドという烙印を押されていた。実現できん依頼、まして失敗すると決まっている依頼は最初から存在してくれないほうがいいのだ。達成可能な依頼だけを冒険者に出し、充分な達成数を得る、これこそ冒険者にとってもギルドにとってもいい関係なのさ」


 悔しくて、少年はくちびるを噛んだ。


 そして決意した。


(自分は困っている人がいたら手を差し伸べるような冒険者になってやる!)

次回は夜に更新する予定です。青年になり、冒険者になったアルスの話です。

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