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ギルド・クラッシャー  作者: 森田季節


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3 森の中の小さな村

今回から過去編です。何回か鬱展開っぽいですが、結構ハイペースで進んで現在編に行くと思いますので、しばらくお付き合いください。

 少年は王国西部の深い山の中にある寒村で暮らしていた。


 寒村というのはあくまで都市に住む者の感覚であって、そこに住んでいる者たちは貧しいながらも森の恵みを受けて楽しく暮らしていた。


 年の近い子供達はみんな友達同士だった。そして、一つや二つ年上のお兄ちゃんやお姉ちゃんから多くのことを学んだ。いたずらの方法から、食べられる野草の種類から、自分より小さい子に悪いことはするなとか、本当にいろいろだ。


 ただ、その村は森の中にあったからこそ、昔から大きな悩みを抱えていた。


 それは森の木の実などが減った年に、普段は森から出てこないモンスターが村まで下りてくることだった。


 村人達も無力ではないから、みすみすモンスターの餌食になったりするわけではない。むしろ、角付きウサギを狩って食料にすることだってあった。村人達は自給自足に近い生活をしていた。


 とはいえ、それが可能なのも森との均衡が保たれているからだ。


 もし、森のモンスターが食べる物を求めて一斉に村に殺到したら、小さな村などあっという間に踏みつぶされてしまうに決まっているのだ。


「あれ、長老様は今日もいないや」


 アルスという、その少年は村の集会場に長老がいないことに気付いた。いつも、長老はここに座ってチェスというゲームに興じているものなのに。


「そうだね。なんでだろ」


 ナトゥーラという少年の妹もこくりとうなずいた。

 長老はよく少年達子供グループの遊びにも付き合ってくれていた。新しい遊びを教えてくれることもあった。


 大人と話すより子供と話すほうが楽しいからのう、長老はそんなことをよく言っていた。

 自然と遊び場は長老のいる集会場近くになった。


「あ~、俺、父ちゃんから聞いたぜ」


 アルスより一歳上のシルバが言った。


「なんかさ、今年はモンスターの気が立ってるんだって。それでこのままじゃ危ないから気を静めたり、守りを固めたりしないといけないんだってさ」


「それでなんで長老がいなくなるのさ」


「長老が森に入ってモンスターに交渉するわけにもいかないだろ。だから、森を守る、というか、村を守る冒険者を出してくれって町のギルドに依頼しにいったのさ。俺の父ちゃんも一緒にいったからわかるんだ」


「ふうん。冒険者ってそんなに強いの?」

「強いの~?」


 少年と妹が同時に尋ねた。


「それは強いのもいれば弱いのもいるだろうけど、モンスターよりはだいたい強いんじゃないか? だって、冒険者っていうのはモンスターを退治するのを仕事にしてるような奴らだぞ」


「じゃあ、なかなか強いんだね」


 少年は目をきらきらと輝かせた。今年で十歳だが、町の子供よりもさらに純朴だった。


「いいなあ! 僕も大きくなったら冒険者になりたい!」


「やめとけよ、アルス。冒険者っていうのはすごく危険な仕事なんだ。失敗したらモンスターに殺されるんだぞ」


「だけど、村を守ってもらう依頼てすごくお金かかりそう……」


 妹のナトゥーラは不安そうに言った。

 幼い彼女にも冒険者を雇えば多額のお金がいるということはすぐにわかった。


 だって、使用人を雇っている家なんて、この村のどこにもないからだ。人を雇えばそれだけ高いお金が必要になるのだ。まして冒険者だなんて特別な仕事をする人ならなおさらだ。


「まあ、とにかく大人の事情さ。俺達は気にせず、遊んでたらいいんだよ。それに遊ぶこと以外にやれることなんてないしな」


 シルバは気楽に言った。実際、大人の会話に首を突っ込むと子供はすっこんでろと怒られたりするのだ。


「そうだね、遊ぼう!」

「私も遊ぶ!」


「うん、でも、森に行くのは今日は禁止な。モンスターに襲われるかもしれないからな」


 村人達も子供にわざわざ悲観的なことは伝えないから、子供はこれぐらいのことしかわかっていなかった。


 それに大人もどこかで平和ボケしているところもあった。結局、今の今まで村がモンスターのせいで大きな被害を受けたことなんて歴史が伝わっている範囲には一度もなかったのだ。


 その晩、少年の父親は気難しい顔をして、少年の母親――つまり自分の妻と話をしていた。


「長老様の一行が町に出向いたが、ギルドと話がまとまらなかったらしい」


「やっぱり、お金の問題ですか?」


 妻の言葉に夫も顔を縦に振る。


「村全体を守る冒険者を一定の期間、集めるとなると、最低でも数百万ゴールドはギルドに出さないとダメなんだそうだ。多くの冒険者のスケジュールもこちら優先になるからな」


「そんな金、村では出せませんよ。ほとんど自給自足でお金なんて貯めてないんですから」


 普段、村では商品を金で買う必要を感じていなかった。現金はたまに町に行って、村のものを売って、それで得るのが常だ。たいてい、すぐに靴などを買って消えてしまうが。


「だろ。だから、ギルドとしては動けないの一点張りなんだ」


「それはそうですけど、村一つにかかわることなんですから、そこはどうにかしてほしいですね。州の出張所にお願いしてもいけないんですか?」


 州の出張所には少数ながら王国の軍隊がいるはずだった。


「出張所としても被害の実例がほとんどないから動けないんだそうだ。町から出れば町を守る者がいなくなるしな」


「それは、過去にも冒険者がこの村を守っていたからで……ずっと安全だったという意味にはならないはずじゃ……」


 妻はそこで口よどんだ。どうせ、ここで何を言っても、変わることはないのだ。


「今年は木の実もあまりできてないし、この調子だとモンスター達も飢えてくる。そろそろ対策を立てておかないといけないんだけどな。柵でも作っておくか」


 ため息をつきながら、夫は村の濁り酒を飲む。


「ねえ、モンスターが攻めてくるの?」


 アルスが身を乗り出して尋ねてきた。


「攻めてきたら怖いなって話をしているんだ」


 彼は酒のせいで赤い顔になっていた。


「まあ、これまでも大丈夫だったんだ。きっと、これからも大丈夫だろうさ」


 たしかにその翌日も、その翌々日も村はいつもどおり平和だった。

 豊かというほどではないが、小麦も村人が生きていける程度にはできていた。これまでと変わらない日々が続く、そう誰もが思っていた。


 けれども、一週間後、それが突如として崩れた。


 前触れはないことはなかった。

 わずかに空気の流れがおかしいと、昼から長老が言っていた。

 もっとも、長老もその空気の流れのおかしさが何を意味するものかまでは理解できていなかった。


 なにせ、そんな災厄は一度だって彼らは経験したことがなかったのだから。


 事件が起きたのは、人間が寝静まった時間だった。


 何かどたどたと騒がしい音に、まず村のはずれ、森の出入り口に住んでいる者達が気付いた。


 彼らの家は巨体のビヒモスに蹂躙された。


 そのあとに無数のモンスター達が続いた。


 食料が足りなくなったモンスター達がついに本格的に人間の村を襲ったのだ。


 それはモンスター達にとっても最後の手段と言ってよかった。

 モンスターにもある程度の知能はある。人間を大掛かりに襲えば本格的な討伐部隊が派遣されること、それで多数の犠牲が出ることも知っていた。


 それでもやらねばならないほどにその年は食べる物が森になかったのだ。


 肉食性のモンスターは圧死した村人達の肉に食らいついていく。


 もちろん、生きている人間を見つけてもそれに向かっていった。


 一方で草食性のモンスターは人間の畑を容赦なく荒らした。


 ようやく、人間の悲鳴が上がりだした。


 だが、それはモンスターの蹂躙の音と比べればはるかに小さなものでしかなかった。


 アルスも両親に起こされて目を覚ました。


「アルス! すぐに起きろ! 大変なことになっている!」


 アルスは目を覚ますとすぐに外に出た。


 そこでは顔をよく知っている村人達が何人も倒れていて、森林オオカミに腕をくわえられているものまでいた。


 血のにおいが村に広がっている。夢だと解釈するにはあまりにも五感に飛び込んでくる情報がリアルだ。


 地獄としか言いようのない光景だった。


「怖いよう! 助けて!」


 一緒にいた妹のナトゥーラが泣き出した。


 少年はあまりに怖くて涙も出なかった。


 この村はきっともうおしまいだ。

次回は明日の朝に更新予定です。

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