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ギルド・クラッシャー  作者: 森田季節


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21 黒い鎧

 その日からまた暗黒魔法の練習がはじまった。


 とはいっても、以前のような断食が必要なものではない。横にクロコがついてのマンツーマンのものだ。


「そうね、まずあなたに必要なのは敵の魔法を無効化する魔法かしらね」


「敵の魔法を緩和するものならたしか覚えた気がするけど」


「それだけじゃ、まだ心もとないってコトトは判断したんだと思う。もしかすると、闇の魔法使いがギルドを含めた裏社会で暗躍してるのかも。だったら、もっとしっかりした武装がいる。そうね、防御幕を鎧にまとってみようかしら」


「防御幕?」


「私が試しにやってみるわね」


 クロコはアルスの鎧に手を触れる。


 すると、鋼の光沢をまとっていた鎧の色がいかにも邪悪という黒いものに変わった。


「うわっ! 黒くなった!」


「別にあなたの体に害はないから心配しないで。むしろあなたの体を守るためのものよ。これは敵からの魔法を遮断する力があるの。相手の魔法自体を中止させるわけじゃないから、ものすごい魔法だと防御幕が吹き飛ばされるけど、そんな敵が来たらどっちみちどうしようもないわ」


「なるほど。これで敵が魔法を使ってきても対処できるってことだな」


「そういうこと。まずはこれを覚えて。それであなたが仕事をする前に必ずこれを使いなさい。鎧をこの闇で包んでおけば、あなたの勝率は単純に上がると思う」


 この魔法の練習はかなり時間を食った。

 多少の闇は起こすことができるのだが、すぐにその闇が雲散霧消してしまうのだ。


「これは、闇の魔法使いでもかなり高位の者が使うものなのよね。だから、あなたがやろうとすれば苦労するのは当然のことよ。でも、あなたは強くなりたいんでしょ?」


「当然だ」


 そうしないと死んでいった人の命にも意味が見出せない。


「じゃあ、苦労しなさい。失敗したって死ぬような魔法じゃないし、ひたすら繰り返すのね」


 アルスは自分がまだ未熟だったということを失敗をしながら実感した。

 ある程度、暗黒魔法が使えたのでもう大丈夫だと思っていたが、この調子だと全然そんなことはなかったらしい。


 どんな悪にも負けない力がいる。


 樹海は日も当たらないし、人の往来もないから時間の感覚があいまいになってくる。ずっと長い間、ここにいるような気がしてくる。途中から何日、練習をしているのかアルスはわからなくなってきた。


 クロコも「苦しむことも含めて成功への近道だから」と言うだけで、技術的なことを教えてくれたわけではない。


 そして、何日目からわからくなったある日。


 黒い闇が鎧にまとわりつくようになった。

 その闇は十分以上、そこに留まっていた。


「やっと成功した……」


 食事用の野草を摘みに行っていたクロコが戻ると、すぐにアルスを祝ってくれた。


「おめでとう!」


 おかげでその日の夕食は豪華なものになった。鹿肉の料理がたくさん並んでいる。


「でも、明日から、魔法を安定して使う練習になるけどね」


 結局、問題なく鎧に闇をまとわせることができるようになるまで三日かかった。

 それでも、これで終わりではないのだ。


「次は無関係な人間が仕事に入ってこないようにする魔法も覚えておこうか」


 クロコが手を伸ばすと、猛烈な勢いで霧が発生していく。


 アルスはすぐそばにいるクロコの顔すら見ることができない。


「これで部外者が来ないように防御線を張っておけば、あなたは対象をしっかり狙うことができるわ。狩りをするには完璧でしょ」


「これもけっこう難しいのかな」


「はっきり言って、鎧にまとわせる闇よりはずっと簡単よ。これであなたは完璧な殺し屋になるわ」


「殺し屋になるのが目的というわけじゃないんだけど、でも、結局は殺し屋なのかな」


 悪人に注意してすべてがいいように運ぶなんてことは考えづらい。

 自分はこれからも多くのギルドに巣食う悪を殺していくことになるのだ。そのために、こんな魔法も身につけようとしているわけだ。


 悪に対峙しようとすると、どんどん自分も恐ろしい存在になっていく。アルスは気味の悪さみたいなものも感じた。


(エルテッド、俺は間違ってないよな……)


 たまに現れる迷いを打ち消しながら練習を続けた。


 白い霧を生み出す魔法は二日ほどでアルスのものになった。


 そのほかの魔法もいくつかアルスは習得した。剣士としても魔法使いとしても、これで恥ずかしくない存在になった。


「うん、覚えは悪くないわ。やっぱり、あなたが真剣だからなんでしょうね」


「真剣に生きないわけにはいかないんだ」


 こうして、アルスは自分の仕事をするうえで必要なものをすべて手に入れることができた。


 あとは実際の仕事をするだけだ。


 出立の前日、子弟で少し力の抜けた話をした。この日は練習も休みで、クロコが二人分のお茶を入れてくれた。


「コトトから、ギルドにからむ悪い話はないって言われたら、それが一番いいんだけどな。俺が活躍する場がない世界のほうがいいんだ」


「そんなことはありえないって知ってるでしょ。あれだけ大きな組織ともなれば、利権も多いだろうし、権力のためだけに人を殺すような奴だっているわ」


「そうだな。俺も知ってる」


「ねえ、アルス。怖いなら、やらなくてもいいのよ」


 そのクロコの顔は真面目なものだった。


「どれだけ自分を鍛えてもあなたがやることは危険なことだし、どこかで終わりが来るかもしれない。勝ち続けても、人を殺め続けることになるから、あなたの心身にもいい影響は出ないわ」


「そんなこと覚悟の上でやってるさ」


「でも、あなたが看取ってきた人もあなたが破滅に近い生き方をすることを望んでるわけじゃないってことはわかってるでしょ」


「…………夢で何度か、父さんと母さんに、あと親友にも諭されましたよ」


 自嘲気味にアルスは笑った。


 実際、そうなんだろう。きっとみんな自分が幸せに生きることを願うだろう。命を賭けて復讐しろなんて誰も言わないだろう。


「だけど、俺が強くなったのは、みんなの死を背負って戦うことにしたからなんです……」


 だから、この力はこういうふうに使うしかないのだ。


「うん、わかった。やるだけやりなさい」


 クロコもうなずいてくれた。


「でも、つらくなったら、ここには逃げてきていいわ。帰る場所のない人間はもろいものだから」


「ありがとうございます、師匠」


 アルスはクロコのことを師匠と呼んだ。



 コトトの酒場があるロナスの町に戻ったアルスはギルドの悪人を退治する仕事を重ねていった。


 やがて、いつからかギルドの裏社会では彼はギルド・クラッシャーと呼ばれるようになっていった。

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