20 裏のあるAランク冒険者
アルスは当然、Aランク相当の依頼がないかギルドに確認した。
聞いたのはいつもの女性職員だ。
こちらを気づかってくれるような人間なら信用しても大丈夫だろうと判断したのだ。
Aランク相当の依頼を一人で楽々とこなせればBからAに昇格できるはずだ。
昇格自体はどうでもいいのだけど、Aランクならば報酬額も大幅に増える。そうなれば、とっとと鎧と剣の代金を払える。
「Aランク相当ですか……。その次元のものになると、このギルドでぱっと出せるものはないですね……。ちょっと離れた地域まで行っていただく必要があるかと」
モンスター退治系統の依頼でもAランク相当となると、かなりの上級モンスターということになる。そんなのがうじゃうじゃどこにでもいるわけではない。
「大丈夫だ。旅は慣れてるからな」
「そういえば、キヤリムさんはネイトリア州の生まれでしたね」
そろそろキヤリムという設定のほうにも慣れてきただろうか。
「少し先の村のほうで、大型グリフォンが出るみたいですね」
そのモンスター名にこめかみがぴくりと動いた。
エルテッドを殺したモンスターだ。さすがに同一モンスターということはないだろうが。
「あの、ヘル・グリフォンと大型のグリフォンというのは別種なのか?」
「そうですね……ステータス的に大きな違いはないです。むしろ、個体のサイズによって難易度は変わりますね。今回は大型なんで」
「大型ならAランク冒険者でちょうどいいということか」
「そうです。グリフォンは頭のいいモンスターなので、同士討ちになるようなリスクのある戦いは避けます。相手がAランク冒険者並みの力があるなら向こうも無理をしないので、死亡のリスクも小さいだろうということです」
逆に言えば相手が弱そうなら、それがわかるということだ。
(当時のエルテッドと俺ならグリフォンは問題ないと判断したわけか)
やはり複雑な気持ちにはなる。
「じゃあ、これを受けますよ。グリフォンの首でも持ってきます」
こうしてアルスはグリフォン退治に向かった。
その出没地はかつてヘル・グリフォンと戦ったところとよく似ていた。小高い丘。こういうところにグリフォンは顔を出す。
そこに顔を出したのはあのヘル・グリフォンとほとんど大きさに差のないグリフォンだ。毛の色が違うとは思うが、違いはそれぐらいか。
「やっぱり、あの時の奴じゃないな」
あのヘル・グリフォンを殺したからといってエルテッドが蘇るわけでもないが、もし仇を討てるなら討ちたかった。
アルスはすぐに行動に出た。
そのグリフォンに近づいて、斬りつける。
「グオオオオッ!」
さすがに一撃では絶命せず、グリフォンが声をあげて攻撃を仕掛けてくる。
鋭い爪で引っかかれるが、鎧の性能のおかげでたいしたダメージはない。
また近づいてきたところを剣で迎撃。
さらにグリフォンの傷が深くなる。
あとは立て続けに攻撃に出る。逃げる前に決着をつける。
結局、六回ほど斬りつけたところでグリフォンは絶命した。
「やってみると、あっけなかったな」
きっと、昔の自分なら勝ち目などなかった相手に簡単に勝てた。
これが今のアルスの実力だった。
アルスは街のギルドに戻ると十二万ゴールドの報酬をもらった。
この調子でなら鎧と剣の代金もすぐに払えるだろう。
それと、ランクのほうも無事に上がった。
「これで、キヤリムさんをAランク冒険者に認定しますね」
偽名とはいえ、アルスはAランク冒険者に正式に認められたのだった。
●
二か月ほどの間、Aランク冒険者の依頼をこなして、アルスは鎧と剣のお金を揃えた。
正直なところ、アルスにはこの二か月の日々が楽しかった。いや、その表現は正確ではないか。この二か月はほっとするものだった。
誰かを傷つける必要がないし、嫌な話を聞く必要もない。
(コトトが普通の冒険者の仕事もしろって言った意味がわかったな)
たしかにまともな日常がないまま、ずっと暗殺者みたいなことを続けるのは無理だ。それはほっとしていると感じる自分がよく知っている。
裏稼業で生きてきたコトトはそのあたりの感覚も理解していたのだ。
ただ、コトトもアルスのために動いていてくれてはいたらしく、酒場に行くと「ギルド関係のことを多目に洗ってるわ」と言ってくれた。
そして、無事に鎧と剣の金がたまり、コトトに支払った。
「私が言っていた額より一割ほど多いみたいだけど」
「情報料だとでも思ってほしい」
本当は安心できる環境をくれたことに対する代価だったのかもしれない。
「じゃあ、ありがたく受け取っておく。きっと、Dランク時代のあなたなら五年かかって手に入るかどうかというものだっただろうけど、皮肉なものね」
「それは俺も同感だ。憎しみでずいぶん強くなっちゃったからな」
でも、ずっとAランク冒険者をやっているわけにはいかない。
「ギルドの職員の情報教えてくれ」
「その前に、あなたはクロコさんのところに行くべき。そこであなたのやるべきことを継続できるだけのものを手に入れてきなさい」
これは提案というより命令に近い。コトトがいないと倒すべき敵の情報もないのだから。
「わかった。じゃあ、そうしてくるよ」
こうしてアルスはネイトリア州にある樹海へと向かった。
以前に来た時と比べるとアルスも落ち着いていた。Aランク冒険者の風格も出てきていた。
このまま、まともな冒険者として幸せに生きていけるんじゃないか。そんな甘えみたいな気持ちは湧いてくるたびに振り払った。
多少迷いながらもクロコの工房にたどりついた。
ゆっくりと、少しばかりの緊張をはらみながらドアをノックする。
しばらくすると、クロコが出てきた。
「うわっ! お久しぶり! 元気にしてた?」
クロコはうれしそうな顔を見せてくれた。
「うん。初仕事もちゃんとできた」
「それで今日は何の用なの? まさか会いたくなったから来たということでもないでしょう?」
ゆっくりとアルスはうなずいた。
「コトトが長く仕事をやっていくのに必要な魔法を教えてもらえって。今の俺だとまだ足りないらしい」
「なるほどね」
腕組みしながらクロコはうなずいた。
「わかった。ふさわしいものを教えてあげるわ」




