12 闇の魔法使いとの出会い
それから先、森の最奥部までアルスは進み、そこで二週間生活した後に、一度、里のほうまで下りてきた。
そろそろ、その森での特訓は限界になったからだった。感覚的なものだが、おそらくAランク冒険者ほどの実力が手に入っただろう。
この力があれば、たいていの悪と戦うことはできるだろう。そうそう負けないだろう。それぐらいのことはアルスにもわかっていた。
だが、その確信を得るにはまだ不安なところがあった。
(これって、あくまで肉弾戦の経験だけなんだよな。魔法に対する耐性は何もないままだ)
もし、ギルド内に巨悪がいれば、そいつは身を守るために強力な冒険者を従えているだろう。なんらかの工作のために、魔法使いを配下に従えていてもおかしくない。
ギルド関係者自身が魔法を使ってくることだってありえる。パーティーならほかの誰かが魔法で対処してくれればいいが、一人で戦う以上は、相手がどんな存在でもそれなりに戦えるようでなければならない。
今のアルスは同じ剣士になら、まず負けないとしても、眠りを誘う魔法一つで意識を失ってしまうのだ。優秀な魔法使いからすれば、さほど難しくない敵に見えるだろう。
だとすると、アルスも魔法を学んで、これに対応するしかない。
しかし、魔法を教えてくれる魔法使いなどネイトリアのような寂れた地域にはまったくいなかった。
だが、今更、大きな都市に出ていって、魔法を学ぶとなると、それなりに目立ってしまう。魔法使いというのは独自のネットワークを持っていて、自然と組織の中で把握されてしまうのだ。そして、国家にも管理されることになる。
これはやむをえないことでもある。町の中に得体の知れない魔法使いがうじゃうじゃいたら、治安など守れない。
町一つを火の海にできる者が平然とたくさん紛れ込んでいるというのは国家としては大問題だ。
そこで魔法使いは原則として免許制になっている。というか、魔法を教えてくれる魔法使いなどはすべて国家に登録されていて、そこで教わった者も自動的に登録されるのだ。
となると、非合法活動をするうえで、まともな魔法使いに学ぶということはできないことになる。
ならば、どうするのか。
非合法の魔法使いから魔法を学ぶしかない。
いわゆる闇の魔法使いとか裏の魔法使いと呼ばれる連中だ。どれだけの数がいるのかわからないが、存在していることだけは確かだ。
(でも、そんなのとつながりもないしな……。絶対に特殊なコミュニティを作って、表に出てこないだろうし……。それこそギルドに非合法の魔法使いに教えてもらいたいって依頼を出すわけにもいかないしな……)
アルスはひとまず今後の課題ということにした。
今は第一に冒険者としての実力をさらに上げることを考えていけばいい。成長を止めていいと考えるにはまだまだ早すぎる。
そこでアルスはネイトリアにあるさらに深い森に踏み込むことにした。
そこはエナ樹海と言われているところで、一度入り込めば戻ることすら危ういと恐れられていた。
モンスターの力もネイトリアでも随一と言われている。
ここで本格的にやっていけるようなら、冒険者の能力に関しては申し分ないということだ。行ってみる価値は充分にあった。
アルスはエナ樹海に入ると、木のうろを見つけて、そこでしばらく暮らすことにした。
モンスターの実力はたしかにこれまでで最高峰だった。
小型のドラゴンとすら遭遇することがある。それでも、焦らずに剣を振るえば、アルスはこれにも打ち勝つことができた。攻撃にもキレがあるように思える。
(多分、今ならヘル・グリフォンにも勝てるだろうな)
それも長い戦いの日々の中で感覚的にわかってきた。
相手がどう動くか、動く前からだいたいわかる。先に動くから、敵の攻撃を浴びずにこちらの攻撃を繰り出すことができる。
そして、樹海に入る前よりさらに一段階は成長したなという自己評価を出した頃。
また、珍しい客人と出会った。
「まさか、こんなところで人と会うとは思わなかったわ。といっても、そちらも同じでしょうけど」
それは黒い服を着た女だった。髪の毛はまるで風に吹かれているように、ふわふわと浮いていた。異形の存在と言えた。
(超高位のモンスターか?)
人間に見えるモンスターは能力的にかなり高いと相場が決まっている。
すぐに剣をその女に向けた。
とてもじゃないが、まともな人間とは思えない。本能がこれは危険な存在だと告げている。勝てるかどうかはわからないが、呑気にあいさつをする気にはなれない。
「あらあら、ずいぶんひどい扱いね。私はたしかにまともな存在ではないかもしれないけど、この樹海にいる時点であなただって同類じゃない」
「それはそうだが、お前が禍々しい者だっていうことぐらいはすぐにわかる」
「だから、何なの? 別に禍々しい者ということと、あなたに害をなすことは同じではないでしょう?」
くすくすと、どこか妖艶に女は笑った。
事実、敵意や殺意みたいなものは女から感じられない。樹海に来た者を片っ端から殺戮するような存在など、まずありえないだろう。
「お前は何者だ?」
「聞きたいのはわかるけれども、あなたから名乗るのが筋というものよ」
「冒険者のアルスだ。力がほしくて、ネイトリアの各地を回っている」
「こちらは闇の魔法使いのクロコ。人里で正体がばれると殺されても文句が言えない立場だけど、ここならむしろホームグラウンドだわ」
「お前は人間なのか……?」
「人間だったけれど、今となってはまったくもってどうでもいいことだわ。私、幼い頃に捨てられて闇の魔法使いに育てられたのよ」
ある意味、絶好の相手にめぐりあったかもしれない、そうアルスは思った。
「なあ、魔法を教えてはくれないか?」
「その年から? 長じてから魔法を覚えるのは幼い時よりはるかに難しいことは知ってるわよね?」
アルスは頭を下げた。
「それでも魔法を学びたいんだ」
「訳ありのようね。かなりよくない目的で魔法を覚えたいみたい」
この女になら目的を語っても問題はないだろう。
「俺はギルドに巣食う悪をなくしたいんだ」
それからアルスは自分が村を失った経緯や、仲間の冒険者が殺されてしまったことを話した。
そして、自分はギルドを少しでもいい組織に変えたいのだと。
女は最後までちゃんと聞いてくれてはいたが、アルスの話が一段落すると、くすくすと笑いだした。
「ギルドをつぶすって? いやあ、なかなか、面白いことを言う子ね」
「つぶすとまでは言ってない」
「同じことよ。どんなところにだって悪はあるわ。それを消していけば、たまねぎの皮をすべて剥くみたいに何もなくなる」
女の言うこともアルスにはわかる。ギルドは大きな組織だ。いつだって悪は生まれるだろう。結局、自分のやることは果てのないいたちごっこなのかもしれない。
「けど、面白いのは事実だから、手伝ってあげるわ」
クロコという魔法使いは、アルスに近づくとぽんぽんとその肩を叩いた。
「ほ、本当か?」
「魔法使いは自分の語る言葉に対して誇りを持っているわ。ウソはつかない」
クロコはそう確言した。
「ただし、死ぬ気でやりなさい。闇の魔法使いになるのは普通の魔法使いになるより苛酷よ。もちろん、冒険者よりも何倍もね」
「それでいい」
そのあと、クロコは樹海のさらに奥にある工房までアルスを案内した。
こんなところに屋敷があるのかと思った。そこには獣道さえ通じてないようなところを進まねばならなかったのだ。
「誰にも見つからないことが大事だからね、こういうところに住んでるの。まあ、あなたは樹海に住み着いてたぐらいだから、素質はあるといえばあるわ。おそらく体力も普通の人間の比じゃないんでしょう」
「そのつもりではいるけど、計ったわけじゃないから、どれぐらいかはわからない」
「じゃあ、計ってあげるわ」
そう言うと、クロコはアルスに何やら魔法をかけた。
「ふんふん、なるほどね。アルス、あなたの力を数値化すると、こういうものになるわ。ただし、装備品は除外ね」
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アルス
職業適性:剣士
体力:237
攻撃力:169
防御力:126
素早さ:146
知力: 89
備考:冒険者としてはAランク相当
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アルスの頭にもその数値が入ってきた。
「なんだ、この数字は……」
「闇の魔法使いは能力を数値化して見ることができるのよ。これであなたがどれぐらいのものかもわかったわ」
「といっても、基準値がどれぐらいかわからないけど……」
「Aランク冒険者としてやっていけるぐらいの力はあるのよ。一般的な冒険者なら、そうね、攻撃力も防御力も二ケタ止まりが普通なの。冒険者としてはずば抜けてるほうよ。でも、あくまで普通の冒険者の中ではすごく強いだけだけど」
「そうだな、誰もかなわないぐらいの力がほしい」
「私がその力を授けてあげるわ」
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