ログアウト3
解散から2時間、アデーレは戻ってこなかった。
そうなると次の候補は6日後となる。
まず4人はそれを確認した後、NPCの話題になった。
それに気付いていたのはジオとテンテンだけで、テンテンの推察によれば恐らくはただのNPCであった時期の事も記憶しているのだろう、という事で決着がついた。
そして――
「で、幼女誘拐犯。」
「だれがだ!」
ジオとテンテンは無言ではゼルを指差す。
「ちげーし!」
ゼルはといえば必死で弁明している。ガードと揉めそうだったから連れてきた、と。
しかしながらジオはそれをもさして「幼女誘拐犯」とまたもつっこんでいく。
当の被害者であるうさみみ少女は溜まり場の通路に体育座りをして、むすっと頬を膨らませたままゼルをにらんでいる。
ぶつぶつと何事かを呟いているようなので、モリーティアがそっと近寄って耳をすましてみると…
「セクハラ男コロスセクハラ男コロスセクハラ…」
ちょっぴり物騒なことをいっている。
「ゼルギウス君。これは処刑ものですね。」
「俺の出番ですね。」
モリーティアが立ち上がり、その言葉にジオも立ち上がる。
「ちょ、まてまて、こら、ジオ鎌持つな!モリモリさんも物騒なことを…ちょ、テンテンちゃん?何その指、あ!点穴はやめてー!!」
逃げ回るゼル。モリーティアもテンテンもそのゼルを執拗に追い回す。ジオは鎌を構えて待ち構えるだけだ。
「…ぷはっ…あはははっ」
そこで唐突に笑い始めるうさみみ少女。
その笑い声に4人はぴたりと動きをとめてうさみみ少女に注目する。
「ふふふっ、一体、なんなんですか、君たちは…あはははっ」
一体どこにツボがあったのか笑い転げるうさみみ少女に一同はポカンとしてしまう。
「はひー…いや、ごめんなさい、ちょっと変なツボなもので。」
若干涙目になって、ようやくおさまったかと思うとうさみみ少女は立ち上がりペコっとお辞儀をした。
「すみません、ボクはミサって言います。こんななりですけど、ほんとに子供じゃないですよ?」
ややおさまっていないのか、ミサはゼルをみてぷぷぷと笑いそうになってはこらえている。
ゼルはそんなミサの様子に複雑な表情をしていた。
「でも、ゼルさんの言うとおり、ガードと事を構えるのは得策ではないですね。ありがとうございました。でも、変なとこさわったのは許せません!」
「うぇ、触りたくて触ったわけじゃ。」
複雑な表情でジト目になるゼル。
「ほらやっぱりだ!」
「ぎぃやぁぁぁ!!」
テンテンがミサの言葉を受けてゼルに、トスッ、と指を突き刺す。
それは見事に点穴をついたようで、激痛にゼルが地面を転げまわった。
「あはははは、大丈夫、それいたく感じるだけのやつだから。」
テンテンが腰に手をあてて転げまわるゼルを見下ろしていた。
「で、ミサさん。ちょっとした疑問なんだけど、なんでそんな背なの?たしか…」
「あ、やっぱりそう思いますか?実はですね…」
モリーティアが思い出すように腕を組む。
アバターにも色々種類があるが、ミサのようにほぼ幼女といった体型は設定できないようになっている。
唯一テンテンの種族、ホビニムスがそれに近い背丈を選べるが、ミサはそれよりもさらに小さい。しかもミサの話によれば種族はニムスだそうだ。
ゲームにおいて、アバターは多種多様なものを用意されていたが、その中に一応種族設定の欄があった。
それは一つのテンプレートで、こういうのが選べますよ、というものであったが、一応選ばなければならず、後々種族専用アイテムも出てきたことによって、より充実していった。
種族は主に5つ用意されている。
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ニムス :人間型の基本的な種族。ジオやゼルがこれにあたる。一応ミサとアデーレも。
ホビニムス:小さいのが特徴、種族的には小人族となっている。テンテンがこれにあたる。
エルニムス:ファンタジーといえばこれ、要はエルフの事で、耳長族。モリーティアがこれにあたる。
デモニムス:魔族。肌の色が色々選べるのが特徴。
アニムス :獣人族。いわゆるケモミミが最初からついてくる。
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課金アイテムの中には種族を変更できるサービスや外見を変更できるサービスがあって、それはチケットという形で販売されていた。
それを使用すると、通称美容室という空間にとばされて、そこでは美容師NPCによる手引きで外見や種族を変更できる。
ミサの話によると、例のラグがおきたとき、丁度美容室にいたという。
外見を変更し、最後に身長の設定をしている時にそのラグが起きて、動かなくなったままサーバーとの接続が切れてしまったという。
翌日ログインしたら、やはりジオ達のように違和感を覚えて、同時に自分の身長がありえない事になっていることに気付いたという。
「ふむ…つまりリアルログインが起きた時に美容室に居て、身長の調整バーがバグを起こしたってことなのかな?」
テンテンが推測を発表し、他の3人もそれが妥当な予測だろうとうなずく。
「いやー、幼女じゃん!って思わず叫んじゃいましたよ。これじゃあリア…なんでもないです」
何かをいいかけて口をつぐむミサに、それを問いただしずらい雰囲気を感じて、ジオは話を変える。
「ところでミサさんはどんなスキル振りを?」
「あー…スキル振りですかぁ…ボクは、特化じゃないんですよね…」
うさみみがしおれる。どうやら彼女も特化ではないがためにつらい思いをしたことがあるのかもしれない。
「折角ですから教えてくれませんか?もしかしたらここの誰もとってないスキルとかなら、情報の足しになるかもしれませんし。」
とモリーティア。
「そうそう、ついでに外に出ようとしてたのはなんでかも俺知りたい。」
ゼルが入ってくる。
「んー、ボクは、戦闘栽培マンだよー。メインは鈍器で、土いじり系のスキルと、神秘魔法をちょこっと。あとは気になったのを適当にー」
「おお、これはレアな…」
「あはは、やっぱあんまりいないよね。」
ジオが唸る。
戦闘はともかく栽培系のスキルはあまりメジャーではない。
種を作り出したり、種で攻撃したり、土壌を変化させたり、植物の成長を変化させる事のできるスキルで、その地味さからあまり人気はない。
一部のコアな人達は盆栽を作って競っているという話も聞いた事があったが…
「外に出ようとしたのはね、栽培スキルがどんな効果をだすか知りたかったからなんだ。」
なるほどなるほど、とゼルがしきりにうなずいている。
「でもそれなら居住区の花壇とかでよかったんじゃないかなー?」
そこへテンテンが疑問の声をあげたが、ミサはすぐさま答える。
「いや、さすがにこんな状況でしょ?どんな事になるかわからなかったし、ついでにボクの畑の様子もみたかったからなんだ。」
今度はテンテンがなるほど、とうなずく。
「正直最初ログアウトしようと思ったんだけど、どうせ時間もあるしもう少しこの状況を楽しもうかなって思ったら門のとこでガードのおっさんに止められてね…そこでゼル…だっけ?彼にセクハラされながらも助けてもらったってわけ。」
「おいおい…」
ゼルが苦笑いを浮かべる。
ログアウトの話題が出たのでミサにも自分達の得た情報を話すことになった。
その中で、ミサもまた知り合いがログアウトして戻ってこないことを語る。
一通り話し終えて、ミサはふと思って尋ねてみることにした。
「ところで君たちのスキルは、どうなってるの?」
ミサが4人を順番に見る。
ジオは学者風の服に眼鏡と魔法系のスキルをとっているように見えるがさっき鎌をだしていた。
ゼルは聖騎士っぽい感じ。テンテンはいかにも闘拳士とか拳法の使い手といった風な服や髪型をしていて、モリーティアは…これはたしか最上級の生産系のクラス服だ。
正直ぱっと見ではわからない。
有名プレイヤーや上級プレイヤーなどはぱっとみで伝説級の派手な装備をしていたりするのでなんとなく特化だ、とわかるのだが。
「よし、じゃあ、自己紹介だ。」