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中途半端で何が悪いっ!~ネタキャラ死神による魂の協奏曲~  作者: 八坂
第三章 それぞれの真価、越える、スキル
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神功の目覚め2 ~龍の髭~

 軽功で走る速度は音速を突破しないまでも、周りの景色がぼやけてしまうほどの速度がある。

 ガニス、虎崩、他軽功の所有者は景色が線となるほどの速度で宣夜へと向かう。


「我らが宣夜を襲うなどという愚か者に鉄槌を!」

「応!」


 虎崩の檄に、付き従う者たちが気迫をこめて応える。

 そんな宣夜の面々を頼もしく思いつつも、ガニスは既に煎じて貰った龍の髭の粉が入った袋を握り締める。


(どうかご無事で……!)


 敵は複数、老師が苦戦するほどの相手だというのだから、自分ひとりが突出しても返り討ちに合う可能性がある。そう考えたガニスははやる気持ちを抑えながら虎崩たち宣夜の面々と歩調を合わせていた。


 やがて宣夜の寺が見えてくる。が、あちらこちらから煙が立ち上っているのを目にする一行。

 寺の塀を軽々と乗り越えて彼らが目にしたものは、累々と倒れている修行者達、同じく鬼の面を被った者たち。

 その中心で、気功を纏った老師と、ドス黒い気を纏った鬼面の者が拳を交えていた。


 気功を纏った老師は、いつもの小柄な老人ではない。

 膨れ上がった筋肉と、艶とはりのある肌。顔こそ老人のままだが、そこにいるのは朗らかなアニムスの老人などではなく、屈強な一人の拳士であった。

 だが、その老師も、既に満身創痍といった風情で、一方活力に溢れる鬼面の者との戦いは、果たして防戦一方であった。

 殴り合いにせよ、老師の拳は決定打を欠き、一方で鬼面の者は余裕を持って老師の攻撃を払い、流し、そして出来た隙に強烈な打撃を打ち込んでいる。


 老師が当たり負けしているのは明らかであった。


「老師に加勢せよ!」


 虎崩の掛け声と共に宣夜の五人ほどが、間隙を縫って鬼面の者へと仕掛ける。

 鬼面の者は、それをいとも容易くいなして、逆に反撃を加え、加勢した五人は瞬く間に弾き飛ばされてしまった。


「なんという武功!」


 虎崩が驚嘆の声をあげる。

 鬼面の者へと攻撃を加えた五人は、宣夜の中でもいずれ劣らぬ武功の持ち主達。それをいとも容易くいなすのだから、この者は老師に匹敵する、いやその老師ですら苦戦を強いられる強者。一筋縄ではいかぬと、虎崩は槍を構えた。


「ガニス殿!」


 その虎崩が目配せした先に、二つの人影があるのをガニスも認識した。

 老師と鬼面の者の遥か先、二つの人影が寄り添い足を引きずりながら歩いているのが見えた。

 テンテンと雪月に間違いない。


 雪月がテンテンの肩を借りて、足を引きずりながら歩いているのだ。


 ガニスは虎崩に一度頷いてみせ、軽功で二人の下へ。


「させるものか!」

「貴様の相手は俺だ!」


 その動きを察知した鬼面の者がガニスの行く手を遮ろうとするも、高速の槍が今度は鬼面の者を阻む。


「お前もNPCか……このゲームは厄介なNPCが多くて嫌になる!」

「何を!」


 ガニスの背を見届けた虎崩が鬼面の者に向き直り、間髪入れず槍を突き出した。


 目にも止まらぬ高速の突きは、しかし、鬼面の者を捉える事ができない。

 槍の間を縫って老師が反撃にでるも、その老師の攻撃さえ逆に腕をつかまれ虎崩の方へと投げとばされてしまった。

 

 高速の突きはその時点で中断を余儀なくされ、虎崩は老師を受け止める。


「遅い」


 だが、その瞬間に横手へと周りこんだ鬼面の者が、虎崩のわき腹目掛けて蹴りを放った。


「ぬ……」


 だが、その蹴りは決まる事はない。

 虎崩が槍を地面に突き立てることで蹴りの勢いを殺し、さらに虎崩が受け止めた老師が両手で弧を描くようにその蹴りをいなしたのだ。


「いまじゃ!」

「はっ!」


 それにより体勢を崩した鬼面の者へと老師が組み付き、虎崩がその背後を取って槍の柄で頭部を強打する。


 刹那、鬼面の者は組み付いた老師を、先ほどの老師のように弧を描くように回転させ投げ飛ばし、迫ってくる槍の柄には重心をずらす事によって致命打を避ける。

 老師を投げる事に成功したものの、槍の柄による打撃は、側頭部を強かにうち、そこで初めて鬼面の者は舌打ちをした。


 すぐに距離をとる虎崩と老師。

 一方頭を抑えながら鬼面の者は、より一層ドス黒い気を放って二人を憎悪の篭った目で睨む。


「許さんぞ……!」


 鬼面の者は大きく息を吸い込んだ――



 一方テンテンと雪月に追いついたガニスはテンテンへと龍の髭を煎じた袋を渡す。


「飲めば、いいんだね?」


 テンテンの問いかけにガニスはうなずいた。

 かつて劉崩老師が強大な功を手にしたときも、龍の髭を煎じて飲んだはず。間違いはないはずだった。


 テンテンは自身の鞄から料理用の水を取り出して、ガニスに渡された龍の髭の粉を一気に飲み込む。


「調息を試してみてください」


 飲み終えたテンテンがガニスの言葉に頷いて、その場に胡坐をかいて調息の姿勢をとる。


ドクン!


 その瞬間、心臓が大きくなったような感覚がテンテンを襲い、目を見開いたままかたまってしまった。


「テンテン様……?」


 雪月が訝しげに固まってしまったテンテンを見やる。


「な、これは!」


 続いてガニスが驚きの声を上げていた。

 一瞬固まってしまったテンテンを、次の瞬間黒い鱗のようなものがあっという間に多い、そこにはテンテンの彫像が出来上がってしまっている。


「ガニス様! これは一体!」

「うぅむ……」


 老師の話にはこのような状態になるというようなことはなかった。


(これはまるで、ゼルギウスのような……)


 テンテンを覆っているのは黒い鱗。黒炎赤龍の時にゼルが見せた力。龍の鱗のようなものに覆われたかと思うと、次の瞬間には強大な何かに生まれ変わっていた。そのときの状況と良く似ている、が、ゼルの時はその鱗も一瞬で剥がれ落ちていたのに対し、テンテンを覆っている鱗はそのような様子は見えない。


「ガニス様!」


正体不明の鱗に覆われてしまったテンテンに驚いた雪月が涙目になってガニスに訴えかける。


「あ、ああ……これはおそらく龍の力でテンテン殿の毒を中和しているのだろう」

「本当なのですか!?」


 雪月がキッとガニスに鋭い視線を送る。それに対してガニスは無言で頷くも、ガニスにだって何が起きているかわからないのだ。


 雪月が足を引きずったまま、鱗像になってしまったテンテンの周りを右往左往する。

 ガニスの適当な言葉に納得したとはいえ、敬愛する大師姉への心配はなくなりはしない。


「それよりお前のその足はどうした?」

「え……名誉の負傷、でございます」


 雪月の話によれば、肉薄してきた鬼面の者のリーダー榊と老師の攻防の合間に脱出を試みたのだが、他の鬼面の攻撃からテンテンを庇い負傷してしまったのだという。

 残っていた宣夜の修行者と共にその者を撃退したものの、老師と榊の攻防は激しくなる一方で、足をやられて軽功を使えなくなった雪月は否応なく、テンテンに連れられて少しでも被害の及ばない方へ逃げるしかなかった。

 鬼面の者達は残す所榊だけであったが、宣夜の者達もたった十数名の鬼面の者達と相打ちになり、人員もほとんど残っていなかった。


「この鬼面の者達も、増援がないと決まった訳ではない。今のうちに足の手当てをしておくんだ。テンテン殿を守らねばな」

「そっ、そうですね!」


 雪月はテンテンの隣に同じように調息の構えですわり、一瞬その横顔をみて、調息を開始した。


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