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中途半端で何が悪いっ!~ネタキャラ死神による魂の協奏曲~  作者: 八坂
第三章 それぞれの真価、越える、スキル
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黒炎赤龍

 虎崩と宣夜の一人が両側の壁を入り口へと向けて疾走していく。

 気配を察知した龍がその口に火球を作り始める。その火球の大きさは、体の大きさと比例して巨大なものだ。影が差していた部屋の入り口から光が漏れ始めたことにより、虎崩にも宣夜の一人もその事実を察知して走る速度を上げる。


 虎崩らが入り口に飛び込んだ直後、入り口に火球が放たれて爆発した。


「おおっ! 烈破双龍!!」


 放たれた火球を尻目に、疾走の勢いを殺さずに虎崩が龍へと槍を繰り出す。模倣するように反対側の宣夜も同じように自分の得物を振りかぶっていた。


――ゴオオオオッ!!


 龍は自分の火球が空振りに終わりさらに侵入した二人が自分に刃を向けてきた事に、息を大きく吐いた。


「くっ!?」

「ああっ!」


 二人の攻撃は鈍い音と共にその硬い鱗に弾かれてしまった。空中で体勢を崩してしまった二人はそのまま地面へと落下していく。けれど、その二人は続いて侵入してきた他の宣夜によって受け止められていた。


「すまない!」


 すぐに体勢を立て直し、目の前で動きを止めて一点を見ている龍を見据える虎崩。

 黒炎赤龍が見ている先には二人の人物の姿があった。


 一人は大鎌を構えた紅蓮と漆黒の鎧に身を包んだ男、ジオ。

 もう一人は、青碧と白銀の鎧と剣を身に着けたゼル。


 何故か黒炎赤龍はその二人を睨むように見据えていた。


「な、何かこっちみてね?」


 剣を構えたゼルがおそるおそる周りを見るが、ゼルの周りにはジオしかおらず、他の者はすでに部屋の中に散開している。


「やっぱ俺ら?」

「そうみたいだな……」


 自分達を見据えている龍に、ジオもゼルも武器を構え睨み返す。


――コォォォォォッ


 龍がパカリと口を開けて息を吸い込んでいく。開け放たれた巨大な口に吸い込まれていく周囲の空気が出す風きり音が耳に突き刺さる。やがてその空気は巨大な火球を作り出して収束していく。


「や、やべぇ!」


 龍は二人を睨んだままだ。体積を増していく火球がやがて口の中に納まりきらなくなってそのまま火球をジオおゼル目掛けて勢いも良く吐き出した。ジオとゼルはお互い反対側へと横っ飛びに避けるものの、火球の爆風にあおられて吹き飛ばされてしまう。

 どうにか受身を取った二人だったが、続けて龍が飛翔したかと思うと、二人目掛けて尻尾をなぎ払ってくる。


「危ない!」


 受身を取ったものの、態勢を崩したままの二人に尾撃が迫る。

 が、ガニスが叫ぶと同時に宣夜の数名がそれぞれジオとゼルの前に立ちふさがった。


「硬気功!!」


 かつて、あの場所で骨の矢から守ったテンテンのように、肌を硬質化して体勢を崩したままのジオやゼルの盾となるべく尾撃を迎え撃つ。巨大な龍の尻尾が迫り来る様子は、まるで壁が迫ってくるようだった。


「ぐっ……」


 どうにか尾撃をしのぐ宣夜の面々であったが、硬気功を使用しているとはいえ、巨大な壁が凄まじい勢いで迫ってくるような攻撃なのだから、無傷というわけには行かない。迫り来る壁のような尾を押し返したが、尾撃を受けた者はその場に膝をつく。一方で龍は天井目掛けて飛翔し、今度はその尾を天井へとぶつける。


「避けろ!!」


 ガニスとジオが同時に叫び、別の宣夜が軽功で走り膝をついたものを抱え上げすぐさま場所を移動する。次の瞬間にはそこを龍が天井を尾で打った際に崩れた岩が落ちてきた。

 そのまま部屋の外へと運び出された宣夜はその場で運気調息を始め、回復行動を始めていた。龍の攻撃は外までは至らないようだった。


「よし、回復は部屋の外で! 波状攻撃をかけろ!」


 ガニスの激が飛ぶ。ジオに指示を頼んでおきながら、結局ガニスが大まかに指示を出していて、ジオがすべき事は何もない。

 部屋の中狭しと暴れまわる黒炎赤龍ち、宣夜の面々。闇鬼は宣夜ほど動けるわけではないから、彼らのサポートに回る。そしてアサシンメイド達はサポートと遊撃を行い龍をかく乱していく。

 黒炎赤龍は主に宣夜の攻撃を牽制しながらも、隙があればジオやゼルに向けて攻撃を仕掛けてくる。

 軽功の使えないジオやゼルは最早足手まといにしかならず、けれどガニスの命で、あるいは宣夜の者が自ら進んで彼らの壁になる。何故自分が狙われるのか、そして、ガニスの声があるにせよ何故宣夜の面々が壁に成ってくれるのか、ジオにもゼルにもわからなかった。


 ジオやゼルのそんな思いをよそに壁に成った宣夜の面々は次々に傷つき、部屋の外へと運ばれていく。回復して復帰する人間よりも傷つき倒れていく人間の方が多くなっていき、ジオやゼルの周りから人が減っていく。

 火球、尾撃、それにくわえ、噛み付きやその鋭い爪、時にはブレスを吐いてジオ達の戦力を削っていく黒炎赤龍。宣夜や闇鬼も果敢に応戦し、黒炎赤龍もかなりの手傷を負っていた。


 次々に戦闘不能者が出る中でジオは更に気付き、ゼルは決断する。


 内功は内なるエネルギーを己の体を巡る、武器にすら流し込む事によって体や武器の硬質化を図ったり、威力を増したりする事ができる。


――内功は誰にでもあって、誰にでも使えるもの。その引き出し方さえわかればスキルに囚われる必要もない。


 劉崩老師の言葉が相変わらずジオの頭の中に繰り返し浮かんでくる。

 スキルの組み合わせによって取得する事のできる内力は、ジオやゼルのスキル構成では取得する事は出来ない。存在しないものは使うことは出来ない、それなのに劉崩老師は、まるでジオやゼルにも使う事ができるような言い草をした。


 テンテンや宣夜の使う内力を要した数々の技。


「そうか……」


 ジオは思わず呟いた。

 全く違うように見える、内力を使った技は、果たしてシステムを通せばその仕組みは自ずと見えてくる。


 内力という“エネルギー”を技という“型”に流し込んでその効果を発動させているに過ぎないのだ。


 硬気孔や、武器の威力を上げる内功を使った技はよくよく考えてみればそのメカニズムは強化魔法や、あるいはジオのパワーオブダークネスに良く似ている。

 前者は内功を体や武器に通して強化する技、一方後者は魔力を魔法という“方程式”に当てはめて何か(・・)に変換して強化するもの。


「やってみるか……!」


 ジオは呟くとカバンから触媒を取り出した――


 一方ゼルは、宣夜や闇鬼の面々と共に先の大蛇戦で見せた連携で、モモやモダンと共に龍へと攻撃を続けている。

 けれど、宣夜も闇鬼も程度の差こそあれ、皆軽功を使える。ゼルは強化魔法や回復魔法でサポートをしつつ隙を見つけて攻撃しているような状況であった。

 そして宣夜も闇鬼も理由はわからぬが、ゼルにとって致命傷になりかねない場面でゼルを掴んで回避させたり、時には盾になってゼルを庇い、傷つき、倒れていく。


「かはっ!」

「モモちゃん!」


 ついにはゼルと共に闘っていた闇鬼の女性、モモにまで及ぶ。


「も、問題ない……それにお前をかばったわけではない……」


 顔をしかめながら呻くモモ。しかしその言葉とは裏腹に肩から腹にかけて龍の鋭い爪によって袈裟切りに服の中に仕込んでいたと思しき帷子ごと引き裂かれていて、血がにじみだしていた。


「ま、待ってろ、今回復を――」

「ばかやろ……力を出し惜しみするな……何故我らがお前なんぞをかばっていると……」

「な、なんだって?」


 モモが咳き込むとコポリと血がその口から吐き出される。


「り、劉崩老師が、おま、とジオ様は……」


 そこでモモの言葉が途切れる。


「モモちゃん? モモちゃん!」

「ゼルギウス!」


 モモを抱えるゼルに龍の尾が迫る。そこへガニスが叫びながら飛び出してきて、ゼルとモモを掴むと部屋の隅へと強引に投げ飛ばした。


「ガニス!!」


 投げ飛ばされるゼルの目に、迫る尾に対して無防備なガニスの姿が映し出される。目を閉じ、何かを覚悟したようなガニスの表情がゼルの目に焼きついて、まるで無音映画のように音が無くなる。尾が巻き起こす土煙にガニスは呑まれて――


「ガニスーーー!!」


キィィィィィン!!


 甲高い金属音が辺りに響き渡る。

 次の瞬間、ゼルは背中から壁に叩きつけられて一瞬呻くが、すぐ目の前に迫るモモを受け止めようと手を伸ばした。


「がっ」

「ぐぅ……」


 どうにかモモを掴んだゼルが、彼女を抱きかかえたままで地面を転がる。思いの外着地の衝撃が強く呻くゼルだったが、同時にモモの呻きも聞こえて、生きていることに安堵を覚えていた。


「だれか、モモちゃんを!」


 そのまま応急処置に回復魔法を施すゼルだったが、傷が深く回復しきれない。

 ゼルの声に応えた闇鬼がモモを受け取って部屋の外へと運んでいく。


「迷ってる場合じゃねーか……」


 ゼルはカバンからあの指輪を取り出してそっと指に嵌めて、さきほどまで自分がいた場所を見た。


 そこはまだ土煙がたっていて、状況が見えない。ガニスはどうなってしまったのだろうか。あの金属音は――


「くそっ」


 指輪を嵌めた事により、ゼルのコンソールに浮かび上がるあの紋様。虚空のそれを今度は躊躇わずに押す。


『認証完了、龍人モードへ移行しますか?※一度移行した場合戻せません』


 しかし、次に出てきた選択肢に一瞬だけ躊躇して、けれど承諾ボタンをゼルは押した。


『承諾確認、龍人モードへ移行します。』


ゼルの足元に現れた魔方陣が回転し、ゼルをまばゆい光が包んでいく

その光に、龍が威嚇するように咆哮を上げ、周りの者は何事かとゼルへと注目が集まる。


『アウェイクニング・ドラゴン、スタートアップ、スキャン……コンプリート』


光が収まると、ゼルの全身を黒い鱗のような物が殻のように覆っていた。


(お、おいおい、なんだこれ!)

『モード・ドラゴニムス・マイグレーション……コンプリート』


 ピシリ、と黒い鱗にヒビが入りやがて崩れていく。黒い鱗の殻の中から再び姿を現すゼル。


「え……?」


しかし、姿かたちに変化はなく、ゼルは一瞬とまどってしまった。


『アウェイクニング』


 再びコンソールに文字が表示された瞬間、ゼルの体を力の奔流が走り抜けていく。


「うおおおぉぉぉっ!!」


 力の奔流にゼルが思わず雄たけびを上げると、そのゼルの全身を白い霧のようなものが覆い始めた。


『モード・ドラゴニムス・バースト、初回起動ボーナスとして一定時間スキル値が二倍になります。職業聖騎士によるフォースオブセイクリッドを展開』


 自動的にゼルのコンソールにスキルウィンドウが開き、ゼルのスキルレベル値が二倍に成っている事が表示された。


「これなら……!」


 咆哮した龍をキッと睨んだゼルが、まだ土煙の立つガニスがいるはずの場所へ向けて猛然と走った。


「ジオ!?」


 ゼルのダッシュは土煙をかき消すが、土煙が晴れて、そこに現れた人物にゼルは驚嘆の声を上げていた。

 立ち尽くすガニスの目の前には龍の尾を大鎌で防いでいるジオがいた。そのジオの全身は黒い霧のようなものに包まれている。


「なんだ、それ。聞いてない」

「ジオ、お前の方こそ、それパワーオブダークネスじゃないだろ?」


 ゼルの目線の先にはより一層黒い霧で覆われたジオの持つ大鎌がある。


「話は後だ。やれるか?」

「やってみようか」


 頷きあう黒と白の対照的な霧に包まれた二人。

 次の瞬間、ジオは龍の尾を弾き返す。


 パワーオブダークネスという技は、テスイシュの魔力を借りて身体機能を増幅する技だ。そこから繰り出される攻撃はまさに強力無比。

 けれど、その対価として、効果時間が終了すると共に命のともし火が尽きる。死んでしまうわけだ。

 ではなぜ死ななければ成らないのか。ジオはそこに着目する。


 単純に対価であって、強大な力の代償にテスイシュが連れて行く、とかそういうシステムだからしょうがない、といってしまえばそれまでだ。

 けれど、ジオはこれまで新たにスキルや技を組み合わせて、新しい技を得るたびに、そこに必ず理由付けがあった。


「こうなるから、それがああなって、こういう結果が出る」


 システムをなぞった結果、全く別の答えを出すのだ。それは、相乗効果だったり、変換だったりと様々だが、そこには必ず現実世界と同じように理由付けがあった、少なくともジオはそう考え、実行し、結果が出た。


 そしてまた一つジオは結果を導き出す。


 自らにエンチャントを施す――


 パワーオブダークネスは、一言で言えば魔力で身体能力を強化している、とするならば、魔力を自らにエンチャントしていると置き換えることができる。強化魔法スキルの魔法はそれに近い事を武器などにしているが、ただ一つ強化魔法とパワーオブダークネスの違いをあげれば、それはその対象が、“物”か“人”かということだろう。

 例えば、これは強化魔法ではないがモリーティアの使える神秘魔法の中に重量を軽くするレイズという魔法があるが、あれは個人の所持限界値を上げるものではなく、物の重量を減らすという働きかけをしている。同様に、エンチャント系の魔法は武器や防具に付与することによって力を発揮する。一方で内功は身体にエネルギーを通して身体能力自体を強化する。同様に武器や防具にエネルギーを流しているのも実際にジオはその目で見てきた。武器に魔力を付与するのがエンチャントで、内功は武器に通して強化する事ができるならば、逆に魔力を体内に通して強化する事もできるはずなのだ。

 それを高いリスクで実現しているのがパワーオブダークネスだといえる。


 そしてジオは以前に咄嗟に似たようなメカニズムを実現させているのだ。


――サクリファイスで召喚獣を生命力に変換し、それによって自身を回復したこと


 ジオは実行に移す。ダークネスミストの霧を媒体にしてヘルリフィル・ミストを実現させたように、あるいは骨の竜を拘束したバインディング・ヴェイパーのように、そして、召喚獣を生命エネルギーに変換したように、ジオは魔力を触媒に込め、エネルギーの粒へと変えていく。


「ダークネス・インストール」


 死の魔法を司る黒い魔力でできたエネルギーの球をゆっくりと自身の胸へと押し付けた。


 力の奔流が体中を駆け巡り、その跡を、黒い霧のようなものが覆っていく。


「く………がっ!?」


 それは体がバラバラにさえなってしまいそうな衝撃をジオに覚えさせ、思わず呻いて膝を地に着く。自身を抱きしめるようにうずくまり、体の中から爆発してしまいそうな力の奔流を抑えこもうとジオは体に力を込めた。


 やがて、奔流は収まって、力だけがジオの体に残る。


 そうして、この黒の霧に包まれたジオが出来上がったのだ。

 その力は、ガニスを屠らんとしていた巨大な龍の尾撃をも押さえ込むほどであった。


「いくぞ、ゼル!」

「おお!」


 黒い霧に包まれたジオと、白い霧に包まれたゼル。


 二人は交差するように連続で龍へと攻撃を加えていく。


 やがて、ジオの攻撃がその髭を落とし、ゼルの攻撃がその目を潰す。


 もがき苦しみながら暴れる黒炎赤龍。


「逃げられるぞ!?」


 ゼルが叫ぶと同時に、龍はその部屋のさらに奥の出口へと目にも止まらぬ速さで飛んでいく。

 一瞬の事で虚を突かれる形になってしまったジオとゼルは、その動きに反応できずに、龍を取り逃がしてしまった。


 龍が完全に部屋から居なくなったところで、その出口へジオとゼルは向かったのだが、突如落ちてきた大岩でふさがれてしまうのであった。

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