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中途半端で何が悪いっ!~ネタキャラ死神による魂の協奏曲~  作者: 八坂
第三章 それぞれの真価、越える、スキル
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地下水路捜査隊-撤退-

 剣戟が木魂する。

 水路を流れる水の音を掻き消すような、無数の鋭い剣戟。


 その小部屋では剣を構えた複数の騎士と、斧を振り回す、傷だらけの巨躯の戦士が対峙している。

 

 ワニサンと名乗った、巨躯をもつ異形の戦士は、鎧や皮膚である鱗を砕かれ、あちらこちらから血を流している。それでもその目は死んでおらず、闘気を孕んだその堂々たる姿は対峙する騎士団の面々を怯ませる。


「怯むな! 奴はもう満身創痍のはずだ!」


 中心にいた、他の騎士よりも一層立派な鎧を着用しているジェイドが激を飛ばす。ワニサンと対照的に鎧には傷一つついていない。それというのもジェイド自身はほとんど刃を交えず、部下である騎士達が我こそはとワニサンへと挑むから、ジェイドの出番は中々なかったのだ。けれど、難敵に挑む自身の部下を誇りに思い、より一層気合を込めて檄を飛ばすジェイド。


「おお!」

「我らが団長のために!」


 それを受けて、騎士達の戦意も高揚していき、より激しい波状攻撃がワニサンへと向けられていった。


 次第にワニサンは騎士達に押されていき、ついには膝を地についてしまった。


「いけるぞ! 全員突貫!!」


 ジェイドの命によって、その場にいた全員が剣を構え――


「ダークネスミスト!!」


 そこへ突如として謎の声が響き、騎士団達の視界は闇へと閉ざされる。


「な、なんだ!?」

「突然まっくらに……うわぁっ!?」


 騎士団の後方にいた者から悲鳴が沸き起こる。

 突然視界を閉ざされた事に続き、悲鳴が起こって、ジェイド達ワニサンと対峙していたものにも動揺が走る。


「落ち着け! 落ち着け!!」


 視界を奪われた中にジェイドの声が轟くが、騎士達の動揺は広がっていくばかりだ。


「ぐえぇっ!」


 さらに悲鳴とも呻きともつかない声が最後尾から上がった。


「どけどけーい!!」


 甲高い声と共に、最後尾から騎士達が何かに弾かれるように吹き飛ばされていく。


「とうっ」


 半数が弾き飛ばされたところで、声の主が空中へと飛び上がった。

 視界を奪っていたものが晴れると、傷だらけのワニサンとジェイドの間に小さな少女の姿がある。その少女は腕組みをして仁王立ちになっている。


「おまえはっ!」

「まだまだこれからっ!」


 テンテンがにんまりとした笑顔を見せると同時に、コツコツ、と廊下をゆっくりと歩く二つの足音がジェイドの後ろから近づいてくる。


「邪魔だよ」


 一つの声が響いて、まるで海がわれたように騎士達が見えない力で両側の壁へと叩きつけられていく。


「ぜ、ゼルギウス!? それに……ジオ!!」


 振り返ったジェイドが二人の顔を見て叫ぶ。そのジェイドの目に飛び込んできたのは黒と白、対象のオーラに包まれたジオとゼルギウスの姿だった。それはかつてのジェイドが知っている二人の姿ではない。


「な、なんなんだ……お前達は!?」


 目の前に現れた騎士達をいとも簡単に弾き飛ばしてしまう少女、謎のオーラに包まれた捕縛対象者であるジオと、その傍らにいる同じ聖堂に属するはずのゼルギウス。

 三人に囲まれたジェイドは圧倒されていた。本来であれば上級プレイヤーに匹敵するはずのジェイドが、である。

 それに、ジェイドに及ばないまでも、かなりの力をもっているはずの騎士達も謎の力に抑え込まれて通路の端で呻いている。ちょっとした戦闘ギルドでさえ押さえ込めてしまう戦闘力を持っているはずの騎士団がたった三人の人間の前に圧倒されている。ジェイドは一体何が起きているのか、事態を全く飲み込めないでいた。


「ジェイド、ここは退いた方がいいと思うぞ」


 焦燥に駆られるジェイドに白いオーラに包まれているゼルが呆れた様な顔をして告げる。


「くっ、くそ!」


 “騎士団”の代理団長、とはいえその実は団長である。立場としてはクレアの下ではあるが、カルセドと共にクレアに意見できるほどの高い位置にある。それ故に、騎士団団長としてのプライドもあるし、慢心こそないものの、自分の戦闘力にも、自身が鍛えた騎士団の面々の力にも自身をもっていた。

 しかし、それがたった三人によって崩されている現状はとても認められないものだった。

 それがジェイドの混乱に拍車をかけていく。


「おま、お前、ジオ! 貴様には殺人の容疑が掛かっているんだぞ! 我々と一緒にきて――」

「ほう……」


 叫ぶジェイドのすぐ傍に音も無くガニスが姿を現す。


「なっ、ガニス!?」

「ここは黙って退け、ジェイド」


 短剣を見せ付けるように、ジェイドの前にちらつかせるガニス。


「くっ……」


 歯噛みするも、一瞬の隙を狙ってジェイドはガニスから距離を取った。


「おのれ……覚えておけ……罪人に与し、我が騎士団、延いては我ら大聖堂を敵に回した事を後悔させてやる……」

「おいおい、穏やかじゃないな――」


 憎しみの炎を目に点したジェイドの言葉にゼルがなだめようとするが、次の瞬間、ジェイドは思い切り息を吸い込み、まるで地下水路内全てに響き渡るのではないかというほどの雄たけびを上げた。


「く……これは!」

「全員、退却! 速やかにこの場を離れよ!」


 空間を揺るがすようなジェイドの雄たけびに、騎士団の人間を押さえ込んでいた謎の戒めは解け、自由になった騎士達へとジェイドが命令を飛ばす。

 そのジェイドの声に、戒めが解けると同時に騎士団は波を引くように、あっというまにその場を去っていく。

 

「うぅ……こういうのはあの龍とか雪月ちゃんだけで十分だっての……」


 耳を押さえながら撤退していく騎士団を見送り、ゼルが呟いた。ジオもガニスも、同じように耳を塞いで撤退していく騎士達を見送る事しかできなかった。撤退する前に、と、一矢を報いようとする一部の騎士団もいたが、ジェイドの雄叫びの中、まるで動じずにただ一人仁王立ちするテンテンの威圧感がそれを許さなかった。


「まぁ、退いてくれたんだからそれでいいだろう」


 ようやく耳から手を離したジオがため息をついて誰もいなくなった通路を見渡した。


「そうだね……っと、さて次は」


 テンテンが一度頷いて、それから後ろをくるっと振り返った。


「君は……なんなんだい?」


 またも腕組みをして傷だらけのワニサンの前で仁王立ちになる。


(あ、気に入ってるんだ、あのポーズ)


 そのテンテンを見てジオが呆れたように笑っていた。


「お、俺はワニサン。ここは――」

「今の一体なーにー?」


 ワニサンが言葉を発した事に驚く暇も無く、今度はそのワニサンの後ろから別の声が聞こえてきた。


「モリモリさん!?」

「あ……ジオ!!」


 ワニサンの後ろから姿を現したのは、モリーティア達一行であった。その姿をみたジオは思わず叫び、走り出す。同時にモリーティアもジオへと駆け出していた。


「無事でよかった!」

「ジオも、レイドとかって聞いてたよ! 無事でよかったよー!」


 二人は手を取り合い、部屋の真ん中でお互いを見つめ合う。


「くっ、ジオめ、モリモリさんとイチャイチャして……!」

「あ、ゼルさん!? って、なんですか? その白い霧」


 モリーティアに続いてやってきたサラとミサが部屋にいるジオとゼルに思い思いの言葉を漏らす。


「おお、テンテン様、良くぞご無事で……おい、ガニス、テンテン様から離れるんだ」

「ゼルさん? なんか、雰囲気が違う……」


 スティーブやクララもまた言葉を漏らし、その後ろには喫茶店兄妹であるフレミスとレミィが何だか混沌としつつある部屋の中に一瞬顔を見合わせて同じように苦笑を浮かべていた。


「雄治……」


 そして、最後に登場した人物に、モリーティアとの再会を喜んでいたはずのジオは、かたまってしまう。


「鏡花……?」


 それはかつて、共にこのWWF(ゲーム)を始めた幼馴染、鏡花であった――


-----------------------


 何故ここに彼女がいるのか、ジオは一瞬偽者の可能性を疑い、フレンドリストを開く。

 そして浮かび上がる鏡花の文字が、彼女が確かに、この世界にログイン中である事を示していた。

 アデーレの件やその他のプレイヤーの話でも、ログアウトしたプレイヤーが再ログインしてきたという話はなかった。それなのに、もう何年も姿を現さなかった鏡花が何故今ここにいるのだろうか。

 けれど、ジオがその疑問を考える暇もなく、ガニスとサラの提案により、一行はゼルのコーリングテレポーターで宣夜へと移動する事になった。


「私はここに残り、この場所を守る」


 ワニサンだけはその提案を受け入れず、この場所を、自分がいた場所を守ると言う。


「そっか……じゃあ、これ、使って? 急造品だけど、品質は悪くないから」


 ワニサンの話にモリーティア達も頷いて、一振りの斧をモリーティアが手渡す。


「これは……凄い!」


 その斧を手にしたワニサンが歓喜の声をあげる。かなり気に入ったらしく、その斧をぶんぶんと振るっては、おそらく笑顔らしき表情になっていた。


 ワニサンの手当てをすませ、別れを告げた一行は宣夜へとテレポートし、劉崩老師の勧めで宣夜の一室でお互いの報告をする事になった。


 ジオ、モリーティア、テンテン、ゼル、ミサの面々に加え、鏡花、サラ、クララ、スティーブそして喫茶店兄妹、さらにガニスや雪月、虎崩などNPCを交えてこれまでの事を報告しあう。


「じゃあ、まずは俺達からだな」


最初に口火を切ったのは、ゼルだった。

話は、少し前、ジオとゼルがテンテンの治療のために黒炎赤龍の髭を取りに行くところまで遡る――

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