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中途半端で何が悪いっ!~ネタキャラ死神による魂の協奏曲~  作者: 八坂
第三章 それぞれの真価、越える、スキル
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地下水路捜査隊

 マハリジの広場、その噴水前に多くの全身鎧を着込んだ騎士団の人間が列を成していた。

 等間隔にならんで同じ速度、同じ動きで進んでいくその一団は人目を引いて、あるものは商売の予感に目を輝かせ、あるものは事件の匂いに鋭くその一団を注意を払ってみていた。


「クレア様の命により、地下水路へ逃げたと思しき罪人『ジオ』の協力者、モリーティアの一団の捕縛を遂行する。行け!」


 一団の先頭にいた、より一層豪華な鎧を着た男――ジェイドが書状を広げて読み上げると、片手を振って号令を出す。その号令と共に、一団の一人が広場の噴水中央にある水の噴出す像を動かす。地下深くから響いてくる音と共に、噴水の水が抜けて行き、階段が姿を現した。

 騎士団の面々は次々にそこへと入っていく。


 その様子を困惑した表情で街の人々は見守っている。


「モリーティア……モリモリさんが?」


 一部のNPCの間で、店のお得意様でもあるモリーティアの名が出ていたことに驚きを隠せない者もいるようだった。


「そこの者! 何か情報があれば聖堂か騎士団まで報告するように」

「は、はぁ」


 ジェイドのほかに騎士団の中でも地位の高いところにいるらしき男が呟いた男に強い口調を飛ばしていた。NPCやプレイヤーが見守る中、約50人ほどに及ぶ騎士の一団は噴水の階段へと消えていくのであった。


 地下水路を行く騎士団。

 所々にモリーティア達の痕跡がないか調べながらも驚くほどの速度で最下層へと進んでいく。

 彼らのうち、その半数がガードと並ぶ高い戦闘力の持ち主で、それはゴロー達のような上級プレイヤーであっても、苦戦するほどの強さである。そんな一団は配置されているモンスターをものともせずに進んでいくのだから、モリーティア達とは進む速度がまるで違う。

 彼らが何故、モリーティア及び一部のNPCが混じる非戦闘員を多く抱えた一行に、これだけの精鋭を向かわせたかと言えば、そこには拠点に残って奮戦したアサシンメイド達の功労がある。


 モリーティアを捕らえにきたジェイド達数人の騎士は、モリーティアと二人のプレイヤーの目撃情報を聞きすぐに件の喫茶店へと向かった。

 踏み込んだその先で、まさに隠し通路へ入ろうとしていたスティーブとクララを発見し、即座に喫茶店の兄妹とスティーブ、クララの四名を拘束する。そのままその先に何があるかも聞かず、四人に案内をさせた体でアサシンメイドたちの拠点へと踏み込んだのだ。人質にとるなど騎士にあるまじき、と言われそうなものだが、彼らにとってジェイドを通して行われるクレアの命令は絶対だ。どんな手を使っても遂行すべし、というのがジェイドの教えでもあったし、ましてや罪人に与するものは同胞であろうと許されなかったのだ。


 しかし、彼らがそこへ踏み込んだその瞬間に、閃光と爆煙で視界を奪われ、さらに人質である四名のNPCを丸ごと奪われた上で、応戦してきたアサシンメイドたちには撹乱されるだけ撹乱されてその全てに逃げられてしまった。


 騎士団として、その代理代表として、ジェイドの面目は丸つぶれであった。

 歯噛みしながらも命令の遂行のためにジェイドは捜査隊を編成する。交戦した騎士の話から、アサシンメイド達の能力を聞いたジェイドは精鋭による捜査を決断した。それほどまでに騎士の間でアサシンメイドたちに対する苦戦の声は多かった。


 そして、そのアサシンメイド達の奮戦により、かなりの時間を稼ぐ事に成功したモリーティア達は、騎士団が地下水路へと侵入する前に目的の小部屋へと到達していたのだった。


 地下水路を尋常でない速度で移動する騎士団。

 やがて最下層に到達するのだが、その前から対象者の痕跡はぷっつりと途切れていて、最下層からのローラーを開始する。

 そして見つけたメイン通路からは外れた狭い道。大人が二人ギリギリとおれそうな狭さで全身鎧を着込んだ騎士が十分に働くには一人が限界であろう。


 ジェイドはにやりと笑みを零して二人一組でその狭い道へと騎士を送り込んだ。盾を持った騎士が前に、後ろの騎士がそのサポートをする。この狭い道であれば不意打ちもないだろう。


 程なくして、クレアの命令は遂行され、モリーティアの一行は成すすべなく捕縛される。


 ――はずだった。


「うわあああああっ!」


先頭を行く騎士から悲鳴があがる。同時に轟音。


「な、なんだ!?」

「報告! 謎の怪物が突如襲撃を!」

「怪物!? モンスターではないのか!?」

「わかりません、怪物、としか!」


 剣戟と、その合間に轟音が響いてくる。すでに先頭の騎士達は轟音により舞い上がった砂煙の先で状況が見えない。


――ガアアアアアアアアアッ!!


 獣の咆哮が狭い通路を揺るがす。ビリビリと空気を震わせるようなその咆哮に騎士団の者たちは思わず耳を塞いだ。


「怯むな! 怪物など我らの波状攻撃で撃破せよ!!」


 自身も耳を塞ぎながら、それでも咆哮に負けぬほどの声で騎士団の人間を叱咤するジェイド。


「しかし!」


 それでも悲痛な声を上げる騎士達に、ジェイドは思わず舌打ちをしてしまう。


「ならば私が行こう!」


 腰の剣を抜いて、ジェイドが一喝し通路へと一歩前へでた。


「お……おお、ジェイド様!」

「ジェイド様が剣を抜いた!」


 その瞬間に騎士たちの雰囲気ががらりと変わる。さっきまで悲痛な叫びを上げていた騎士達も、ジェイドが抜き放った一見しても業物といえる剣に注目し、歓喜の声を上げる。


「怪物といえど、ジェイド様の手に掛かれば……!」

「よし、私が怪物を何とかしよう、お前達は私の後へ続け!」


先んじて通路へと侵入していた騎士達も道を譲り、ジェイドは剣を構えたまま悠々と通路を向かっていく。


「ぬ……おまえ、出来そうだな」


 そのジェイドの前に立ちはだかったのは、巨大なワニのような、しかし初めて見る未知の生物。そして、そのワニは人間のように二本の足で立ち、巨大で分厚い鎧をまとって切りかかる騎士を払いのけながらジェイドの前に仁王立ちした。その後ろには崩れた壁と、小部屋のような物が見える。


「なるほど……怪物だ」


 一瞬で小部屋を確認したジェイドは、立ちふさがる小山のようなものを見てひとりごちる。


「怪物……私はワニサンだ。ここは通すなと言付かっている」

「ワニサン…? いや、通してもらおう」

「無理だ。申し訳ない」


 謝意の言葉を並べながらもワニサンと名乗った巨大な怪物はその手に持った斧を振り上げた。


「ぬん!」

「む……」


 鈍い金属音、そしてその金属と金属がぶつかり合った衝撃波で砂埃が舞う。ジェイドはワニサンが振り下ろした斧を真っ向からその剣で受け止めていた。ワニサンにとって予想外だったのか、嘆息が漏れる。


「うおぉぉっ!」


 そればかりか、明らかに体格が違う相手に対し、ジェイドは当たり負けもせず受け止めた斧を押し返していた。

 斧を弾かれた格好になったワニサンは一歩後ずさって、しかし再び斧を構えなおす。

 だが、ワニサンの一歩というのはその巨躯から人間の倍はある一歩で、騎士団の面々にはワニサンが大きくよろめいたように見えた。


「さすが団長!」


 歓喜の声が上がり、突然出現した怪物に驚きを隠せないでいた騎士達の士気が上がり始める。

 小部屋入り口に陣取っていたワニサンが一歩後ずさった事によって、その体と小部屋の入り口にわずかに隙間が出来る。その隙を逃さずに、騎士団でも足の速い物がすかさず部屋へと入り込んだ。


「む……速い」


 有鱗目をギョロリとさせて隙間から入ってきた三人の騎士を見回す。


「どこを見ている!」


 ジェイドが剣を振りかぶって跳躍し、ワニサンへと斬りかかった。


「ぐ……ぅ」


 その一撃にその巨体からは想像もできない俊敏さで反応し、斧で受け止める。だが、やはりジェイドの剣は重く、またも衝撃波が巻き起こり、今度は呻くワニサンが片膝をつき、わずかに後ろへと押されてしまう。


「く、強い……!」


 しかしジェイドも今度は押し切る事ができずに身を翻して着地した。

 入り込んだ騎士達も攻撃のチャンスを窺ってはいるのだが、片膝をつきながら広角のその目はジェイドを含めた四人の騎士の位置を完全に把握していて打ち込む隙を与えなかった。


(まずい……)


 ワニサンは内心焦りを覚えていた。彼ら(・・)にここは誰も通さないと見得を切った手前、今の状況は非常にまずいものであった。自分の巨躯を生かして小部屋を塞ぎ、たとえ今のように押されたとして、彼ら(・・)が向かった入り口を自分の背にするように後ずさっていたから今のところ、そこへの侵入を許すことはない。しかし、その所為でジェイドの後ろにいた騎士達が小部屋へと進入してきていた。流石に彼らすべてが入るわけではないが、状況は劣勢、どれだけもたせられるかわからない。


「こいつはヘルムアリゲーター並みの能力がありそうだな……」


 ワニサンの前では、呟いたジェイドの周りに騎士達がその呟きと共に陣を形成していく。


「貴様が一体なんなのかはわからないが、任務続行のために我らの剣のサビになってもらう」

「やってみせろ」


 ワニサンが斧を再び構え大きく息を吸い込む。

 陣の形成が終わったジェイドは剣の切っ先をワニサンへと向けた。


「ガアアアアアアアッ!!!」

「“騎士団”の名にかけて目の前の敵を排除せよ!!」


 同時に響く獣の咆哮とジェイドの号令により戦いの火蓋が切って落とされた。

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