表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中途半端で何が悪いっ!~ネタキャラ死神による魂の協奏曲~  作者: 八坂
第三章 それぞれの真価、越える、スキル
69/77

地下水路 2

 モリーティア達がサラに連れられてやってきたのは、かつてゴロー達から呼び出しを受けたあの喫茶店であった。

 店に入るなり、あの元気の良い兄妹は真剣な顔になり、店の隅へと手招きをした。


「もう二人くるはずだから」


 サラの言葉に二人は頷いて、店の隅の壁に手をあてると、そこは隠し扉になっていて、壁の一部が横に開いて薄暗い通路が現れた。


「さ、早く。おそらくここにくるまでに姿を見られているでしょうから」


 妹の方が三人をその通路へと促す。その壁は外からは完全に死角になっているから、通路があることを知ることは出来ないだろう。


 三人を送り出した妹――レミィはため息をついて兄であるフレミスに視線を投げかけた。


「おつかれさま、あとは俺が誤魔化すから」

「ありがと、兄さん」


疲れた笑顔を見せる妹に、兄であるフレミスは気付かれないようにため息を漏らすのであった。


一方通路を進むモリーティア達三人はサラを先頭にして早足でそこを歩いていた。


「あの、サラちゃん」


薄暗い通路を進みながら、モリーティアが前のサラに声を掛ける。


「なんでしょう?」

「ここって何?」

「地下水路へ続く道ですよ。アサシンメイド協会が異変後に見つけた……所謂未実装マップの一つです。龍人の都市が現れたと同時に発見の報告がありました」

「そうなんだぁ……てゆか、アサシンメイドって何?」

「えぇと……」


 サラもまた動揺をしていたのだろう。

 つい自分の素性に関わる部分で、モリーティアに秘密にしていた事を喋ってしまっていた。それに気付いた時には後の祭りであったが。


「メイドの伝説に、アサシンメイドというのがあります。アサシンの技能を持ったメイドの事で、情報収集や暗殺などを行う組織に属する人のことです。メイドだと、情報収集もしやすいでしょう?」

「あ、なーるほど、サラちゃんはそこの人と知り合いなんだね!」

「はい……そうです!」


 誤魔化しきったらしい。

 凄い、と目を輝かせるモリーティアをよそにサラも、ミサまでも小さくため息をついていた。


 しばらく進むと小部屋に到着する。そこには数人のアサシンマスクを装着したメイド姿の人物が戦々恐々と言った雰囲気で慌しくしていた。


「あ、サラ!」


そのうち一人が小部屋から出てきたサラに声をかけてくる。


「どうなってるの?」

「全くもって急転直下ですよ……わけがわかりません!」

「そう、まずは情報の整理を。それからモリモリさんとミサちゃんにお茶を」

「あ、はじめましてー! いつもサラがお世話になってますー! ささ、こちらへどうぞー」


マスクを装着しているので表情はわからないが、声の調子からニコやかなのがわかる。


「なるほどー、サラが好きそうな――」

「おい……」


 片目を開けてそのメイドに一声掛けるサラ。


「あ、はは……じゃあ、お茶用意しますからこちらで待っててくださいねー!」


 その一喝で、そのメイドは超スピードで部屋から出て行った。


「じゃあ、まずは情報を整理しましょう」


 モリーティアとミサにお茶が出された事を確認して、サラがそこにいたメイドたちを集めると、彼女らから次々に報告が上がってくる。


 ジオ達の動向、ゴロー一派の動向、各コミュニティや都市の動向、など。

 その情報を整理して、状況を分析していく。


 ジオ達は現在龍泉郷でテンテンの治療のためにレイドボスである黒炎赤龍の下へ。

 闇鬼に目立った動きはなく、唯一ジオ達と同行している闇鬼メンバー達の話があがるだけであった。


 ゴロー達は聖堂に接触し、何やらおかしな事になっていること。

 謎の集団が天空都市イスカへと現れた事。


 聖堂に関しては突如としてジオを殺人罪で手配をし始めたこと、など。


 特にジオの手配に関してはあまりにも突然の事で、前後の状況が把握できていない。そしてジオもまたその事を知らないでいる。ジオに同行しているモダンに連絡しようにも現状レイドボスとの戦闘で連絡が繋がらないでいる。


「おそらくゴロー達の聖堂への接触と同時期のため、何らかのかかわりはあると思うのですが、事実関係を調査中です」

「わかりました、一部のNPCに隠形が効かない可能性があるので気をつけてください」


 サラはかつてグラダンで会った闇鬼の人間を思い浮かべていた。プレイヤー相手には完璧なはずの隠形も、何故か見破ってくるNPCがいる。特殊なスキルでもなく、ただのNPCの特性としてと推測しているがはっきりしたことはいえない。

 とにかく気をつけるに越した事はないのだ。


「で、イスカに現れた謎の集団というのは?」

「はい、全員鬼の面を被っていて、身元が割り出せませんが、唯一全員軽功使いだという事しかわかっていません」

「おそらくNPCではないわね。続けて調査を」

「はい」


 サラが中心となって、次々と情報が処理されていく。

 そんなサラの様子をモリーティアもミサもぽかんとして眺めるばかりであった。


「すごいでしょ? サラ。情報はただ情報なだけでじゃだめで、情報を得たら必ずその情報を分析するっていうのが、私達の師匠の教えなのよ。そしてサラはその分析能力がピカイチなの」


お茶のお代わりを用意しながら、さっきのメイドが微笑んだ。マスクでわからないけれど。


「そこ、無駄なおしゃべりはやめなさい」

「はーい」


おこられちゃった、と自分の額をこつんとたたくメイド。それはとても可愛らしい仕草のはずなのだが、アサシンマスクを被った上からやられると、どちらかというと異様な雰囲気さえあって、モリーティアもミサも苦笑いを零していた。


トントン、トントン


 次々に情報が処理されていく最中、サラたちが通ってきた通路の扉がノックされた。

 その瞬間、アサシンメイドたちに緊張が走る。


「だれかきた――」

「シッ」


 モリーティアが声を上げようとした瞬間、サラが一瞬でモリーティアの脇によって、指をモリーティアの口にそえる。


(敵です)

(えっ?)


 扉がゆっくりと音を立てて開いていく。

 そこから姿を現したのは、スティーブとクララであった。


 だが――


「煙玉を! 可能なら四人の安全の確保! 撹乱して時間を稼いで!!」


 サラの怒号と共に、半数のアサシンメイドが隠形で姿を消し、同時に煙玉が炸裂する。もうもうと煙が立ち込めると共にスティーブとクララの後ろから怒号が飛んでくる。

 同時にモリーティアとミサは何者かに手を引かれて、部屋の外へと連れ出されていく。


――剣戟


 さらに爆音が轟いて、部屋の扉が爆発で吹き飛んだ。

 部屋から煙がもれ出て、そこから傷を負ったメイドに付き添われ、スティーブとクララ、それから喫茶店の兄妹であるフレミスとレミィも出てきた。


「サラ、協会に応援を頼んでおいたが、ここはもうだめだ。一先ずお前は避難を」

「了解、一旦地下水路に身を隠す、あとの処理は任せる」

「わかった、気をつけて!」


 傷を負ったメイドはサラにスティーブらNPCを任せると隠形でその姿を消す。未だ剣戟鳴り止まぬ部屋へと戻っていったのだろうか。


 今のメイドは自分にお茶を入れてくれた人物だったろうか?声も皆似ていたし、顔はマスクで覆われているから判別が付かない。けれど、自分にお茶を出してくれた、異様とはいえお茶目なアサシンメイドのその仕草が脳裏に浮かび上がるモリーティア。


「大丈夫、なの?」

「今は先を急ぎましょう」

「ねぇ、サラちゃ――」


 何かを言いかけたモリーティアはサラの姿をみて、息を呑んだ。


「私は、サラ。アサシンメイドのサラ。これからあなた方を命に代えても守ります」


 そんなモリーティアの様子をよそに、アサシンマスクを被ったままでサラは綺麗なお辞儀を見せた。



 サラたちアサシンメイドが詰め所として利用していた未実装マップの一部は地下水路の中流へと繋がっていた。

 かつてゲーム時代はオブジェクトとしてしか描かれていなかった扉や崩れた場所は、今現実となって通れたり、扉が開いたりする。そういう所を通って、地下水路の中へと進入した一向。

 サラを先頭に、フレミス、モリーティア、クララ、レミィと続き、しんがりをミサとスティーブがつとめる。その中で戦闘が全く出来ないのはモリーティアとクララだけ。フレミスは剣の心得があったし、スティーブはそもそも尾行に気付くほどの能力がある。とはいえ、元がNPCであるし、ガードでもない彼らに多くを期待するのは難しい。いざとなればサラとミサだけでこの一行を守りきらなければならなかった。


「予定の場所までは、そう難しくなくつくと思います。それ以上進むには応援を待たなければ難しいですが……」


 地下水路というだけあって、あちらこちらは水に濡れていて滑りやすいし、元々配置されていたモンスターは中級以上だから、足場の悪い中でそれを撃退しなければならない。じめじめとしたその通路は決して広くは無く、時折吹き抜けのようなものがあるものの、そのほとんどは水の通り道になっているから、人が通れる場所はやはり狭い。けれど、モンスターたちは所構わず、時に水路の水流の中から、時に通路に立ちふさがって、あるいは宙を舞ってくる。


 地下水路は複雑な迷路のように入り組んでいて、どこから敵が出てきても不思議ではない。けれど、所々にモンスターのいない、言ってみれば安全地帯のような場所があって、そこで休憩を取りながら一行はサラが向かう目的の場所へと向かっていた。


「ねぇ、サラちゃん」

「はい?」


 何度目かの休憩を取っているときに、モリーティアがその眉を少し吊り上げながら座って一息ついていたサラの前に仁王立ちになる。


(え、何? 今そんな場合じゃないのに……ないのに! モリモリさん超可愛いんだけど)

「なんでしょう?」


黙ったまま睨みつけてくるモリーティアに、少しだけ顔を赤らめるも、それはアサシンマスクの所為で見えないから、思う存分息を荒げるサラ。


「なんで黙ってたの?」

「……といいますと?」

「もう! アサシンメイドのことだよ!」

「ああ」


 サラが立ち上がり、仁王立ちするモリーティアの顔を真正面に捉える。


「私は、アサシンメイドのサラです。なるべくならその事は明かさないほうが言いから――」

「でも、ジオ達は知ってた。そうでしょう? ずっと考えてたんだ。サラちゃんの言葉、グラダンにいたこと、あの酒場の事とか、ここに来るまでもそう。私だけ、知らなかったんじゃないか、って」


 言葉をつむぐうちに、その口は段々ととんがっていき、その目には少しではあるが涙さえ浮かんでいる。それが、自分だけが知らなかった事に対する悔しさなのか、それとも別の何かなのかは、サラにも、それを見守る周りにも判断する事ができない。


「ええ、そうです。ジオ達は……いわば協力者です。ジオ以外にはスティーブも知っています。クララには知らせていません」

「私には!」

「モリモリさんには、秘匿をお願いしました。アサシンメイドは、メイドでありながらアサシンなのです。諜報が主になりますが、時には手を汚す事もあるのです。ともすれば危険が及びます。ジオ達はまだ対処できますが、モリモリさんは無理でしょう?」

「そうだけど……でも!」


 拳を握り締めて、何が悔しいのか、それとも悲しいのか、モリーティアのその目には堰を切ったように涙があふれ始めていた。


「どこかで切っておかなければならないのです。私はアサシンメイドです。けれど、あなたのメイドでもあるのです。モリーティアお嬢様」

「なんだよ、それ……」

「私は、あなたに初めて出会ってから、あなただけをあるじと決めています。だから、私はあなただけのメイドであり、あなただけのアサシンメイドでもあるのです」

「……」


 サラの告白。そう、これは告白だ。アサシンマスクで表情は見えないが、マスクの間から零れる優しい眼差しがモリーティアをずっと見つめている。そんな優しい眼差しのまま言葉をつむいでいたのだ。モリーティアへの愛を。


「だから、私はあなたを命に代えても守ります」


それから、サラは固唾を呑んで二人を見守っている周りの人間一人一人を順に見て、それからもう一度綺麗なお辞儀をした。


「皆様、先ほどは命に代えても皆様を守る、といいましたが訂正します。私が守るべきはモリーティアお嬢様ただ一人。他の誰がどうなっても、私はモリーティアお嬢様だけは絶対に守りきります。申し訳ありません」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ