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中途半端で何が悪いっ!~ネタキャラ死神による魂の協奏曲~  作者: 八坂
第三章 それぞれの真価、越える、スキル
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神功と魔功 2

 黒炎赤龍こくえんせきりゅう

 龍泉郷に設置されているダンジョン、龍穴洞最奥に住むといわれているボスモンスター。

 しかもこのモンスターはただのボスモンスターではなく、レイドと呼ばれる大人数で攻略する事を目的として作られた超級のボスモンスターである。

 厳密に言えばカンシーンもまたレイドボスモンスターであるが、黒炎赤龍はそれをも越える体力をもっており、さらに彼の龍は空を飛び、動きも早く、また、内力を使った攻撃を繰り出してくるため、その攻撃力は通常のボスモンスターといえど比べ物にならないだろう。

 内力を使用する、ということから、龍を攻略するプレイヤー達もまた内功を使えるものを集めて初めて攻撃が通じ、防御もできるようになる。


 ところが、内功を使えるプレイヤーというのは全体からみれば稀であった。

 何故ならプレイヤーの多くを占める特化型に、内功は付随しない。

 例えばハルおじさんのような騎士であれば、剣、戦闘術、盾、それに身体基本スキルとして筋力、生命力、防衛力、回避力を中心にして、補助としてキックスキル、応急手当などのスキル構成となる。

 しかし内功を得ようと思えば、それとはまったく関係性がないか、あるいは関係性の薄い、料理、ネイチャー、調和等々といったスキルを取らなければならなくなる。そうすると、特化型のテンプレートといわれている強力なスキル構成が崩れてしまう。

 そしてわざわざ黒炎赤龍を討伐しようという者も多くは無かったから、いつしか龍穴洞や黒炎赤龍の事は忘れ去られるようになっていた。

 テンテンがそれを覚えていたのは、いつの日か協力者を得て攻略したいと思っていたからに他ならない。

 いけるものならジオについていきたかったのだが、内力の使えない自分など、足でまといにすらならない。


 ジオとゼル、そしてガニスは虎崩の協力を得て、宣夜の数人の門下生と、さらに闇鬼からモモと名乗るホビニムスとディルと名乗るデモニムスの他精鋭が数名、それにモダンとアサシンメイド協会からも数名やってきて黒炎赤龍の髭を入手するために宣夜を発った。

 慌しく出発したジオ達を見送るテンテンと劉崩老師。

 そのテンテンの目には申し訳なさと寂しさのような色が見えて、劉崩老師もまたそんなテンテンの様子にため息をついていた。


 一方で、ジオ達への同行を打診しながらも、虎崩にその役を奪われ、劉崩老師に留守番とテンテンの世話を命じられた雪月は、ほくそ笑んでいた。


「……予定通り」


 にやりと笑みを浮かべた雪月は、ルンルン気分のステップアンドスキップで廊下を行くと、テンテンにあてがわれた寝室の前に立った。

 すでに湯浴みを済ませ、まだ濡れた艶やかな髪もそのままに寝巻き代わりのローブを着た雪月は、スキップをしてきたからだけではない荒い息遣いを、一度深呼吸することによって落ち着けてゆっくりと寝室のドアをノックする。


「テンテン様……雪月です」


 しばらくの沈黙の後、もう一度ノックするものの中から返事も無ければ物音も無かった。

 

「………」


 無言のまま、中のテンテンの返事を待ってみるものの、返って来る気配もない。


(ちょっとだけ、ちょっとだけだから)


 そっと扉を開けて隙間から中をのぞくと、ベッドの上でテンテンがすうすうと寝入っているのが見えた。


「………はぁー」


 大きく息をついた雪月は肩を落とし、寝室の前から立ち去っていった。


 ガニス達闇鬼がジオを慕うのと同様に、宣夜において大師姐というランクを得ているテンテンは、劉崩老師においても覚えは目出度くて、それに続いて雪月や虎崩以下のテンテンを知る門下生からもよく慕われている。しかしながら、雪月と虎崩に限って言えば少々偏愛とも言えるほどテンテンを慕っていた。それはテンテンが内包する内力にも端を発するのだが、暇さえあれば龍泉郷にやってきていたテンテンは劉崩老師に限らず、雪月や虎崩のクエストも受けたりしていたからだろう。無論、テンテン以外にもそういった人物はいたはずなのだが――


 ともあれ、色々と準備をして、虎崩を離れさせ、念入りに湯浴みまでしたというのに肝心のテンテンはすっかり寝入ってしまっている。


「まぁ、時間はたっぷりありますゆえ……」


 けれど、何かを悟ったように、ふと妖艶な笑みを湛える雪月。その様子を屋根の上からやれやれと肩をすくめて見ているのは劉崩老師であった。


「真昼間だというのに、まったく……若いのはいいんだが、雪月はもう少し精神の鍛錬をせねばのう。魔功の訪れに呑まれてしまわぬように……」


 劉崩老師が廊下を行く雪月から遠い空へと視線を移す。

 真昼の空にかすかに写りこんだ薄い月の下に、小さな小さな黒い雲が現れていた。


 一方、龍穴洞へ向かうジオ達。


 龍穴洞は龍泉郷の山々の一つにぽっかりとその口を開けている。

 その周辺には楓や桜など、様々な木々が植えられていて雅な雰囲気を醸し出していた。

 そんな雰囲気とは裏腹に、龍穴洞事態はごつごつとした岩がむき出しになっていて、雅の中で異彩を放っている。


「我々宣夜が先行し、偵察と雑魚の殲滅を兼任します」


 ガニスの前に傅いた虎崩が一礼すると、虎崩についてきた宣夜の面々もまた同じように膝をつき一礼する。


「たのむ」


 ガニスの一言で、虎崩たちは軽功を発動し、龍穴洞に吸い込まれるように次々に入っていった。


「あの姉弟は、昔からテンテンさんの事が大好きでして。少しばかり功を焦っている様にもみえますが、無茶はしないでしょう」


 虎崩たちを見送りながらガニスが呟く。言われて見れば、雪月も虎崩もテンテンに対する態度だけはなんだか違っていたな、と思い出すジオとゼル。


「ほう、ちゃん様を、か。さっきの若いのは大丈夫そうだが、あの女、姉か? 姉の方には何だか俺の知ってる奴と同じ匂いを感じたぞ」


 ガニスの言葉を受けて、宣夜の拠点で一度会った妖艶な女性を思い出しながら告げるのはカンガルーことモダンである。その傍では、メイド服にアサシンマスクを被った数名の女性がモダンに付従っていた。


「モダン殿、それは、あの(・・)アサシンメイドの事か?」


そのモダンの前を歩くテスのローブを羽織ったホビニムスの女性が振り返って尋ねる。


「うむ、モモ殿はサラと会った事があるのか」

「一度、相見えた事がある。監視の際はただの変態かと思っていたのだが、中々どうして」

「はっはっは、あいつはやるときはやる奴だからな」


 監視とか、一戦交えたような物騒な事を言っている事にジオ達は一瞬呆気に取られていたが、ガニスはそれを気に留める様子も無く高笑いしていた。


「ああ、お前が路地に追い詰められたというあの女性か。流石にジオ様の仲間の方は一味も二味も違うのだな」


 モモと呼ばれたホビニムスの女性の横には対照的に巨躯をもったデモニムスで、同じくテスのローブを羽織ったディルという男が頻りにうなずいてはジオに視線を投げかけていた。


「さ、お前達無駄話はそこまでだ。モダン殿、ジオ様達も、参りましょう」


 ガニスが手振りをして龍穴洞へ進むように促す。


 龍穴洞の内部は基本的に一本道となっていて、人が二人通れる程度の広さの通路を進むと、突如広場が現れ、そこでは中ボスと呼ばれる竜や、アンデッドなどの敵が待ち構えている。それを何度か繰り返していくと、最下層にて待ち受けているのが黒炎赤龍だ。

 これがテンテンの知っている龍穴洞の情報だったのだが、先行する宣夜の面々の力というのはすさまじく、ジオ達がたどり着く前に広場の中ボスも、通路にはびこるモンスター達も皆討伐されていて死屍累々とその骸が転がっていた。


「何か、凄いな……さっきなんかこないだの骨の竜みたいな残骸もあったし」

「あ、あれやっぱそうだよな」


 通ってきた広場の一つには、一面骨が散らばっていた広場があって、ジオもゼルも既知感を覚えていた。


「虎崩を始めとして、劉崩老師が太鼓判を押した宣夜の精鋭ですから、これくらいはしてもらわないと困るでしょう」


 ガニスが涼しい顔で言うが、それはかつてジオ達が苦戦を強いられた相手なのだ。同じものかどうかはわからないし、広場の広さはジオ達が骨の竜に遭遇した場所より手狭であったからそれより大きいということもなかっただろうが、それにしたって、数人掛りとはいえ、中ボスをほぼ瞬殺していく宣夜の手腕はかなりのものである。

 転がったモンスターの死骸を横目に見ながらジオもゼルも宣夜、とりわけ内功の力というものをまざまざと見せ付けられた気分になるのであった。


「内力を引き出せればスキルに囚われる必要はない」


 そんな老師の言葉をジオは思い出しながら先へと進む。

 しばらく進むと、剣戟や打撃の音が響いてくるのが聞き取れた。


「追いついたようですね。少々苦戦しているようです」


その音を聞きつけて、ガニスが腰からナイフを抜いた。同じようにモモやディル、闇鬼の面々もまた戦闘態勢を取り、先へ向かって音も無く駆け出した。

 アサシンメイド達も思い思いの武器を抜いて、その姿を消す。残されたガニスとモダン、それにジオとゼルもまたそれぞれ武器を構えて、先の広場へと走り出した。


 内功を使う宣夜、と言えばどうしても素手とキックスキルというイメージが先行する。それは劉崩老師やテンテン、また榊などが素手をメインにして内功を扱っているからなのだが、宣夜はそれに限らない。剣、刀、弓、棍にいたる様々な武器に内力を通して使う武器の達人集団を指して宣夜と呼ぶ。

 それを体現するかのように、宣夜の者たちは実に多様な武器で敵に攻撃を行っていた。

 虎崩は槍を、そのほかの者も、剣や鈍器、素手などで構え、広場を縦横無尽に動き回る蛇のようなモンスターと対峙していた。


「まさか、こいつが?」


 広場に到着したジオがその姿を見るなり声を上げる。確かに、その巨大な蛇は見ようによっては龍に見えなくもない。ましてその鱗が赤く光っていたのだからよけいに、だ。


「いえ、こいつはまぁ、前哨戦といったところでしょう」

「ガニス様、もうしわけありません、思いの外手間取っています!」


 ジオ達が到着したのを確認した虎崩が、ヘビから目を離さずに叫んだ。


「丁度良い、こいつで我々の連携を試しましょう。少々の怪我ならば、そこのモモやこちらのゼルギウス様が回復することができますし。では、ジオ様、お願いいたします」

「えっ?」


 突如として話を振られたジオは思い切り困惑した。


「ここにいる面々はレイドは皆初めてのはず。経験のあるジオ様に指揮を取っていただくのは道理かと」

「は? いやいやいやいや、ちょ、まって」

「敵は待ってくれませんよ?」


 ガニスは爽やかな笑みを残して蛇目掛けて走り出した。


「闇鬼、一番槍が暗器獄殺あんきごくさつのガニス! 推して参る!」


 ガニスが叫びながら高い跳躍を見せて、その頂点に達するところでどこからともなく取り出した数本の短剣を蛇に向けて投げつけた。


「おお! 宣夜、虎斬槍滅こざんそうめつの虎崩! 我が槍を阻むものなし!!」


 ガニスの口上と攻撃に思わず声を上げた虎崩が続いて地を蹴り、宣夜の面々より一歩前へ踊りだすと、凄まじい速さで槍の突きを繰り出した。


 それを皮切りに宣夜の面々が、闇鬼の面々もまた名乗りをあげ、蛇へと突進していく。


「え、ちょ……」

「いいな! こういうの! よっしゃ、聖堂、聖騎士のゼル! 我が剣のサビとなるが良い!!」


 ジオが呆気に取られて完全に置いてけぼりを食らう中で、ゼルもまた周りの調子に合わせて名乗りをあげ、蛇へ向けて走り出していた。


「えええ……」


 面食らっているジオをよそに、すっかり勢いに乗ったレイドパーティの面々。

 虎崩の無数の突きにより鱗にひびが入ると、そこへ的確にガニスが短剣を投げつけてそのヒビを広げていく。

 周りの人間もあるものは内力を通した剣や鈍器で蛇の鱗を打ち砕いていく。


――シャアアアアアア!!


 蛇もまた怒りを露にして広場を縦横無尽に駆け回り、尾を振り回し、牙を光らせて応戦するも、勢いに乗ったガニス達を止める事はできず、ダメージを蓄積していった。


「エンチャントソード! サンダーブレイド!!」

「ならば、水刃すいじん!」

「よし! 虎月宣槍流こげつせんそうりゅう烈破双龍れっぱそうりゅう!!」


 ゼルが自らの剣に雷を付与するのを見た瞬間に、ガニスと虎崩が同時に動いた。

 虎崩が軽功により宙を舞い、槍を軸にして凄まじい速度の回転でで蛇に突進すると、ついにその鱗が砕け体液が噴出し、間髪入れずにガニスの放った水の刃がその傷口を広げる。


「うおぉっしゃあ!!」


 そこへゼルが跳躍し、水と体液にぬれたその傷口へ、思い切り雷を帯びた剣を突きたてた。


――――ッ!!!!


 蛇は声にならない声を上げてあたりかまわず身悶えして暴れまわる。

 ゼルが剣を突きたてた傷口から、何かが蛇の体内を駆け巡っているかのように、体の表面にはうろこを押し上げるようにしてイボのようなものがボコボコと突出し、それにあわせるように蛇がのた打ち回った。


「しょっぽーと(ショートテレポート)!」


 のたうちまわる蛇につぶされてはかなわない、とゼルは短い距離をテレポートする魔法を唱え、ジオの傍に戻ってくる。ガニスや虎崩らも軽功を発動させ、のたうちまわる蛇から距離を取った。


 やがて、蛇の動きは緩慢になっていき、地響きを立てながら、その巨体を地に横たえた。


「えぇぇ……」

「ほら、ジオ様、ぐずぐずいているから倒してしまいましたよ」


 ガニスが笑いながらジオの傍までやってきたが、その笑顔はなんだか満足そうだった。


「聖堂もなかなかやるもんですな」

 

 ジオの傍のゼルに視線を投げたガニスは、けれど笑ったままだった。


「てか、俺の出番なかったんですけど」

「ははは、本番では頼みますよ。あの蛇などお話にもならないはずですからな」

「はぁ……」


 動かなくなった蛇に、勝どきをあげるパーティの面々。

 あちらこちらに飛沫となって飛び散った、蛇のどす黒い血は、龍がその広場ごと締め上げるような形に広がっていて、ジオに不吉な予感を覚えさせるのであった。


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 榊は不思議な感覚に襲われていた。

 軽功を発動し、大聖堂から一路“腹切大根”のギルドハウスへ走っていた榊だったが、一向に疲れる感じがしない。既に軽功のための内力ゲージが振り切っているにもかかわらず、だ。


(何故だ)


 内力が尽きるどころか、体の奥から湧き上がるような感覚に、走る速度さえ上がっていた。


(なんだこれは……)


 内力が体の奥からどんどんと湧き上がってくる。その膨大な内力は、確かに榊が欲していたものだが、理由に心当たりがない。


(まぁ、いいか、宣夜の神功とやらも手に入れれば、さらに内力が――)


 そこで榊はふと立ち止まる。


(宣夜の神功……?)


 何故そんな言葉が頭に思い浮かんだのか。自然と出てきたその言葉に榊は考えをめぐらせる。


「宣夜……神功……劉崩老師を殺す……何だこれは!?」


次々に単語が浮かんできては、それが榊の頭を締め付けるように蓄積していって、考えを支配しようとしていく。


「ぐ……」


 片膝をついてうずくまる榊。


「…………」


 何故かはわからない。榊の頭を支配しようとする言葉は、けれどこう囁く


――神功を手に入れれば解放される


 榊は無言で立ち上がり、再び軽功で走り出した。さらに濁りを見せた瞳で――

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