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中途半端で何が悪いっ!~ネタキャラ死神による魂の協奏曲~  作者: 八坂
第三章 それぞれの真価、越える、スキル
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神功と魔功 1

 闇鬼のガニス、そしてジオ。

 軽薄そうなフードの男がもたらしたんふっふ(・・・・)殺しの情報は、ゴロー達を仰天させる。

 特にハルおじさんとメッツの憔悴ぶりは酷かった。

 グラダンの酒場で再会し、親交を温めたはずのジオという人物が、その後でプレイヤー殺しをする。んふっふ(・・・・)はお世辞にもいい人間とはいえないものの、第一次龍の骸調査隊で共に力を振るった仲であるし、それにプレイヤーという同胞でもある。どのような理由があるかはわからないにせよ、流石に殺してしまうのはやりすぎである。それにNPCである闇鬼首領のガニスと手を組んでいるらしい、となれば、聖堂代理人のカルセドがルリ子に告げた「闇鬼の暗躍」というものが、真実味を帯びてくる。

 闇鬼が果たして何を目的としてんふっふ(・・・・)を殺害したのかはわからないし、ジオにしてもそうだ。


「………事情を聞いてみたい」


 憔悴しながら、しばらく考え込んでいたハルおじさんがぼそりと言う。


「何の事情をです? あのウォーロックさんを殺した事情ですか?」


フードの男が相も変わらず軽薄そうにハルおじさんの呟きに反応する。


「彼は地獄戦士(ヘルウォーリア)というネタ職を馬鹿にしたウォーロックを殺すために闇鬼を動かしたのです。まぁ、あのウォーロックさんもテスの祭壇を不当に占拠してましたし、利害が一致したのでしょう。闇鬼の精鋭によりウォーロックさんの仲間は全滅、そのウォーロックさんもガニスとジオによる攻撃により死亡、ということです」

「まるで見てきたような言い草だな」


 淡々と言葉を続ける男に、ハルおじさんが眉間にシワを寄せて睨んだ。


「まぁ、ネタ職と馬鹿にしたくらいで殺されるなんて、世も末ですね。闇鬼もまたコミュニティランクの高い彼を神格化して、救世主とあがめるのですから、手がつけられません」


 ハルおじさんの言葉を無視して、言葉を続けた男は、最後にはケタケタと笑っていた。

 不愉快な顔を隠しもせず、ハルおじさんはその男を睨むが、最後にはため息をつく。


「いずれにせよ事実を確認するのが先だ。私とて、君の言葉を鵜呑みにするわけにはいかない」


 少し冷静さを取り戻してハルおじさんは、ケタケタ笑う男を一瞥して、他の皆に向き合った。


「ごもっとも」


 その言葉に男はうやうやしく一礼するが、フードから見える口角はニタリと吊りあがっている。


「まずは居場所を確認せねば……君はどうも変な情報網を持っているようだが、彼の居場所はしらないのか?」

「残念ながら……しかし闇鬼の拠点であるグラダンにはいないようでしたよ」


 信用しているわけではないが、どうもこのフードの軽薄な男はハルおじさん達とはまた違った情報網をもっている事には、流石に誰もが気付いていた。けれど、居場所まではわからないという。


「なら、聖堂と騎士団に協力を頼むっていうのはどうかしら?」


 そこで声を上げたのがルリ子だ。


「闇鬼と聖堂、ま、テスイシュとイモルトレの対立ってわけじゃないけど、闇鬼が動いてると言ったのは神官のカルセドよ? 何か情報を持っているかもしれない」

「重畳だな、それはいい手だ」


ハルおじさんもその案にうなずきを見せる。


「まぁ、伝えるべき事は伝えましたし、私はこれで失礼させていただきます」


そのハルおじさん達の様子に、相変わらずニタニタ笑いながらも男はまた一礼すると、その場を立ち去っていった。


「聖堂と闇鬼、か……一気にきな臭くなってきたわね……」


その男の後姿を見送ってルリ子が呟く。


「お? なんだ、ルリ子。きな粉が食べたかったのか? 今手に入るかなぁ」

「………馬鹿」


そして、相変わらずのゴローにルリ子は頭を抱えるのであった。


--------------------


 “酔いどれ”榊、酔拳クラスを初めて発見した第一人者であり、ゴローと同じギルドに所属する有名プレイヤーである。

 酒スキルというものがあり、酔いにくくなる、あるいは酒によって得られる効果を倍化するというスキルだったのだが、それに着目した榊は、ついに酔拳というクラスを探し当てた。

 それから彼は、酔拳による拳法でPVP大会でも上位に食い込み、また彼を慕ってくる人間を弟子と定めて、ギルド内でも拳一派として一つの隊を作りそこに君臨している。

 その実力は折り紙つきで、PVPに限らず上級モンスターの討伐や上級ダンジョン攻略において、その身のこなしと破壊力を持った素手、キックスキルと酒スキルの組み合わせにおける強力な技を持って多大なる貢献を果たしていた。

 けれど、榊の場合、その酒スキルに回した分で内力において大きくテンテンに負けていた。

 かつては龍泉郷や龍の背骨を跋扈するテンテンに憧れて素手スキルを育て始めたのだったが、いつのまにか、手数で相手を倒すよりも、素手による破壊力を重視する方向へと傾倒してしまっていた。素手、およびキックスキルはそれ単体では一撃一撃の破壊力は大した事はなく、飽くまで手数でダメージを蓄積するという戦い方なのだが、そこに酒スキルが加わり、酔拳を発動することによって、酔っ払った振りからの体重を乗せた一撃や、酒瓶酒樽を使った攻撃など、一撃が重い技などが確認されたのだ。それゆえに、内力はさほど重要ではないと定めて内功関連のスキルは最低限必要な分しかとらず、内力の大きさまでは考えもせず、酔拳に係わる親和性の高いスキルを取っていった。


 けれど、彼は知ってしまった。


 龍の骸調査隊の偵察隊としてテンテンに参加を促し、テンテンを旗頭にしてそのサポートを行うと言ったものの、心の中ではかつて憧れたテンテンよりも自分の方が優れていると確認したかった気持ちもあった。

 ところが、だ。

 テンテンはその旗頭を断ったばかりか、軽功の新しい使い方を引っさげて自分の目の前でレッドワイバーンを瞬殺した。それは考えもしなかった新しい手法であり、一撃でレッドワイバーンという上級モンスターの頭部を破裂させる破壊力は、まさに榊が欲していたものだった。


「軽功のスピードに、硬気功で十分に硬くした拳や蹴りを叩き込むだけ」


 いとも簡単に言ってのけるテンテンに榊は嫉妬を覚えていた。酒スキルによる酔拳を発見し、これまで研鑽を磨いてきた自分を一足飛びで越していってしまったテンテンに。

 同時に内力の有用性を悟った榊だったが、既に完成された酔拳としての自分のスキル構成を崩す事はできなかった。


 今の自分の酔拳にテンテン並みの内力が備わったなら……


 あの日以来、そう夢想してやまない。

 全体的に能力を下げれば内功関連のスキルを取る事は可能である。だが、完成した酔拳のスキル構成を崩すのはどうしてもできなかったのだ。それに仮にそうしたとして、得られる内功は微々たる物。

 

――内功など無くても酔拳は強い。


 何度も夢想したが、最後にはそこに着地する榊であった。


 ルリ子とゴロー、それにハルおじさん達は聖堂と騎士団に情報を求めて歓談室から出て行った。後に残された榊は、またそんな内功を得られるような方法はないかと夢想してしまう。


「あれ? 皆さんもう動き始めたのですか?」


そこへさっきの軽薄な男が舞い戻ってきていた。


「あ、“酔いどれ”榊さんですね? お噂はかねがね」

「あ、あぁ、ゴローに何か言い忘れたことでも?」


 ぼんやりしていたところに突如として音も無く男が現れたものだから、少しばかり榊は驚いて言葉を詰まらせる。


「ああ、いえ、関係あるかどうかわかりませんが、宣夜はご存知ですよね? かつてガニスもまたあの宣夜の門を叩いたといわれています」

「宣夜を?」

「あ、榊さんは宣夜ではなかったのですか? きちんと劉崩老師の話にも出てくるのですが、なんでもガニスもまた神功を求めたとか」

「神功……?」


聞き覚えの無い言葉に訝しげな顔をする榊。


「まさか、榊さんともあろう人が神功を知らない? 神功は大いなる内なる力。神にも匹敵するといわれている気功のことです。そして宣夜にはその秘法があるとされている」

「そんなものがあるのか?」


「伝説ですよ。けれど、劉崩老師の力を見る限り、嘘と言い切ることもできないでしょう。このゲームは人物、世界、地域、そしてそれらがまとめられた本や口伝によって成り立っている部分もあるのです。とすれば、名前があるものは存在すると考えてもおかしくはないかと。だとすれば、劉崩老師というNPCに神功というスキルが設定されていても不思議ではない。そして存在する以上は会得もできるはず」

「劉崩老師が、それをもっているんだな?」

「わかりません」


 先ほどもそうであったが、この男は肝心な所を決して口に出さない。

 自分で確かめればわかること、と少々上から目線で見られているような気がしてあまり気分の良いものではないと榊が男を睨む。


「まぁ、仮に秘法があったとして易々と渡してくれるでしょうか?」


 そこで初めて男がフードを取って、ニタリと笑いながら榊の方を見た。


「宣夜でもないあなたに、劉崩老師は秘法を渡すでしょうか? いいえ、渡しませんね」


 男は薄笑いを浮かべているのに、その視線は鋭く榊に突き刺さり、そしてその言葉は鐘を打つように榊の頭の中に何度も波紋のように広がっていく。いつしかその男の瞳に魅入られて榊は動くこともできずにいた。


「あなたの仲間を率いて宣夜を滅ぼしましょう。そうすればあなたが欲している膨大な内功を手に入れる事ができるのです。きっとテンテンもあなたを慕ってくれるでしょう」


 それは榊に秘められた内なる願いであった。榊にとって、背骨を飛び回る元気なホビニムスの少女は、憧れであり、同時に認められたい相手であり、そして少年の時のようなときめきを覚える相手でもあった。そして、仄暗い感情も――


「あなたなら劉崩老師を倒すことができる。神功などに頼らずにね」


 動けず放心している榊に男の指が迫る。それは榊の点穴を突いて――


 気がついたとき、榊は歓談室の椅子に座っていた。

 ズキズキと痛む頭に、体中が汗にまみれていて気持ち悪さを覚える。


 何か白昼夢のようなものを見ていた気がするのだが、いまひとつ思い出せない。んふっふ(・・・・)にリアルログインの説明をして、ルリ子たちと共に今後について話していた所へ、あの男(・・・)があらわれ、聖堂と騎士団への協力が決まり、自分は――



「……ああ、宣夜にいかなければ」


 ふらふらと立ち上がった榊は歓談室を出て、仲間の下へと軽功で走り出す榊。

 その目が灰色の霧がかかったように濁っている事に気づくものは居なかった――

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