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中途半端で何が悪いっ!~ネタキャラ死神による魂の協奏曲~  作者: 八坂
第三章 それぞれの真価、越える、スキル
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天空都市イスカ ~内功の傷 3 ~

 結果から言えば、テンテンの内傷は劉崩老師や雪月の見立てよりも酷いものだった。

 気の通り道である経絡の殆どが傷ついており、テンテンの持つ膨大な内力は経穴にとどまって流れていない。内功を使うことはおろか、生きているのも不思議なくらいだという。

 劉崩老師の話によれば、そのテンテンの状態は言ってみれば、血が通っていないのと似たような状況だという。内力というのは言い換えれば生命力の事で、それが体中を血がめぐるのと同じように巡る事で人は息をし、動く事ができるのだという。血液や内臓のめぐりともまた違った生きるために必要なもの、らしい。 

 ところが、今テンテンはそれが流れていない。正確に言えば毒の所為で、これまで膨大な量の内功を通していた道が傷つき、非常にか細くなってしまって、まさに息も絶え絶えという表現がぴったりくるという状況。ここに無理に内功を通そうとすれば、その内力によって経絡が更に傷つき、激痛が走り、内傷は広がってしまうという。

 通常であれば、運気調息や内力の注入によって経絡は活性化され、内傷であっても治癒されるというが、テンテンの今の状況では、運気調息や内力の注入は逆効果になってしまうほど酷いのだという。


 ところが、テンテンの話によれば、自分にかかるバッドステータスなどは一切表示されてはおらず、HPの減少などもみられないが、内功を通そうとすればやはり激痛に見舞われる。しかも、その激痛によるダメージでHPが減ることがない。


(完全にシステム外の出来事だ……)


 その話を聞いて、ふと自分に降りかかった災難と、そこから生まれた自分の新しい技の事に思い至るジオ。

 ジオの場合は、結果的に良い方向へ働いたが、テンテンと戦った毒使い、オウヤンの言う“チート毒薬”により、テンテンは内功が使えないというシステム外でも悪い方の出来事に見舞われている。チート毒薬に関しては、現在闇鬼が分析中とのガニスの話であったが、その毒薬がもしシステム外(・・・・・)のものであれば、NPCである彼らに果たして分析できるのだろうか、という疑問もあった。

 ジオはシステムの過程を使い、システム外の結果を出す事ができるという、システム内外の狭間にいる状態であるが、そこからテンテンの状況を予測する事はできても、何か打開策が思いつくかといえば、そうではなかった。


 錬武が終わり、再びテンテンが寝かされている部屋に呼び戻された劉崩老師とジオ達。

 経絡図、という人体図を広げて、テンテンの状態をその図を指し示しながら事細かに雪月が説明し、その度に劉崩老師からは諦めともつかぬため息が漏れる。二人のやり取りを聴きながら、テンテンの状態がシステムの外にあるという事に思い至ったジオだったが、果たしてそれをここで聞いてもよいものかと迷っていた。


「治るのか?」


 ジオが何かを言いたさそうにしているのを察してか、ゼルが真剣な面持ちで雪月と劉崩老師の顔を見て言うが、その言葉に雪月も劉崩老師も眉間にしわを寄せて腕組みをしてしまう。


「難しい状況なのだよ。ここまで酷いとは思わんかった」


 かすかではあるが内功は通っているし、各所にとどまった内功は、経穴を中心にして経絡の修復を始めている兆しもある。しかし、毒の後遺症なのか、修復する先からまた傷つくのだという。その際にわずかに流れた気がテンテンを生かしているのではないか、と劉崩老師は告げた。


「んん……よくわからんけど、回復する先から毒で元に戻る、って感じか?」

「簡単にいえばそうだ」

「んー…? 何かどっかで聞いた事があるような?」


頷く老師に、またも首をひねるゼル。

 確かにどこかで聞いた事がある、とゼルもまた腕組みをして考え込んでしまっていた。


「とにかく、気脈が寸断されているも同然のこの状況では、せいぜいわしらに出来る事は可能な範囲で気脈を整えてやることくらいだ。内力注入が必要になるかと思い着てもらったが…無駄足を踏ませてすまなかったな」


 老師が立ち上がり、雪月と虎崩、それに一緒にやってきた二人の男女に告げる。その言葉に、雪月も虎崩も難しい顔をしてうつむいてしまう。一方で後の二人は一礼してその場を去って言った。


「……老師」

「だめだ」


 しばらくうつむいて黙りこくっていた雪月が顔を上げて老師をまっすぐにみて何かを言いかけるが、その意図を察した老師はすぐに一喝してしまう。


「しかし老師、それ以外では」

「誰が行くというのだ? 虎崩、おぬしか? それとも雪月? まさか客人にいかせるわけにもいくまいて」


 雪月と虎崩の必死な様子に、ジオとゼルも顔を見合わせて何事かと三人の言い合いをみているが、まったく要領を得ない。


「龍泉郷には、龍がいるのです」

「ガニス!」


 首をかしげているジオとゼルに、ガニスが思わずぼそりと漏らす。それすらも拾い上げて老師は一喝しようとガニスを睨んだ。


「老師、私も、ジオ様も、彼女の傷を治すためにここへとやってきたのです。何か策があるならなんでも試してみるべきかと」

「ガニス! 彼らは内功を使えぬのだぞ!? 仮にそこへ挑むにせよ、足手まといにしかならぬ!」

「そうでしょうか?」


ガニスは立ち上がり、劉崩老師と向き合う。


「確かに、老師の言うとおりです。彼らは内功が使えません。けれど、老師のいう“おかしな力の流れ”というのは、内力に関わるものではないのですか?」

「む……」

「私にはその力はよくわかりませんが、老師が気にするほどのものです。仮に内功が使えなくても、彼らには、少なくともジオ様にはそれに代わる何かがある。そう思ったから直に錬武をしたのでは?」

「しかしそれは……」

「ジオ様、龍泉郷には龍がいます。その龍の髭には気脈を活性化させる効果がある、といわれています」


 口ごもる劉崩老師を尻目に、ガニスが今度はジオにむけてそう告げる。

 二人のやり取りを呆気に取られてみていたジオとゼルだったが、ガニスの言葉に一縷の希望がある事を察して、ガニスと同じく立ち上がった。


「龍からその髭をとってくれば、テンテンさんはもしかしたら?」


 ジオに見据えられたガニスが無言で頷く。


「だめだよ、ガニスさん。ジオくんもゼルくんも早まらないで」


 それまで黙っていたテンテンが台の上で上半身を起したまま、ガニスを睨んで言い放った。


「テンテンさん! 寝てないとだめじゃ――」

「聞いて、ジオくん。ガニスさんが言ってるのは龍泉郷の龍穴りゅうけつ洞にいる黒炎赤龍こくえんせきりゅうのことだよね?」


ジオを制して、まっすぐガニスを見たままテンテンが淡々と続ける。


「まさに、そうだ。わしですら手に余る相手だというのに」

「そりゃそうでしょ、老師様。あれ、レイドだから――」


 テンテンの告げた言葉に、ジオもゼルも一瞬の間を置いて戦慄する。

 その場を完全に沈黙だけが支配してしまっていた。


-------------------------


 んふっふ(・・・・)に、自身が死亡した事は告げず、リアルログイン現象について説明をし終えたゴロー達。そこへ、一人の男が訪ねてきた。


「やぁやぁ、有名プレイヤー達がおそろいで」


 テスのようなフードを被って表情を見せない男が、軽薄そうな声をかけてくる。


「君は?」


 怪しげな姿に、遠慮もなく声をかけてきた人物に警戒の色をあらわにしてハルおじさんが尋ねる。


「なに、ちょっとした情報を手に入れてね。あっちで寝ているウォーロックさんのことでさぁ」


 ハルおじさんの警戒など全く意にも介さず、男はんふっふ(・・・・)を指差して言い放った。


「んふっふの……?」


 訝しげな顔でその男と治療用のベッドで寝入っているんふっふ(・・・・)を見比べるルリ子。


「何、ちょっと小耳に挟んだものでね。死亡者が出たとか――」

「まて、誰から聞いた?」


 警戒していたハルおじさんが、話に割って入り男を睨むようにして見据える。


「おっと、怖いなぁ。ほんとに小耳に挟んだだけですよ?」


 ケタケタと笑う男を、皆が皆怪訝そうに見るが、けれどその男は意にも介さず笑い続ける。

 そもそも死亡した人間を復活させるソウルリターナーがいる場所は大聖堂の目の前。そこは人通りもあれば、ゴロー達にんふっふ(・・・・)とその仲間が運び込まれたと知らせが来た時も、周りに人目はあったから、噂になるのはそう不思議な事でもない。ゴロー達と何のゆかりもないこの男が小耳に挟む事になんら違和感はないはずなのだ。けれど、何故かそこにいたルリ子やハルおじさんは、謎の違和感を感じて、より一層男を警戒する目で見る。


「僕、知ってますよ」


 突然笑いを止めた男が、相も変わらず軽薄そうな声でふとそうつぶやいた。


「殺した人」


 何を、と聞き返す前に男はあっけらかんとして言い放つ。

 一瞬、そこにいたルリ子たちの思考が止まる。


――この男は何を言っているのだろう


 今、目の前の男は何と言ったか。


 殺した人を知っている、と言った――


 では誰を殺したのか?


 んふっふ(・・・・)達以外には死亡者の報告は上がっていない。


「聞かせて」


 落ち着くように一度ほう、と息をついてルリ子が口元をニヤつかせている男に尋ねる。男はニヤニヤとしたまま、一度そこにいる全員、ルリ子、ゴロー、ハルおじさん、メッツ、榊を一巡見回して、黙り込む。


「適当な事を――」

「ほんとですって」


ゴローが少しばかり眉を吊り上げて、男を睨んだ。それにすら微塵も慌てる様子も無く男はまた全員を見回す。そして、ルリ子の所作を真似するように、ほう、と息をついて言葉を続ける。


「殺したのは、闇鬼ガニス。そして、地獄戦士(ヘルウォーリア)のジオ――」

「なに!?」


 思わぬ人物の名が飛び出して、ハルおじさんが掴みかかりそうなほど身を乗り出して男に詰め寄った。


「それは本当なのか!?」


目を剥いて男に詰め寄るハルおじさん。男は動じもせず、目の前に迫るデモニムスの男の顔をじっとみている。


「理由は知りませんけど、二人がかりでそこのウォーロックさんを倒していましたね」

「馬鹿な……何故だ……」


 ハルおじさんが男の言葉にわなわなと肩を震わせながら膝をつく。その拳は固く握られていた。


「待ってください、ハルさん。それを信じるのですか? グラダンであった彼はそんな人には――」

「そうよ、そもそも君はジオという人物を知っているの?」


男の話をそのまま鵜呑みに出来ずにルリ子とメッツが一歩前に出て男を睨んだ。


「いえ、直接には」

「ならば何故、彼の事を知っている? それにいくら伝説のガニスが一緒だとはいえ、んふっふ(・・・・)があの中途半端なネタクラスに後れを取るとは思えん」


 首を振る男に、今度は榊が詰め寄る。


「あはは、手厳しいなぁ。けれど、地獄戦士(ヘルウォーリア)のジオ殿は有名なのですよ?」

「俺はカンシーンの一件が出るまで知らなかった。そもそも俺らのように強いわけではないし、目立ったこともしていないはずだが」


 今度はゴローが顎を手で触るお決まりのポーズをしながら男に詰め寄ってきた。


「まぁ、無理もありませんね。彼は闇鬼において有名人、ということなのですから」

「なに?」


 最初は、自分を助けてくれた男が同じプレイヤーであるんふっふ(・・・・)を殺すはずがない、と肩を震わせていたハルおじさんも、周りの人間のフォローに気を取り直して立ち上がり、他の皆と同じく男を再び見据える。


 男はそんなゴロー達にやれやれと肩をすくめてため息をつくと、もう一度全員の顔を見渡してから呟いた。


「彼は、こういわれていますよ。闇鬼の救世主、と――」

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