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中途半端で何が悪いっ!~ネタキャラ死神による魂の協奏曲~  作者: 八坂
第三章 それぞれの真価、越える、スキル
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天空都市イスカへ 3

 龍と女神の祭壇であった龍人とゼルとのやり取り。

 龍人の話によれば、改良したとか、なんとか。それはゼルとしてはてっきりジオの様にスキルの上限が外れることかと思いきや、そうではなかった。龍と女神の祭壇からテス教の祭壇まで続く階段が現れたとき、コンソールが復活し、ゼルは真っ先にスキル表を見たのだが、ジオの様に上限値が表示されなくなっていた、ということはなくそこには自分のスキルレベル合計上限値と同じ値の自分のスキルレベルの合計が表示されているだけで、それは今までと何ら代わり映えしないものであった。

 階段を上りながらがっかりするゼルだったが、


「まぁ、そんな上手い話がそうそうあるわけ無いよなぁ」


と苦笑いを浮かべるのであった。

 もう一つ気になるのは、龍人が最後に残した言葉。


――努力が報われる事を祈っている


 一体何の事やらゼルにはさっぱりだ。

 ジオが努力がどうのとか言っていた記憶もないし、そもそもジオが努力をしているのを見たことも無い。そして、自分も何を努力すればいいのか、と。

 仮にあの龍人がジオの出会った光球と同じようなものだとして、千年前だの、努力だのとジオの話とは何らつながってこない。いや、唯一あるとすれば、龍と女神の紋様、そして龍人くらいか。

 けれどなんだか支離滅裂すぎてゼルは途中で考えるのを放棄してしまっていた。


 明日からいよいよイスカ行きが決まり、メンバーの確認と準備を終えて、ようやく一息ついたゼルはあてがわれた部屋でベッドに身を投げ出して、手元の指輪を見る。

 ジオはまだ準備をしていて部屋に戻ってきていない。何でもテンテンの内功の傷に効きそうな薬草や薬をガニスの指示の元、モリーティアとガニスと共に買出しにいってくるらしい。

 寝そべったままで、天井につるされた灯り代りのシャンデリア風のランプ越しに手に嵌めたままの指輪をちらちらと透かしてみたりするがアイテム詳細の画面などは出てこない。


「んあー……なんだったんだろ?」


 龍人は如何にもという言葉を残して消えてしまったが、それにしては上限値が解放された訳でなし、目に見えてパワーアップなんてもちろんしていない。

 何故かミサとクララの、罵る際の連携がパワーアップしているような気はするが。


 パタリと力なくベッドに腕を落として、その先にある指輪を視界の端で見ていると、その紋様が残滓となって目に焼きついたのか、指輪から目を離してもその紋様が浮かび上がっていた。


「んん?」


 いや、そうではない。

 コンソールの端に謎のアイコンが表示されている。それはまさに、龍と女神の指輪に象られているものと同じものだった。

 どうして今まで気づかなかったのかとゼルも思うのだが、他のミニマップなどのウィンドウの間にいつの間にかちょこんと隙間を間借りするようにそのアイコンはあって、ごくごく自然に紛れ込んでいるものだから、気づかなかったとしても無理は無い。

 それがいつ浮かび上がったアイコンなのかはわからなかったが、少なくともあの場所に行く前にはなかったはずだ。


 ふと思い立ってゼルは指輪を外してみる。

 すると、アイコンは消えた。

 再びつけてみると、もう一度同じ場所にアイコンが浮かび上がる。


「これは……」


 何度か着脱してみて、やはり指輪をつけているときだけ龍と女神の紋様をしたアイコンが浮かび上がる事を確かめたゼルは、今度はおそるおそる虚空のそのアイコンに触れてみる。


『認証完了、龍人モードへ移行しますか?※一度移行した場合戻せません』


 突如目の前に例の紋様と共に赤い文字で警告文が浮かび上がる。


「龍人……?」


 ゼルの頭に浮かんだのは龍と女神の祭壇の前で見た、あの人間とも龍ともつかないような人の姿であった。しかも、


「一度移行した場合戻せません、って……」


赤い文字で浮かび上がった警告文にはこれを押してしまうと元には戻れない旨のことが書かれている。何だか空恐ろしいような、そんな雰囲気さえ感じたゼルは、ベッドから体を起して虚空に現れた警告文をマジマジと見つめた。


――以前は無尽蔵になってしまったから今度はある程度リミットをつけさせてもらった


 そんな龍人の言葉がありありと思い出される。


(何が無尽蔵なんだ?リミットがないと無尽蔵に何かを吸われるとかか?)


 警告文の下には二択で“はい”と“いいえ”のボタンがある。

 少し指を震わせながら、“はい”の方へ指を持って行き――躊躇したあげく“いいえ”を押した。

 すると、警告文は閉じられて、再びあのアイコンが元の位置に浮かび上がっている。


「な、なんなんだ、これ……」


 何か得体の知れないものを手に入れてしまったと、思い切りため息をついて装着している指輪を見た。


「よくわからんが、龍人になってしまうようなものなのかもしれない……」


 もう一度あの場所で出会った龍人の顔を思い出すゼル。そして、今コンソールに出てきた龍人モードという言葉。

 どう考えてもああなってしまう(・・・・・・・・)としか思えなくて、しかも元に戻れないとなれば、それがどれだけ強かろうと、


「ないわ」


と思ってしまうゼルだった。

 おもむろに指輪を外したゼルは、それをカバンの奥へと突っ込んで、再び寝そべるのであった。


-----------------------


 現在、地下墓地最下層はガニスの指示により、闇鬼によって封鎖されていた。

 最下層へ続く階段の前には闇鬼でも指折りのガードが何者の侵入を拒んでいる。

 それがNPCやプレイヤーであっても、だ。


「頼むよ、あとはここだけなんだからさ」

「申し訳ございません、ここは現在危険ですので封鎖とさせていただいております」

「それ、誰が決めたの? 誰にいうと通してもらえるの?」


 そこにガードとして立っているのは、闇鬼のあのホビニムスの女性と、もう一人デモニムスの男だった。一人のプレイヤーと思しき人物がホビニムスの女性に向かって軽薄そうに笑いながら通してくれるよう頼んでいるところであった。


「すべてはテスイシュ様のお導き……申し訳ありませんがお引取りを」


 目を閉じて浅く一礼しながら突っぱねる。


「ちぇー、いいじゃんよ、減るもんでもないし」

「申し訳ありません」

「わかったわかった、あんた闇鬼だよな? たしか代表は……ガニスだっけ? あいつの許可もらえばいいのかな?」

「もし、許可が下りたならば」

「おっけー、それじゃあちょっくらいってくるかぁ」

「……」


男は踵を返すと、突然光りだしてその光と共に消えた。


「ガニス様に報告を」


完全に光が消えたのを確認してからホビニムスの女性が呟くと、その傍に空間から湧き出るように別の人影が現れて、その女性に一度傅き、駆け出した。


「モモ、今のは……」

「ああ、少し厄介な感じがした。実力行使に出てくれなくてよかった」


 モモと呼ばれたのは女性の方だ。テス教のフードの隙間からはその名の通りピンク色の髪が覗いている。階段入り口の反対側に立っているデモニムスの男と話しながら、モモはちらと男が消えた跡を見やる。


「本来であれば、ジオ様とて危険因子。さらにはんふっふ(・・・・)だの、さっきの男だのと、厄介なものばかり現れる」

「そう言うな、ガニス様はジオ様たちを引き込めると見ている」

「そうかな?ジオ様だけならともかく、“聖堂”の序列でも高位にいるゼルギウスや“宣夜”の大師姐たいししゃであるテンテンがガニス様に傅くとは思えん。それに、ガニス様はあの大師姐に随分とご執心のようだが……」


 モモはテンテンをおぶって歩いていたガニスの様子を思い出して面白くもなさげに呟いた。


「ははは、うがった見方をするな。あれはジオ様たちに恩を売る絶好の機会だった。そのためだけにガニス様は動いている。私情はない」

「わかっているさ……」


モモは男を一瞥して、再び地下墓地第四層を見渡した。

けれど、その顔には完全に面白くないといった風情を持っていて、横からそれをみた男が気付かれぬようクツクツと笑うのであった。


---------------------------


「それでは、死んでも復活は可能だが、記憶がなくなる、と?」


 大聖堂の一室で、有名プレイヤーであるところのゴロー、ルリ子、榊、ハルおじさん、そこにメッツを加えた五人が一同に会し、話をしていた。声を上げたのはメッツだった。

 一室と言っても、扉は無くて石造りの長椅子に長テーブルが設置されている、休憩所のようなところだった。


「ハッキリとしたことはいえない。けれどホームポイントのソウルリターナーが彼らを引き出したのだから、死んだのには間違いないだろう」

「しかし、んふっふ(・・・・)さんはかなりの実力者ですよ? 一体誰が……」


 ルリ子の説明に、しかしんふっふ(・・・・)が殺されたという事に納得できないメッツが首をかしげる。


「彼に記憶が無い以上、誰がやったかまでは特定できない。あるいはモンスターにやられた可能性も否定は出来ないけど……」

「確かんふっふ(・・・・)が最後に目撃されたのは地下墓地だったな?」


そこへ榊が口を挟む。


「だとしたらモンスターはありえない。あいつはウォーロックだぞ? 仮にテス教のボスが居たとして後れを取るようなことは無いだろう」


 腕組みをして、ありえない、と首を横に振る榊。


「不意打ち? あるいは罠にかかったとか?」

「一体誰が、何の目的で?」


 メッツの意見をルリ子が否定する。

 そのルリ子の横ではゴローもまた腕組みしながら顎に手をあてて首をかしげている。


んふっふ(・・・・)を倒すのは大変だからな……」

「ちょっと、ゴロー、黙っててくれないかな」

「……」


 相変わらず場を読まないゴローをルリ子がピシャリと黙らせた。


「あら……ルリ子様にハルおじさん様。ご機嫌うるわしゅう」


 そこへ突然、部屋の入り口から声が掛かる。鈴の様な声に皆の視線が入り口に集まった。

 そこには、流れるようなブロンドの長髪に、少し幼さが残るものの整った顔立ちの美少女が、風情もよく佇んでいた。派手すぎず、地味すぎない法衣を纏ったその少女は世界の誰もが知る有名人――大聖堂の主にして“聖堂”コミュニティや“騎士団”コミュニティの代表であるクレアという名の女性NPCであった。

 ルリ子は聖堂、ハルおじさんは騎士団に属していて、コミュニティでも最上位のランクであるから、このクレアというNPCと話す機会は少なくなかった。

 それはこちらから話しかけるという意味であって、勿論向こうから話しかけられたのはこれが初めてである。

 そのクレアに突如話しかけられた一同は、皆唖然として入り口に佇む美少女を見つめる。


「どうなさったのですか?」


ぼんやりと自分を見ている一同の様子に、はて、と首をかしげるクレア。その様子ですら優雅で可愛らしく、まさに美少女といったたたずまいだった。


「クレア様、お時間の方が……」


 そのクレアの後ろから二つの人影が現れる。

 一つは巨躯に白銀の鎧を纏ったデモニムスの青年と、もう一人は白い法衣を着た老人。

 クレアに声をかけたのは青年の方で、クレアの横に回りこむと一瞬そこにいたハルおじさんを一瞥し、それから片膝をついてクレアに先へ進むよう促す。

 青年はクレアの代理として“騎士団”の首領代行をするジェイド、そして白い法衣の老人は、同じくクレアの代理として“聖堂”をまとめる大司教カルセド。

 ゲーム時代はこの代理NPCである二人にクエストを発行してもらい、達成報酬もまたこの二人から受け取ることになっている。

 では何故ハルおじさんやルリ子がクレアと話す機会があったかといえば、聖堂にせよ騎士団にせよ、上位クエストなどの難易度の高いクエストは二人の上に立つクレアが発行することになっていたからだ。


「ほっほ、ジェイド、折角ルリ子やハルおじさんがおるのだ、クレアとて声もかけたくなろうて」


 そんなジェイドを柔和な笑顔でカルセドが嗜めて、その言葉にクレアも嬉しそうに笑顔で頷いた。


「ええ、そうですね、カルセド。けれど、確かに時間も推しておりますし……ルリ子様、ハルおじさん様、それに皆様。ご挨拶だけで失礼いたしますね。イモルトレ様のご加護がありますように……セイン・ル・レディア・イモルトレ」


 クレアが目を閉じて、ルリ子やハルおじさんに向かって印を切って祈るようなポーズをする。

 それにハッとしてルリ子もハルおじさんも、そしてメッツも印を切り返した。


「それでは皆様、ごきげんよう」


 ニコリと笑顔を見せたクレアはそのまま去っていった。


「では、失礼する」


 続いてジェイドも一礼するとクレアの後を追っていく。

 最後に残ったカルセドが、そのクレアとジェイドの後姿を細くさせた目で追う。


「ああ、そうだ、ルリ子。最近闇鬼の動きが活発化しておる。気をつけるんじゃぞ」


 ゴローのように手を顎にあてながら、そういい残して、カルセドもまたクレアとジェイドの後を追いかけていった。


 まるで嵐のように現れて去っていった三人のNPCをあっけに取られたまま見送ったゴロー達。

 しかし、ルリ子の中で、最後にカルセドが言い残した闇鬼の話が妙にひっかかっていた。


「闇鬼……まさかね…」


地下墓地と闇鬼、そしてんふっふ(・・・・)の死。繋がりそうで繋がらない、一欠のピースが嵌らないもどかしさに、ルリ子は思わず呟いていた。

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