EP~抗い、生きる、スキル~
テスの祭壇の間。
地下墓地最下層にあるその場所で、んふっふは目を覚ました。
既にジオ達の姿はなく、んふっふは一人取り残されていた。
「くそ……! くそ! くそおおおおお!!」
目覚めてすぐ、さきほどまでの事を思い出して、思わず地団駄を踏むんふっふ。
これは、何かの間違いだ。あんな“ネタクラス”に最強の一角といわれた自分が負けるはずがない。
そう、油断したのだ。“ネタクラス”だと思っていたが、まるでチートのような技を繰り出してきた。
自分が負けたわけではない。次、奴を探し出して――
「殺してやる」
憎悪の炎を宿した瞳で、んふっふは呟いた。
「そんなに死を知りたいのなら、ご自分で確認なさってはいかがでしょう?」
「なに――」
突如耳元で囁かれる甘い女性の声。
次の瞬間、焼け付くような痛みが自分の胸を通り過ぎて――
「かはっ」
自分の胸から短刀の先が生えたように貫かれている。
その短刀は一度ひねられて、すぐに引き抜かれた。
まるで噴水の様に血が貫かれた穴から吹き出てくる。
「がっ……」
止め処なく喉の奥から血があふれ出てくる。
「さようなら、んふっふ様」
倒れたんふっふが冷ややかに見つめる黒いローブの女を睨みつける。
女は再び短刀をその喉に突き立てて――
-----------------------------
テンテンが目を覚ますと、先ほどと同じ光景が目に飛び込んでくる。
「おはようございます、テンテンさん」
これで三回目。男の顔がにこやかにテンテンをのぞきこんでいた。
「無事、毒抜きは出来ました。さすがはジオ様のお仲間……ですが――」
その笑顔が翳る。
「とりあえず、今はお休みください。まもなくジオ様たちも到着いたします」
どこか、安心できるような声色に、テンテンは目を閉じる。
再び額を指先で押されて、テンテンの意識は闇へと落ちていく。
-----------------------------
んふっふを打ち倒したジオは急いでモダンのところへと戻る。
最下層にならぶ小部屋の一つで、横たわっていたモダンは、ジオの帰りを待つことなく――
「ぷはぁ、ポーションはうまいな!」
くつろいでいた。瀕死のダメージを受けて、気を失うほどであったからと、急いでやってきたのに、当のモダンは頬杖をついて横になり、行儀悪くポーションを飲んでいた。
「お、ジオ、お帰り」
焼け焦げていた毛並みもすっかり戻った目の前のカンガルーに、ジオはあきれて言葉も出ないのであった。
ともあれ、んふっふを倒したジオ達はその間に祭壇周辺を調べる。
んふっふがいたと思われる祭壇裏にあった部屋も調べるが、ゼルやテンテンたちの手がかりは得られなかった。
「ジオ様」
聖杯を調べていると、突如後ろから声がかかる。
振り向くと、いつの間にか、いつからそこにいたのか、黒いローブで全身を包んだホビニムスの女性がフードを上げて傅いていた。
「えっと、君は?」
「ガニス様の命により、伝言をお届けにあがりました」
女性は頭を下げたままで言葉を続ける。
「テンテン様が重症、内功にダメージあり。命に別状はなし――とのことです。尚、テンテン様は今は闇鬼の詰め所におられます。」
「じゅうしょ……ええっ!?」
「因みに、現在状況把握のため闇鬼が地下墓地に散っておりますが、ゼルギウス……様とクララの行方は判明しておりません。テンテン様もいらっしゃいますし、一度闇鬼まで着ていただければ、とのことですが、いかがなさいますか?」
その女性の言葉に一瞬考える間を置いてジオはうなずいた。
「それでは案内いたします。そこのカンガルーも一緒にどうぞ」
「ワラビーだ!」
間髪いれず突っ込みを入れるカンガルーには目もくれず、女性はジオの先を歩いていく。
一瞬ジオとモダンが顔を見合わせて、その後に続いた。
闇鬼の詰め所はテス教本部教会の地下一層の片隅にある。
ちなみに、ジオ達が龍人の都市からやってきた通路に通じている、テスの祭壇のある小部屋も地下一層にある。
闇鬼の詰め所の前には、闇鬼所属のガードNPCが常に陣取っていて、地下墓地にはびこるモンスターの侵入を防いでいる。
詰め所に入るなりガニスが真剣な面持ちで待ち構えていた。
「テンテンさんが、んふっふの仲間であるオウヤンという毒使いと交戦しました」
テンテンのいる処置室までの間にガニスが状況を説明してくれた。
オウヤンというんふっふの仲間である毒使いがテンテンと交戦し、からくも撃退するが、その毒によってテンテンが重症を負ったという事。
その毒は解毒が難しく、さらに闇鬼によって発見されるまでに少し時間があったことと解毒に時間がかかったことで、毒が深くまで回ってしまった事。
そしてそれにより内功に深手を負ったテンテンは、今は内功が使用できる状態にはない、という事。
内功が使用できない状態、というものがどれほど大変な事か、ジオにもカンガルーにもわからなかったが、ガニスの沈痛な表情によっぽどの事なのだと悟る。
「やぁ、ジオくん」
処置室に入るなり、ベッドに横たわっているテンテンが陽気に声をかけてくる。が、その姿はどこか弱弱しい。
「油断したよー、まさかこんなことになるなんてねー」
ガニスが用意してくれた椅子に座り、横たわるテンテンの傍に座るジオ。
ジオも、その後ろに立つガニスやモダンも心配そうにそのテンテンを見ていた。
「やだなぁ、そんな顔しなくても、へーきよ、へーき」
ニカッ、と笑いを見せるテンテンだったが、一瞬その視線が泳ぐ。
「それでは、私は調査の方があるので……ジオ様、後ほど私のところへお越しください。それとモダンさん、ちょっと」
それに気付いたガニスがモダンを伴って処置室を出て行く。
「テンテンさん……」
「聞いたんでしょ? ……内功、使えなくなっちゃった――」
笑顔のはずのテンテンの目にいつの間にか涙が浮かぶ。
「使えなくなっちゃった」
テンテンにとって、内功の大きさは趣味でもあり、自信でもあり、誇りでもあり、アイデンティティそのものだった。
それが瓦解してしまったのだ。
「つかえなく……なっちゃ……」
ぼろぼろと涙がこぼれてシーツを濡らす。
ジオは何も言えずにただテンテンを見守る事しかできないでいる。
下手な慰めに意味はない。ジオもテンテンと長い付き合いだからそれがよくわかっている。
それに、今の彼女に対して、ジオは掛ける言葉を持たなかった。
「ごめ、ジオ……今だけ、今だけちょっとだけ……腕貸してね」
ジオは何も言わずにテンテンの頭を撫でる。テンテンはその腕にすがりつくようにして、泣いた。
その嗚咽はしばらく止む事はなかった――
これにて二章が終了となります。
ここまでお読みくださってありがとうございました。
続きは出来るだけ早く投稿したいと思っています。
これからもまた、よろしくお願いいたします。




