地下都市グラダンへ 6―解釈―
スキルとは一体何か。
WWFというゲームにおいては、なりたいクラスや、やりたいことへの成長のための指標だった。けれど、今は違う。リアルログイン現象が起きてしまったこの世界で、スキルとは、才能そのものの事を指す。
ジオはそう考えた。
その上で、スキルに沿って使える技、魔法、そしてスキルの組み合わせでなれるクラス、また、クラスやスキルの組み合わせで存在する上位クラスや、上位技・魔法。
それは一体何なのか。
ジオがたどり着いた答えの一つが先ほど見せた技の組み合わせだった。
例えば素手スキルの最上位技に、ラッシュという技がある。格闘ゲームなどでおなじみの乱舞技とよばれる、目にも留まらぬスピードで技を繰り出して大ダメージを与えるというもの。
このラッシュという技、実は一つ一つの打撃にダメージ判定があり、またそれら一つ一つの打撃はラッシュが使えるレベルまでに使えるようになる単体技の組み合わせであるという事は、WWFプレイヤーにとっては周知の事実である。ダンシングソードなども同様だ。
その単体スキルを流れるように組み合わせて、目にも留まらぬスピードで繰り出すというのが、ロマンであり、華でもある。
リアルログインが起きる前、それは単なる技の一つとして存在していた。
そのラッシュに組み込まれている技一つ一つを、もし変更する事ができたら?
ジオにそう思い至らせたのは、自身のスキル上限の消失であり、ミサの身長事故、そしてゼルやミサ、テンテンが行った技の応用だった。
現実では水は電気を通すし、木は炎によって燃える。だが、ゲームにおいてケイジスワンプやウォーターケイジに電撃を撃っても帯電はしない。同様に、ミサの繰り出した杭にゼルが放った炎が着火する事はない。そして軽功中の攻撃はゲーム時には出来なかった。
けれど、それらは現実に起きた。
水は電撃を通したし、木の杭は燃えた。そしてテンテンは軽功を使った攻撃を行った。ここから言える事は、技も魔法も間違いなく変質を遂げている。技そのものの威力や、説明テキストからは逸脱した何かがある。ジオはそう考えた。
そしてジオが最初に試したのが“サクリファイス”だった。
ジオがあの暗闇の中、否応なく迫られて、初めて試したサクリファイス。それは蝙蝠を生のままで食べるというおぞましいものであった。説明テキストをそのまま信じれば、それは正しい事だったのだろう。だが、ジオが地下都市で出会った光の球は「食べなくてもよい」と言った。そこには矛盾が生じているように感じられるが、そうではなかったのだ。
ゲーム時代には実際に食べるようなモーションをしていたから、食べていると思い込んでいただけなのだ。実際にサクリファイスを行ったとき、食べるモーションの他に、召喚獣であるヘルバットから黒い球体のようなものが出て自身の中に吸い込まれていっているエフェクトがあるのを思い出したジオ。
ジオは蝙蝠を握りつぶすと同時に生命力に変換するように念じた。あのエフェクトのように黒い球になるイメージで。そして出現したのがイメージどおりの小さな黒い球体だった。それを、己の生命力に合わせるように胸へと押し込む事でサクリファイスの回復力を100%実現したことになる。その証拠に、以前のただ食べるだけの実行では右手の骨折しか治せなかったのが、今回は折れた肋骨も骨の矢による傷も、そして体力さえも癒してくれた。
ジオは確信する。
そして言い放った。
「今からあいつを屠ります」
テンテンもモリーティアも目を丸くして驚いていた。
ジオが竜に向かっていった時、ゼルが吹き飛ばされ地面に転がっていく光景が飛び込んできた。続いてミサが尾撃の風圧で吹き飛んでいく。
「ハイディングバインド」
死魔法のうちハンディングバインズと暗黒術であるシャドウハイドを組み合わせる。見えざる手が吹き飛ばされてきたミサをがっちりとキャッチした。
「テンテンさん、ミサちゃんを頼みます。」
ジオが指差した先に空中に静止しているミサの姿があった。
「えっ、なんで?なにあれ!?」
モリーティアが驚きの声を上げていた。
「わ、わかった!」
ハイディングバインドの効果が消えて落下し始めたミサに、慌ててテンテンが軽功を発動し向かった。
「モリモリさんはじっとしててね?」
「え…う、うん」
「ヘルリフィル・ミスト」
モリーティアの周囲にキラキラと光を反射する白い霧が球状に覆う。
「き、気をつけてね!ジオ!」
「ああ!あ…モリモリさん、凍土の指輪、持ってきてるよね?」
「え?うん、あるよ?」
「じゃあ、もう一度こっちまで俺が着たらちょっと貸してくれないかな?」
「うん、わかった!」
「じゃあ!」
「気をつけてね!!」
凍土の指輪――装着したものに掛かっている魔法的、技的な効果を全て消し去る効果を持つ指輪である。
なぜこんなものが必要なのか、と一瞬モリーティアは首をかしげたかが、一つだけそれを使う理由が思い当たった。
「ジオ…!」
気付いたモリーティアが叫ぶが、既に目の前にジオの姿はなく、骨の矢がジオとゼルへむけて降り注ぐところであった。
ジオが出した結論は、まさに実行された。
ダークネスミストにヘルリフィルの効果を持たせたヘルリフィル・ミストはジオやゼル、モリーティアをも骨の矢から守る。
グリムヴェイパーの魔力の刃を触媒に魔方陣を描かせ、無数の魔方陣からハンディングバインズを実行させる一方で、パワーオブダークネスを発動させ、その力の一部を大鎌にエンチャントして巨大な闇の刃を形成した。
それらは結果から見れば全てシステムから逸脱した現象だった。しかし、その過程はすべてシステムに沿っている。
先に述べたラッシュの応用とも言える方法だった。
そしてジオは骨竜――いや、骨竜の核となる黒球を見事に屠った。
「でもこれ、皆がいなかったら気付かなかったし、俺らみたいなネタクラスじゃなきゃ出来ないと思う。いや、応用だからそうでもないかもしれないけど……」
ジオがネタクラスにしか出来ない、と言っているのは主に自分が使ったパワーオブダークネスからのエンチャントサイスの事で、これは元々特化型にはない戦い方であるからだ。
特化型は確かに火力に優れるが、属性を持つとなると、その属性を元々持った武器を装備するか、あるいは強化魔法の使い手にエンチャントしてもらうほかない。
ましてや、パワーオブダークネスは自身にしかかけられない効果であるから、それをさらに魔力変換して大鎌にエンチャントするなどという考え方は他にはないだろう。
ネタクラスと言われたジオ達が大きく変貌を遂げた瞬間であった――
と言えば聞こえはいいが、実際は上限が外れてしまったジオにしか使えないのが現状である。
ジオが言うには「技は型」、「魔法は方程式」ということなのだが、もともとの単体の技や魔法がなければ組み合わせられないし、そのためには膨大なMPやスタミナが必要となってくる。
今のジオは、今回の技と魔法を組み合わせることが出来るだけのMPやスタミナがあったのだ。
料理や調合を毎日行っていたし、果ては先日の戦闘などで着実にその容量を増やしていたから可能だった。実際、それでもジオのMPやスタミナは底をつきかけていたくらいだ。
さらに難しい組み合わせをするとなると、様々なスキルをあげ、技を覚え、そして使えるだけの基本能力もあげていかなければならない。スキルの上限が外れただけでは、これを成しえないのだ。
奥へと続く通路の前で、テンテンが振舞ったドラゴンステーキを食べながらジオの解説が終わった。
ちなみに、何故ドラゴンステーキかとゼルが聞いたところ、
「くってやったぜ!」
とテンテンがサムズアップしてきたので、何も言わない事にしたゼルであった。
そこからの道のりは単調だった。
長いには長いし、やや上り坂であったから、モリーティアが度々根を上げてその度に休憩を取る。
しかし、誰も文句は言わない。モリーティアが一緒の行動というのは誰にとってもレアなことだったし、何より楽しかったのだ。つい先刻まで命賭けギリギリの所で戦っていたにせよ、それでも何とかなった。この先毎回うまくいく保証もないけれど、今回は乗り切ったのだ。今はそれでいい、と皆思う。
ついでに、モリーティアの休憩に文句を言おうものなら短剣の一本でも跳んできそうな気配があったことは言うまでもない。
「モリモリさん、また?」
「はぁっ…ひぃ……ふー」
ジオに出された水筒を傾けてゴクゴクと美味しそうに飲むモリーティア。
「ごめ、だいじょぶ」
「うん……多分、もうすぐじゃないかなぁ」
敵の気配もなく、罠もなく、ただ上へと続く単調な道のり。
「あれ?あれ!」
モリーティアが指差す。緩い上り坂になっている石造りの通路の先が明るく輝いていた。
出口か、と皆足早にあるく。モリーティアも疲れが吹き飛んだように皆に歩調を合わせて歩く。
「ふわぁ…」
それは下から見えた渡り廊下だった。
低い石造りの手すりに、細工の施してある壁。下から見たときには見えなかった光景だ。
そして渡り廊下の下に設置されている光球からの光を岩肌が反射して、まるで宝石を埋め込んでいるかのようにキラキラと光っている。その光は強すぎれば下品になるし、弱すぎれば主張にならない。まさにその中間で、絶妙の光具合だったから、全員が全員、目を奪われてしまっていた。
「すごいキレイだねぇ」
モリーティアがその光景にうっとりとして呟く。ミサやテンテンもまた同じように見とれている。
勿論、ジオやゼルも――
ジオ達一行は、ゆっくりとその光景を堪能しながら渡り廊下を行くのであった。
一方、丁度その真下。先ほどまで骨竜と熾烈な戦いが繰り広げられていた部屋――
ジオ達が渡り廊下の先の通路へとたどり着いた頃、ゴロー達第三次龍の骸調査隊の面々がその部屋へと足を踏み入れていた。
「うぇ!なにここ!きもちわるっ!」
部屋一面に散らばった骨の欠片を見て緋の賢者であるルリ子が叫び声を上げる。
「はっはっは、豪快な骨の山だの!」
ルリ子の驚く様子と骨の山に笑い声を上げるゴロー。
「ふむ……?戦闘の跡があるな」
周辺を丹念に調査していたんふっふが呟く。その呟きは調査隊の面々の注目を集める。
「どういうことだ?」
「見てわからんのか……」
女騎士メッツが訝しげな顔をしてんふっふに問うが、んふっふは、そのメッツを馬鹿にしたように呆れた声を上げた。
「かなりの難敵だったように見られる。もしかすると我らより先にかなりの人間が入り込んでいるかもしれんな」
少々不愉快そうな声だったが、んふっふが淡々と状況を説明した。
「ふむ、まぁ、余計な戦闘をしなくて済むのは助かるのだがな」
んふっふの説明にゴローがいつものように顎に手を当てて呟いた。
「ここにもいない……やはりもう……」
ゴローやメッツに構わずジオの足跡を探していたハルおじさんが肩を落として呟いた。
「ハルさん……」
そんなハルおじさんの様子を心配したメッツが、寄り添うように傍らに立つ。
「もしかすると、この先に逃げおおせてるかもしれません。まだ希望を捨てなくてもよいかと」
「そうだといいがな……」
すっかり落胆を隠さなくなったハルおじさんに、周りの人間からも思わずため息が漏れた。
(そうですねぇ、死体を確認するまでは、ね)
そんな中、かなりの確率で生存が絶望的だと思われている状況に内心ほくそ笑むんふっふであった。
調査隊はそのままジオ達の後を追うように奥の通路へと進むのであった。




