始まり 1
クラス"地獄戦士"
死魔法 : Lv250
魔牙 : Lv120
剣(鎌) : LV280
暗黒術 : Lv150
死体操作 : LV100
基本スキル
筋力 : Lv150
防御 : Lv100
敏捷 : Lv050
生命 : Lv100
耐久 : Lv080
知力 : Lv060
精神 : Lv060
スキル総数1800/1800
これがジオのスキル構成になる。
1800がスキル上限となっているが、緩和前は1400が上限だった。
悩みに悩んだ末ジオは死魔法と剣スキルを少し上げて、なんとなくではあったが、その他めぼしいスキルを少しずつとって、およそ200ほどに分類されるスキルのほぼ全てを1ずつとって、その中でも調合などの少しでも"死の魔剣士"としてイメージにあいそうなもの、補助になりそうなもの、その一方で料理などギャップを狙ったものなどを10程度あげたところでカウントストップ、所謂カンストした。
昨日の違和感がぬぐえないまま、今日はどうしようかと思いながらログインした雄治を強烈な眩暈が襲って彼の意識は遠い彼方へと消え去りそうになっていた。
その中で思い出したのが自分のスキル振りの事だったのだが、雄治自身も何故それが脳裏をよぎったのかはわからず、そのまま意識を手放した。
次に目覚めた時、雄治はジオとなっていて、そして激しい違和感を覚えていた。
まず、街の喧騒だ。
ゲームでは街の喧騒などというものはなくて、静かに街のBGMが流れており、時折ユーザーの声が聞こえるくらいだったのだが、今はざわざわがやがやといった賑わいがジオの耳に飛び込んできた。
それと共にやってきたのが、匂いとそれを運んでくる風の感触。
「え…」
思わず呆気に取られるジオ。
それもそのはず、視覚や聴覚は再現されているものの、匂いや風を感じるような感触は再現される事はなかった。
確かにゲームとしては古参であるから、一部戦闘がオートだったり、視覚や聴覚が完全再現されていなかったりはする。最新のゲームでは"ブレインダイレクトモーションキャプチャー"とかいうものが採用されており、本人の思うがままに動けるゲームなんかも開発されていたから、WWFの古さがわかるというものだ。
しかしここへきて、匂いや感触などを再現してきたのだろうか?
それならば昨日のラグはそれの実装に伴う余波か何かか?
ジオはそうは思えずにいた。
言って見れば、まるで現実の世界にいるような感覚なのだ。
そう、まるで魂がそのままゲームのアバターに乗り移って、ゲームの世界を現実と感じているかのような。
「まさか…」
呟いてきょろきょろとあたりを見回す。
昨日ログアウトしたのは、いつもモリーティアが露店や生産活動をしている溜まり場で、周りには人影は少ない。
唯一素材や道具の販売NPCがいるくらいだが、そのNPCからですら視線を感じる。
「もしかして…」
そういう類の話は聞いた事がある。といっても全て小説や漫画などフィクションとしての話ではあるのだが、ゲームの世界に入り込んでしまうという"リアルログイン"。
まさか、それが起こっているのでは?とジオは考えていた。
聞こえるはずのないNPCの声、地面から感じる重力や建物とか周りの匂い、それを運んでくる風の感触。
ジオの五感がこれは全て現実だと言っている。
はっとして、ジオはメニュー画面を開こうと試みる。
これがもしリアルログイン現象であるならば、最悪メニュー画面といったコンソールは表示されない可能性があったからだ。
しかしながら、よくよく見てみると視界の端にインターフェースが映っている。
半透明のミニマップも健在。
ちょっとだけ安堵を覚えて、それでも今度はログアウトできないのではという不安が襲ってきたから、恐る恐る虚空のメニューボタンを押してみる。
普通に開いた。
課金ガチャ項目や、システム画面、勿論ログアウトボタンも健在で、ためしにログアウトボタンを押してみると、ダイアログが表示される。
「この世界からログアウトしますか?」
OKとキャンセルのボタンが並んでいるが、どちらも選ぶ事ができそうだ。
そこでログアウトを押しかけたジオは、すぐさま何かいやな予感がしてキャンセルを押す。
するとメニュー画面に再び戻ってきた。
「ふぅ…」
大きくため息をついて、ジオは再び辺りを見回した。
遠くでNPC同士が何やら話していたり、呼び込みをしていたり、本当に普通の街のようだ。
街は中世ヨーロッパの少し賑わいのある街を模したようなところで、石畳の道にレンガ造りの家々が並んでいる。
割と広いこの街「マハリジ」はプレイヤーがキャラクリエイトをした後最初に降り立つ街だ。
それ故にチュトーリアル用のNPCが多く配置されていて、ユーザーも結構常駐していたりする。
その街のはずれの人気のないところに、生産用の道具やNPCがまとめて配置されている場所があり、そこをモリーティアは拠点としているのだ。
今はモリーティアの姿はない。
「ジ~オ~」
いや、後ろにいたようだ。
まるで幽霊のような声を掛けてくる。
「うぉっ、モリモリさん。」
「ティア。もう、なんで皆モリモリなの?呼ぶならティアって…いやそうじゃなくて、これどうなってんの?」
「じゃあ、モリ――」
「ストップ、それはまずい」
「うん。」
振り返るとげっそりとしながら的確にツッコミを入れてくるモリーティアがいた。
「で、どうなの、これ。」
「ああ、モリモリさんも?」
「ティーアー!…はぁ…まぁ、私もそうなんだ。昼ごろログインしたら何かすんごい眩暈がきてさ、そしたら何か、テンテンちゃんのチャーハンが美味しかった。」
「え?そこ?」
もっと他に感じるべきところがあるのではないか、とジオは思うのだが、とりあえずモリーティアもまた五感を得ているらしい。
自分だけでないという事に、より事態の深刻さを認識する。
「ジオも食べてみなよ、テンテンちゃんのチャーハン。」
「えぇ…あとにするわ。それより、他の人は?」
「さっきリストみたけどテンテンちゃんとゼルギウスくんもいるみたいだよ。お…ほら、おでましだ。」
モリーティアの指差す先にゆらゆらと人影が二つうっすらとにじみ始める。
やがて姿を現したのはゼルとテンテンだ。
「おー、ジオもきたか。」
「やっほージオくん」
ゼルが片手を上げて、テンテンはピョンピョンと跳ねながら両手を万歳のように広げる。
「テンテンさんもゼルもそうなの?」
「ああ、そうらしい。何が?」
「おいおい…」
ゼルが話をまったく飲み込みもしないで適当に返事するものだから、ジオは片手で額をおさえてやれやれとする。
「なんだ、ジオくんもモリモリさんもなの?」
「うん、オレもモリモリさんも地面とかの感触とか、匂いとか、あ、あとチャーハン美味しかったらしいよ。」
「ティアだってば…」
「私のチャーハンは昔から美味しいよ?」
「ああ、うん、どうでもいい。」
「ひどい!」
むきーっとしてテンテンがジオをぽかぽかと殴り始めた。
「いてっ、いてぇ!テンテンさん、いてぇ!」
「ふえっ!?」
当然感触があるのだから、テンテンが拳を振るえば、ダメージもでてしまうのだろう。
そもそも素手スキル特化にしてあるテンテンだから、その素手はかなりの凶器になりうるのだ。
「いてぇ、すげぇ、いてぇ、青タンできてんじゃないか、これ。」
少し涙目になっているジオ。
「ご、ごめん、まさかこんなことになるとは。」
「あ、いやいや、そんなしょぼくれないで、すぐ治るから。」
痛みをこらえつつ、ジオが手をかざした。
地獄戦士にはいくつかスキルを組み合わせる事で回復する手段がある。他人を回復させるものは限られるが、自分を回復させる手段は意外と多い。
「サモン・ヘルバット」
触媒を消費して地獄の蝙蝠を呼び出す魔法。これは召喚魔法の初期魔法だ。
が、しかし――
「あれ?」
何か出てくる気配はない。と、そこに
「ああ、ジオ、触媒はカバンから出してないとだめみたいだぞ」
とゼル。
「え、そうなのか。じゃあ――」
カバンのコンソール…がでない。
「ああ、ジオ、普通にカバンに入ってるぞ。」
と、またもゼルが腰のカバンを指差す。このカバンはキャラクリエイト後に、最初からくっついてくるものでどんなアイテムでも保存できるが、容量と所持量は初期のままではとても少ない。
クエストをこなしたり、筋力スキルなどを上げる事で容量と所持量は増えていく。
「うぅ、ゼルが俺の上をいく…」
「ほれ、いいからカバンを開いてみ」
「うぅ」
だばだばと涙を流しながらもジオは腰に据え付けてあるカバンを開いてみる。
すると、カバンの中が虹色に光っていて、そこにアイテムが整然と並んでいるのが見えた。
「ああ、そういうことか。何か大分変わってるんだな…」
「そういうことだ。」
ゼルがどや顔で仁王立ちする。
そのゼルに少々いらっとしながらもカバンを探り、石の形をした触媒をみつけて引っ張り出す。
「アイコンのままなんだなぁ…よし、サモン・ヘルバット」
取り出した触媒が光を放ってさらさらと砂のようになって宙に舞う。その光の粒が今度は赤い魔方陣を地面に形作ってその魔法陣から一匹の蝙蝠が出現する。赤茶色の巨大なその蝙蝠は魔法陣から出るなり飛び出すと、ジオの周りをくるくると回り始める。
「それをどうするの?」
でてきた禍々しい蝙蝠をみてモリーティアがわくわくしている。
「もちろん、こいつが俺を回復してくれるんだ。サクリファ…」
そこまで言いかけて思い出す。
今ジオが使いかけた技は暗黒術の中級技、サクリファイス。
この技は使役する召喚獣、あるいはぺットといった動物を"食べて"回復するというものだ。
「……生は無理。」
ゲームでは平気でやっていたサクリファイスだったが、実際に食べるとなると素晴らしく躊躇する。
どう考えてもこんなものを食べたら腹を壊すとしか思えない。
そもそも腹痛という概念はあるのだろうか?
それを加味しても確かめてみる価値はありそうなのだが…
「やっぱ無理。」
「どうしたージオーいつものようにぐっといけ、ぐっとー」
宴会にでもいるかのような野次を飛ばすゼル。
その傍らでモリーティアもテンテンも期待を込めた目でジオを見守っている。
「すんません、無理っす。」
飛び回る蝙蝠を見ながらジオはがっくりと肩をおろした。
やがて召喚制限時間が切れて、蝙蝠の姿はすぅっと虚空へと消えていく。
テンテンにポコポコされた胸らへんを抑えて、ジオは歯噛みしながら蝙蝠が消えていくのを見守るのであった。