地下都市グラダンへ 1―同行―
そこはなんとも不気味な部屋だった。
石で出来た通路が吹き抜けになっているかと思うと、あちらこちらに骨が転がっている。
一つ一つの骨が大きいため人間のものではないと一目でわかるが、それにしても部屋中に散らばっている様は人間のものでないとしても、やはり不気味の一言に尽きる。
「うぇ…なにここ…きもちわる…」
ジオの後ろに続いて入ってきたモリーティアの第一声だ。
これがゲーム時代であるのならば多少は気味が悪いとは思うだろうが、それでもただのオブジェクトと割り切ることが出来る。が、今実際、現実のように質感のあるものを目の前にすれば、モリーティアの一言もわかるというものだ。
「モリモリさん、離れないでね」
「う、うん」
油断なく歩みを進めるジオ。その後ろにはモリーティアがいて、横をゼルとテンテンが固めている。しんがりをミサがつとめ、三人もまた油断なく辺りを警戒していた。
ジオ達の入ってきた入り口から、まっすぐ。骨がうずたかく積もっている山の向こうに先に続く通路が口をあけている。ジオ達の場所からははっきりと中までは見えないが、通路の両脇にかがり火がたかれていて、他にそれらしきものも見えないため、そこが今のところ目的地となるだろう。
吹き抜けの部屋の中央まで歩んできた一行だったが、敵らしき姿もみえず、このまま進めば難なくたどり着くだろうと、一瞬ほっとしたその瞬間の事だった。
「ね、ねぇ、ジオ、この音何?」
「……なんだ?」
部屋中から、カタカタと硬いもので床を叩くような音が響いてくる。そして、その音は段々と大きくなって――
「ジオ!下がれ!」
ゼルの叫びと共に部屋中の骨が一箇所へと一斉に集まりだした――
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「今回は私も行く」
モリーティアがあらゆる指に指輪を、ネックレスを何重にもかけて、流石にイヤリングは一組、いや二組つけている。そして全身鎧を着て、玄関に立っていた。
「え、誰?」
突如玄関先に現れた鎧にテンテンがぽかんとして思わず手に持っていたフライパンを落としそうになっていた。そもそも何故玄関先でフライパンをもっているのかも謎ではあるが。
「私も!一緒に行く!」
そういいながら鎧のバイザーをあげようとするが、重すぎて腕が上がらない。
「モリモリさん?」
どうやら声で察してくれたらしい。いや、筋力具合かもしれない。
テンテンが外からバイザーをあげようとしたのだが、今度は背が届かない。
「ジオくーん?ゼルくーん?」
しようがないので上背のある男二人組みを呼んだのだが返事がない。
「あれ?まだ寝てるのかな?」
「どうなされました?テンテン様」
そこへ丁度良くスティーブが通りかかる。何故か息が上がっていたが、きっと気のせいだろう。
「ああ、スティーブさん、ちょっとそこの鎧のバイザー上げてあげて。」
「かしこまりました……なぜこんなところに鎧が……っと、ティア様!?」
驚いてスティーブが後ずさる。バイザーの下からは良く見知った深いエメラルド色の瞳がスティーブを睨んでいた。ちょっと涙目にもなっている。
「いかがなさいました…?」
「スティーブ、ちょっとこれはずすの手伝って…」
「はぁ…」
スティーブに手伝ってもらいながら、いそいそと兜を外し、篭手を外し、ブレストプレートまでを外すとようやくモリーティアの上半身が現れた。
「よいしょっと」
穴か何かから這い出るように鎧の下半身部分から抜け出たモリーティアは、それでもじゃらじゃらとアクセサリー過多の状態である。
「モリモリさん…ばかなの?」
「っ!だって、私も行きたいんだもん!」
「だもん、って……」
同行したい気持ちはわかるにせよ、アクセサリーをジャラジャラつけた上に、動けない鎧でついてこられても本当に邪魔にしかならないし、そもそも動けないのではついてこれないではないか、と改めてモリーティアを見るテンテン。
「モリモリさん…バカなの?」
「二回も言う事ないじゃない!」
それから――
一同がリビングに会し、地下都市からグラダンまで抜ける道の探索に、モリーティアを連れて行くか否かの議論が行われるが、
「満場一致で、モリモリさんはお留守番です。」
「ちょ、まってよ!私、私は反対!満場一致じゃない!」
ジオが呆れたように半目になっているが、モリーティアはそのジオに食って掛かる。
「じゃあ、多数決で…」
「だめ!多数決禁止!」
「どうしろと…」
必死で食い下がるモリーティアに、その場の誰もが説得しきれずにいた。
そのうちサラがモリーティアの味方につく。
「まぁまぁ、皆様。モリモリさんもこういってることですし、もう一度検討してみては?」
(はぁはぁ…必死なモリモリさんもぐっとくる…はぁはぁ)
「ほら、サラちゃんはわかってくれた!」
「はい、それでも私は心配な事には変わりはありませんが…」
モリーティアがサラの手をぎゅっと手を握るものだから、そのすまし顔も徐々に崩れつつあった。
ちら、とテンテンがそのサラの顔をみやる。それに気付いたサラも小さく頷いた。
――バックアップはする。
と無言の承諾だ。
サラはアサシンメイドの一番弟子を名乗る、その界隈では実力者として有名なのだが、いかんせんその界隈自体がマイナーなため、彼女や彼女の師匠を知るものは少ない。
有名プレイヤーであるゴローや榊も彼女らの事を知らなかった。それは同時に諜報活動など情報収集において非情に有利な立場である。
相手はこちらをしらないが、こちらは相手のことを知っている。それが実に大きなアドバンテージである事か。それゆえに、マイナーであり続ける事自体も彼女らの任務でもあったから、異常事態とはいえ龍の骸にてゴローらの前に姿を現すのは不本意であったのだ。
因みに、彼女達への接触にはいくつかの窓口があって、ジオやテンテンたちはとある美容師からその存在を聞かされた。
自らを鹿と名乗り、時折本当に鹿に変身している女性で、通称は鹿の美容師さん。
そして彼女もまた窓口であり、同時にアサシンメイドの協力者でもあった。
ひょんなことからジオ達は彼女らと知り合うのだが、その話はまたいずれ。
サラはモリーティアには正体を明かしていない。単純にバレたくない、という理由で。
それ故に、モリーティアはサラを昔からの友人で、かつ、ただのメイドクラスだと思っている。
それなのに、ジオ達に対する発言力は大きい。そして多くの場合自分の味方になってくれることを知っているモリーティアが何かの折に最初に説得するのはサラであった。
そしてサラはモリーティアのためであれば本当の意味で命を張るだろう。それはサラ自身も自覚があるし、ジオ達もそうであろうと思う。だが、以前ならともかく、現状ではそうさせるわけにはいかないというのもまた彼らの本当の気持ちだ。
「いやなんだよ、もう、ジオが、誰かがいなくなるのは。」
涙ながらに歯噛みするモリーティア。そういうモリーティアの気持ちだってわかるのだが、一緒についてきたところで一番危険なのはモリーティアなのだ。
いくらアクセサリーで強化したところで、未知の危険が潜むであろう場所にモリーティアを連れて行くことは出来ない。
それはジオ達も、本当であればサラでさえ、共通認識なのだ。
「なぁ、ティア、俺は――」
「こういうときだけティア禁止!」
ジオが説得のために言いかけた言葉をも封じるモリーティア。よほど本気なのだろう。
もはや取り付く島もなく、ジオ達はモリーティアの同行を許可する他に、この場を収集する術がなくなっていた。
結局。
いくつかの条件の下で、モリーティアの同行を許可する事になった。
一つ、準備は確りすること。
一つ、同行の際、必ず誰かの半径二メートル以内にいること。当然独断の行動はゆるされない。
一つ、戦闘になった場合、必ず安全な場所に誰かと一緒に避難すること。
これが守れるならと告げたのだが、モリーティアはいとも簡単に二つ返事で了承し、本当にわかっているのか、と皆に疑惑の目を向けられていた。
かつて、モリーティアも何度となくジオ達と共に“ツアー”と呼ばれるプレイヤー個人主催の難ボス退治だとか、新マップ探索などに参加したことがある。
有志を募ってわいわいみんなで出かけようという小さなお祭りのようなものだ。
参加に当たって、今回のような条件を出した事があったのだが、新マップにはしゃいだのか、それともジオ達と行動を一緒にできる事にはしゃいだのか、とにかく落ち着きがなかった。
珍しいオブジェをみつけてはあっちにふらふら、戦闘をみようとこっちにふらふら、NPCがいると叫んではそっちにふらふら――因みにNPCではなくそれは敵だったりしたが――、その過程で段差を踏み外して瀕死になったり、流れ弾に当たって瀕死になったり、敵に追いかけられたり、とジオ達は毎度生きた心地がしないのだ。それでも最後にはモリーティアも、ジオ達も楽しかった、で終わるのだからよかったのだが。
けれど、今回はそういうのとはまるで違う。
そういうところをわかっているのかどうか――
「ん?大丈夫!わかってるよ!」
目を大きく開いてキラキラさせるモリーティアを見て、ジオも皆も思わずため息をつくのであった。
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「ひゃっほーーう」
テンテンが陽気に叫ぶ。その顔は満面の笑顔で、まさに今を全開で楽しんでいるような表情だ。
「うわわわわわっ、ちょっ、テンテンちゃ――おちるおちるおちるーーー!!」
一方そんなテンテンとは対照的に、そのテンテンの腰にひしっとしがみつきながらモリーティアが悲痛な叫び声を上げていた。
「ふりおとされんなよう、モリーティアー!」
「ひゃっうわわわっ!!」
龍の骸、その地下都市。
テンテンは課金ガチャで当てたと言う乗り物ペットの月光獅子――「ルル」を召喚して、辺りを跋扈していた。
高速移動による通路の発見、という名目だったが、乗り物を楽しみたいだけ、というのが誰の目にも明らかだった。
(はぁ、ちゃん様ったら…危険極まりないわ…でも、ナイスです!ちゃん様!モリモリさんのあんな顔もレアです!ちょーかわえー!!)
こっそりとモリーティアについているサラですら、危うく隠形が解けるのではないかというほど鼻息を荒くしてその様子をみていた。
ジオ達五人は今例の地下都市へとやってきている。正確に言えば六人である。モリーティアの同行に際して、サラが隠形を使ってモリーティアに張り付き、彼女に近寄る脅威を未然に排除していた。
それでも、サラが一人で全てを処理できるわけではない。モリーティアを中心にして、ジオが先頭を、ゼルとテンテンが両脇を固め、触手を使ったディフェンスに定評のある――テンテン談による――ミサがしんがりをつとめる、という陣形を組んでの行軍だ。
ミサは隠形を使ったサラとうまく連携してくれている。
傍目には後ろからの敵は全てミサによって防がれているようには見えるのだが。
けれど、それも中々大変だというので、地下都市に到着後にテンテンが乗り物を使ってグラダンへ続く道を探すと言い始めた。
それならば、とモリーティアがテンテンの後ろに乗って行動を共にするといい始める。
一瞬躊躇する三人だったが、月光獅子であれば竜よりはやいし、もし何かあればモリーティアだけを乗せて逃げる事ができる、というテンテンの提案でしぶしぶ納得する事になった。
モリーティアを乗せるなり猛スピードで走り去る月光獅子を、四人は唖然として見送った。
気を取り直して、ジオとゼルは神殿へ向かう。
ミサとサラは拠点とできる安全な場所を探す事になった。
――神殿にて。
途中、竜種の襲撃もあったが、以前のように組織立ったものではなく、二人は難なく撃退していった。ようやく到着して、ジオが神殿を見上げると、半壊しているものの龍と女神のが刻まれた紋様は、それとわかるように残っていた。
「同じだ。」
ジオの呟きにゼルもその紋様を見上げる。
もしかしたら光球が姿をあらわすかもしれない――そんな淡い期待を抱いて、ジオはゼルに一度頷くと、神殿へと足を踏み入れるのであった。
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