龍人の都市 6―探索―
ギャッギャッ――
ウォーターケイジで覆った通路の外から、何度目かの号令がかかる。
その度に数体の竜を通して、その後電流を流して足止めする。
まるで人気店の行列による人数制限のようだが、それを不規則に繰り返すことで、自然に号令に応じない竜の数が増えていった。
初めはただ水に電気を付加させて、水に対して恐怖心植えつける、というのがゼルのたくらみだった。
放電が終わったにもかかわらず水に近寄ろうとしない竜種達をみれば、ゼルのたくらみが上手くいったことがわかる。だが、ある竜が思い切って水に足をつけ、そして何も起こらない事を証明する。それからは次々とケイジスワンプでできた水場を越えて通路口のウォーターケイジへと詰め寄ってきていた。
「奴ら、学習しているのか?」
しかし、すぐにはウォーターケイジに突っ込んだりはせず、様子をみている。
それに気づいたジオの提案で、竜の入場制限が行われることになる。
どうやらジオが思ったとおり、竜も少なからず学習しているようで、段々と飛行竜の指示に従わないものが増えていってるようだった。
ヒステリックに鳴き続ける司令官と思われる飛行竜。
だがある時、通路の外をしばらく静寂が支配し、その次の瞬間けたたましい竜の鳴き声が響き渡った。
「お、おい、あれ!」
様子を窺いにいった一人が叫びながら指差す。
そこでは、さっきまでヒステリックに鳴き声をあげていた飛行竜が他の飛行竜に集中攻撃を受けていた。
それは酷い有様で、火球や爪などで翼や体のあちこちを引き裂かれて、やがて力尽きてその竜は墜落する。
やがて、他の飛行竜が鳴き声をあげると、一斉に竜たちは蜘蛛の子を散らすように去っていった。
「助かった…のか?」
「あ、ああ…」
完全にがらんどうになってしまったその広場に、ぽかんと呆けてしまう九人。
ある者はへなへなと尻餅をつき、ある者はいそいそと竜の死体の解体作業に向かう。
ジオとゼルは顔を見合わせて頷きあった。
「助かったな…」
「ああ…」
そうして再びそこから見える地下都市の景色を見ようとして――
「あ!テンテンさんとミサちゃん!」
ジオが突然叫んで、慌てて走り出した。
「ぉ、おぉい、おいおい!」
ゼルもその後を追いかけて走り出す。その場に取り残された七人は唖然として走っていく二人の背中を見送るばかりであった。
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きっと、軽功であればひとっとび、あっという間なのだろうけれど、ミサは軽功をもっていない。
一時期あこがれたこともあったが、それよりは土いじりをしたかった。
すくすくと育つ植物に、収穫の時の楽しみはまさに至上の喜びといえるだろう。
そういえば、なんだかんだで畑にいけてないな、とそんな事を思いながら進んでいたミサの目に、ありえない光景が飛び込んできた。
「むぎゅ」
ちょっと情けない声がでたけれど、どうにかこうにか間に合ったようだ。
今、目の前に、というかミサの上に、自分より少し大きな体が乗っかっている。
ゆるい登り坂を足早に歩いてきたミサが目にしたのは爆発と共に吹き飛んでくる少女の体だった。
「テ――」
叫ぶ間もなく、向かってくる少女の体をどうにか受け止めようとミサは走って、地面激突一歩手前で受け止めたのであった。
「テンテンさん!大丈夫ですか!?」
「うぅ……」
それはテンテンだった。
「ごめん、ちょっと油断した…」
くてっ、とミサに体重を預けるテンテン。
見ればあちらこちら服が焦げ付いていて、破れた箇所からは火傷や打ち身のような痣も見える。
「ちょっ…大丈夫なんですか!?」
「あぁ、へーきへーき…でもミサちゃん、回復の間ちょこっとだけ時間稼げないかな?」
「へ?」
回復の時間を稼ぐ、という言葉に首をかしげるミサ。回復ならポーションやあるいは素手スキルの中に自身を回復させる技があったはずだから、回復に時間稼ぎが必要なのかという疑問が出たのだ。
「ちょっと内功回復してなくてね、少しでいいんだ。」
しばらくミサに体重を預けていたテンテンだったが、飛び起きたかと思ったらぺたんと地面に胡坐をかいた。
「じゃあ、お願いね!」
テンテンはそういい残すと目を閉じてなにやら集中し始める。
(さっきの火球で少し内功にダメージくらってるなぁ…でもこれくらいなら…)
印を結びながら集中力を高めていくテンテン。
その横で呆気に取られていたミサが、近づく竜の足音をその耳に捉えた。
「なんだかよくわかんないけど、時間稼げばいいんですね!」
思えばゼルにせよ、モリーティアにせよ、テンテンにせよ、新参者だから仕方の無いことかもしれないが、彼らについて知らないこともばかりで、振り回されることが多かった。
きっとジオならばすぐにこういう状況にも対応するのだろうけれど、いまひとつ飲み込めなくてすぐさま対応とはいかないミサ。
けれど、テンテンが何をしているかとかは考えず、聞かず、向かってきている竜の方を向いた。
「別に、倒してしまってもいいんですよね?」
ミサの言葉にテンテンは片目を開けて、ニッと笑った。その笑みにミサもまたニッと口角をあげて返す。
「では、栽培マンらしく…行きます!」
カバンからミサが取り出したのは鋤のような形をした鈍器。
それを左手に持って、さらに種を取り出すと三つほど地面に投げつける。
竜の足音が近づいてくる。
やがて竜はミサの姿を見止めると火球を吐かずにそのまま突進してきた。その行動にミサは一瞬驚くが、慌てずに右手を竜に向かって突き出すと、叫んだ。
「フィーラープラント!」
ミサの声に反応した地面の種が三つとも同時に小さく爆発して、人の腕ほどもある太さの蔓を一斉に発芽させた。そしてそれは見事に迫り来る竜を捉え、雁字搦めに縛り上げる。
ギャギャ!!
突然の事に竜は鳴き声をあげ、刹那その口から炎が漏れ出す。
目の前に見止めた、自分を縛り上げている蔓の主であろう小さな少女めがけて、火球を吐き出そうとしていた。
「テンドリルプラント」
が、続けてその竜の目の前に投げつけられた種が小さく爆発し、そこからまた蔓が幾本も出現して今度は竜の口を縛り上げる。
口を縛られてしまった竜は、生成し始めた火球の成長を止められず、その口の隙間や鼻からは炎が漏れだしはじめ、苦しそうに激しく首を振る。ミサはそれを冷ややかな目で見守っていた。
ポン
それからすぐ、小気味いい音を立てて、その首から上は消失した。
それでも尚生命力あふれんばかりに、体や先を失った首を激しく震わせていたが、やがてそれは力を失って大きな音と共に地面へと倒れこんだ。
「あらら…」
直後、背後から声がかかる。
振り向くとテンテンがばつの悪そうな顔をしてたっていた。
「ほんとに内功ちょこっとだけでよかったんだけど…倒してしまいましたなー」
「えへへ、倒してしまいましたー。」
笑顔で親指を突き立てるテンテンにミサも胸を張って返す。
「怪我は大丈夫なんですか?」
「え?あ、大丈夫ーチャージマインドフィストー」
気の抜けたような声だったが、それと同時にテンテンの体を青い薄い光が包み込んでみるみるうちに火傷や痣が消えていく。
「ふえー便利なんですねー、素手って。」
「私の場合はね、内功多いからね、色々有利なんだよー」
「おーい、テンテンさーん、ミサちゃーん」
そこへジオとゼルも息を切らして駆けてきた。
「おお、ジオくん、ゼルくん。ゼルくんの睨んだ通り、上からも来てたよー。」
「やっぱり――ってテンテンちゃん!」
ゼルがテンテンの格好を見て後ずさる。
「え?」
「あ――」
テンテンは首を傾げるだけだったが、ゼルの驚きと視線の意味するところを悟るやいなや、
「びーっぐぴこはーん!」
ゼルがピコハンの餌食になり意識を強制的に手放すことになった。ジオは顔を赤らめてそっぽを向いている。
「あー、これなー」
「これなー、じゃなくて着替えるか隠すかしてください!」
戦闘に際してはミサはさほど気にしなかったのだが、テンテンの腹部辺りの服が焼け落ちていて、大きく円を描くように破れていたのだ。当然、そのお腹はもちろんのこと、ちらちらと下着が見え隠れしていて大変目の毒である。
ミサはテンテンの前に立ってぴょんぴょん飛び跳ねながらそれを男共に見せないように隠そうとしていた。体格が違うので完全には隠れないのだが。
それからテンテンはジオのローブを借り、ゼルをたたき起こして四人は再び地下都市へと向かう。
ちなみにジオの鎧は現在モリーティアにより修理中なので、今ジオが装着しているのはNPCが販売している鎧と鎌、それとスキル上げのための斧。
余談だがローブを着ているときは、死魔法を中心にして戦い、鎧を着れば死の魔剣士として剣も魔法も暗黒術も駆使するという、自分ルールがジオの中にはあった。それもちろん、世をしのぶ姿だとか、本気で魂を狩るだとかいう、キャラに対する中二病設定なのではあるが。
途中で伸びていた三人組も合流する。テンテンとミサには改めて謝罪と礼をいい、竜たちが引いたことを聞いて是非にと言われたのだ。多少確執もなくはないのだが、そこまで責めることでもない、とテンテンも同意してくれた。ミサは少々不満そうではあったが。
広場まで行けば、二組のパーティがジオとゼルを待っていてくれたようで、少し大所帯ではあるが十四人で地下都市を探索することになった。
最初竜たちの襲撃が予想されていたが、拍子抜けな事に気配はあるのだが、理由は不明だが襲ってくる様子はなかった。
といっても、そこかしこにいて、こちらの様子を窺っているようではあるのだが…
洞窟の通路を抜けてようやく地下都市への入り口に到着した一行。都市のあちらこちらに竜種の姿は見えるが、皆遠巻きに見ているだけでこちらへ近づくものはない。
どうやら例の司令官と思しき竜以外に命令を出すものはいないようで、竜達もこちらを気にしてはいるが、思い思いに辺りを闊歩している。
ジオ達も十四人という大所帯で移動をしているから、統制を取るものがいない以上、向こうも手を出しては来られないのだろう。
とはいえ、さすがにこの大所帯ともなると多少息苦しさも感じる。ジオ達は特に、元々皆ソロ志向だから余計にだ。
そこで、ジオは各パーティ毎に探索することを提案する。が、当然のごとく却下されてしまった。
(ゼル…俺、スキルの事ばれたくないから、パーティ毎に行動したいんだけど…)
他の人間には聞こえぬようにゼルに耳打ちするジオ。
ジオはスキルの上限が消えている事をできれば隠しておきたかった。
以前にゼルから冗談で「チーター乙」といわれたが、状態的にはまずそれと変わりがない。
いくらか制約があるとしても、上限が消えているという事はスキルレベルを上げ放題ということだから、どれだけ強くなれるか、わかったものじゃない。
そしてそれは無用の混乱を起すことにつながりかねないと考えていた。
(あー…気持ちはわかるけど、状況が状況だ。今は我慢しろって。そのうち調査隊くるんだろ?そいつらの後にまた来ればいいよ。今度はしっかり準備してさ。ま、それに今日調べたこと、気づいたことはゆっくりモリモリさんに報告すれば、いいじゃない?)
「な、なんでそこでモリモリさんが出て来るんだよ!」
突然大声を上げてしまったジオに注目が集まる。
「あ、いやなんでもないです…」
不意に集まった注目に顔を紅潮させて、なんでもない、と仰ぐように手を振った。
そのジオをにんまりとした顔で見るゼル。そしてその隣にいつの間にか同じようなニンマリ顔のミサがいた。
同じような顔をした二人は、同時にお互いに気づくと、「何こいつ笑ってんだ」という顔をして同時にそっぽを向く。
そうしてそれをまたニンマリとした顔で見ているテンテンがいた。
結局、それから竜たちの襲撃もなく、お宝も、めぼしいものも何もなく、ただそこに地下都市と竜種がいるだけでこれといった収穫もなかった。
ジオとしてはいくつか気になる点や、いってみたい場所もあったのだが、大所帯となるとなかなか自由が利かず、結局目的を果たせぬまま、そこは解散の運びとなった。
ゼルがテレポーターを呼び出して、皆ぞろぞろとテレポートしていく。
最後にジオはもう一度都市を見渡してから、マハリジへのテレポーターに乗るのであった。
誰もいなくなった都市に竜達の声だけが響き渡る――
テンタクル→フィーラー、と変更しました。
昨日(6/15)、突然PVが増えてびびってました。
しかしながら、沢山の方々に読んでいただけたようで、大変嬉しく思います。
読んでくださっている方、ブックマーク、評価を下さった方、大変ありがとうございます。励みになります。
これからもどうぞよろしくお願いします。




