龍人の都市 4―閃光電雷―
「俺にちょっとばかし考えがある。」
ゼルはにやりと口角を吊り上げた。
目の前の竜種達は、まるで何かのイベントに詰め掛ける人々のように、後から後から湧くようにやってきて、その分だけゼル達への包囲網は狭まってきている。
そこにゼルは違和感を感じていた。
何故一斉に襲ってこないのか。包囲網を作る必要はどこにあるのか。
数で勝っているのに仕掛けてこなかったし、それだけ警戒しているということなのだろうか。
それに竜たちの統率されたこの動き。
かつて第一次龍の骸調査隊の面々が竜たちの陽動にひっかかり、カンシーンの後衛への侵入を防げなかったように、この竜たちの動きにはそういう統率された何かがある。
ならば、その背後にいるのはカンシーンだろうか?
ゼルが竜たちの動きに注意しつつジリジリと下がる中で、迫り来る地上の竜の他に、空を行き交いつつ警戒する飛行竜の中に一匹だけ、動かない竜を捉えていた。
一見自由に動いているように見える飛行竜達も、その実同じようなコースを代わる代わる飛んでいて、その動かない飛行竜の周りを、守るようにぐるぐると飛んでいる。
後から後から増えてくる竜達も勢い余って前の竜にぶつかったり、丁度ジオ達が地下都市を見下ろしていた断崖から足を滑らせて落ちていく竜もいる。その様子を見れば、先の“龍の背骨”での戦闘のように、陽動できるほどの統率が取れているとは言い難い。
どちらかといえば、単純な命令に沿って動いているように思える。
そしてその命令を下しているのはおそらく――
ちらりとゼルは自分達が降りてきた通路を見る。決して狭くは無いが、そう広くも無い。
竜種が2体並べるかどうかの空間である。
ここに全員で飛び込んで竜たちを迎え撃つ、というのは悪手である。
相手が人間であるならばそれでもかまわないが、竜達が死を恐れずになだれ込んできてしまえばこちらの全滅は必至。
仮に通路に陣取ったとして、竜たちの物量で押しつぶされるのがオチだ。
「あんた、ケイジスワンプは使えるか?」
ゼルが動きのない飛行竜に視線を戻し、その姿を視界に捉えたままで魔術師に耳打ちする。
「ケイジスワンプ?使えるが…一体何のために?」
「試してみたい事があってな。」
メイジの男もまた油断無く竜たちを見据えたままで答えるが、ゼルの意図が読み取れず、釈然としていない様子だ。
ケイジスワンプとは、沼の檻を発生させる魔法のことで、広範囲に水の柱を発生させ相手との間に檻を作る。だが、それは水の柱が立つだけで攻撃力などは皆無。その癖発動までの時間はそこそこかかって、使う触媒もそこそこ、というネタとか芸にしかならない魔法だった。水に弱い敵であれば躊躇はするかもしれないが、目の前にいるのは竜種。水や炎には耐性をもっているから、まったく意味の無いものになってしまう。
「そっちのあんた達も協力してくれ!誰かタンクか盾はいないか?」
メイジの男とは反対側、ジオの傍で竜と対峙している四人組パーティにも声を掛けるゼル。
だが、ゼルの問いかけに対する答えは無かった。
確かに盾を装備したものはいたはずなのに――
「しゃあねぇ、簡易だが俺がやる。」
手早くカバンから盾を取り出したゼルはそれを左腕に装着する。
彼らの中にタンク型の人間がいたとして、名乗りを上げないのも無理はない。
この命の危険をひしひしと感じる中で進んで命を張ろうと思うほうがどうかしているのかもしれない。
出来れば自分だってやりたくはないのだが、ここを切り抜けない限りは竜の餌食になるのは時間の問題だろう。
ゼルは奥歯をかみ締めながら装着した盾を構えなおす。
「俺が今からゲートオブイエローを使う。発動したらメイジさんはケイジスワンプを奴らの足元においてくれ。こちらが動けば奴らも動くと思うが、俺が盾をやるから皆はメイジさんの援護を頼む。ケイジスワンプが発動したらすぐにそこの通路まで走って防御を固めてくれ!絶対にケイジスワンプの範囲には入るなよ!」
そのゼルの言葉にジオ以外の人間はまったく意図を読み取れず一瞬躊躇する。
「何をやるかわからんが、信じていいのか?」
「ああ?どっちにせよこのままじゃやべーだろ、もがくしかねーだろ!」
「そう…だな…」
ゼルの必死の言葉に、周りの人間もようやく頷いた。
「やるだけやってみるしかないな。」
「そうだな!」
皆が改めて武器を構えなおす。
「防御を固めたらすぐに通路入り口にウォーターケイジでいいから水檻を張ってくれ!」
「わかった!」
ゼルは叫ぶと同時に盾を構える。
「いくぞ…ゲートオブイエロー!!」
ゼルが盾を前に突き出すと、その盾から金色の光が発せられて迫っていた竜たちを包み込み、そのままほんの少しだけ後ろへと押し出した。
ゲートオブイエロー、目の前の範囲にいる対象を強制的に後ずさらせる盾の技である。
その光と同時にメイジの男が詠唱に入る。
触媒が光の粒になり、それは竜たちの足元に青色の魔方陣を描いていく。
ギャッギャッ――
唐突に、これまで動きを見せていなかった飛行竜が鳴き声上げ、その鳴き声に反応した数体の竜たちがゼル達に向かって走り出した。
「くるぞ!ヘイト・アトラクション!」
詠唱を始めたメイジの男の前に立ったゼルが叫ぶと、盾から無数の幻影の鎖が飛び出して、向かってきている竜たちを囲み、そして消える。すると竜は方向を変えて全てゼルに向かって走り出していた。
「ハンディングバインド!コーティングオブマッド!ホルディングウィング!」
その斜め後ろからジオが竜たちに向かって拘束系の技や魔法を発動させる。
ゼルに向かってきていた竜のうち、三体の動きが止まった。
一方で他の動き出した竜たちは詠唱に反応しているのか、メイジの男めがけて突撃を開始する。
「まだか!」
「もうちょいだ…!」
メイジの男を守るように円形に陣を組んだ他の者たちも、各自竜に応戦している、が、数が違いすぎて苦戦を強いられる。
見ればいずれもジオやゼルとは違い、特化型ばかりだが、その特化型の高い性能に慣れきっていたため、実際に体を動かす戦闘となるとおぼつかないようである。
幸いだったのは、各パーティに回復役が存在していたことか。
同時に、さっきは名乗りを上げなかったものの、一人タンク型の人間がいて、それがメイジの男に近寄る竜をひきつけてくれていた。
「ジオ、もうすぐ詠唱が終わるから交代な!」
「は?ふざけんな!」
有無を言わさずゼルはジオの後ろに回りこんで、先日買ってきた練習用の剣を引っ張り出して、何事か詠唱し始めた。
「くっそ、後で触媒おごりな!」
「生きてたらな!」
そのゼルの様子を見る間もなく、ジオの眼前に竜が迫ってくる。
「ホルディングウィング!」
目の前の竜が薄い魔方陣の輪で包まれて宙へと浮かび上がったかと思うと、そのまま地面へ叩きつけられて絶命する。
「コーティングオブマッド!」
その両サイドから飛び出してきた竜たちは、足元から伸びてきた泥に足を絡め取られて動きを鈍らせた。
「エクスプロードオブディーヴァ!」
ジオの目の前にあった死体が突如爆発を起こす。その横で泥に足を取られていた竜はその爆発に巻き込まれて瀕死へと追い込まれた。
けれど、その後から後から竜は詰め寄ってきてとても対処しきれない。ジオとゼルを突破していった竜たちは、あとは後ろの面子に任せるしかないが、悲鳴が聞こえては回復魔法の声がかかり、を繰り返していて、そちらも長くもちそうにない。
「詠唱がおわるぞ!ゼルギウス!」
そこへようやく待ちに待った叫び声が響いた。
「丁度だ!走れ!!」
「ダークネスミスト!」
ジオがゼルの声に呼応するように体から黒い霧を放出し、一瞬竜たちの視界を遮る。
同時に竜たちの足元には水場が忽然と現れ、あちこちから水の柱が立ち始める。
ケイジスワンプの完成だった。
「どんぴしゃー!!」
皆が通路へと後退し始めたのと同時にあがった水柱を確認したゼルは、その水場へと一本の剣を投げつけて叫んだ。
「エンチャントサンダー!サンダーブレイド!!」
竜たちの目には、背を向けて通路へと走っていく人間達の背中が映る。
ギャッギャッ――
背後からは進めの声が聞こえてくる。
命令どおりに一歩踏み出した竜たちはしかし、そこでその視界を暗く閉ざすことになった。
通路へと逃げ込んだ一行が振り返ったときに見たものは、まばゆい光だった。
地面に突き立てられた剣を中心にしていくつもの紫電が走り、そしてそれは無害なはずの水の柱をも狂気の武器に変えていた。
ゼルの投げた剣に付加されたサンダーブレイド、高圧電流を纏った剣が水場へと突き刺さったことによって、一帯は電流の流れる地獄と化す。
その場の竜たちは、次々と黒焦げになって倒れていく自分達の仲間に、前進を躊躇い始めた。
ギャッギャッ――
それでも尚前進せよ、と命令は下される。
忠実に前に進んだものから肉を焦がして倒れていく。
そんな異常な状況を前にして、竜たちの動きもすっかり止まってしまっていた。
「やった…のか?」
「まだだ、ウォーターケイジを!」
「あ、ああ」
最後に通路に飛び込んできたゼルが叫ぶと、すぐさまメイジの男は詠唱に入る。
ほどなくして通路の入り口を水の檻が覆う。
「ふぅ、これでとりあえず時間が稼げるな。」
水の柱を確認したゼルがぺたんと尻餅をついて額の汗をぬぐう。
「あんた…すげーな、よくあんなこと思いついたもんだ…」
メイジの男がそんなゼルに笑顔で話しかけてくる。
最初は半信半疑、その意図もわからなかったが、今になってみればよくなるほど、と頷ける。
彼はゼルの機転を笑顔で称えていた。
「いや、知り合いに軽功で飛竜倒した人がいてな。そんなことできるんだったら、って思っていろいろ考えてたんだけど…いやぁ、ぶっつけ本番でうまくいってよかったよかった。」
が、そのゼルの言葉に一同は一瞬固まる。
よくよく考えれば竜が一瞬で黒こげになるほどの電流がそこにながれているのだ。
一歩間違えば全員でお陀仏だったことに、いまさらながら気づく一同。
「まぁ、ほら、どうせあのままでもお陀仏だったんだし、それにうまくいったんだし、結果オーライってことで!」
そうしてゼルがまたニヤリと笑い、周りの人間もまた乾いた笑いを返すのであった。
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ミサを小脇に抱えたテンテンがすさまじい速度で洞窟の中を狭しと壁、天井、あらゆる場所を選ばずに走り抜ける。
「うわわわわわわわ」
抱えられているミサは、しょっちゅう天地が逆転するから、すっかり目を回していた。
やがて遠くに出口である地上の光が見えてきたところで、テンテンはようやく目的の一行を発見する。
そしてその一行は必死で出口へと向かって走っていた。
「まずい…ミサちゃん、も少し我慢しててな!」
さらに速度をあげたテンテン。
まるで世界がゆっくりと動いていくような感覚にとらわれて、意識も遠い彼方へ旅立ちそうになるミサの目の前を、ゆっくりと、さっき一目散に逃げ出した三人組のパーティが、スローモーションで後ろへと流れていく。
あっという間に追い抜いたテンテンはその一行の前に立ちふさがった。
「まって!今外に出るのは危険だよ!」
突然目の前に現れた一人の少女――いや、幼女を小脇に抱えた少女にその一行は驚いて立ち止まることを余儀なくされる。
「なっ、なんだおまえは!」
「ばか!こんなやつにかまうな!さっさと逃げないと竜どもが――」
「そうだ!早く逃げないと!」
再び走り出そうとする三人組だが――
「ミサちゃん!あの人たちを止めて!」
「は、はいよ~」
まだぐるぐると回る意識の中でどうにかカバンから種を取り出して三人の足元へ投げつける。
「て、てんぷるぷらんとー」
気のぬけたミサの声だったが、三人の足元の種が小さく爆発して、次の瞬間には三人の足を短い蔓が絡め取っており、歩くのさえ封じていた。
「なにすんだてめ!」
「ほ、ほどけよ!お、俺は帰るんだ!」
「殺すぞこのガキャ!!」
さっきまで逃げ腰だったのに、子供のような容姿の二人を目の前したからといって、よくも強がりをいうものだ、とテンテンはため息をつく。
「あのさぁ、このまま進むとほんあぶないんだってば。」
「ああ!?なんでおめーにそんなことわかんだよ!」
「だって――」
ギャギャギャ!!
突如として険しい竜の鳴き声が三人を包み込んだ。
「く…これシャウト…」
がくっと膝を地についてしまったテンテン。
同様に目の前の三人の男達も頭を抑えてその場にうずくまってしまう。
「危ない!テンテンさ――」
ミサの声にはっとして振り返ったテンテンの目に飛び込んできたのは、すさまじい速度でこちらへとむかってくる火球だった――
本日の魔法と技
ゲートオブイエロー
―盾の技。盾から放たれる輝きはどんなものをも畏れさせ、後ずさらせる。
エクスプロードオブディーヴァ
―死体を爆発させて周囲にダメージを与える死魔法。死体でなければ爆発しない。
ダークネスミスト
―体から黒い霧を噴出し、対象の視界を悪くする死魔法。
サンダーブレイド
―武器に雷を付加し、麻痺効果も付与するエンチャント魔法、カテゴリは神聖魔法。
ケイジスワンプ・ウォーターケイジ
―攻撃魔法の中に何故かあるネタ魔法。効果は作中を参照。
てんぷるぷらんと(テンプルプラント)
―短い蔓で対象の動きを数秒間止める。種を一個消費する。




