龍人の都市 2―目覚め・後編―
ジオの料理スキルレベルがあがった。
それはおかしな事だった。
既にジオのスキル総数は上限に達していたのだから。
だが、事実、レベル15だったはずの料理スキルは17まであがっていたし、それを裏付けるように料理スキルレベルにして17必要な山葵がきちんと加工されている。
そしてスキルウィンドウを見ていたジオが尤も驚いた事、それはスキルレベルの総数表示。
もともと1800が上限のこのゲームにおいて、ジオのスキルレベル総数の今の表示は――1802。
さらに、スキルレベルの上限を示す箇所そのものが抜け落ちたように消えていた。
スキルの表示ウィンドウにはただスキルレベルの現在の総数だけが表示されている――
「何が起こってるんだ…」
虚空を見つめて固まったままジオが呟く。
何度も目だけを動かして、自分のスキルウィンドウを確認するジオだったが、やはり総数は1802だし、上限の表示はない。
尋常でない様子のジオに、周りの皆も声をかけられず、静寂が支配したその場を時間だけが流れていく。
「皆…スキルウィンドウ、見てくれないか?」
ようやくその静寂を破ってジオが皆に問いかける。
言われるがまま各々が自分のスキルウィンドウを見るが、そこにはいつもと変わらぬ画面があるだけであった。
「スキル総数、撤廃されたとか、そういうことって…あるのかな?」
皆が特に何も変わり映え野ないのない自分のウィンドウに一様に怪訝そうな顔をしているから、ジオは切り出してみた。
「いや…俺の表示は何もかわってないが…」
ゼルがいつになく真剣な表情で答える。
他の人間も、ゼルの言葉にただ頷く。
「じゃ、じゃあ、俺の表示バグってる…?」
「なぁ、ジオ。俺らなんだかよくわかんねーんだけど…落ち着いて説明してくれ。」
「あ、あぁ…」
ゼルの言葉にジオは一度深呼吸をして、それから今見たことを説明する。
とても信じられる事ではない、とジオは思っていたのだが、思いの外そこにいる誰もがうなずいて、最初にテンテンが口を開いた。
「実際、山葵切れてたしね。表示バグ、ではないと思うなぁ。表示だけなら実際に山葵を加工できないと思う。おそらくはジオくんにだけ、何かが起こってる。」
テンテンの言葉に、一同の脳裏をジオがいたという謎のマップの事がよぎる。
「理由はどうあれ、本当にジオくんのスキル上限がなくなってるかどうか、試してみないとね。」
そこでテンテンがニヤリと笑った。
何だか、新しいおもちゃをみつけたような、楽しみを見つけたような、ちょっとだけ邪に感じる笑顔に、ジオは後ずさって苦笑いを零すのであった。
それから。
テンテンとクララによる料理レベルの鍛錬に始まり、ゼルからジオのスキルにない魔法と剣、ミサからは棍棒技を、そしてモリーティアからは調合を次々と鍛錬させられ、疲労困憊になるジオの姿があった。
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「これまでにわかった事を説明するね。」
テンテンの呼びかけにリビングに集まった七人。
目の前のテーブルには大量の料理とポーションが置かれている。
今日、ゼルとミサ、テンテンが広場へと買い物へ行っていた理由がここにある。
昨日から今日にかけて、ジオにとにかくあらゆるスキルを鍛錬させ、その上昇を確認させた結果、触媒は底をついたし、食材も全て料理に変わり、練習用の剣はもはや耐久値がなくなっていた。
もちろん得たものは大きい。
まずスキル総数の上限は本当になくなっていた。
今ではジオのスキルレベルは1900に迫る勢いになっている。
そしてスキルの中にあがるものとあがらないものがあることが判明した。
まず、スキルレベルが0のスキルはいくらやってもあがらない、同様にスキルレベルが5未満のものはあがらないようだった。
スキルレベルが5以上あればあがる事は証明されたが、既に高レベルとなっている死の魔法や剣スキルの中の鎌は上昇しているのかどうかがわからない。
というのもスキルレベルがあがるにつれて、上昇し難くなっていくからだ。
端的に言えば、成熟した技術をさらに高みに上げることは難しい、ということだろう。
それゆえ、ちょっとやそっとスキルを鍛錬したからといってそうそうあがるものではない。
ましてやジオの「死魔法」や剣スキル「鎌」は既に250を越えているから、もしこれをあげるとすれば、より強い敵を相手に戦ったりしなければならない。
と、ここまでをまくしたてたテンテン。
「こんなところかな」と、一礼すると、目の前の料理を食べ始める。
最近、テンテンはすっかり解説役になりつつあるな、と思いながら、テンテンと入れ替わるようにジオが立ち上がる。
「というわけで、なんか知らないけどスキルあがるんだ、俺。」
「チーター乙」
ジト目の半笑いでゼルが言う。
「話の腰を折るなよ」とジオもゼルにジト目を返す。
とはいえ、ゼルも別に本気で言っているわけではない。わけではないのだが、何故か隣に座っているミサに足を蹴られて悶絶していた。
ざまみろ、と心の中で思いながら、ジオは改めて六人を見渡す。
「何か、変な事になっちゃってるけど、上げれるスキルは上げて行きたいと思うんだ。もしかしたら将来何かの役に立つかもしれないし。皆に協力をお願いするかもしれないけれど、その時はよろしくな!」
そのジオの言葉に皆、優しい顔をしてジオを見ていた。
そして、モリーティアは優しい笑顔で、ゼルは少し気取って、テンテンははむはむと租借しながら、ミサは元気良く、皆一様にうなずいてくれるのであった。
「あ、そうそう、さっき街で聞いてきたんだけど、何か新しいマップが見つかったんだって?」
ひとまずジオのスキルについての話は終わり、スキル上げのために作った料理で今日の夕食会が始まっていた。
その中で、テンテンが思い出したように告げた。
「何でも、トンネル谷の地下からみつかった、らしいですな。」
テンテンの話に補足するようにスティーブが口を開く。
スティーブの言葉にジオ達プレイヤーの五人は顔を見合わせた。
そこではっとしたようにミサがモリーティアを見る。
「モリモリさん、こないだいってたあれ、なんでしたっけ?」
「未実装マップのこと?」
「そうそう、ボクに教えてくれた一説があったじゃないですか?」
「ああ――」
ミサの話に、思い出すように目を閉じたモリーティアは、そのまま語り始める。
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龍人は龍をあがめ、龍に還る
それゆえに神をあがめず、文明を極めた龍人たちは、やがて神の怒りに触れる
神の怒りが龍の都市を襲い
必死に抵抗する龍人たちは、次々に知能の低い竜へと変えられていった
そして残ったのは破壊しつくされた都市と自分が龍人だったことを忘れた竜たちだけ
龍人の都市は滅び、しかしその文明の残滓を恐れた神々は、都市を龍の骸の地下深くに沈めた
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「これでしょ?」
「そうそう、それです!もしかして、そのマップってそれのことなんじゃ?」
ガタッ!
テーブルが大きな音を立てて、ジオが勢い良く立ち上がっていた。
モリーティアたち六人の視線がジオにあつまるが、目を大きく開いたジオはモリーティアを放心したように見つめている。
「じ、ジオ?」
あまりにもじっと見つめてくるから、モリーティアは思わず頬を染めてしまう。
「いま、なんて…?」
「え?」
ジオはモリーティアにずんずんと近づいて、息が掛かるほどまで顔を近づけてその肩を掴む。
「じっ、ジオ…ちょ…」
急激に顔を赤く染めていくモリーティア。
「今の、どこで?」
「えっ?えっ、えっと…と、図書館の本で、だよ…」
目の前の真剣そのものなジオの顔に、頬を真っ赤に染めながら、しどろもどろになりながらもどうにかジオの質問に答えるモリーティア。
「ゼル、こないだ話した光の球のこと、覚えてるか?」
「あ?あー…」
モリーティアの肩を掴んだまま、ジオが神妙な面持ちをゼルになげかけるが、その突然の質問に首をかしげはじめるゼル。
「ジオくんがいたとこで語りかけてきたってあれでしょ?覚えてるよ?」
ゼルの代わりにテンテンが答えた。ゼルも思い出したようで、テンテンの言葉に仕切りに頷いている。
「今モリモリさんが言った事、そっくりそのまま、その光の球が言ってたんだよ。」
「うん、そうだったね。龍人の神?だっけ?」
「そう、あの話をしたとき、モリモリさんは寝てたはず…」
ジオは顔を上げて記憶を逡巡させ、再びモリーティアの顔を見つめた。
同じように他の三人もモリーティアを見る。
「モリモリさんの話、聞かせてくれないかな?ミサちゃんから断片的に聞いてたけど、ちゃんと聞いてなかった。」
「え?あ、う、うん」
モリーティアは茹蛸のように顔を真っ赤にして、力なさげに頷いた。
「えっと…何を?」
が、どうやら話についていってなかったらしい。
ジオ達六人は思い切りため息をついてしまうのであった…
気を取り直して、モリーティアはジオが不在の間、自分が調べた事を語る。
ジオと話した龍人の都市からヒントを得て、カンシーンの大穴の位置と龍人の都市の伝承を照らし合わせた事。WWFでのマップの実装に関しての物語や、物語からのマップの実装など、過去にあったアップデートを鑑みて、カンシーンの大穴は龍人の都市に繋がっていて、そこにジオも巻き込まれたのではないかという仮説を立てた事。
そしてその過程で見つけたあの一説。
「もし、その、ジオの言う光の球?がいってたことが本当なら、今回見つかったってマップはもしかすると…」
最終的にそう結論付けたモリーティア。
「ジオくんは、あの場所の記憶ちゃんとあるんだよね?」
「うん、あんなに見事な風景は見たことなかったからね。」
「そうか…よし!」
モリーティアの話を聞き、ジオの話と照らし合わせたのか、しばらくうんうんと唸っていたテンテンがすっくと立ち上がった。
「行こう、その新マップとやらに。」
ぐっと拳を握り締め、ジオ達を見回すテンテン。その視線にその場所にいた誰もが無言で頷いた。
そうして彼らは新しく発見されたというマップへ向かう事になる。
「あ、勿論、モリモリさんは留守番だよー」
モリーティアを除いて。




