インターバル~モリーティアとジオ~
ジオが目覚めて再会を果たしてからしばらくの間、モリーティアはジオの傍から離れようとしなかった。
流石に就寝時はミサとクララに必死で止められて、引きずられるように自室へと連行されていたが。
「おはよう、ジオ」
ジオが目を覚ますと目の前にエメラルドの瞳。
そしてハートマークでも飛び出しそうなほどの笑顔があった。
一緒に寝るのは流石にミサたちによって阻止されたし、ジオもさすがにそれはと思ってどうにか諭したが、今度は朝も早くから起こしにきたらしい。
「モリモリさん…起きれない。」
身を乗り出して顔を覗き込むようにしているモリーティア。まだはっきりしない頭の中で、このままでは身を起こすことも出来ないな、とぼんやりと思ったジオだった。
「あ、ごめんね。それとティア、ね。」
「うー…」
ジオとしては、まだ寝起きでぼんやりとして、まだ睡眠をむさぼりたい気持ちがあったのだが、ニコニコしているモリーティアの手前起きないわけにはいかないだろう。
「今クララとスティーブがご飯作ってるから、食べにいこ?」
目をキラキラとさせてまた笑顔を零すモリーティア。
「………」
その様子を部屋の反対側で、こちらも目を覚ましたゼルが半目で見ている。
「朝からおあついことで…」
ふっと目を逸らしあくびをしながらぼやくゼル。
「ほら、ジオいくよー」
「ふぁ…はいはい…」
ぐいぐいと手を引っ張るモリーティアに、欠伸を噛み殺してジオは手を引かれるがままにベッドを出た。
昨日、ジオにくっついたまま泣き疲れて寝てしまったモリーティアだったが、クララとスティーブの持ってきたお茶とお菓子の匂いで目を覚ました。
そこからモリーティアの怒涛の攻撃が始まったのだ。
お茶がなくなればすぐにおかわりを注ぎ、お菓子を食べようとすれば、切り分けて「あーん」という始末。
さらにさらに、ジオの行くところ全てについて回ってくる。
ここ数日のモリーティアの様子を知っていたミサ達は、「仕方ない」と最初は温かい目で見守っていたのだが、いつまでも離れようとしないモリーティアに、流石にくっつきすぎなんじゃないか、と温かい目がやがて生暖かい目に変わり、最後にはジト目になっていた。
「はぁ…」
段々ジオもげっそりとしてため息までついてしまう。対照的にモリーティアの行動はエスカレートして行き、風呂にまで一緒に入ろうとするわ、ベッドにもぐりこもうとするわで、ミサとクララの手を焼かせるのであった。
最終的にはしょぼくれて自室に入っていったが、これまでの抵抗と、明らかに納得していないモリーティアの顔を見て、ミサは、クララ、テンテンと共に寝ずの番を提案する。
案の定、夜中に二度三度扉の隙間からモリーティアは廊下の様子を窺っていたらしい。
そして今も、腕をしっかりと掴まれて、キッチンまで連行されてきたジオがいた。
「皆、おはよう!」
嬉々とした顔でモリーティアがそこで朝食をとっていた二人に笑顔を見せる。
その隣のジオは朝から既に疲れた顔だった。
「おはよう…」
「おはよ…」
その二人、ミサもテンテンも唖然として思わず手に持っていたスプーンを落としそうになっていた。
(一晩眠れば収まるかとおもってたのに…)
(まぁ、モリモリさんだからねぇ)
ひそひそと話す二人に目もくれずにモリーティアはすたすたとキッチンテーブルまでくると、
「さ、ジオ、座って座って!」
椅子を引き、ジオに座るよう促す。
これでは男女逆じゃないか、と一瞬ジオは思うが、ニコニコ顔のモリーティアには逆らえないでいる。
「あ、あぁ…ありがとう…」
のろのろと椅子に座ると、すぐさまモリーティアがキッチンのクララから皿を受け取ってきて、ジオに朝食を給仕してくれる。
そうして、今度は目の前に座ると組んだ腕に顎を乗せてニコリと笑った。
「召し上がれ!」
何がそんなに嬉しいのか、とびきりの笑顔でジオを見つめていた。
「あ…うん、いただきます。」
一体これはなんだろう、とミサもテンテンも、クララでさえもジト目でその二人の別空間、いやモリーティア一人の別空間を見続けるのであった。
昼を過ぎて、モリーティアは大聖堂へ本を返しにいくと告げて、ジオに本を持ってもらうように頼もうとしていたのだが、流石に病み上がり(?)のジオをモリーティアの用事に付き合わせるわけにも行かないだろう、とミサがその役を買って出る。
意外にもすんなりとモリーティアは承諾して、ミサに大量の本を持たせ、大聖堂へと出かけていった。
テンテンは昼前に港へ行く、と言って、そこにクララもついて出かけていたから、モリーティアの屋敷にはジオ、ゼル、スティーブの三人が残っている。
リビングで一同に会した三人は、無言のまま目線を交わして、そのまま各自がさだめられたかのように、ジオとゼルはソファに、スティーブはジオの横に立つ。
「スティーブも座りなよ…」
横に立たれると何だか落ち着かないと思ったジオが、スティーブにも座るよう促すが、スティーブは首を横に振る。
「いえ、これでも執事のはしくれ。自分の主人となろうお方と卓を囲む事はできません。」
ぶふぉっ!
そのスティーブの言葉にジオが思い切りよく噴出す。
「ははぁ、なるほど。執事公認ですか。」
その様子にゼルがしたり顔でジオとスティーブを交互に見やる。
「ちょ、スティーブ!」
「ええ、そうですとも…ジオ様、どうかティア様をよろしくお願いいたします。」
「そうじゃなくて…」
ジオが何かを訴えかけようとするが、この若く精悍な顔つきの執事は目を閉じて何かに思いを馳せるようにしている。
「思えばモリーティア様のお世話をするようになってから数十年…」
「そんなたってないだろ!つか、スティーブお前何歳だよ!」
そのジオの言葉に目を閉じたまま、ふふ、と笑うスティーブ。
「んでもさ、ジオ。実際どうなんだよ?」
ゼルが急に真顔でジオを見た。いや、真顔ではない。口の端がぴくぴくと動いている。
「それは是非、私も聞きたいですな。」
スティーブもゼルの問いかけに便乗してきたが、こちらは本当に真顔だった。
二人に無言で詰め寄られるジオ。何か悪い事をしたわけでもないのに、槍玉にあげられている気分になるジオ。
「いや、その……ごにょごにょ」
「え?聞こえない!」
「聞こえませんな。」
ジオの表情をみて、ゼルがニヤニヤとし始め、スティーブは薄目でジオを見据えている。
「うぅ…」
なんでこんなところで息ぴったりなんだ、とジオは恨みがましい目で二人を見るが、それで態度を変えるような二人ではなかった。
「好きなの?モリモリさんの事。好きなの?」
「ちょ、ゼル!?」
「さっさと白状していただけると私としても大変嬉しいのですが。」
「スティーブ!!」
二人に代わる代わるに責め立てられて、ジオはいよいよその顔を真っ赤に染めていく。
「ああ、もう!…………だよ。」
「は?」
「今何と?」
ニヤニヤ全開のゼルと、あくまですまし顔のスティーブだが、二人とも耳に手を当ててそれを見せ付けるように近づけてくる。
「はいはい、わかりましたよ、好きですよ、何か悪いかー!」
ジオはやけになって大声で宣言してしまった。
「はーい、いただきました。な、スティーブ。」
「はい、ゼル様。この耳でしかと。」
ゼルとスティーブは顔を見合わせて、にやりと笑った。
「さて…と。」
「どこいくんだ、ジオ」
「どこにいらっしゃるので、ジオ様。」
席を立とうとしたジオの服を掴み、口の端を吊り上げた笑顔全開の二人がジオを引き止める。
「な、なんだよ、ちゃんと白状したじゃないか。」
「いえいえ、何をおっしゃいます、ジオ様。」
「そうだぞ、ジオ……では、これより質問タイムに入りまーす!」
げっそりとしたジオをよそに、ゼルとスティーブは二人で嬉々として盛り上がり始めていた。
ジオの受難はまだまだ続く――
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「で、モリモリさん」
「ん?」
「ジオさんの事、好きなんですか?」
「え――」
自らも本を抱え、うきうきニコニコのモリーティア。
気分がのっていると魔法の調子もいいのだろうか。
前回運んだときよりも量が多いように思うのだが、何故かミサは大分軽く感じていた。
すっかり本を返し終えたその帰り、ミサはモリーティアをあの喫茶店へとお茶に誘った。
渋るかと思いきや、ここでも意外にもすんなり喫茶店行きを了承するモリーティア。
少々拍子抜けではあったが、その席でミサはモリーティアの気持ちを聞くべく、切り出した。
喫茶店「夕月亭」
そこでは金髪の兄弟が店をやっていて、知る人ぞ知る隠れ家的喫茶店、と呼ばれていた。
例の有名プレイヤー達もここの常連らしいのだが、幸い今日は他に客もいない。
ここぞとばかりに切り出したミサの言葉に一瞬固まるモリーティア。
それからすぐ、目の前のコップにささったストローを弄びながら、もじもじとしはじめる。
「好きって、その…」
「勿論男として、ですよ?」
「うぅ…」
モリーティアの顔がみるみる赤く染まっていく。
あれだけ散々くっついておいて、今更何を頬染めてんでい、と突っ込みたくなる衝動を抑えて、ミサはそのモリーティアを見据える。
ミサにとって誤算だったのは、そのモリーティアの仕草というか、態度、だろうか。
「え、そのジオは友達で…えとね、好きかっていうと、好きだけど…それは恋愛とかじゃなくてね、なんていうか…」
もじもじぼそぼそと喋りながら顔を赤く染めるモリーティアが存外に可愛かった。
(え、何これ。何この可愛い生き物。)
思わずうさみみをぴこぴことさせて、モリーティアの所作に見入るミサ。
もじもじぼそぼそと何事か言い訳が続くが、ミサにとって最早そんな事はどうでもよくて、普段は見られないモリーティアの可愛すぎる態度に何故か嗜虐心を煽られてしまっていた。
「え、それじゃあ、好きでもないのに、あんなにくっついてたんですか?」
「あっ、それはね、そうじゃなくて…手を離したらまたいなくなるんじゃないかって、不安で…」
(くあぁぁっ!何この乙女!)
ちらちらとミサを見ながら、もじもじぼそぼそ。
そんな態度にミサの嗜虐心ゲージは針が振り切れんばかりになっている。
「ほら、朝もジオさんに朝食だして、召し上がれ~って」
「えっ、えっ、あれはっ!ほら…」
ミサの一言一言にもじもじぼそぼそ、時々あたふた。
顔を真っ赤にして言い訳を並べるモリーティアはミサの目には、この世のものとは思えないほど可愛く映る。
「うぅ…」
やがて涙目になってきたモリーティア。
ちょっとやりすぎたかな、とミサは思うのだが、その涙目のモリーティアですら可愛いのだ。
顔を真っ赤にして、涙さえ浮かべて言い訳を続けるモリーティア。
やめられない、とまらない、とはまさにこの事か、とミサは何かに頷く。
ミサの質問攻めは、港からの帰り道のテンテンとクララが二人の姿をかぎつけて合流するまで続くのであった。
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ゼルとスティーブによって質問攻めにあったジオ、そして結局ミサとテンテン、クララによって質問攻めにあってしまったモリーティア。
ようやく解放された二人は、モリーティア邸の玄関でばったりと出会ってしまう。
ジオは部屋へ戻る途中、モリーティアは他の三人と共に丁度帰宅したところであった。
「………」
「…………」
リビングの扉を開けると、ジオの目の前にモリーティアの顔がある。
思わず目が合って、そのまま無言になってしまう二人。
刹那、二人は静寂に包まれて、長いような短いような間、目を合わせ続ける。
ボン……
傍目からも、まるで二人の頭が同時に爆発したような幻影を見ることが出来たかもしれない。
二人は同時に顔を一瞬で真っ赤に染めて俯いてしまった。
「お、おか、おかえり。」
どうにかこうにか口を開いたジオ。
「た、たたただだま…」
モリーティアも噛み噛みではあるがそれに答える。
そんな二人を見た周りの五人は、それはもう、えもいわれぬニヤニヤ笑顔で二人を見守っていた。
「きょ、きょうはあついね!」
「そ、そだね!」
うつむいたまま二言三言言葉を交わしてジオは部屋へ、モリーティアはリビングへと分かれていった。
「怪我の功名、かなぁ」
ニヤニヤしながらゼルが呟いた。
昨日からモリーティアの所業に手を焼かされていたミサ達三人も、ニヤニヤ笑顔を隠さずに、ゼルの言葉に頷く。
それからしばらくの間、ジオとモリーティアは出会うたびに頭を爆発させるのであった。
二人の気持ちが通じ合うのはいつのことやら――
インターバルです。
インターバル、です…
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次から転機に入ります。
設定の甘い箇所や未説明の部分を補修しつつ、展開していかねばならぬので、少し更新頻度が落ちるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。




