龍の骸 4―浮上―
第二次調査隊が少数精鋭にて結成され、その中心となるのはセイクリッドナイト"ハルおじさん"、そしてその補佐を女騎士メッツが勤める。
他にもウォーロックマスター"んふっふ"を始め、第一次調査隊であまり活躍が出来なかったと心残りのあるものや、またも暴れたいという血の気の多い者、逆に龍の骸での純粋な調査がしたいという学者肌の者たちがその調査隊にこぞって参加希望を表明する。
名目上第二次調査隊だが、その実は行方不明になったジオの秘密裏の捜索であるから、あまり人数が多くなっても困るし、彼を捜索するのは事実上、ハルおじさんとメッツ、それと状況を聞かされた一部の者だけで、大っぴらに動けるわけでもない。それゆえの少数精鋭編成だった。
龍の骸での、竜の大部隊からの戦勝は、プレイヤー達への状況への不安を軽減するのに一役買っていた。
そんなに不安ならログアウトをすればいい、と言う者がいたが、現状でログアウトした者が再ログインできたという話はない。
何故か皆戻ってこない。ログアウトしたらそれっきりだった。
果てはログアウトすると、電脳世界の狭間に意識が閉じ込められると流布するものまで現れる始末だった。
それゆえに、ログアウトするのも憚られ、かといって死についてのこの世界の概念が確認されたわけではなかったから、プレイヤー達の不安は募るばかり。
が、そんな状況の中で、龍の骸での調査隊の戦闘での勝利は少しの間だけでもその不安を忘れさせるお祭りのような騒ぎになっていたのだ。
『死亡者、行方不明者共になし。現在龍の骸にて、詳しい調査を続行中』
その報告に、安堵するもの、調査隊を囃し立てるものなど、マハリジで調査隊の報告を待っていた人々(プレイヤー)は沸きに沸いた。
それ故にジオの行方不明は完全に伏せられることになる。
そうして続いて第二次調査隊が結成される運びとなったのだ。
ハルおじさんとメッツに関して言えば、確かに彼の発見、保護が目的だった。
それを聞かされた小数の精鋭たちもそれを了解している。
ところが、ウォーロックマスター"んふっふ"に関して言えば、少々趣が異なっていた。
皆を率いていける力を持ったものとしてハルおじさんよりジオの失踪を聞かされたとき、んふっふの心の中をまったく別の考えが支配していた。
「この世界の死の概念を調べることが出来るチャンスだ。」
と。
状況を聞けば死んでいてもおかしくはない。
あるいは生き延びていても殺してしまえば、確認ができるだろう。
聞けばその人物はただの地獄戦士。PVP(プレイヤー対プレイヤー)でも相当の実力を誇るんふっふに取っては倒すのは容易い相手だ。もちろん五体満足でいる可能性も低いだろうから、余計に簡単であろう。
そんな考えをおくびにも出さずにんふっふはハルおじさんの言葉にうなずいた。
そしてんふっふは、自分の仲間を調査隊に参加させ、彼もまた秘密裏にその人物を探し死亡の確認を取ることを優先させた。
それぞれの思惑が錯綜する中、出発した第二次「龍の骸調査隊」。
だが、彼らは、その調査の中で思いがけないものを発見してしまうのだった。
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ジオに縋り付く様にして泣いていたモリーティアは、やがて泣き疲れて眠ってしまっていた。
クララに自室に運ぶようお願いしたのだが、モリーティアは眠っているにも関わらず、ジオから手を離そうとはしない。
無理矢理引き剥がすのも可愛そうだ、とクララが言うので、ジオは少々気恥ずかしいとも思うのだが、このままでいることにした。
「お茶を用意いたします。」
気を遣ったのか、スティーブとクララはそう四人に告げると部屋を出て行った。
「にしても…まぁ、いいや。」
安心しきった顔で眠っているモリーティアと、気恥ずかしさからか少し顔を紅潮させているジオの顔を見比べながら、ゼルはため息をついた。
「今までどこにいたんだ?」
そのゼルが真剣な顔でジオに向き直る。
ゼルの話ではトンネル谷のめぼしいところ、さらにはカンシーンの大穴の周辺をくまなく調べたにも関わらず、ジオを見つけることは出来なかったという。
ゼルの話にテンテンは同じようにうなずいていたし、報告を受けていたというミサも頷いていた。
「それが…わからないんだ。」
ジオはついさっきまで自分がいた空間に思いを馳せる。
その様子をかいつまんで、ゼルたち三人に話してみるが、やはり三人ともそんな場所に覚えはないという。表示されないコンソール、朽ちた町並み、荘厳な神殿、龍人の都市、光の球、その光球の謎の問いかけ。そして気がついたらここに寝かされていたという。
その話を聞いているうちに、ミサが腕組みを始め、顎を手で触ったり、何か考え始めていた。
「どうしたの?ミサちゃん。」
その様子に横でテンテンが首をかしげていた。
「いや、その…龍人の都市?でしたっけ?モリモリさんが調べてまして…その、もしかしたらジオさんは未実装マップに入り込んでしまったんじゃ、って。」
何度も首をかしげながらミサは、モリーティアが話していたことを三人に伝えた。
「なるほど!」
その話を聞いたテンテンが突然立ち上がる。
「ゼルくん、確かコールがつながらなかったって言ってたよね?」
「え?ああ。モリモリさんも確認してたし、間違いない。」
ゼルは突然テンテンが立ち上がったのでちょっと驚いていたが、テンテンから聞かれた事は事実で、自分も何度も確認したことだから間違いなかった事だ。
「で、ジオくんはコンソールが消えていた…これらをつなぐのはまさに『未実装マップ』!」
声高らかにその小さい体全体で表現するような大きな動きをみせて宣言するテンテン。
「どういうことです…?」
「昔使われていたとかならともかく、未実装マップはシステムから隔離されていると考えられるんだ。」
テンテンは意気揚々と説明し始める。
「言ってみれば未実装マップは電気が通ってないみたいな感じかな。電気が通っていない場所と同じように、未実装マップはシステムの及ばない場所になってると考えられる。だからジオくんはコンソールが開けず、モリモリさんやゼルくんのコールも通らなかった。と、考えられるます。」
説明を終えて、うやうやしく頭を下げて見せたテンテン。
「いやいや、まてまて、テンテンちゃん。それならジオはどうしてそこにいって無事で帰って来れたんだ?一応、ここはゲームの中だぞ?システムが通ってないなら魔法も何も使えないんじゃないか?」
ゼルの言うことも尤もだ、とジオもミサもその言葉に頷く。
「確かにそれは疑問に思うところだと思う。けど、簡単。個人個人の魔法や技の使用を全て中央のシステムでやっていたら、負荷がかかりすぎるから、そういうのは分散してあって、マップごとに処理できるようになってると考えられる。この世界に目でわかるマップの区切りはないけれど、ミニマップ上では表示が変わるでしょ?」
テンテンがその疑問にすぐさま答え始めるが、ジオとゼルは半分くらいしかわかっていないし、ミサにいたっては目を回しそうなほど顔を百面相することで、わからないと主張していた。
そんな三人の様子に、テンテンはため息を一つ。
「じゃあ、コールの説明するね。コールは電話みたいなもので、直通でやり取りするんじゃなくて、中央のシステムを経由していると考えられる。で、未実装マップはシステムの影響が及ばないから、届かない。コンソールについても同じで、個人情報に関わるから、その表示だけは中央システムが管理してるんじゃないかなぁ。で、魔法やアイテムなんかの処理は個別マップで行われる。だから、特にコンソールがなくてもアイテムの使用や魔法、技は使えるんだと思う。」
わかったような、わからないような三人は能面のような顔をして得意げに語るテンテンを見ている。
「で、ここからは私もわからないところなんだけど、以前魔法は、触媒がカバンの中に入っていても使えたけど、今はそうじゃない。同じように変わってる部分はいくつもある。そして、さっきの話と矛盾するけど、ジオくんはコンソールの無い所で魔法が使えた。っていうのも、私の考えではマップがコンソールから受けた命令を中央を通してマップに伝えてると思ってたんだよね。それくらいの情報量なら大して重くもないし。」
そろそろテンテンの前の三人の頭から煙が出そうになっている。いや、既にミサの頭から蒸気が噴出しているような幻覚さえ見える。
「そんなに難しい話してるんじゃないんだけどなぁ…」
テンテンは呟いて苦笑いを浮かべた。
「つまりあれだ!なんやかんやでジオは無事に戻ってきました!ってことで!」
「むぅ、ゼルくんめ。」
ゼルがぱんぱんと手を叩いて、終わりを告げる合図とする。
それをお茶の合図と勘違いしたのか、同時に扉が開いてクララとスティーブがお茶とお茶菓子を持って入ってきた。
ゼルの所業に少々不満気だったテンテンも、そのお茶とお菓子の香りにすぐに機嫌を直してしまっていた。
部屋は一気にお茶の良い香りと、お菓子の香ばしい匂いに包まれるのであった。
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第二次「龍の骸調査隊」は、ハルおじさん達が大穴を、んふっふ達が"龍のはらわた"へと分かれて調査することが決まった。
んふっふは少々不満ではあったが、それをおくびにも出さずに快諾し、はらわた方面へと向かった。
ハルおじさんはそのんふっふ達の背中を見送り、額にかすかににじんだ汗をぬぐう。
「何を考えているかわからん奴だ…」
「んふっふがどうしたんです?」
ハルおじさんの傍らで同じくんふっふを見送ったメッツが訝しげな顔をする。
「いや、少しな…」
見えなくなるまでんふっふの背中を見送り、ハルおじさんは踵を返す。
「では、いくぞ。」
「はい!」
ハルおじさんの号令に、そこにいた第二次調査隊、改めジオ捜索隊は一斉に返事をする。
その時の事だ。
地面が突然揺れ始める。
「なんだ、地震か?」
捜索隊の間にもどよめきが起きて、その全員が周りを見回す。
ハルおじさんの脳裏には一瞬カンシーンの姿がよぎり、そこにいた他の誰よりもいっそう険しく辺りを警戒していた。
長いようで短いような、地震のような揺れはやがて収まって辺りを静けさが覆う。
「地震…なのか?」
ハルおじさんは注意深く辺りを見回すが、その頭に浮かんだ巨大な生物の姿はなく、ほっと安堵する。
「今まで地震なんてありましたっけ?」
メッツもハルおじさんと同様にカンシーンの姿を警戒していたのだろう。注意深く辺りを見渡しながらハルおじさんの元へと戻ってきた。
「…記憶にある限りではないな…そういうエフェクトの技ならあるが、今のはエフェクトとは思えん…」
「確かに…」
ハルおじさんとメッツを除く捜索隊の面々は、地震がおさまるのを確認すると、やれやれといった風に出発の準備に戻っていた。皆今の地震に何も思うところは無いようだった。
「いない、ようだな…」
「そうですね…」
十分に辺りを見渡して、そこに敵の姿がない事を確認すると、そこではじめて二人はため息をついた。
大穴にたどり着いたジオ捜索隊たちは、異様な光景を目撃する事になる。
暗闇で覆われていると報告のあった大穴が、今は日の光を通して底まで見えるようになっていたのだ。
「これは…」
そこから見える光景にハルおじさんを始め、捜索隊の面々は言葉を失った。
――暗闇が取り払われたカンシーンの大穴から見えたのは、広大な地下都市の遺跡だった――




