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中途半端で何が悪いっ!~ネタキャラ死神による魂の協奏曲~  作者: 八坂
第一章 ネタキャラはネタキャラでしかないのか!?
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ネタキャラはネタキャラでしかないのか!? 6

 ジオがテンテン、ゼル、ミサの三人にコールを飛ばすと同時に、ジオの背後にある小高い丘、前線の戦闘が行われている東の方とは逆の西側からぬっと、巨大な一つ目の鬼、「カンシーン」がその姿を現した。


「あ……」

「おい!ジオ!どうした!?」

「ジオくん?」

「ジオさーーん?」


 まださほど距離は近くない。近くないはずなのに、その巨大な体は遠近感をおかしくさせて、すぐ目の前にいるような錯覚さえ見せる。

ジオと同じように、近くにいた騎士たちもまた、口をぽかんとあげてその巨躯を見上げていた。


「……は……ハルおじさんにコールを!!」

「バカ野郎!ここで逃げたらなだれこまれるぞ!!」


 ジオからみて、丁度ジオとカンシーンの中間にいる警らの二人。

引け腰になってしまった騎士に別の騎士が怒鳴る。


「おい、そこの…地獄戦士ヘルウォーリアか…すまんが増援を呼んできてくれ!」


 怒鳴ったほうの騎士がジオの姿を見つけて引け腰になっている相棒と共に駆け寄ってきたのだが、ジオのクラスを確認した時、眉を一瞬ひそめてピタリと止まり、そう怒鳴ってきた。


「あ、わ、わかりました!」

「頼んだぞ!……ちっ、あんなネタクラスじゃ即死しちまう…」


 おそらくは、何かしらの援護を期待したものの、ジオのクラスではその期待に応えることはできないと判断したのだろう。思わず呟いた彼の言葉は、駆け出したジオの耳に聞こえてしまっていた。


(くっそ…!)


 特化型がそんなに偉いのか、ネタクラスじゃいけないのか、と不愉快に思う気持ちを地面にぶつけるように走るジオ。

 でも、ジオにだってわかっている。

 ちょっとした上位種の竜くらいならジオにもどうにかできる。

けれど相手はあの「カンシーン」だ。

ジオのスキル振りでは一も二も無く踏み潰されてしまうだろう。


 まだこの世界において死と言う物の概念が確定していないから、慎重になるのも仕方がない。

恐らくあの騎士は生き残れる可能性をジオと自分たちで天秤にかけて、ジオを使いにしたのだ。

むしろジオは足手まといにしかならない、と。

地面を蹴りつけるように走るジオだったが、悔しい気持ちは抑えられない。


 自分だって何かできるはず、と歯噛みしながら走った。


 そのジオの前方から、10人ほどの集団が走ってくるのが見えた。

先頭を走ってくるのは銀のフルプレートを身にまとったデモニムスの大柄で、伸びた髭が特徴の男、ハルおじさんだった。


「カンシーンが北西から!!」


ジオはハルおじさんに向けて叫ぶ。


「聞いている!君は…」

「増援を呼んでくるように頼まれました!」

「わかった。…今は人手が欲しい、援護を頼む!」

「あ…はい!」


 てっきりさっきの騎士のように使い走りか、下がっていろとか言われてしまうものだとばかり思っていたジオだったが、ハルおじさんの思わぬ申し出に、顔をぱっと明るくさせてうなずいた。


 ジオの導きでカンシーンの出現した地点へ急ぐ10人。

その先から、何かが爆発するような音と、重いものが地面に落ちるような音が連続して聞こえてくる。

ジオとハルおじさんたちが進む先に大きく舞い上がった土煙のようなものが見える。


「ぐあぁぁっ!」


 その土煙の中から男が一人、文字通り宙を飛んで空から降ってきた。


「いけない!」


 ハルおじさんの左にいた男が叫び盾を正面に構えると、急激に速度をあげ、吹き飛んできた男の下へと走っていく。

盾スキルの技の一つ、"インパクトダッシュ"。

盾を正面に構えながらすさまじい速度で走り、敵を蹴散らす事のできる移動技だ。


 その男はそのインパクトダッシュで吹き飛ばされている男の下まで距離を縮め、地面に叩きつけられる間一髪の所でその男を受け止めた。


「おい、大丈夫か!?」

「く…いてぇ、いてええ!!あいつめぇ!!」


 男は左手にをぶらりとさせて叫ぶ。その左手には大破した盾の残骸が装着されていた。

カンシーンの攻撃を盾で受け流す事に失敗してもろにくらい、盾ごと吹き飛ばされたらしい。


「メッツ、回復を頼む!」


 ハルおじさんに、メッツと呼ばれた女性騎士が前にでると、触媒を取り出して回復魔法を詠唱し始める。


「頼むぞ。他の者は私に続き、カンシーンとの交戦にはいる!」


 ハルおじさんの声に、他の騎士たちは気迫のこもった雄たけびをあげた。


「君はここで彼らの護衛を頼む。回復し次第合流してくれ!」

「は、はい。」


 ハルおじさんがジオに向き直ってそう告げ、他の騎士たちと共にカンシーンの元へと走っていった。

ジオとしては、やや不服ではあるものの、確かに回復している彼らの護衛は必要。

あくまで彼には"援護"をたのまれたのだから、これだって援護のうちだ、と割り切ることにする。

それに回復し次第合流せよ、ともいってくれた。

少なくともネタクラスだからいらない、というわけではなさそうだ。


 今、カンシーンの手によって吹き飛ばされてきた男は、メッツの放つ回復魔法の魔方陣に包まれている。

カンシーンの攻撃によって、盾ごと吹き飛ばされた彼の怪我は見た目にも酷かった。

手や腕の骨は確実に粉砕されているだろうし、同時に肋骨や内臓にも損傷があるのだろう。

吹き飛ばされてきた直後、男は一度、血を吐いていた。


 回復魔法、というものがどこまで人体を治すのか、あるいはその仕組みはわからないのだが、回復魔法の光に包まれた男は、苦しそうな顔から段々と平常へと戻っていく。

痛みが引いているのだろう。


 ゲーム時はもちろん痛みなんて感じることはなかったから、回復魔法をかけてもらえば、HPゲージがにょきっと回復するのを確認できるだけで、それも一瞬のことだ。

けれど現在では、ゼルに回復魔法をかけてもらった時もそうだったが、痛みはだんだんと引いていき、傷口もふさがっていく、といったように回復するまでにすこし時間がかかるようだ。


 やがて男は起き上がってきた。


「ああ、メッツさん、ありがとう。それと…さっきの地獄戦士か。呼んできてくれたんだな、助かった。」

「もう一人の方は?」

「あいつは逃げたよ…くそっ」


 さっきこの男と一緒にいた、引け腰になっていた騎士は先に逃げてしまったらしい。怪我が治った拳を地面に叩きつけて男は歯噛みしていた。


「大丈夫ですね?それではハルさん達に合流しましょう。」


 そんな二人に、メッツは笑顔を向けると、先に立って歩き出した。

慌てて二人もその後を追う。


 その先では既に激しい戦闘が繰り広げられていることを示すように巨大な土煙が立ち込めていた。


 ハルおじさんを中心にカンシーンに対峙した9人の騎士。

四人が二組に分かれてカンシーンの横に位置取りをして取り囲む。

頑丈そうな大盾を身に着けた二人が一歩前に出て同時に叫ぶ


「ヘイト・アトラクション!」


 同時に大盾から幻影の鎖が飛び出して、カンシーンを縛るように取り囲んで消える。

カンシーンは鎖が消えたのを確認して、何事かと大盾の二人を見下ろした。


「効いたようだ、くるぞ!」


その動きにヘイトコントロールに成功したと思った二人は大盾を正面に構えて攻撃に備える。


「メッツが戻るまで回避主体で行け!」

「応!」


 ハルおじさんの檄に大盾の二人が応えてカンシーンの様子を窺う。

しばらく二人を見下ろしていたカンシーンは、突如拳を大きく振り上げると、その二人に向かって振り下ろした。


ズン……!ズッズッズ…


 二人はそれを後ろに飛びのくことで難なく回避し、飛び散る土や石のつぶてを大盾で防ぐ。

地面に突き刺さったカンシーンの拳は、しかしさらに地面にめり込んでいく。――と


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


カンシーンの拳を中心にした半径数メートルの地面が突然揺れ始めて、次の瞬間あっという間に崩壊した。


「な、なんだこれは!?」


 ハルおじさんが叫ぶも、それすらも土煙に飲まれて消えていった。


 土煙が収まり、ようやく追いついたジオ達が見たものは、片膝を地に着け、右手拳を地面にめり込ませたカンシーンを中心とした巨大なクレーターだった。


そのところどころに倒れた騎士の姿が見える。


「なん…だ…これ……」


怪我の男が後退りながら顔を青ざめさせる。

同時に自分はあんなものをまともにくらってよく生きていられた、と脂汗すらその額ににじませていた。


「…!ハルさん!!」


 メッツが土に半分埋もれたハルおじさんの姿をみつけて駆け寄る。

その周りには4人の騎士もまた倒れていた。


「メッツ…ゆ、油断した…まだゲーム感覚が…」

「回復します、しゃべらないで!」


 メッツは慌ててかばんの中身をぶちまけると、片膝をつき、祈るような姿勢をとったかと思うと、詠唱が始まる。

メッツを中心にその5人の騎士を一度に包み込む巨大な魔方陣が形成されていく。


――セイクリッドスコール


 中範囲に癒しの雨を降らせる上位回復魔法。

範囲が狭い分、その効果は高い。

難点は詠唱に時間が掛かること。

触媒が一つ光の粒になって、魔方陣を描いていく。

その巨大さゆえに、魔方陣が完成するまでに時間が掛かってしまう。


 そして敵がその詠唱の完了をまってくれるなど、そんな都合のいい展開があろうはずもない。


 カンシーンは地面から手を抜くと光を放ち、形成されていく魔方陣に視線をうつす。

さっきの衝撃でダメージを受けたハルおじさんはろくに動けないし、メッツはカンシーンの視線が自分に向いていることに気づかずに詠唱を続けている。


 確実にこちらを見ている。

それに気がついたハルおじさんだったが、今はもはやどうすることも出来ない。

連れてきた精鋭たちが、まさかこんなにいとも簡単に崩されるとは思いもしなかったのだ。

その目には絶望の色さえ浮かんでいた。


「ログアウト…ログアウトしろ!!全員、今すぐログアウトだ!!」


 突如叫んだのはさっき怪我から復活した男だった。


「え…何いって…」


 ジオがその男を諌めようとしたが、次の瞬間男の姿は掻き消えた。


意識を取り戻した騎士の一部がその言葉にはっとして同じように消えていく。


「死ぬよりはましだ!!」


とそういい残して。

その間にもカンシーンはゆらりと立ち上がり、ハルおじさんとメッツに向けて歩き出す。


「メッツ、お前もログアウトしろ…」

「だめです、ここで逃げては後方に被害が!」

「なんとかする…」


 残っているのは、大盾の一人とハルおじさん、メッツ、そしてジオだけだ。

そしてカンシーンはわき目も振らずに詠唱を続けるメッツへと向かっている。

メッツはどうにか間に合えと祈りながら詠唱を続けるが、カンシーンはもはや目の前まで迫っていた。

土に埋もれたままのハルおじさんの目にはもはやカンシーンの巨大な足しかうつっていない。

それでもメッツは詠唱を続ける。

カンシーンはその手を大きく天へと振り上げて――


「ハンディングバインズ!!

 ホルディングウィング!!」


 二人が諦めかけたそのとき、カンシーンの後ろから声が響く。

その声に、一瞬カンシーンが動きを止めた。

何が起きたのかと見ると、その足は無数の土の手にからめとられ、振り上げた拳は薄い魔方陣の腕輪のようなもので縛り上げられていた。


 だが、その両方共が数秒も持たずに一斉に砕けてしまう。


「コーティングオブマッド!

 ヘヴィエストエナジー!

 デモニックブレス!

 ダークオブルーマー!

 チェインオブスレイブ!」


 カンシーンの背中越しに次々に降りかかる禍々しい言葉。

その全てが死の魔法。

ハルおじさんの視線の先には、紅い鎧の男、ネタクラスでしかない地獄戦士ヘルウォーリアの男が立っていた。

その足は、僅かに震えている。

けれど、しっかりと魔法を発動し、その全てはカンシーンへと吸い込まれていく。


「ポイゾナスバプティ!

 ワーズオブエピデミック!!


 こっちだ、こっちにこい!」


 鎌を振り回している姿はさながら死神の様に見える。

ネタクラスだが死の魔法は援護に使える、と考えたハルおじさんが援護を要請した人物、ジオだ。


「だめだ…にげろ…」


 そのジオの行動にハルおじさんが呟く。その言葉は届くわけもない。

それを横目にメッツの魔方陣は間もなく完成しようとしていた。


カンシーンは様々なマイナス効果の魔法を受け、その視線をその詠唱者に向けた。


(よし…ここだ!)


「グリムヴェイパー!」


 視線が向いたのを確認したジオはその鎌の先から紫と緑が混じった霧をカンシーンに向けて放射する。

その霧はカンシーン全体を包み込むように広がり、その巨躯をやがて覆ってしまった。


 意に介さずにジオに向けて一歩踏み出すカンシーン。

だが――


ウオォォォ…


 突如として腹に響きそうなほど低い声で雄たけびをあげる。

続いてハルおじさん達三人の元へ緑色の雨が降り注いだ。


「なんだ、あれ…」


 思わず呟くハルおじさん。

その魔法はハルおじさんには見たことがないものだった。

カンシーンが緑とも紫とも言える霧に包まれたまではわかる。

その後、一歩踏み出そうとしたカンシーンが突如雄たけびを上げ、自分達の下へ緑色の雨を降らせる。

緑色の雨――それはカンシーンの血であった。


「グリムヴェイパー、超レアな死の魔法ですね。あれは、地獄戦士ヘルウォーリア系のクラスにしか使えない特殊なものです。使っているのをみたのは、私も初めてです。」


 詠唱を完成させたメッツがハルおじさんの疑問に答える。

メッツを中心に金色の魔方陣が完成されていて、そこから同じ色の光が一度天へと昇る。

そして無数の光がその魔方陣の中にだけ降り注いだ。


 その光を受けたハルおじさんと大盾の騎士の傷は塞がっていき、体力すら回復してきているのが二人にはわかった。


「おそらくはあの霧が何か金属片のようなもので出来ているのでしょう。動けば切り刻まれる。」

「チートみたいな技だな。」

「効果だけを見れば。入手経路も難しければ使える条件も厳しい。そして触媒もまた特殊なものですから、一回の発動にいくらかかることか…」


 効果だけを見ればロマンあふれる魔法ではあったが、そのコストはとんでもないらしい。

それを実行できてしまう、あの死神のような男は一体何者なのだろう、とハルおじさんは目を細めた。


「私は、彼を過小評価していたのか?」

「いえ、コストを考えても、ネタです。それに、あの魔法だけで倒せるわけではないでしょう?ほら。」


飽くまで冷静に応えるメッツが指し示すと、丁度カンシーンがその霧を振り払うところだった。


「たいしたダメージではありません。カンシーンにしてみればね。」

「むぅ…ならば早く掘り起こしてくれないか。彼一人では危険だろう。」

「わかりました。」


 カンシーンは霧を振り払い、今度はハルおじさん達には目もくれずジオの方へと怒りの目を向けて歩いていく。

珍しい技をみたが、それについてゆっくり話している時間はない。

メッツは大盾の男と共にハルおじさんを掘り起こし始めた。


 一方、ジオはカンシーンから距離をとり、適宜魔法を放つ。

近寄られたらすぐに「ハンディングバインズ」や「ホルディングウィング」等の足止め技で一瞬でもその動きを止めて距離をとる。

「グリムヴェイパー」で傷を負ってしまったカンシーンは、その怒りをジオに向け、執拗に追い回してくる。


(確かこっちに…!)


 ジオはテンテン程ではないが"龍の骸"について詳しい。

土地勘があるというのだろうか。どちらへいけばどこに着くのかがなんとなくわかる。

そして、ジオは今とある方向へとカンシーンを誘導しながら進んでいた。


"龍の背骨"には運営のお遊びでアトラクションのような地形が設置してある。

ジオはその一つである、トンネル谷を目指していた。

今回で決着にしようしようと思っているのですが、中々終わりません。すみません。でも、次で一度調査隊の話は区切りにする予定です。


以下、ジオの魔法の説明をば。

ハンディングバインズ

 -無数の手が敵の動きを止める。

ホルディングウィング

 -鳥の羽をつかむように、敵を空中へと磔にする。

コーティングオブマッド

 -呪われた泥で敵の動きを鈍くさせる。

ヘヴィエストエナジー

 -呪いの気で敵を疲れやすくする。

デモニックブレス

 -魔の瘴気、ランダムでマイナス効果が発現する。

ダークオブルーマー

 -暗黒で敵を包み、命中率を低下させる。

チェインオブスレイブ

 -敵を奴隷の鎖で縛り、引き寄せる。

ポイゾナスバプティ

 -相手に猛毒の洗礼を浴びさせる。

ワーズオブエピデミック

 -この言葉を聞いた者は病気に侵される。

グリムヴェイパー

 -"痛い霧"。魔力で出来た無数の小さい刃が包まれたものを切り刻む。

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