ネタキャラはネタキャラでしかないのか!? 4
無事榊たち偵察隊と合流したテンテンはそのまま彼ら五人とジオとゼルの待つ西の絶壁の下へと向かう。
「パラシュートのないスカイダイビングみてぇ」
ゆっくりと滑空しながら降りてくる六人をみたゼルが漏らした一言だ。
榊のコールによって、既に東の偵察隊とその護衛役だった本隊の一部は撤退を始めているらしい。
ジオ達もまた本隊へと合流するべく西の絶壁を離れた。
道すがら、テンテンとレッドワイバーンの交戦の話や、偵察隊の見てきた話を聞く。
偵察隊の面々はテンテンとワイバーンの交戦の話から、軽功の新たな使い方を見出して、榊を中心にその話で持ちきりだ。
一方ジオ、ゼル、テンテンの三人は背骨の状況について話し合う。
偵察隊の話では、背骨は入り口に多くの竜種が集まっていて、人間の侵入を拒んでいるようだが、それさえ抜ければあとはモンスターの数はそう多くは無さそうだということと、けれど、はらわた方面でもやはりモンスターの集結が見られるということ。
そしてジオ達が尤も知りたかった情報、カンシーンの動向は見られないどころか、背骨にその姿を確認できなかったと言う。
「ジオはどう思う?カンシーン、どこにいると思う?」
「僕らの推測があたっていると考えれば、"はらわた"、ですね。」
「ま、そーだな、あの巨体が隠れる場所なんて背骨にゃないし。口の方にいたらすぐわかるし。」
テンテンの問いに対するジオの答えに、ゼルも同調する。
「んでもさ、ジオ、テンテンちゃん。もしその考えが当たってるとして、カンシーンがこんな事する目的って何なの?」
今度はそのゼルから疑問が出てくる。
けれど、ジオもテンテンもそれには答えられないで居た。
人間の侵入を拒む理由、そしてそれは異変後から始まった。
はらわたでログアウトしたはずの人物が異変後のログインでマハリジまで戻されていた事。
龍の骸には何かがあると、そうみて間違いはないだろう。
しかし、一体何があるのか、その場の誰も知らないことだった。
----------------------------
偵察隊の報告を受けた「龍の骸調査隊」の臨時隊長を引き受けたサムライ"ゴロー"は、明朝8時に背骨へと向かう事を決めた。
異変後、初の集団野営となり、榊やハルおじさんなどを中心として、簡易ではあるが夜間見張りのシフトなども組まれたものの、モンスターが現れるような事もなく、何のトラブルもないまま夜は更けていく。
ジオは一人天幕の外に座って夜空を眺めていた。
ゲームの時は一切動きの無かった星や月は、今地球のそれと同じように動きを見せている。
WWFの世界は単純にワールドとよばれていて、固有の名前はつけられていない。
けれど、世界に対する設定や、神話などの寓話や宗教、神など、思いの外細かく設定されている。
ジオはあまり興味がなくて、あまり覚えていなかったのだが、モリーティアはそんな設定話を得意気にジオに披露することがあった。
たとえば、この世界の月は赤い大きな月と、青い小さな月の二つがあって、それぞれに神が住んでいる。
赤い月には闘いの神が、青い月には癒しの神がそれぞれ住んでいて、闘いの神を、癒しの神が癒しているという、前衛と後衛を示すような神話。
あげればキリがないが、モリーティアは暇な時は大聖堂の図書館に出かけ、そこに設置されていた本をよく読んでいるらしかった。
その二つの月を見上げて、ジオはため息をついた。
ここにいるほとんどの人間は、所謂"特化型"で、さらには有名プレイヤー達のお墨付きである。
その中でジオやゼルは異端だった。
今日の戦闘も皆手際よく、淡々とこなしていたし、ジオやゼルの出番は一切無かった。
場違い感を感じていて、最初は無理やり巻き込んだテンテンをちょっとだけ恨んだりもした。
とはいえ、敵討伐時のドロップの仕組み、テンテンの戦闘から得た技の発展の可能性や、そしてこの騒動の原因への推理など、楽しくないわけではないから恨む気持ちはそのうちなくなっていた。
「ジーオ、何たそがれちゃってんの?」
「モリモリさんか」
モリーティアがいつのまにか横に居て、ジオの顔を前かがみに覗き込むようにしていた。
「むぅ、昔はティアって呼んでくれてたのに。」
「モリモリさん、ってのも可愛いじゃん。」
「否定はしないけど、でもそれ、どっちかっていうとガチムチって感じがするなぁ、私は。」
モリーティアは「ふふ」と微笑んでジオの隣に座る。
「否定はしない」
「否定しようか?」
笑顔で睨むモリーティア。
――それから、しばらく何を喋るでもなく、二人は空を見上げていた。
月が二つあることもそうだが、星の配置もおそらくは地球のものとは全く違うのだろう。
それにしても、元々人の手によって作り出されたはずのここが、何故現実のようになってしまったのか。
"リアルログイン"とは言うけれど、ではそのログイン先の世界は一体どこなのか。
ジオは昔見た、遠くの星を占領するために、その星にキャラを作って"ログイン"して尖兵を送り込むという映画を思い出す。
そういうのとは全く違う状況だけれど、あの映画の主人公は今のジオのように見知らぬ空を見上げて何を思うのだろうか。
その映画の結末は良く覚えていない。
「また何か考え事?」
深いエメラルドの瞳がジオを見つめている。
どこか心配するような、見守るような、そんな風に。
「いや…龍の骸には何があるのかな、と。」
「ははぁ、なるほど。そういえば、龍の骸には、昔龍人の都市があったらしいよ?」
「龍人?」
選べる種族にも、NPCの種族にも、そんな種族は存在しない。WWFに於いては初めて聞く種族だった。
「そ、5大都市とならんで6大都市っていわれてたけど、なんでか滅んじゃったんだって。その時に龍人も絶滅しちゃって、だからこの世界には龍人はいない。龍の骸の竜種たちは、龍人の怨念とか、転生とかって言われてるらしいよ。」
「へぇ…じゃあ、竜たちはその龍人の都市を守っているのかもね」
「そうかもねぇ~」
夜風が二人の髪を優しく揺らして、ふとジオはモリーティアを見る。
風に身を任せるようにして目を閉じているモリーティア。
月光がその亜麻色の髪に反射して、モリーティア自体がぼんやりと光っているかのような錯覚を覚えた。
その様はまるで月光の乙女。なんだかとても綺麗でジオはすぐに目を逸らした。
「あ、そうだ。」
目を閉じたままでモリーティアが口を開く。
「明日、素材お願いしてもいいかな?」
「え?」
そこでモリーティアはジオに向き直ってまっすぐに見つめてくる。
「どうせ竜狩るんだから、いいでしょ?」
「はぁ、ちゃっかりしてるというか…わかりました。」
「ふふん」
気の無いジオの返事だったが、月光の乙女はニコリと素敵な笑顔をジオに向けるのであった。
-------------------------------
翌日、調査隊は背骨へ向けて進軍を開始した。
2985年10月7日、異変後初の大規模戦闘が始まる。
ゆっくりと歩みを進める調査隊50名強に対し、正確な数は図れないが、待ち受けているのは少なくとも調査隊の人間の数よりも多い竜種たち。
竜の口の北、背骨の入り口で対峙する調査隊と竜。
先頭のゴローと榊が一歩踏み出す。
二歩…三歩…そして走り出す。
それが合図だった。
前衛の戦士たちが、雄たけびを上げながら扇状に広がっていく。
続いて後方、ルリ子とんふっふを中心とした魔法士たちが走り出した戦士たちに向けて一斉に強化魔法をかける。
その魔法士団をしんがりたるハルおじさんを中心にした騎士達が囲み、全方位からの攻撃に備える。
その中には赤と黒の鎧を着たジオの姿もあった。
強化を得た戦士たちが竜の群れへと突撃していく。
その後ろからは更なる強化魔法や、敵への弱体化、そして攻撃魔法が戦士たちを援護する。
棍棒の戦士が敵を気絶させ、その敵を剣士が一刀で切り裂く。
竜の鋭い歯を剣で受けて身動きが取れない剣士の横から、強烈なとび蹴りが飛んできて竜が倒れる。
吐き出された敵の火球に、こちらも火球をぶつけて相殺し、仲間のピンチを救う魔法士
響き渡る鈍い音、剣戟の甲高い音、怒号、気迫のこもった雄たけび、爆発、叫び。
色んな音がそこで同時に繰り広げられている。
「負傷したものはすぐにさがれ!回復できるものはすぐに回復を!!」
ゴローが叫ぶ。
まだ負傷者は出ていないが、単純に一人で2体以上を相手にしなければいけない計算になるし、前衛だけに限れば敵の数は3倍以上に膨れ上がる。
それでも、調査隊は優勢に事を進めていた。
じわじわと前進し、背骨入り口までの距離をつめている。
彼らの周りには竜たちの死体が転がって、その数は増えていく。
人間たちの勢いに竜たちはその数を段々と減らしていき、中には逃げていく竜も現れた。
戦闘が始まってから既に3時間が経過しようとしていた。
-------------------------------
後方のプリーストたちが集まる陣で、ゼルとミサは物資の運搬など雑用として動いていた。
次々に運ばれてきては、回復され再び前線へ戻っていく調査隊の前衛達。
触媒や、ポーション、包帯など簡易治療のできるアイテムなどをけが人やプリーストたち、または補給にもどってきた者たちに配布する役目だ。
ジオ達は、テンテンはともかく前線に出ても足を引っ張るだけ。
そうはっきり言われ、ジオは騎士たちの補助に、テンテンは魔法士たちの護衛、ゼルとミサはこの通り雑用とゼルの場合は回復の補助も担当している。
モリーティアは運ばれてきた武器や防具の修理をひっきりなしに行っていた。
「前線は優勢のようですね」
「そうだな、こっちが暇なのはいいことだよ。」
ジオが周りの騎士たちと、遠くの怒号を聞きながら話す。
ジオと話していた騎士は苦笑していた。
運ばれてくる怪我人は少なくは無いが、皆致命傷には程遠い。
体の一部を欠損したり、死亡するような事態にはなっては居なかった。
けれど、彼らプレイヤーは中身は現代人だから痛みに慣れてはいない。
大概の人間がHPゲージにして3割~4割程度で一度後退し、回復を受けているようだった。
けれどそれもまた、余裕のある話である。下がらせるだけの余力が前線にはあるということだから。
前線は大変だろうけれど、後方の回復や補給もまた凄い忙しさであった。
そこへ背骨入り口を突破したという一報が入る。
「俺も前線いってみたかったなぁ」
他の騎士達とともに竜の死体を解体しながら一報を聞いたジオは、沸き立つ周りをよそにぽつりと呟くのであった。




