ネタキャラはネタキャラでしかないのか!? 3
"龍の口"、その入り口付近を制圧した「龍の骸調査隊」は、そこに陣を構えていた。
「龍の骸調査隊」、誰が言い出したのかは定かではないが、いつの間にかこの調査隊の事をそう呼称する者が増えて、隊を仕切る有名プレイヤーもまたその名で呼ぶようになっていた。
「まんまだよねぇ。」
モリーティアがあくびをしながら呟いた。
陣の中にある天幕の一つ、その天幕の外には小さな看板が設置してあって、「修理受付中」と書いてある。
それはモリーティアの天幕で、テンテンに半ば無理やり連れてこられたものの、戦闘は出来ないし、出きる事と言えば手持ちの材料で急ごしらえの武器や防具を作るか、あるいは修理を引き受けるかくらいしかないから、こうして修理屋を開いているのだ。
モリーティアは隊を仕切る有名プレイヤーほどの知名度はないが、アクセ販売や、人当たりのよさから慕うものもいるし、モリーティアの露店を利用するものも少なくないから、途切れ途切れではあるものの、誰かが天幕に顔を出す。
その中の一人の修理を引き受けた際に「龍の骸調査隊」の名前を聞いたのだ。
修理自体は一瞬で終わって、依頼者もいなくなったところであくびが出てしまったのだった。
因みに、修理はスキルレベル依存型の技によって行われる。クリエイトマスターであるモリーティアの修理技術は高い。
異変の後で様々なアイテムや技の変貌をみてきたモリーティアは、ならば修理はどうなっているのだろう、と壊れてもかまわない武器や防具を用意して試してみた。
結論から言えば、修理用のハンマーで剣の傷を叩いてみたら、そこが修理された。
異変の後、アイテムの詳細等を開く方法がわからなくなっていたが、この分だと耐久度は回復しているだろうと思われる。
剣や防具を叩きまくると、キラキラと武具が輝いて、新品同様に見えるまでになった。
「それでいいんかいっ!」
思わずツッコんでしまうモリーティア。
その際に思わず手を鎧にぶつけてしまい、自分のHPゲージががくんと減ったのを確認すると、すぐにとんでもない痛みが襲ってきたのはまた別の話。
ともあれ、修理については確認できた。製作についても確認したかったが、調査隊についていくことになったから、もし機会があればやろうとは思いつつも未だ実現できていなかった。
なので、今は修理屋をやっている。
「そうですねー、まんまですー」
モリーティアの隣では、高い椅子に座ったミサが届かない足をぶらんぶらんさせながらぼんやりとしていた。
「ふふん、でもジオさんもわかってますね。ボクをモリモリさんのガードに任命するなんて。」
ミサは突然思い出したようにニヤリと笑ってモリーティアの方を見た。
「ティア、ね」
モリーティアも苦笑を返すが、ミサは気にも留めずに話を続ける。
「ボクは実に護衛向けなんですよー?こんぼう技にはピコハンみたいな敵の動きを止める技が多数ありますし、さらに栽培マンたる証、ボクは触手使いなんですよ!」
「え、触手?」
ミサの言葉に、モリーティアの脳裏を掠めたのは、なんだかうねうねしていて、ぬるぬるぬめぬめしていて、ちょっとなんだか淫靡な感じのする長いものが沢山ある生物。
「そう、触手!栽培マンなら誰でも使えるんです!こう、地面から蔓がばーっと出てきて、相手の動きを完全に封じるんですよ!」
「あ…そ、そうなんだ。」
ミサの説明を受けても、モリーティアの脳裏に住み着いた謎の生物の形に変更は適用されなかった。
「ですから!モリモリさんにはどんな奴だって近づけさせませんよ!」
鼻息も荒く、ミサが自慢げに豪語する。
モリーティアとしてはどちらかというとその触手に近づきたくない気がするのだけれど、どや顔のミサの前でそれを言うのは憚られた。
「よ、よろしくね、ミサちゃん…それにしても、偵察隊はまだ帰ってこないんだね、テンテンちゃん、大丈夫かなぁ」
「テンテンさんなら大丈夫だと思いますよ!」
ミサの根拠の無いその自信はどこからくるのかと、モリーティアは思わずため息をつくのであった。
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先行して、テンテンが待つはずの合流予定地点へとたどり着いた榊は、そこにテンテンの姿がない事を確認し、厳しい顔をしていた。
高台から見下ろすと、下にはぽつぽつと竜種の姿が見える。
ここにくるまでに飛行する竜の姿は見かけなかったから、テンテンが竜に攻撃されたとは考え難いし、そもそもテンテンの実力であれば敵が飛行していない限り負ける事もないはずだ。
そんな風に思いながらも榊は辺りを警戒する。
全てが未知の状況になっている今、少しの油断が命を落とす事になるかもしれない。そういった恐れが榊にそうさせていた。
いかな有名プレイヤーの一人といえど、突然命のやり取りをするような状況に置かれたら、困惑もする。
けれど、二つ名に恥じぬよう、皆を導かねばならない、と自分を奮い立たせる事で偵察隊を組織し、ここまでやってきたのだ。
そうはいっても、心の準備というものは未だに出来ていない。
テンテンの姿がなく、まだ他の4人も到着していない、まさに一人でポツンとそこにいる状況に、榊はやや薄ら寒いものを覚えるのだった。
そこにテンテンがいてくれたらあるいは自分を奮い立たせることもできたかもしれないが、何があったのか、テンテンの姿はない。
思わずメニュー画面を開き、ログアウトボタンを探す。
「この世界からログアウトしますか?」
OKを押してしまえば、楽になれる。命の危険も無い。
手を震わせながら、OKボタンを凝視してしまう榊。
だが、そこへ、遠くから轟音が響いてきた。
「…!」
はっとして榊はメニュー画面を閉じる。
一体何の轟音なのか、それはわからなかったが、この先、"龍の背骨"のここからさらに西の方向からその轟音は聞こえてくる。
榊は思わず駆け出していた。
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グガアアアア!!
叫び声をあげながら、小型の赤い竜が狂ったように火球を乱発する。
その火球は全て、対象を見失って、あるものは地面に激突、爆発し、あるものは空中で花火を散らす。
赤い竜――レッドワイバーンは突然の襲撃に泡を食っていた。
一度、自分のテリトリーから人間を一匹逃してしまったものの、他に気配もないし、安心して羽根を休めていたところに、突如として光が飛来してそのどてっぱらに強烈な一撃を食らわせてきた。
その痛みに思わず胃液を吐き出して身悶える。
そして何が起きたのかと周囲を見渡すが、何も居ない。
刹那――
今度は背中にさっきと同じ強烈な一撃が見舞われる。
ギャアアアアア!!
思わず悲鳴を上げて、空中へと逃れるように舞い上がったレッドワイバーン。
それでもその一撃を見舞ったものを見つけることが出来ずに焦ったようにキョロキョロと首を振る。
次の瞬間、再び一閃して、今度はその左目を掠めていった。
だがその衝撃凄まじく、レッドワイバーンの左目ははじけて潰れてしまう。
痛みと怒りに狂ったレッドワイバーンは自分の周囲へむけてとにかく火球を乱発した。
その様子をはるか上空から見つめる目がある。
「こういうのはどうだろう?」
そう呟いてそれは光を放ちながら一直線にレッドワイバーンの頭目掛けて急降下していった。
火球を乱発していたレッドワイバーンの耳が、かすかに風切る音を捉えた。
そしてその対象を真上に察知し、そいつに火球を食らわすために素早く上を向いた。
「ナッコォチャアアアアァァジッ!!」
レッドワイバーンが上を向いた時には既にそれは目の前まで迫っていた。
叫びを上げながら向かってくる光。
レッドワイバーンが最後に見たものは、自分の眉間にめり込んでいく、光を放つ小さな拳だった――
轟音が響き、吹き飛ばされたレッドワイバーンが、自分の火球で出来たクレーターへと叩きつけられる。
けれど痛みを感じる事はない。
その時点でその頭は無残にも吹き飛んでいたからだ。
「つつっ、いたーい!」
頭がなくなってしまったレッドワイバーンの無残な死体の横に、声を上げながら小さな人影が着地する。
チャイナドレス風の服に銀製の胸当てと腰当、龍を象った小手をつけて、深い青色のツインテールが揺れている。
テンテンだ。
手や足がビリビリとしびれる感覚を感じながらテンテンは地面に叩きつけられたレッドワイバーンを一瞥する。
(反動がこんなに大きいなんて聞いてないよー)
そう思いながらも手や足をぶらぶらとさせるが、中々シビレはとれてくれない。
「にしても…うわぁ、グロテスクだぁ」
頭を始めとして、所々が破裂したかのような傷跡のある竜の死体をみて、テンテンは「うぇー」と舌をだした。
レッドワイバーンを襲った光の正体、それはテンテンだった。
空中を高速で飛べる技、飛翔を使ってレッドワイバーンから逃れた際、着地の衝撃で出来たクレーターを見て、テンテンはある事を思いつく。
「飛翔のスピードに乗って、敵にぶつかれば空中の敵にも攻撃できるのではないか?」
果たしてその考えは大当たりだった。
勿論、それを実行する際のリスクも大いに考えられる。そのままのスピードで敵に当たれば、よしんばダメージを与えられるとしても、その反動や衝撃は自分の体にもダメージを与えるだろう事。
攻撃がどうしても直線的になるから、それを補うために高速で向きを変えなければいけない、これもまた体に大きな負担となること。
この二つのリスクを大いに考慮した結果、テンテンは再び運気調息を行い、内功を練り上げた。
その目的は、素手スキル技である"硬気功"という全身を硬くする技の持続時間を延ばすことにあった。
とはいえ、運気調息により内功を練り上げたとして、持続時間は10秒延びる程度だ。
合計で30秒持つか持たないか、その間に敵を屠らなければ打つ手はなくなる。
通じるかもわからない、当たるかもわからない、けれどそれ以外にはない。
ほとんどギャンブルのようなものだった。
しかし、テンテンはそのギャンブルに勝った。
その戦利品が、目の前に横たわる無残なレッドワイバーン。
「あー…ちょっと気持ち悪いけど、モリモリさんへのお土産に丁度いいよねー」
ようやくシビレが取れてきたテンテンはカバンから料理用の包丁を取り出すと、ワイバーンの解体へと取り掛かるのであった。
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轟音に導かれるままやってきた榊だったが、到着する前に轟音は止み、静けさがそこを支配していた。
そこで榊が見たものは、所々に出来た大小のクレーターと、そのクレーターの一つで、嬉々として飛竜種らしきモンスターの解体をしているテンテンだった。
「一体何が…」
丁寧に皮を剥ぎ、肉を切り分け、胃袋の中に入っているものを取り出しているテンテンを、呆然としてみている榊。
「あっ、酔いどれさんじゃん!もうきたのー?」
榊に気付いたテンテンが手早く戦利品をカバンにしまうとニコニコしながら近づいてきた。
榊は、ところどころにできたクレーターとワイバーンの残骸、そしてテンテンの顔を見比べる。
ここで戦闘が起きたのは間違いない。
だが、それは榊の想像を絶していた。あちらこちらに出来た戦闘の跡であるクレーターは、まるでアニメか漫画のようだ。
一体どんな戦闘がここで繰り広げられていたのだろう…
「他の皆は?」
「え?」
呆気に取られて戦闘跡をぼんやりとみていた榊だったが、テンテンの言葉に我に返る。
「え、あ、あぁ、まもなく到着すると思います。合流地点にいきましょう…」
やや上の空だったが、元来た道を戻り始める榊。
テンテンもそれにうなずいて、続く。
榊はちらちらと戦闘跡を振り返りながら、テンテンはニッコリと笑顔のまま、合流地点へと急ぐのであった。
テンテンさんの内功は53万です。




